ポケットモンスター~カラフル~   作:高宮 新太

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48話「疑いをかけるとき人は最も無防備になる」

「それじゃあ行こうか」

 

 誰に言うでもなくただ一人、静謐な廊下に独り言が吸い込まれていく。

 クリスはもう行った。作戦は既に敢行されている。

 緊張しないわけではない。怖いと、思わないわけでもない。

 だけどそれよりも余りあるほどに勝ってしまうのだ。

 

 アイツに届くかもしれないという期待の念が。

 

 ガチャリ、と重いドアを開く。実際にはそんなことはないはずだが、重く感じた。

 

「やあやあ皆さん、お集まりのようで。どうも、探偵のカラーです」

 

 そんな心とは裏腹にいつもの軽快で軽妙なトークを繰り広げる。

 爽やかな笑顔を忘れずにね。

 

「・・・なぜお前がここにいるんだ」

 

「そりゃ、僕がポケモン協会の理事から派遣された探偵だからさ、グリーン」

 

 鋭い目つきをさらに鋭くさせて、グリーンは僕に疑問をぶつけた。

 皆ここに探偵がくるというお触れだけで集まったはずだ。

 そこに僕が登場したんじゃあ面喰うのもしょうがない。

 

「おい、どういうことだ。アンタに言われて俺らは集まったんだ。悪いが茶番に付き合ってる暇はない」

 

「タケシ殿、茶番などではござらんよ。正真正銘、ポケモン協会の理事からの推薦でござる」

 

 タケシは納得がいってないようでアンズちゃんに突っかかる。ジムリーダーを実際に集めたアンズちゃんに。

 

「そーそー、わかったらとっとと座ってくれる?時間ないんだから」

 

「くっ・・・・」

 

 流石に色々と僕のイメージが悪いカントーの面々は僕に信用がないようで。  

 特にエリカちゃんなんか眉間にしわ寄せて僕をずっと凝視している。

 まったく、やりにくいったらありゃしないっての。

 

「ウオッホン!それじゃあ、初めてもいいかい?」

 

「・・・・ええ、どうぞ。”探偵”さん」

 

 ・・・あーあ、可愛くない女。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕がカントーのジムリーダーたちに直撃する少し前。

 クリスがジムリーダーの部屋を物色しようとする前、僕はおもむろに口を開く。

 

「ああ!それと、一つ忠告だ」

 

「え、なに?」

 

「流石に全員をくまなく調べる時間はないからね。優先順位をつけて探すんだ」

 

「—————————あ、そうか。それもそうね。でも、何で判断する?」

 

「僕の見立てだとまず除外していいのはマチスさん」

 

「あの、ルギアと戦った時にいた人だよね?」

 

「ああ。マチスさんは仮面の男と戦ってるし、かつての部下達を取られてかなりイラついてる。仮面の男の容疑者からは外してもいいと思う」

 

 無論、実は裏で繋がっていてその話自体が嘘という可能性もなくはないけど。ここは僕が話した印象というあやふやなものに頼るしかない。

 そんなあやふやなものに頼るしかないほど僕らは追い詰められているということでもある。

 

「同じ理由でナツメちゃんも却下だ。ナツメちゃんは腕の治療もあったし、時間的に不可能だと思う」

 

「うん、それに仮面の”男”だもんね。女性は外していいんじゃないかな?」

 

「・・・クリス、君はほんっとに真面目だなぁ」

 

 呆れ半分にため息をつく僕に、クリスは顔を真っ赤にして怒る。

 

「な!何よ!だってそうでしょ!?」

 

「仮面の男の特徴は仮面に全身を黒いマントで覆ってたんだ。声なんて変えられるんだし、男か女かなんてわかんないよ」

 

 誰が付けたか知らないけど、確たる証拠もないのに状況を確定させないでほしいよね。

 

「あのね、クリス。一つ言っとくけどそうやって決め打ちで動かないでよ?それじゃあ重大な何かを見逃しちゃうぜ?」

 

 世の中、案外と決めつけと思い込みで回ってるもんだ。そこを疑って初めて真実が見えてくる。

 

「・・・ごめんなさい」

 

 あーあ、そんなにしゅんとするなよ。変な罪悪感が芽生えるじゃないか。僕らしくない。

 

「続けるけど、後外していいのはグリーンくらいかな」

 

「グリーンさんって、確か前回のポケモンリーグを準優勝した人だよね?なんで?」

 

「だって・・・」

 

 僕はそこで一つ区切る。

 ごくり、クリスの生唾を飲み込む音が聞こえた。

 

「お姉さんが美人だからね!」

 

 ガックンと膝から崩れ落ちる音が隣からするけど気にしない気にしない。

 

「まあ、半分冗談は置いておいて」

 

「半分なのね・・・・」

 

「カントーで気を付けるのはこれくらいだ。僕も出来るだけ引き延ばすけど、時間は限られてる」

 

 なにせエキシビションマッチが始まる前の数分間だけだ。それ以上だとポケモン協会に気取られる可能性があるし、いろいろと不都合だ。

 

「取り敢えずまあ、頑張ってね——————————」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はい、回想終わり。 

 ということでクリスは今現在必死に家宅捜索しているだろうから。僕も頑張らないとね。

 

「で、お前は何しに来たんだ?カラー」

 

「ナツメちゃん、久しぶりー」

 

 満面の笑顔でふりふりと手を振る僕にナツメちゃんは。

 

「質問に答えろ。それとちゃん付けはヤメロと言ったはずだ」

 

「あはは、久しぶりの再会にアイアンクローはやめてよナツメちゃん」

 

「・・・フン」

 

 あいててて、相変わらず容赦がなくて冗談が通じないなあ。

 そこが可愛いところだけど

 

「質問に答える兼自己紹介をしようか、僕は探偵のカラーだ。ここには仮面の男を探りにきた」

 

「・・・・・・」

 

 皆、打ち合わせしたかのように同じ反応だ。

 そりゃそうだ、ここにいる連中は僕が探偵だと名乗っても素直に信じてはくれない。

 仮面の男のことは今更説明するまでもないだろうけど。

 

「ええ、確かにそう伺いました。探偵というのは初耳ですが」

 

 嫌に他人行儀なエリカちゃん。

 

「そうそう、実は副業で探偵もやっててね。ポケモン協会の理事からの仕事でさ。ほら、推薦状もこの通り」

 

 先ほど受付嬢を騙し通したものをエリカちゃんにも見せる。

 

「エリカ、どうだ?」

 

「ええタケシ、確かにこのハンコは本物です」

 

「ジムリーダーの中に仮面の男は紛れている。そこまではわかったんだけどさ、そっからがさっぱりで。だからこうして直談判しにきたってわけ」

 

「なるほどね、でもいいの?そんな情報私たちに漏らして」

 

「いいんだよカスミちゃん。隠し事は好きじゃない。特にこれから手を組もうって相手にはね」

 

「HAHAHA!どの口が言いやがる」

 

 どの口って、この口に決まってるじゃないですか。

 

「手を組む、その言い草だとまるで敵はあちらにいると言っているように聞こえるが?」

 

「あれ?むしろこの中にいるとグリーンは思ってたのかい?そんな薄情なことはないよね、だってみんなこれから一緒に戦うっていう仲間なんだから」

 

「・・・仲間、か。俺はこいつらのことを完全に信用したわけじゃないぞ」

 

「タケシ・・・」

 

 冷えた声色で皆の目線を集めるタケシにエリカは複雑そうに声を漏らす。

 

「フン、私たちとてお前らと仲間になったつもりはない。こちらはこちらで勝手にやらせてもらう」

 

「おっとっと!戻ってよナツメちゃん」

 

 機嫌を悪くしたナツメちゃんが勢いで席を立つ。がしかし、今戻られるのはまずい。まだクリスが捜索している最中だ。一人だって抜けてもらうわけにはいかない。

 それに一人抜けると最終的には皆、いなくなるのは目に見えてる。

 

「お前に指図されるいわれはないぞ」

 

「いいから座れよ。まだ話の途中だ」

 

 交差する視線と、お互い普段よりも一段低い声。ピりついた雰囲気で先にいつもの調子を取り戻したのは僕だった。

 

「退屈はさせないからさ?」

 

「・・・・・・・フン」

 

「ありがと!」

 

 渋々、と言った様子でナツメちゃんは席に戻る。

 

「皆、色々とあるのはわかるけど、ここは水に流して一緒に巨悪に立ち向かおーぜ?ほら、僕の顔を立てると思ってさ」

 

「カラーの顔を立てるというわけではありませんが」

 

「エリカちゃん、そこはいいじゃん認めてもさ」

 

「仲間内で争ってる場合でもなさそうです。僭越ながらこのカントーの主将を務める者としてカラーの話を聞きましょう」

 

「お!ようやく話を聞いてくれる気になった?いやー、やっぱりエリカちゃんが真面目でよかったよ」

 

「・・・・いいから、早くしてくださるかしら?探偵さん」

 

 うーん、なんでかずっと怒ってるエリカちゃんの藪蛇はつつかないほうが懸命だ。

 今だってツンケンしてそっぽを向いている。

 ま、そんなエリカちゃんは放っておこう。

 

「探偵らしくアリバイとか聞いて行きたいんだけど、ぶっちゃけどう?さっきも言ったけど僕は敵は向こうにいると思う」

 

「だからなぜそう言い切れる?元々ロケット団はカントーだろう。そこの二人が関わってないとも言い切れない」

 

「残念だけど、的外れだわ」

 

「おい!俺は実際に仮面の男と戦ってんだ!わけわかんねえ罪擦り付けてんじゃねえよ」

 

「グリーンの言いたいことはわかりますが、私は二人は違うと思います。マチスの言葉に嘘があるとも思いませんし、ナツメは右腕の治療でそれどころじゃなかったでしょう」

 

 奇しくも僕と同じ意見を言い放つエリカちゃん。

 

「俺が怪しいってんなら、そいつはどうなんだ?そいつも”元”ロケット団だろ?なあ、カツラ」

 

 ここでマチスさんがこの場で一言も発していないカツラさんに話を振る。

 

「マチス、カツラさんは今体調不良で。この場にいるだけでも無理を言ってもらったんです」

 

「どうだかな、その体調不良ってのも仮面の男の活動で無理をしたからじゃないのか?」

 

「・・・疑いをかけられるのも無理はない。がしかし、私は違う」

 

 今日初めてカツラさんの声を聞いた。

 久方ぶりに聞く声は辛そうでエリカちゃんの言っていたことが嘘ではないことが分かる。

 

「訳は言えないがこの体調不良は自分自身の問題のせいだ」

 

「・・・・そうかよ」

 

 本気ではなかったのか、カツラさんの声を聞いたからなのか。それ以上マチスさんは追求はしなかった。

 

「さて、じゃあ他に三人に聞きたいことはあるかい?」

 

 僕の問いかけには誰も反応しない。特にマチスさんとナツメちゃんは四天王との共闘、そしてその後の大人しく真面目にジムリーダー活動をやってたのを見てたからかな。

 カントーのジムリーダーたちは一枚岩じゃない。エリカちゃんを筆頭に正義のジムリーダーとマチスさんナツメちゃんが対立しているから、まずはそこを取り除くフリをしないと。

 実際に取り除きたいわけじゃない。こういう時にこそ人の真価ってのは発揮されるもんだ。

 僕は誰一人として一挙手一投足を逃すまいと目を光らせとかないとね、勿論バレずにさ。

 そのためにも場の主導権と発言権は握っておかないといけない。 

 

「じゃあそろそろ別の話題に移りたいんだけど、ジョウトのジムリーダー彼らはどうだい?」

 

 人は皆、なぜだか自分が攻撃されるときは嫌に無防備になるもんだ。

 自分が攻撃してる間は攻撃されないとどこかで高を括っている。そんなことどこにも誰にだって保証されてないのに。

 だからこそ、僕は敵を作る。

 

「正直、ジョウトはわかりませんわ。ここに全員の資料がありますが詳しいことは書かれてませんし」

 

「そっか、エリカちゃんでも知らないか」

 

「単純にさ、仮面の男は氷タイプの使い手だったんでしょ?」

 

 と、カスミちゃんは口を開いた。

 

「うん、そうだって聞いてる」

 

「なら、単純に行けばこのヤナギのおじいちゃんが怪しいよね?そんな風には見えないけど」

 

「ハッ!安直だな!」

 

「なによ!じゃあマチス、アンタには誰が一番怪しいって思うのよ」

 

 カスミちゃんが言ってることはある意味正しい。

 なにせ情報が少なすぎるんだ。その少ない情報で導くなら確かにヤナギだろう。

 それが早計である可能性が高すぎるのが問題だけど。  

 

「そんなもん知るかよ。おい、ナツメの超能力で何かわかんねえのか」

 

「便利屋扱いするなよ。私のは自分に起こることくらいしか予知できん」

 

「・・・つまり結局皆、何もわかんないってこと?」

 

 僕の一言に悔しそうな顔をするもの、諦めてため息をつくもの、申し訳なさそうに俯くもの。

 皆、程度の差はあれど一様に同意していた。

 

 ————————————————————うん、ここいらが潮時だね。

 

 会議が滞った時は早々に閉めるに限る。こんな停滞から生まれるものなんて何もない。

 幸いにしてある程度、全員の反応は見られたことだし。

 

「そろそろ時間だね。しょうがない、今はここでお開きにしよう?」

 

「何かお力になれましたか?探偵さん?」

 

「ああ、すっごく良い意見をもらえて助かったよエリカちゃん」

 

「・・・それはよかったです」

 

 まったく顔がそう思ってないなあ。本当に嘘をつくのが下手すぎるよエリカちゃんは。

 ポケギアでクリスにこっそりと終了の合図をしてから、僕は部屋を後にする。

 

「最後にさ、エキシビションマッチ頑張ってね。応援してるよ」

 

「ええ、私たちも仮面の男が誰なのか注意深く観察してますわ」

 

「ああ、よろしく」

 

 その言葉を最後に後ろ手に僕は扉を閉めた。

 

「どうでござったか?首尾は?」

 

「・・・今の一瞬でどうやって僕の背後を取ったのかは聞かないでおくよ」

 

 終了いの一番にアンズちゃんは尋ねてくる。

 そんなに早くに来ちゃったら疑われるだろう、僕たちが繋がってるってさあ。

 まあ、今この一瞬だけばれなきゃそれでいいんだけどさ。

 

「ああ、なんもわからん。正直全員を観察出来たのは出来たけど確たる証拠なんてないね」

 

 まあそんなに簡単にボロを出すとは思ってないけどね。種を撒けただけよしとするよ。

 

「そろそろクリスが来る頃だ。君はもう試合に集中してな」

 

「・・・了解したでござる」

 

 少しだけ名残惜しそうにアンズちゃんは一瞬で姿をけした。

 まあ、忍者ってのは凄いね。

 

「—————————カラー」

 

「やあクリス、成果はどうだった?ちなみにこっちはなしのつぶて」

 

「そっちも?こっちも目ぼしいものは見つけられなかった。粗方探したんだけど」

 

 悔しそうに目線を下げるクリスの頭をポンポンと叩きながら僕は一応励ます。

 ここで意気消沈してたら今後なんてやっていけないからね。

 

「そうかい、じゃあ仕方ない。次に行こう」

 

「次って、もう?」

 

「言ったろ?時間がないんだ」

 

 そう次はジョウトのジムリーダーだ。

 また別の場所で待っている彼らに会うために歩を進める。

 蛇が出るかそれとも。

 

 それはまた次のお話で。

 

 




どうも!あそびあそばせ!高宮です!
ということでね、あれ?なに?嘘でしょ?もう八月終わるじゃん。え?さっき始まったばっかりじゃなかった?まじ?
ということでなんか更新頻度が遅くなってる気がせんでもないこともないですが、今後ともよろしくお願いいたします。

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