「いやはや本当に見事なお手際で、感心したよ僕は」
「てめえは・・・カラー」
「最初に会った時から口の聞き方には不満があるんだけど、前髪君?」
「ゴールドだ!」
セキエイ高原、ポケモントレーナーが一度は夢見るその場所の小さな通路。
そこで僕らはコソコソと対面していた。
「な、なんでカラーがここに?」
驚いたようにクリスが口を開く。それでも周りには気を遣っているようで相変わらず小声だが。
まあでも、驚くのも無理はない。僕とセキエイなんてとんと繋がらないだろうしね。
「ま、純粋にポケモンリーグを楽しみに来たわけではないよ。君達とおんなじでね」
「ああ?なんで、そんなこと知ってるんだよ」
なーんで、君はそう僕に突っかかるんだろうか。親の教育がなってないんじゃないのかい?
などと、小言を言う時間も実はあまりない。
なにせ、僕の目的には時間がないからだ。
「さて、ということで手っ取り早く行こう。僕の目的は君達と同じく仮面の男だ」
「!?な、なんで?」
クリスが再び驚き、ゴールドの顔はより一層険しくなる。
「この会場に、いや、より正確に言うならば、”この会場にエキシビションマッチをするために来ているジムリーダー”。その中にいることはわかっている」
「・・・なんでそんなこと知ってやがんだっつってんだよ」
ああ、そうか。
ゴールドのそのセリフを聞いてようやく合点がいった。
この子、僕を疑っているのだ。仮面の男の手先なのではないのか、と。
まあ、そりゃそうだよね。こんな怪しい奴いたら誰だって疑う。僕だってそーする。
うずまき島でだって、あの中で唯一違う行動をしていた僕を、きっとゴールドはずっと懸念していたのだ。
ルギアを手に入れたのは、実は僕なんじゃないかって。
だけど残念、的外れ。
ルギアなんて要らないし、興味もない。
ルギアそのものにはね。
「まあ、優秀な忍者がいるのさ。僕の手駒にはね」
「はぁ?」
「ま、待って!一緒に、戦ってくれるってこと?」
そんなゴールドとは裏腹にクリスはどこまでも純粋だ。
少し嬉しそうに質問してくる彼女に僕は笑いながら。
「さあね、どうだろう」
「どうだろうって・・・、カラーも仮面の男のことを知って許せなくて来たんでしょう?」
おいおい、どこまでも僕を神格化してるなあこの子は。
でもまあ、今この時に限っては好都合だ。
遠慮なく利用させてもらおう。
「そんなとこさ、ただ、戦うとかはちょっとね。ほら、僕ってば争いを好まない平和主義者だからさ」
「へぇ、とてもそうは見えねえけどな」
こんの、コイツ僕が温厚な性格じゃなかったら呼び出しかけてるぞまじで。
などとキレてる時間なんて僕にはない。
「イタイイタイイタイ!!てめっ!何しやがんだ!ツネんじゃねえよ!!」
いや、まじでね。
「んんっ!気を取り直して、情報交換と行こう。僕が仮面の男のことについて知っているのは、一、どこだかのジムリーダーであること。二、氷の使い手であること。けれどこれはマチスさんの証言からいくと必ずしもそうとは限らない。まあ、この二つだね」
そして三つ目、セレビィというポケモンを狙っていること。なぜかは知らないけど。
だが、勿論三つ目は僕の心の中だけに留めておく。
そこまで話して、ようやく僕の本気度が伝わったのか、ゴールドは真剣な表情で語りだす。
「まあ、オレたちもそんなもんだよ。そもそもオーキドの爺さんも同じ話をしてたしな」
オーキド博士?なに?あの人も関わってんのか、今回の件に。
「ポケモン協会との協力要請があったんですって。それで、私たちが影から敵を見つける算段になってるの」
「なぁるほど」
てことは、このエキシビションマッチ。ただの客寄せパンダじゃあないってことだ。
ポケモン協会がグルになっているという話が本当ならば。
いや、だとしたらこちらも好き勝手動けるな。
「そうか、じゃあ僕の作戦を話そうか」
「作戦?」
怪訝そうなゴールド。それはきっと元々そういうのには慣れないのだろう。
猪突猛進で力任せっぽいもんな見るからに。
・・・そういえば、レッドは意外とそういうところ考えて動くタイプだったな。
なんて、どうして今あいつのことを思いだすのか。
頭を切り替えなければ。
「そう、作戦。君達、どうやって敵をあぶりだすつもりだったんだい?」
「そ、そりゃああれだよ。エキシビションマッチをやってる間にこう、見て」
「見て?」
「と、とにかく!怪しいヤツがいないか見張るんだよ!」
分が悪いと思ったのか、一際大きくなるゴールドの声に必死に制止しようとするクリス。
やっぱり考えてなかったのか。
「クリス、君がいながらなんだいこの体たらく」
「だ、だって。どうすればいいのかなんてわからなかったし」
クリスは真面目だが、今一つ悪知恵には向かないか。
ならば好都合。僕の話に持って行ける。
「じゃあ僕の作戦でいいよね?」
「はっ、一応聞いてやる」
「はっはっは、君はいつかシメる」
一つ、咳払いをして僕は話を続けた。
「今ならまだ間に合うと思うけど、エキシビションマッチをやる前にジムリーダーは今それぞれ楽屋にいるはずだろう?」
「え?あ、まあ、そうね」
「そこでちょいとお話を聞くのさ」
と、そこまで言ってから僕はくるりとゴールドの方へ頭を横に回す。
「ん?」
「と、いうことでここからは二手に分かれよう」
「はぁ?」
「ゴールド、君は会場から隅々まで怪しい人、モノ、場所がないか調べてくれ」
「ちょ、おい!なんでオレだけそんなこと!」
「おいおい、女の子にそんなことさせる気?体動かすのは男の役目だろ?」
「んなのお前がやればいいだろ!」
「だから、僕にはやることがあるんだって。それにはクリスがいるんだよ。わかったら、ほら!さっさといった!時間は限られてるんだから!」
ほれほれ、と、僕はゴールドをせっつかせる。
渋々といった感じだが、それでもゴールドは一応の納得はしたらしい。
会場へと一人足早に向かっていった。
「さて、と」
「か、カラー?」
その一部始終を当然見ていたクリスが嫌な予感がするとでも言いたげに僕の顔を見る。
「探偵ごっこの時間だよ」
「で、どっから持ってきたの?そのベレー帽」
「いやほら、形から入るタイプだからさ。僕って」
取り敢えず付け合わせのようにベレー帽を被った僕に、やや呆れながらクリスは言及した。
「そろそろ教えてもらえる?その作戦ってやつ」
「ああ、当然」
ゴールドは渋々ながらもしかし、仮面の男のことを相当許せないのか僕の指示に素直に従ってくれているようだ。
そんなゴールドを傍目に、僕はクリスに作戦の概要を伝える。
「作戦を伝える前に、まずは行動しながら話そうか」
「え?い、いいけど」
クリスが不安がるのも無理はない、そりゃ僕だって情報の伝達と意志の統一は大事だと思ってるけれど、なにせ今の僕らには時間がない。
この作戦は時間が一番の高い壁になっているんだから。
「すいません、僕らこういうものですが」
まずはポケモンリーグに挑戦する人たちしか入れない専用ゾーンに入るために、僕らは受付の人に話を通す。
「・・・?探偵事務所、カラー様、でございますか?」
「はーい、そうでーす」
「ちょ、ちょちょちょ!」
「ん?どうしたんだい?助手のクリス君?」
僕が作戦の最初のハードルを超えようかという時に、クリスは慌てたように小声で僕に抗議する。
(どうしたもこうしたも!何、探偵って!?何、助手って!?)
両手は握られわなわなと震えている。よっぽど状況に混乱しているのだろう。
無理もない、真面目なクリスにこういうのは向いてないだろうしやったことだってないはずだ。
(ま、いいから黙ってみてな。もとより君にそれ以上は期待してないぜ)
(な!?)
「あの・・・・」
「ああ、ええ、すいません。それで?ポケモン協会理事からの通行許可証は正しく受理されましたでしょうか?」
「ええ、確かに。このハンコはポケモン協会から正式に発行されたもので間違いはありません。・・・だけど、こんなのあったかなぁ」
最後に小声で本音が漏れているくらいには、受付のお嬢さんも対応に困っているのだろうが、”嘘”がバレる前に押し切らせてもらおう。
「それじゃあ、僕らはこれで。ほら、行くよ」
「え?え?えええええ???」
「ちょっと!カラー!さっきのは一体何なの!?」
受付も最早見えなくなったころ、僕らは人気のない廊下を進む。
クリスの猛烈な抗議を受けながら。
「さっきのって?」
「とぼけないで!探偵とか、ポケモン協会の理事からとか!色々!」
おお、見るからにひどく怒っている。ここはいっちょ、今後のためにもご機嫌をとっておこう。
普段なら煙に巻く僕だが、今回ばかりは種明かし。
「そうだね、さっきのはまあわかってるとは思うけど勿論、大嘘さ。通行許可証なんてものは現実にはない」
「・・・ないんだ」
まさかそこから嘘だとは思ってなかったのか、クリスの頬は引き攣っている。
だが、僕はそんなことを気にせずに説明を続けた。
「優秀な忍者がいてね。彼女に頼んで複製してもらった。少々怪しまれたようだけど、ま、入ってしまえばこっちのものだ」
通行許可証なんてものはそもそもない。そこからまず嘘だったわけだが、じゃあなぜあの受付嬢は僕らを通し、嘘を真と勘違いしたのか。
「ポケモン協会の理事には大体の権限があるわけだけど、それの証明としてハンコがあるんだ。理事長しか持ちえない特殊なハンコがね」
それをアンズちゃんに頼んでちょいと拝借しただけの話さ。
「それって・・・要するに悪いことだよね?」
「要すなよ。要しちゃうと悪いことしたみたいじゃないか」
「みたいじゃなくて、したの」
「まあまあ、大は小を兼ねるって言うじゃない。大いなる悪事を倒すためなら多少の悪事は見逃してもらわないとね」
「そういう問題かなあ」
クリスは未だ納得はしてないらしくぶーたれているものの、そんなことで一々目くじらを立てられても困る。
これから、”ジムリーダー全員”をだましていかなければならないのだから。
「それで?そこまでして私たちは何をしようとしてるの?」
「決まってる。探偵さ」
「はい?」
「推理していくのさ、ジムリーダー全員の挙動、言動、行動からね」
そのためのベレー帽、そのためのクリス、君だよ。
「アンズちゃん、つまり僕の手駒の忍者に頼んでカントー、ジョウトのジムリーダーを別々に集めてもらっている」
「・・・まさか、全員にアナタは仮面の男ですか。って聞いて回るつもり?」
「そんなに馬鹿正直には聞かないけれど、ま、やることはそういうことだね」
人を騙すのは得意だし、騙している人間を見破ることだって他の人間よりは長けているんじゃないかな。多分。
「成功、するのそれ?」
「さあね、作戦の内の一つってとこだし。失敗した時の保険だってある」
「保険?」
「なんの為に君を連れてきたと思ってる?僕がジムリーダー達と喋ってる間に、君は空になった部屋を捜索してもらいたい」
勿論、バレずにね。
そう付け加えた僕の声が届いているのかいないのか、クリスの口は開いたまま塞がらない。
「わ、私にそんなマネしろっていうの!?」
「他に適任者がいないんだよ。ゴールドにできると思うかい?部屋を荒らさずにけれどしっかり隅々まで証拠がないか探すなんて細かい芸当がさ」
「そ、それは——————————」
少ししか喋ってない僕でもそこが疑問なんだ、僕よりゴールドと一緒にいるクリスがわからないはずはない。
「勿論、僕はジムリーダーと話をしなくちゃいけないし。君しかいないのさ」
「う、うぐ・・・・」
「大丈夫、時間はできる限り伸ばすつもりだし。危なくなったらちゃんとポケギアで知らせるよ」
「・・・・そこまでしないと、いけない相手ってことだよね」
お、案外聞きわけがいい。僕の予想ではここから五分以上は説得しないといけないと思っていたけれど。
うんうん、聞きわけが良い子は好きだぜ。
さて、と。
「この部屋だな」
変わり映えのしない景色の廊下で、一際大きな扉が突然に現れる。
何の用途で使うのかは僕の知るところではないが、ここならジムリーダー総勢八人が収まって余りある。
「と、ゆーこって」
僕はちらりと、視線でクリスに促す。
「強制はしないさ。最後は自分の意志と、正義に従って決定してくれ」
「・・・ずるい人。そういうところ、変わってないね」
こう聞けばクリスは動くと僕は知っている。
クリスもまた、僕がそう思っていることを知っている。
それでも、なお。
「何とでも言ってよ。僕は何が何でも見つけ出さなきゃいけないんだ」
後れを取っているこの状況をいつまでも許す僕じゃないぜ。
「わかってる。今はあなたの言う通りにしなきゃいけないことくらい」
「・・・そうかい、一応感謝はするよ」
さて、そろそろ指定した時間だ。
「お互い健闘を祈ろうぜ」
「仮面の男を見つけ出して、悪事を止めなきゃ」
ああ、そして。
伝説のポケモン、セレビィは僕のものだ。
続く。
どうも!こんな夏はサマーウォーズが見たくなる!高宮です!
ということでね、本格的に夏!到来!暑い!死ぬ!なんだこの気候は!お天道様はバカなのか!
なんてことも心の中で思いながら僕は今日も学校に行ってきました。頼むからせめて風が吹いてくれ。
それではまた次回もよろしくお願いします。