ポケットモンスター~カラフル~   作:高宮 新太

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46話「いつだって不意打ちがいい」

「と、いうことでそんな僕はジョウトへと舞い戻ってきたわけさ」

 

「・・・そうだったのですね」

 

 伝説のポケモンをブルーと一緒に捕獲したのが数日前。

 そこからトンボ帰りで戻ってきた僕は、偶々見かけたエリカちゃんたちと共に目的地へと進んでいた。

 そう、目的地だ。仮面の男よりも先にセレビィを捕まえるという目的のための場所。

 いや、より正確に言うのならば仮面の男がセレビィを捕まえる瞬間を横取りするための場所。

 と、いうことになる。

 

「まさか、そんな巨悪がこのジョウトに巣食っているなんて」

 

 無論、そんな僕の胸の内を馬鹿正直に口にしたりなんてしない。

 エリカちゃんにはロケット団の残党を束ねているボス気取りが気に食わない。そういう設定にしてある。

 

「そうそう、だからもし何かあっても僕の邪魔はしないでね」

 

 簡単に信じてくれたのか、エリカちゃんは僕の言葉に対して真剣に考えている。

 何よりも迷惑なのは、横取りする時に邪魔されることだ。

 だからその可能性が少しでもある人達には牽制しておきたい。

 普段ならスルーするエリカちゃんに声を掛けたのはそういう理由からだ。

 

「邪魔って・・・そんな言い方をされるほど何かした覚えはありませんが?」

 

「はっはっは、よく言うよ」

 

 いつも小言ばかりで僕のゆく道をたしなめてくるじゃないか。

 

「て、いうかさ。君らはどこに行ってるの?」

 

 冒頭で、共にという言い方はしたものの。僕は実はエリカちゃんたちの目的地は知らない。

 別に興味もなかったんだけど、こうまで僕と道中が被っているのがなんだか悪寒がしたので尋ねてみる。

  

「セキエイですよ。ポケモンリーグの、エキシビションマッチをするためにね」

 

 エリカちゃんの答えに僕は一瞬、足が止まる。

 

「そーゆーアンタはどこに行ってるのよ」

 

 などというカスミちゃんの問いも聞こえていない程に。

 エキシビションマッチ?

 なるほど、それでか。

 

「?」

 

 カスミちゃんは質問に答えない僕を不思議に思ったのか、「ねえ、聞いてんの?」と、顔をのぞき込んでくる。

 

「ああ、聞いてる聞いてる。ポケモンリーグ、ということは行き先はセキエイってことだ」

 

「え、ええ。そうですが」

 

 なるほどな。道理で道が被るわけだ。

 ここでエリカちゃんに会ったのも偶々ではなかったということ。

 

「僕の行き先もね、セキエイだよ」

 

「え、ええ?そうなのですか?」

 

「ああ、どうやら女神さまは僕の虜らしいね」

 

 ブルーのくれた情報といい、ここ最近は良いことばかりだ。

 これも、日頃の行いかねぇ。

 驚いた表情のエリカちゃんを尻目に、僕は一人ほくそ笑む。

 勿論、エリカちゃんと一緒に行動するからなんてしょうもない理由ではない。

 

「さて、ようやく道が開けてきた」

 

 強い野生ポケモンと切り立った山道のせいで飛行ポケモンがろくに使えないこのエリアは、セキエイを通るトレーナー達にとっての難所だ。

 だからこそ、僕らも面倒を押し切って歩いてきたわけだが。

 

「ここまで来たならそれも必要ないよね。それじゃ、また後で」

 

「待ってくださいカラー!本当に・・・・信じていいのですよね?」

 

 不安げで、だけれど芯の強い瞳が揺れる。

 信じるか信じないかではなく、きっとエリカちゃんは信じていたいのだ。僕という人間が本当は良い人なんだと。

 そこに映った僕は笑顔でこう言った。

 

「もちろんさ」

 

 と。

 ごめんねエリカちゃん。君にはわからないだろう。けれど、世の中にはいるんだ僕みたいな自分のことしか考えないような人間が。

 それを自覚していてなお、僕は変わらない。

 変わってはいけない。

 だって、そんなこと僕には許されていないから。

 

 なんて、そんなことは全てセレビィを手に入れてからでいい。

 

 だから今回も僕は前だけを向いていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、腹減ったぁ!」

 

 それから少しだけ時間は過ぎて、場所は23番道路。

 バクフーンことバクたろうに乗った少年と、メガニウムことメガぴょんに乗った少女はすごい勢いで道路を過ぎ去っていた。

 ゴーグルとキャップが印象的な少年、ゴールドは少々声を荒げパートナーに愚痴をこぼしている。

 

「そうだ!途中で買ってきたタンバ名物「ほかほか焼き芋」でも食うか!ほらよ!」

 

 そう言って、ゴールドは焼き芋をひとつ乱雑に放り投げた。

 

「ちょ!急に危ないでしょ!それに食べ物はもっと丁寧に扱ってよ!」

 

 全身から真面目なオーラが噴出しているの少女、クリスはゴールドにいつものようにいつものごとく説教をしていた。

 もはや、馬の耳に念仏だとも思うがクリスの性格上言わなければ気が済まないのだろう。

 

「しかもこれちゃんと焼けてないんじゃないの!?」

 

 流石クリス。焼き芋店にまで説教をし始めた。

 

「んだよ、そんなことかよ。バクたろう!」

 

 ゴールドは一言、乗っていた相棒に声をかけるとバクたろうは反応して。

 

 思いっきり背中の炎で焼き芋を燃やした。

 

 クリスの手の中に納まっていた焼き芋は、最早原型を留めておらず完全に焼け焦げた何かになっていた。

 焼け焦げた、何かになっていた。

 

「ははは!軽くあぶりなおしてやろうと思ってたけど、ま、よくあるこった気にすんな」

 

「・・・気にすんな、ですってぇ?」

 

 ワナワナと、手に持った黒焦げた何かを持ったクリスは大きな声で一言。

 

「火傷するかと思ったじゃないゴールド!!」

 

 怒りのままに投げたそれはゴールドの頭上を掠めていった。

 

「わーったわーった!そんなキレんなって、それよりほら!見えてきたぜセキエイ高原、ポケモンリーグの会場が」

 

 流石はポケモントレーナーたちの聖地、見渡す限り人で溢れているのが見て取れる。

 誰も彼もが浮足立っており、最早それは祭りの一種と化していた。

 そんな中で、ゴールドたちだけは見つめる顔が険しい。

 

「ったく、一般入場受付だの選手入場口だのややこしいぜ」

 

 よし、と一言呟くとゴールドはバクたろうをボールに収め、愛用しているキックボードに乗り換える。

 

「あ!ちょっと!ゴールド!」

 

「どけどけ一般人ども!」

 

 入り口の狭い通路を荒々しい運転で、しかし器用に人込みを避け運転していくゴールドに一般人どもは驚きはた迷惑そうに顔を歪ませる。

 

「あー、君、今の子の知り合いかね?」

 

「わわわ、す、すいません」

 

 その後方で警備員に怒られるクリスのことなど意にも介さずズンズンと進んでいく。

 

「きゃあああ!?」

 

 警備員にくどくどと注意を受けているクリスは、ひときわ大きな悲鳴にまたもやこめかみをひくつかせる。

 もしや、またアイツが何かをしでかしたのではないか。と。

 しかし、クリスの予想は幸いにも外れていた。

 

「赤ちゃん!私の赤ちゃんが!」

 

「どーした!?」

 

 騒ぎを聞きつけ、他の警備員たちも何事かとやってくる。

 その内の一人、事態を見ていた警備員が声を大にして現状を報告した。

 

「登録手続きのために預かっていた出場者のポケモンが弾みで外に出てしまって!」

 

 見ればヤンヤンマが数匹、通路で所狭しと暴走している。突然の事態で混乱しているのだろう。

 そして一匹のヤンヤンマがどうやらお客の赤ちゃんを奪ってしまったらしい。

 

「なるほどね、オレに任せな!」

 

 そんな混乱の最中に一歩前に躍り出たのはゴールド。

 自信満々のその面は何か考えがあるのだろう。

 クリスはゴールドが悲鳴の正体ではないことに一瞬ほっとしたのもつかの間、目立つ行動をとる彼にハラハラせざるを得ない。

 が、事が事である以上何もするなとも言えず黙ってみているほかはない。

 

「そら!」

 

 そう思っていると、ゴールドは自身のモンスターボールを一個とりだし地面に置く。

 持っていた自前のキューでそのボールを打ち出したと思うと、ボールは勢いよく飛んで行った。

 

「赤ん坊がいるのに攻撃するなんて君は・・・!」「攻撃じゃねえよ!黙ってみてな!」

 

 そうゴールドが強く言うので警備員も押し黙ってしまう。

 どの道もう放たれたボールは高速で動き回っており、警備員たちには事の成り行きを見守るしかない。

 

「な、なんだなんだ!?」

 

 そんな事の成り行きを見守っていた警備員たちは口々に驚嘆の声を上げた。

 なぜなら高速で動き回るボールは壁に跳躍しながら次第に円形状にまとまっていき、それを目で追っていたヤンヤンマたちは目を回し始めたからだ。

 

「ヤンヤンマっつーこのポケモンはでっかい眼で常に360度見てるポケモンだ、だからそいつを利用してやれば」

 

 目を回したヤンヤンマは最早赤ん坊を連れまわす体力すらなくなり、ぽろり。と、赤ん坊を離した。

 空中で。

 

「危ない!」

 

 誰かが咄嗟にそう叫ぶものの、叫ぶだけで間に合うわけなどない。

 しかし、そこにもゴールドに抜かりはなかった。

 

「大丈夫っすって。黙ってみてな」

 

 赤ちゃんが落下する寸前。

 高速で回転していたボールは床で一度開閉スイッチが押され、中にいたポケモン、ウソッキーが飛び出した。

 あのボール、ポケモンが入っていたのか。赤ちゃんを寸ででキャッチした。

 色々と驚嘆入り混じっているものの、会場中が歓喜の声でいっぱいになる。

 

「へっへっへ、まあまあ、このくらいどってこと——————————て、痛っててててて!!」

 

 その盛り上がり方に機嫌をよくしたゴールドの鼻は伸び切っていたが、もう一人の相方であるクリスに耳を引っ張られる。

 

「ちょっとゴールド!何しに来たか忘れたの!?」

 

 目立つ通路から引っ張られて、誰もいない小さな道に追いやられたゴールド、 

 そんな彼に小声で、しかししっかりと耳に残る声量でクリスは怒りを爆発させる。

 

「私たち、目立っちゃダメなのよ!?」

 

「わーってるよ」

 

 なんて、会話を繰り広げているとどこからともなく拍手が聞こえてくる。

 

「ほ、ほら!ゴールドがやかましくしてるから!」

 

「ああ!?オレの所為かよ!じゃあ黙ってみてればよかったのか!?」

 

「そうはいってないけど!」

 

 

「なんだいなんだい、喧嘩はおよしよ。二人ともこれから巨悪を倒そうって時に仲良くしなきゃだぜ?」

 

 

「って、え?アンタは」

 

「・・・か、カラー!?」

 

「うん、カラーだよ」

 

 セキエイ高原に一人、クリスたちからしてみれば予想外の人間の登場に面喰う。

 

 がしかし、この続きは次のお話で。

 

 




どうも!お久しぶりです!高宮です。
時間かかった、申し訳ないという気持ちはある。だがしかし、忙しくってやる気が出なかったんだ。許してほしい。
というわけで!時間はかかっても絶対に完結までは書くのでどうかあったかい目で見守ってください!
それではまた次回もよろしくお願いいたします。

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