ポケットモンスター~カラフル~   作:高宮 新太

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44話 「時間にルーズな奴にドロップキック」

 

 カラーとエリカたちが再会するその数日前——————————。

 

 

 

「ぜぇ・・・はぁ・・・よっこいせ!っと」

 

 ルギアとの戦闘を終えて僕は息も絶え絶えに陸上へと辿り着いていた。

 

「おーい。そろそろ起きてくれよ。イエローちゃん?」

 

「—————————。」

 

 肩に担いだイエローからの返事はない。

 大海原に漂っていたイエローを運悪く見つけてしまった僕は、仕方なしにここまで運んでいた。

 まあ、知り合いの危機を放置して死なれてしまっても目覚めが悪いしね。

 

「ただの屍にはなってくれるなよ」

 

 せっかくここまで苦労して運んだんだ。まあ、一番疲れているのは人間二人担いでここまで飛んできたクロバットだろうけどね。

 ちゃんと呼吸はしてるようだし、どっかで休んでいればその内意識も取り戻すだろう。

 そう僕は結論付けて休憩もそこそこに歩きだす。

 

「一番近い町は・・・アサギシティかな」

 

 うん、まだまだ女神様は僕の味方のようだ。アサギシティにはミカンちゃんがいるはずだからね。

 いくらなんでももうエンジュの復興は終わっているはずだし。

 頼らせてもらうことにしましょう。

 と、思っていたんだけど。

 

「いない?」

 

「ええ。当ジムリーダは現在所用でおりません」

 

 ジムの受付嬢は淡々と事実だけを述べる。 

 

「結構急用なんだけど、なんとかならない?」

 

「申し訳ございませんが」

 

 随分丁寧に断られるものの、どうやらアクションを起こしてくれるほどではないらしい。

 

「どこにいったの?すぐ帰ってくる?」

 

「ポケモン協会からの緊急招集ですのでしばらくは」

 

 まいったな。結構あてにしてたから、次の行動を決めてないぞ。

 イエローを休ませるにしても一人でってわけにもいくまい。

 僕はこう見えて忙しいんだ。次の予定が詰まってるんだよね。

 特に遅れると怒られそうな相手だし。

 

「・・・・・ってポケモン協会?」

 

「はい」

 

 受付嬢は相変わらず表情を変えずに頷く。

 珍しいな、ポケモン協会からの緊急招集って意外と大事そうだぞ。    

 これはいくら粘っても意味ないと見た。

 

「・・・あの、こう言ってはなんですが、当ジムリーダーとは一体どういうご関係で?」

 

 これまで事務的な返答を徹底していた受付嬢だが、僕がイエローを担いでいることにいくらなんでも不審がっているのだろう。

 目が犯罪者を見るようなそれになっちゃってるぜ。

 困ったなあ。

 

「前にエンジュで二度ほど会っただけなんだけど、ミカンちゃん、カラーと呼び捨てにされるくらいの関係だね」

 

 ばちこーん!と、精一杯の良い笑顔を取り繕う。印象って大事だね!

 

「急用と、おっしゃいましたよね?」

 

「うん?ああ、見てわかる通りこの子を休ませることが出来る場所を探してるんだ」

 

「それでしたら、一つご紹介出来る場所がございます」

 

「お?なんだいなんだい?案外話がわかるじゃない」

 

 相も変わらず表情は固まったままだが、カチャカチャと手元のパソコンを忙しなく操作しだす受付嬢に僕は表情が本当に明るくなる。

 

「このアサギシティの近くに”育て屋”というお爺さんとお婆さんが二人でやっている場所があります。当ジムリーダーのミカン様も懇意にしておられる所ですので、力になってくれるかと」

 

 育て屋?爺さんと婆さん?

 なーんだか心当たりがあるようなないようなその名前に嫌な予感がしつつも、贅沢言っていられる立場ではないのは確かだ。

 

「わかった、その場所を教えておくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、言うことで。イエローをよろしくお願いいたしますね。お爺さん、お婆さん」

 

「ぐぬぬぬぬ、またお主か!ミカンはおらんぞ!」

 

「話聞いてたのかな?この婆さんは。ボケるにはまだ早いぜ?」

 

「年寄扱いするな!かわいいお姫さまくらい言えんのか!」

 

「いやー、口が腐っても言えそうにありません」

 

 騒々しい、実に騒々しいお婆さんはやっぱりエンジュで出会いミカンちゃんと一緒にいたお婆さんだった。

 なるほど、育て屋をやっていたのか。縁側に座っている僕は育て屋が預かっているポケモンたちが庭で所狭しと遊んでいるのを見つめる。

 まったく世界一どうでもいい情報だぜ。

 

「それで?この子は?」

 

 お婆さんに比べてお爺さんは話しが分かるようだ。流石、片方がチャランポランだと片方がしっかりするってよく言うよね。

 お布団にくるまれたイエローは、スースーとびっくりするほど寝つきがいい。

 

「イエローって言うんです。なんで意識を失ってるかってのは、割愛しますね」

 

 めんどいんで。

 

「取り敢えず休めば目も覚ますでしょうし。しばらく置いてやってはくれませんか?」

 

「それはいいが、お主はどうするのじゃ?ワシはお主なんぞとひとつ屋根の下で寝たくはないぞ」

 

「こっちだって金積まれたってごめんですよ。僕は用事があるんで、ここには留まりません」

 

 まったく、この婆さんの口を誰か塞いでおいてくれ。

 

「・・・チュウ」

 

「あれ?君、レッドのピカじゃないか。可愛らしいガールフレンドまで連れてさ、なんだい?そんな心配そうな声を出して」

 

 イエローが敷かれた布団に横たわっているのを、心配そうな瞳で見つめるピカと可愛いリボンがついたメスのピカチュウ。

 心配で思わずボールから出てきてしまったのだろう。

 ぐりぐりとその額を指で押して、僕は笑う。

 

「大丈夫さ、案外イエローは頑丈だ。しばらくすりゃ目も覚ますよ」

  

 縁側から立ち上がって、僕は一つ伸びをし首を回す。

 

「あーあ、疲れた。この借りはでかいぜ?イエロー」

 

 聞こえてはいないだろう。綺麗な寝顔で吐息を立てている。

 

「さて、僕は僕の用事を済ませますかね」

 

 面倒だが、戻らなきゃいけない。

 ブルーに会いに、カントーへ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅い!」

 

 開口一番に、ブルーは罵倒する。

 

「おいおい、これでも急いできたんだけど?」

 

 カントーはふたご島、ブルーに呼び出された僕はなるはやで来たはずなのに。

 目の前にいるブルーはぷんすか怒っていた。

 

「それで?結局ここまで目的は教えてもらえなかったわけだけれど、そろそろ教えてくれたりするのかい?」

 

 ルギアの戦いの後、僕がイエローをどんぶらどんぶらクロバットに揺られて運んでいると一つの電話がかかってきた。

 当然、相手はブルーなわけだけどその用件が取り敢えずカントーに戻ってこい。その一言だったのだから呆れる。

 じゃあなぜそんな頼み事に僕が頷いたかといえば。

 

「ええ、あなたにも関係のある話よ。聞いて損はさせないわ」

 

 などとぬかしやがるもんだから、僕は来ざるを得なかったというわけだ。

 

「私の目的は、簡単に言ってしまえばあるポケモンの捕獲」

 

 なんとなく、その一言で察しがついてしまったこの僕の有能さを呪いたい。

 ここ、ふたご島を集合場所にした時から引っかかってはいたんだ。

 

「サンダー、ファイヤー、フリーザー。その伝説の三匹を私は手に入れないといけないの」

 

 いつになく真剣なその表情を僕は横目で観察しながら上空を見やる。

 

「なるほど、で?あれを呼んだのはブルーかい?ちょっとせっかちだと思うんだけど」

 

「・・・・フリーザー」

 

 ブルーの恐ろしげな表情からもわかる通り、僕らの上空には今、紛れもなく本物のフリーザーがいた。

  

「信じてはくれないかもしれないけど、これはまったくの偶然よ。本当は・・・私の目的全部を話してから戦うつもりだった」

 

 たらりと冷や汗を垂らしているブルーの顔は嘘をついているようには見えない。

 気付いてる?君、嘘をつくの下手なんだぜ?僕みたいなのに判別されるくらいにはさ。

 

「まあ、どちらにせよフリーザーとは戦うんだろ?だったら、遅いか早いかの違いでしかない。ねえ、カラカラ」

 

 戦闘態勢を取るべくカラカラを外に出して、僕はそう告げた。

 まったく、ダブルバトルは経験がないんだけどな。しょうがない、足を引っ張らない程度に頑張りますか。

 と、思っていたんだけど。

 

「・・・ブルー?何してんのさ、早くしないと奴さんもう来るぜ?」

 

「わかってる!わかってるの・・・・」

 

 ブルーはただ、その場所で固まっていた。その瞳はフリーザーをとらえて離さないのに瞳の奥ではフリーザーを見ていないようだった。

 そんな対応にフリーザーも困惑したのだろう。臨戦態勢で距離を取ったまま近づいてこない。  

 

「ブルー、君。もしかして・・・・」

 

 僕はそんな彼女を見てある結論に至った。多分、ほぼ確実に正解しているだろう結論に。

 

「そうよ!私、鳥が怖いの!トラウマなの!」

 

 きっと恐怖を和らげるためだろうその大声で、彼女は自身のトラウマを宣告した。

 僕が言うよりも、自分で言ったほうがマシだと判断したのだろう。

 鳥が怖い、なるほど。それでさっきから動けなくなっているのか。

 

「なによ・・・笑いなさいよ。どうせ笑うんでしょ、人の弱みに付け込んで散々好き放題に弄り倒すんでしょ」

 

 よっぽど屈辱だったのか、よっぽど僕には知られたくはなかったのか。涙目になりながらぶつぶつとブルーはいじけていた。

 そんな彼女を見るのは初めてで。大抵いつも高慢に物事を頼んでくることしかなかったので確かに散々辱しめてやりたい気持ちがないこともないが。

 

「しないよ、そんなこと」

 

「・・・え?」

 

「大体ねえ、ブルーは僕のことをどんな人間だと思ってるわけ?この状況下でそんなことできる余裕ないっての」

 

 僕としては、精一杯の慰めで。精一杯の励ましのつもりだったのだが。

 気持ちがわからんでもない、僕としては。

 

「それってこんな状況下じゃなくて余裕があったらするってことじゃない!」

 

「ほぉー、そう取りますかこのひねくれ者め」

 

「カラーに言われたくないわ」

 

 まったくもって可愛くない女だな。

 

「ほら、来るよ。今度こそ、ちゃんと構えてよね」

 

「わかってるわ」

 

 でもどうやら、恐怖は和らいだらしい。

 そうさ、三年前のロケット団とやりあった時だってフリーザーたちに臆することはなかったじゃないか。

 だったらやれない理由はないだろう。

 

「ギャアアアアス!」

 

 待ちくたびれたのか、警戒して近づいてこなかったフリーザーは雄叫びと共に急降下してくる。

 

「行くわよ!カラー!」

 

「言われんでもね!」

 

 あーあ、結局ダブルバトルか。コンビネーションを取るのは苦手だなあ。

 

「ブルー”こわいかお”!」

   

「カラカラ!”ボーンラッシュ”!」

 

 二人同時、いや正確に言えばブルーの後の僕の攻撃にフリーザーも顔をしかめ上空へ退散する。

 

「ていうか、ブルー。自分と同じ名前のポケモンってそれどうなの?」

 

 ちょっと恥ずかしくない?

 

「それ言うならアンタだってカラーと、カラカラ。似てるでしょうが」

 

「おっとそれもそうだ」

 

「—————————!」

 

 なんて悠長に喋っている場合ではないらしい、フリーザーはどうやら次は本気で向かってくるようだ。そんな咆哮だった今のは。

 

「くっ!」

 

 ”れいとうビーム”。二人のポケモンが近距離用だと見抜いたフリーザーは空から遠距離攻撃をしかけてくる。

 

「なあ」

 

「なによ!」

 

「こんな状況で悪いんだけどさ、アレを捕まえるメリットを教えてくれよ。どーにもモチベーションが上がらないんだ」

 

 そんな攻撃を避けつつ、僕は話の続きを促した。

 モチベーションは大事だと学校で習ったからね。 

 

「・・・いいわ、あの三匹を捕まえる目的は大きく分けて二つっ!?」

  

 流石は腐っても伝説のポケモン。おしゃべりをする余裕すら与えてはくれない。

 一度ロケット団に良いように使われたのがよっぽどショックだったのだろう。もう自分たちは何物にも命令されないという強い意志を感じる。

 

「一つは私のトラウマを克服するため!そしてもう一つは・・・!」

 

 僕らは遮蔽物のある林の中へ逃げ込みながら、それでも執念深く話を続ける。

 

「もう一つは?」

 

「ある男の野望を阻止するため!」

 

 ・・・おいおいおい、まさかここで繋がってくるなーんて言わないよな?

 

「ある男?なんだよ、名前とか知らないわけ?」

 

 努めて冷静に、努めて平静を装って僕は尋ねる。

 

 

仮面の男(マスクオブアイス)

 

 

「・・・勘弁してくれよ。ったく」

 

 ロケット団の残党を集めて首領を名乗っている男の名前と、ゴールドたちを襲った敵の名前と。

 完全に一致しちゃってますよ。こいつは。

 

「知ってたの?」

 

 不思議そうにブルーは僕に尋ねてくる。そんなに顔に出てたかね。まあ、隠そうともしてないが。

 

「名前だけはね、なんでもジョウトで悪巧みしよーとしてるらしいじゃない」

 

「そう、彼の目的はジョウトにいるホウオウとルギア」

 

「・・・ルギア?」

 

 ちょっとタンマ、心当たりある出来事がフラッシュバックしちまうんですが?まさかあの時ルギアは逃げたのではなくその仮面の男に捕獲されたんじゃないだろうね。

 うーん、辻褄がぴったり合っちゃうのが怖いよね。

 

「で?なんで君はそんなことを知っている?」

 

「そう、ここからがあなたにも関係があると言った話なの」

 

「ほう」

 

 走り回りすぎて息も絶え絶えになったころ、フリーザーが僕らを見失ったのをきっかけに木陰に身を隠す。

 それもすぐに見つかるだろうが。

 

「私は、鳥ポケモンが怖い。それは幼い頃大きな鳥ポケモンに連れ去られた過去があるから」

 

「・・・・・」

 

 僕にも関係がある。そう言われては茶化す気にもなれない。

 

「そのポケモンは各地のトレーナーの素質ある子供を攫っていた。”仮面の男の指示で”!」

 

「・・・・それと、僕に何の関係が?悪いけど、僕にそんな過去はないぜ」

 

 忘れているという可能性すらまったくのゼロだ。時期を聞く限り、なにせその頃僕は家族を失った真っ最中だったから。 

 

 あの時のことはよく覚えている。

 

「私はその素質あるトレーナーの中から、特に選ばれたトレーナーだった」

 

 そんな僕の対応には目もくれずブルーは喋り続ける。

 

「けど、そんな生活に嫌気がさしてある日逃げだしたの。仮面の男の目的とそれに必要なアイテムを持ちだして」

 

「で?男の目的ってのは?」

 

 随分と回りくどい言い方をするもんで、僕の興味は今いつフリーザーが襲ってくるかに移っていた。

 が、ブルーの一言で嫌が応にも引き戻される。

 

 

時間(とき)の支配。ホウオウとルギアの羽を使って、伝説のポケモン”セレビィ”を捕まえ過去を改変するのが仮面の男の目的よ」

 

 

「・・・・過去の、改変?だと、?」

 

 その言葉を、その言葉の意味を正確に理解した時、僕は。 

 取り繕うことも、いつものようにカッコつけることすら出来ず。僕はただただ驚愕に瞳を染めていた。

 

「ね、アナタにも関係のある話でしょ?」

 

 確かに、ようやく話が見えてきた。

 どうやらマチスさんやゴールドよりもよっぽど僕の方が仮面の男に用があったらしい。

 

「・・・・ふふ、ふふふ。はは、はははは!あはははははは!」

 

 過去の改変。本当にそんな力を持つポケモンがいるのかどうか定かではない。

 が、そんなものはどーでもいい。今までだって、定かであったことなど何一つない。

 この世の中は不確定要素で溢れている。絶対は存在せず、必然は意味を成さない。

 

「気が変わった。時間が惜しい、今すぐ三匹共相手してやる」

 

「ちょ!一人じゃ無理よ!」

 

 隠れていた木陰から僕は一人目立つ。

 当然、僕らを探していたフリーザーは一直線にここまで来た。

 

「悪いが逃がしはしない。君に構ってる時間は今無くなった。フリーザー」

  

 

 そして僕のきっと、生涯で”二度”だけの本気のバトルが始まる。

 

 

 それはまた、次のお話で。

 

 




どうも!僕も女子高生とキャンプしたい!高宮です。
あとがきに書くことがなさ過ぎて、こんなに時間がかかってしまいました。
で、結局書くことはないんですけども(/・ω・)/
ということで次回もよろしくお願いします。

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