ポケットモンスター~カラフル~   作:高宮 新太

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43話 「スイクンとすいとんってちょっと似てる」

「急ぎましょう。カスミ、タケシ」

 

「ああ、しかし実際に見ると凄まじい流れの速さだな。トージョウの滝」

 

 カスミ、タケシ、そしてエリカの三人は故あって今はここ、ジョウトの地へと降り立っていた。

 

「さて、そろそろこの辺りに橋があるはずだが」

 

 タケシの言葉を信じて、険しい崖を一歩一歩登っていく一行。

 すぐそばに勢いよく流れていく滝は正に荘厳であり、どこか神秘的なものすら感じる。

 トージョウの滝、ジョウトの観光名所の一つである。

 とはいえ、三人がここにいるのは偶然であり観光名所を巡りに来たわけではない。

 

「・・・・むう」

 

 そんな場所で一行は立ち止った。

 進行方向にあったであろうはずの橋。その橋が老朽化だろうか、崩れ落ちかけていたからだ。

 

「見ろ、お嬢」

 

「ええ、これでは渡れませんわね」

 

 所々残っている箇所も見受けられるものの、人が渡るには不完全すぎる。

 

「遠回りになりますが、迂回するしかないようですね」

 

 エリカが肩を落としながらそう告げると、それをタケシは否定する。

 

「いいや、地図によれば迂回できるような場所はないな。多少危険だが俺のこいつを使おう」

 

 岩のように頑丈で大きいポケモン。イワークを取り出したタケシは、そのイワークを使って橋の補強を試みる。

 

「よし、行こう!」

 

 イワークの補強は成功したようで、向こう岸までなんとか歩いていけるようだ。

 強風と滝の勢いを横目に、慎重に進んでいく三人。

 なぜ、ここまでして進もうとしているのか。

 

「お嬢、やっぱりアクア号の出航日を待ってジョウト入りした方がよかったんじゃないか!?」

 

 大きな滝の落ちる音に負けまいと二人とも自然と声が大きくなる。

 

「それが出来るならしています!しかしアクア号は特定の曜日しか出航しないうえ、最近遅れも出ていると。今回の()()()()()()()()は、特別な意味があるという話!遅れるわけには——————————きゃ!」

 

「おっと!」

 

「ありがとう、タケシ」

 

「いや」

 

 揺れる足場、吹く北風。不安定なこの状況に顔を歪めながらもなんとか橋の半分までは辿り着いた。

 

「ふう、現在開発中のリニアモーターカーが出来るまでの辛抱ってわけか。ところで、ポケモン協会が出した緊急招集だが、一体どんな理由があるんだ?」

 

 そう、それこそがこの三人が危険を冒してまでこの橋を渡っている理由である。

 協会からの緊急招集。

 普通じゃないこの指令に、聞けばカントーとジョウトの全ジムリーダーが参加しているという。

 普段から集まっていれば話は別だろうが、こんなことは初めてである。

 

「なあ、カスミ」   

 

 ずっと、会話に参加していなかった彼女にもタケシはなんとなしに尋ねてみる。

 

「え・・・?あ、ごめん。聞いてなかった」

 

「カスミ?」

 

 カスミは先ほどからずっと、浮かない顔をしている。 

 十中八九、レッドのことだろう。

 いつだって少女を悩ませるのは恋の病だと相場が決まっている。

 

「—————————っ!野生ポケモン!?カブトプス!」

 

 そんな彼女たちに自然はしかし、待ってはくれない。

 ゴルバット達の群れが格好の標的となったタケシたちを襲っていた。

 

「ぐっ!タケシ!?アナタはイワークへ指示を!野生ポケモンは私たちで——————————きゃああ!?」

 

 野生ポケモン襲来への動揺が、主人をつたってイワークにも伝染する。

 当然、微妙なバランスで補われていた橋は崩落し、タケシ、エリカ、カスミは何の頼りもない空中へと放り出される。

 

「きゃああああ!?」

 

「カスミ!」

 

 中でもカスミは、落ちた方向が悪かった。滝の流れる水底へと姿を消してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う・・・うん?」

 

 カスミは程なくして目を覚ました。

 運良く滝の裏側へと抜け出すことが出来ていたらしい。体にもそれほど傷は見当たらない。

 

「あら?そっか、アナタを助けようとしてここに来てしまったのね」

 

 側にいるのは一匹のクラブ、滝に溺れていたのを助けようとしていたことを、カスミは思い出した。

 同時に、過去にレッドから交換したクラブと面影を重ねる。

 

「そう、あの時もちょうどこんな大きさだった・・・」

 

 なんて、感慨にふけるのもそろそろ終わろうと一伸びしてカスミは立ち上がる。

 そう、レッドは今もどこかで戦っているのだ。自身の痛みと。

 四天王との戦いの時に負った傷は未だに癒えていないと聞く。

 傷を治すために旅に出たことも。

 そんなレッドが戦っているのだ。自分もしょげている場合ではない。

 例えレッドが知らない女の子と親し気に話していたからと言って。

 

「さて、エリカたちに無事を告げないとね」

 

 顔に明るさが灯ったのも束の間。

 

「!?」

 

 滝の中から、何かが来る。

 

「照らして!チーちゃん!」

 

 チョンチーのチーちゃんは飛び出るや否や、主人の命令を遂行する。

 発光する触覚で照らされた敵。

 

「・・・水晶のように輝くその体。伝説のポケモン、アナタがスイクンね」

 

「—————————っ!」

 

「な!?スタちゃん!」

 

 言うが早いか、スイクンはスターミーに突然襲ってくる。我を失っているわけでも、こちらに何か落ち度があるわけでもない。

 

「そんな!スタちゃんが力負けするなんて!」

 

 予想外の力と、感じられない悪意にカスミは戸惑うものの、それでもなんとか態勢を立て直して自身のポケモンに命令を送る。  

 

「なら!ランちゃん!”ハイドロポンプ”!」

 

 華麗にランターンにバトンタッチして、水技最強とも言っていい”ハイドロポンプ”。流石はジムリーダーと言いたくなるほど、鮮やかな手際だった。

 

「向こうも”ハイドロポンプ”!」

 

 しかし、それを読んでいたのかスイクンも同時に技を放つ。

 互いの技はぶつかり合い拮抗していた。

 

「くっ・・・・この力!」

 

 ように見えていたのも最初の数秒だけで、徐々に、徐々にカスミは後退せざるを得ない。すぐ後ろには先ほど溺れかけていた勢いそのままの滝が背に迫っている。

 明らかにランターンが押されていた。

 

「私が出会った中でも間違いなく水タイプ最強のポケモン!!」

 

 カスミのエキスパートは水タイプだ。そのカスミに最強と言わしめられるポケモンなどそうはいないだろう。

  

「きゃああああ!」

 

 やがて力負けしたランターンはカスミと共に滝に落ちる。

 

「・・・・・」

 

 スイクンは何かを見定めるように見つめていた。

 カスミが落ちた滝に近づいて、覗き込んだ瞬間。

 

「”たきのぼり”!」

 

 ランターンは力尽きていたわけではなかった。カスミの瞳と同様に。

 落ちていたはずが勢いよく登ってくるカスミに、スイクンは思わず避ける。

 スイクンが水タイプ最強のポケモンなら、カスミは水タイプのエキスパート。水タイプの技は極めつくしている。

 

「さあ、教えて!さっきから実力を試すような戦い方をするのはなぜ!?」

 

 カスミは一目見た時から、それがずっと引っかかっていた。

 敵対心も、悪意も、誰かに操られているような様子もない。

 目的が謎だった。

 

「・・・・・」

 

「こんなところで戦いを続ける気!?」

 

 スイクンはその問いには答えない。代わりに態度で示す。

 まだ戦いは終わっていないのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カスミーーー!どこだー!?返事をしろーーーー!」

 

 場所が変わってタケシの大声が響く。

 橋をなんとか渡り切った向こう岸でタケシとエリカは滝の裏側に消えたカスミを捜索していた。

 

「無事だといいんだが・・・」

 

 そんなタケシの苦痛の声を和らげるかのように、間抜けな電子音が聞こえてきた。

 

「ポケモン協会からのメールですわ」

 

「お嬢、今はそんなこと後回しに・・・」

 

「いえ、タケシ。これを見てください」

 

 カスミを一刻も早く見つけ出したいタケシに落ち着いてと促して、エリカはメールを見せた。 

 

「・・・えー?何々?今回の緊急招集について君達の参加が遅れているようなので予め要点をお送りする」

 

 そんなエリカの態度に、渋々タケシは従い声に出してメールを読む。

 

「実はポケモン協会はポケモンリーグによって・・・・対抗戦(エキシビションマッチ)を開催することを決定した!?」

 

 驚いた表情のタケシは思わずエリカを振り返った。

 

「どうやら、そういうことらしいですね」

 

 そして、とエリカは続けた。

 

「驚きの内容ですが、それよりも目の前を見て!」

 

「な!?なんだ!?あれは」

 

 滝の中、詳しく姿は見えないものの何かと何かがぶつかり合っている。それも、滝よりも激しく。

 

「一方はカスミでしょう、しかし、もう一方は・・・?」

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ!?」

 

 カスミとスイクンは滝の中を移動しながら戦いを続けていた。

 が、カスミが勢い余って滝壺に落ちてしまう。

 当然ながら息継ぎをする余裕などない。

 

(けど、まだ戦いは終わってないわ!!)

 

 だというのにその瞳には未だに闘志が宿っている。スイクンが今まで戦ってきたジムリーダーの、もしかしたら誰よりも。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お嬢、カスミを助けないと!」

 

「・・・待ってください。あれほどのスピード、それもこの滝の中でのスピードです。私とタケシの手持ちでは水の中をあれほど動ける者はいません」

 

 ここは、カスミを信じましょう。

 そう言うエリカの顔は固く、こういう時は頑固なのだとタケシは知っている。

 

「まあ、お嬢の言うことも確かだ。ここは、信じて待とう」

 

「ええ・・・・こういう時、カラーがいれば」

 

「何か言ったか?」

 

「・・・いいえ、戯言です」

 

 そう言うエリカの表情もまた、固く引き締まっていたが。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(これは・・・!?攻撃じゃない、スイクンの思念波!?)

 

 一方、カスミたちの戦いは終焉を迎えていた。

 スイクンの、決意によって。

 

(スタちゃん!読み取って!)

 

 スイクンの言いたいことを、スターミーの古代文字の星しるべで描く。

 

「きょ・・・だい・・な」

 

 巨大な悪が動きつつある、共に戦うパートナーが必要だ。

 

 スイクンは確かにそう言っていた。

  

「一緒に戦って欲しい、水のエキスパートである君に。小さな命を守った君に」

 

 スイクンはカスミのその言葉にこくりと頷く。不思議と水の中で声が出せたのはきっとスイクンの力なのだろう。気づけば呼吸も苦しくはない。

 カスミはその時、レッドのことが頭に浮かんだ。戦闘バカで、正義感が強くて、行動力があるそんな男のことが。 

 きっとこのことを知れば、レッドはまた戦いの渦へと自分から巻き込まれていくのだろう。

 それがとてつもなく悲しかった。嫌だった。もう、いつの間にか勝手に前へと進まれていくのは。

 いつの間にか背中が見えなくなっていくのは。

 

 

「あなたと一緒に・・・戦います」

 

 

 そうしてカスミは一つの決断をする。

 やがてジョウトを巻き込んでいく、いやもう巻き込まれているかもしれないその渦へと。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カスミ!?」

 

「・・・・ぶあっ」

 

 タケシとエリカが待っていた水面からカスミは特に苦しむ様子もなく顔を出す。

 

「だ、大丈夫か!?さっき戦ってた相手は!?」

 

「ん?へへへへー」

 

「は、はぁ!?なんだその笑い?おい、お嬢。カスミが変だ・・・お嬢?」

 

「あ、あ、あ、あああああ」

 

 滝壺からカスミを引き上げたタケシは、カスミの変な態度に混乱しエリカに助けを求める。

 ものの、そのエリカもなにやら一点を見つめて動かない。

 不自然に思ったタケシは、エリカが見つめている一点を振り返る。

 

 

 

 

「おいおいどうした?そんな亡霊を見るような反応して」

 

 

 

 

「カラー!?」

 

「やあ、久しぶり。エリカちゃん」

 

 そして、お話は次へと動き出す。

 

 

 

 




どうも!小泉さんみたいなラーメン友達が欲しい高宮です。
遅ればせながらニーアをクリアしましたー、いえーいいえーい。
もうすっかりニーアの世界の虜でございます。サントラ買う。
ということで世界は滅びるようにデザインされている次回もよろしくお願いします。

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