ポケットモンスター~カラフル~   作:高宮 新太

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42話「暴れん坊将軍」

「おいおいおい、なんだってこんなところにアイツらが?」

 

 うずしおが巻いて荒れ狂うこの海。

 その海に漂っている小舟によくよく目を凝らしてみれば見知った顔が二つ。

 知り合いだったのか、それとも偶然かクリスとイエローという組み合わせに戸惑いつつも僕はその上空で表情が歪んでいるのを自覚する。

 

「あん?なんだ、知り合いか?・・・て、一人はワタルをぶっ倒した奴じゃねえか」

 

 数コンマ遅れて、マチスさんも動揺に気付いた。

 が、そんなものを気付いたところでやることは変わらない。

 

「先に行ってるぜ」

 

「いえいえ、僕も行きますよ」

 

 彼女らがなぜこんなところにいるのかはわからんが、僕には関係ないことであることを願おう。

 そう心中で呟いてから、僕とマチスさんはとっとと二人の図鑑所有者の元へ飛ばす。

 

「よう!おめえら!」

 

「な、なんだあ!?このおっさん、浮いてやがる!」

 

 開幕一番に、マチスさんはまるで旧友に会ったかのごとくフランクさで声をかけた。

 二人の子供、エイパムをつれた一人はまるで爆発したような前髪とぎらつく瞳が印象的で。

 そしてもう一人は。

 

「こいつらはおめえらの持ち物だな!珍しい赤いギャラドスが入ったボールもあるぜ!」

 

 無造作にマチスさんは荷物を放り投げる横で僕は確信する。

 やはり、もう一人の子供はあの時オーキド博士の研究所で図鑑を盗んでいった盗人に違いない。

 あの時は暗くてあまり顔は見れなかったが、確かに雰囲気でわかる。

 あまり動かない表情筋に、グリーンのようなクールさを持ち合わせた子供らしくない子供だ。

 

「ああ!俺のリュックに帽子にクツ!」

 

 前髪が爆発した子供が、目の前の幸運に飛びつく。

 

「ちょっと待った!手を付ける前に礼くらいしろよ」

 

 底冷えしたその眼差しに前髪君(と名付けよう)はへこへこした態度で。

 

「えー、この度は拾って頂いたうえ、届けてもらったこのご恩は一生忘れま「NO!NO!俺が欲しいのはそんな上っ面の言葉じゃあねえ」

 

 と、感謝の意を表そうとするものの、それを両手でマチスさんは制止する。

 

「戦ったんだろう?あの仮面の男と、その情報が欲しい」

「戦術、テクニック、チーム、使ってくる技。その他諸々、おめえらが経験したその全てを黙ってこの俺によこしな」

 

 あくどい笑顔はとても協力的とは思えないが、それでもマチスさんは己が望を通す。

 そんな彼に水を差すのは無粋だろうと、今まで僕も黙っていたが。

 

「ねえねえ、マチスさん?」

 

「あん?なんだ、今いいとこなんだよ」

 

「そりゃあ知ってますけどね、後ろの方も確認しといた方がいいんじゃありません?」

 

「後ろ?」

 

 僕の忠告に割と素直に聞き入れて、マチスさんは後ろを振り返る。

 

「んな!?なんだこれは!?」

 

 マチスさんのその反応も致し方ないだろう。

 

 なにせ、ここまで乗ってきた豪華客船、アクア号が空中に浮かんでいるのだから。

 

「「「あ、あれは!?」」」

 

 僕以外の三人が声をそろえて危険を認識する。

 そのアクア号を空中に持ち上げているその張本人。

 いや、人ではないな。人間のやることではない。

 

「あの鳥みてえなポケモンがやってるみたいっすね」

 

「どうやら目覚めて早々とんだ修羅場に出くわしちまったらしいな!」

 

 前髪君は荷物を装備しながら口走る。

 白い肌、獰猛な目付き、鋭い牙。

 まるで怪物のような出で立ちのポケモンにどうやら真っ向から勝負を申し込むらしい。

 いやー、若いねえ。その若さが羨ましい、わけではないけれど。

 

「っていうか、おいおい、イエローたちまで捕まってんなあ」

 

 小さかったんで見逃してたが、アクア号のすぐそばに小舟も同様に浮かんでいた。

 

「アクア号があんな風船みてえに!あのポケモンの念力でか!?」

 

 マチスさんが驚くのも無理はない。アクア号の全体は数百メートルはくだらないレベルの客船だ。それをもちあげるポケモンなんて聞いたこともない。 

 

「エスパーの力・・・!あれは、”ルギア”!」

 

 シルバーがポケモンの名前を口にする。どうやら彼だけはあのポケモンが何者なのか知っていたらしい。

 それをどこで知ったのかは、一つ、見当がつくけれど。

 

「あ、やべ、全員躱せよー」

 

 僕の間延びした声とは裏腹に、ルギアは大きな口を目いっぱい開いたかと思うと。

 僕らに向かってブレス攻撃を仕掛けてきた。

 

「どわっ」「くっ!」「いてえ!」

 

「だーから言ったのに」

 

「てめえカラー!言うならもうちょい危機感持って言いやがれ!」

 

「うわー、親切な忠告者に向かってそんなこと言います?」

 

 なんて言ってる場合ではなさそうだ。

 攻撃が外れたとみるや否や、ルギアは次の攻撃へと移る。

 具体的には、持っていたアクア号をこちらにぶん投げるというなんとも強引かつ単純な力技で。

 

「ヤミカラス!」「あっ!てめえ一人だけ!」

 

 シルバーはこのままは危険と判断したのだろう、前髪君の言葉を無視し一人、空中に避難した。

 

「・・・それで、なぜ貴様がここにいる?」

 

「おおっとご挨拶だね。覚えてるかい?オーキド博士の研究所でのこと」

 

「覚えているから言っている、なぜ貴様がここにいるのかと」

 

「それはほら、落し物を届けに来たんだよ。”シルバー”」

 

 ほれっと、戦いの最中に僕はハンカチを投げてよこす。

 器用にルギアの光線を避けながら、シルバーは嫌そうな顔でハンカチを受け取った。

 あ、舌打ちまでしたー。

 

「君には色々と興味があるんだけど、そんなことで命を落とすのもばからしい」

 

 とにかく今は目の前の危険を排除する方向で行かないかい?

 そう提案すると、シルバーは。

 

「フン、いけすかない奴だ」

 

 なんて言う割に視線はルギアに固定されているので、僕はそれを了承と受け取った。

 

「じゃあいっちょ、怪物退治と行きますか」

 

 

 

 

  

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしてもこの暴走の仕方、完全に我を失ってるねえ」

 

 先ほどからの単調な攻撃といい、まったくもって知性を感じない。頭に血が上っているのは丸わかりである。

 

「って、もういないし」

 

 シルバーに向けて言ったつもりが、彼は既に横にはおらず見れば下降して小舟の乗員たちを助けようとしているらしい。

 

「存外いい所があるのかな?」

 

 シルバーの行く先にはクリスのみ、どうやらいつの間にかルギアの攻撃を食らって破損していた小舟に一人横たわっている。

 

「おっと、すいませーん。僕、連れてこられただけなんで見逃してもらっていいですかー?」

 

 などと一応、両手を合わせて言ってはみるものの。我を忘れたルギアには届かない。

 残念だがイエローたちを探す余裕は僕にはなさそうだ。

 

「返答が光線って、どこの国の挨拶だよったく!」

 

 親の顔が見てみたいね!

 

「なんて冗談を言ってる場合じゃねえなあこれ」

 

 先ほどから連発しているこの攻撃、いくらこのデカブツが凄くたってどこかでガス欠がくるはずだ。

 

「うわっとっと!!クロバット!もうちょい上昇!」

 

「キュウ!」

 

「くるはずなんだけど、一向に衰える気配なしだな」

 

 これほどまでの攻撃を連発できるほどのエネルギーがあるとは考えにくい、というか考えたくない。

 ということは、だ。

 

「コォォォォォ!」

 

「やっぱりな!さっきからどーにも違和感だったぜ!」

 

 ルギアのこの攻撃にエネルギーを収束させているような感じは受けなかった。

 つまり、これはただの。

 

「空気砲!」

 

 信じられないがこれは息を吸って吐くという実に初歩的な動作で繰り出されている攻撃。

   

「名づけるなら、一息の空気弾(BULAST AERO)

 

「あ、マチスさん」

 

 どうやらマチスさんも僕と同じ見解のようだ。

 攻撃をかわしていくうちに、マチスさんと合流した僕は今後の展開を尋ねる。

 

「で、どうするんです?こいつ」

 

「あれの正体が空気砲だってんなら対処の仕方はある」

 

「海に引きずりこむんですか?あのデカブツを?」

 

 言うは易く行うは難しって言葉知ってます?

 下にいるクリスたちと合流したってそれを実行に移せるだけの戦力があるのかは甚だ疑問ですがね。

 

「いや、待て。あれを見ろ!」

 

「んん?」

 

 僕らが必死に攻撃を避けている間、どうやら下では流れ弾がガンガンにぶち当たっているらしい。

 壊れた小舟に搭乗している三人だったが、よくよく見ればひとり足りない。

 

「前髪君がいねえな」

 

 それに気付いた瞬間、海面から盛大な水飛沫が上がる。

 

「うおおおおおお!!」

 

 威勢のいい雄叫びと共に表れたのは前髪君。

 

「あれは、マンタイン?」

 

 が、ただのマンタインではない。ビリヤードのキューのような棒に大量のテッポウオがくっついた特製のマンタイン。

 どうやらそのテッポウオが口から発射する”みずてっぽう”で空を飛んでいるらしい。

 

「AMAZING!!あの野郎!とんでもねえことやりやがる!」

 

 これには流石のマチスさんも驚いたようで、声を張り上げてテンションが上がっている。

 

 

「回れ右!全砲一斉発射!!」

 

 

 前髪君のその掛け声でテッポウオたちはルギアに向かって攻撃を放つ。

  

「が、火力不足だ」

 

 一瞬、その攻撃にひるんだルギアだったがすぐに目の色を変えて前髪君を叩き落した。

 幸いにもすぐ傍の孤島に落ちたので無事ではあると思うが。

 その発想と行動力には驚いたが、まだ足りない。

 

「・・・いや、ははっ。こいつは驚いた」

 

「・・・・・!?」

 

 ルギアの”エアロブラスト”は封じられた。海中に引きずり込むというのとはまた別の方法で。

 

「まさか、キューを使うとは」

 

 そう、前髪君の持っていたキューをルギアの口に差し込んでいたのだ。

 これでルギアは口を閉じることが出来ない。目いっぱい空気を吸い込むあの技は一度口を閉じないとせっかく集めた空気が四散する。

 案外、細かいところに気がつくもんだ。

 そう、感心したのも束の間。

 ルギアは”エアロブラスト”が打てないと悟るや否や、前髪君の所に集まった三人めがけて”のしかかる”。

 あの体重を最大限に使った攻撃。初歩的だが、だからこその純粋な力の差を感じる。

 

「おい、てめえは行かなくてもいいのか」

 

「やだなあマチスさん。僕が行ったってなんにもできやしませんよ」

 

 今、完全にルギアの標的はあの三人だ。

 こっちには見向きもしていないこの状況で、わざわざ死にに行くような真似はしませんよ。

 

「ふん、そうか」

 

「マチスさんは?」

 

「俺の用事は終わった。あのガキどもを助けてやる義理はない」

 

「ヒュー。流石、悪の幹部」

 

 僕の煽りにも付き合わずに本当にマチスさんは一足さきに戦線から離脱してしまう。

 右に倣えと僕も言いたいとろこだが。

 

「・・・ま、知らない仲でもないし」

 

 横目で見えるクリスの顔が、ちらついてどーにもその場を去るのがためらわれる。

 自分の目的のためならいくらでも手を汚す覚悟はあるが、だからといって根っからの外道というわけでもないらしい。

 僕という人間は。

 そんな自己分析をしている中、ルギアは三人が降り立った孤島を足で踏みつぶそうと力を入れている。

 大変に危険だ。

 

「根っからの外道ではないけれど、根っからの善人でもないのが僕の僕たる所以だよね」

 

 だからといって助けにはいかない。

 なにせ、僕にはそれより興味があることを見つけてしまったから。

 

「よっと」

 

 ルギアが暴れている横をチョロチョロと素通りして。

 僕は孤島の洞窟を覗き見た。

 

「・・・・なぁーるほどねえ」

  

 ビンゴ。

 僕の予想通り、その洞窟内には大型の足跡や尻尾のようなものが擦れた跡、さらには血痕など暴れた跡も数か所見える。

 後ろを振り返ると凶暴なルギア。

 その目は血走っており、見境なんてないようにも見えるが。僕は見逃さなかった。三人がこの孤島に近づいた時に何よりも早く反応したことに。

 それこそ僕たちを放っておいて。

  

「っていうか、ルギアも消えたんですけど」

 

 なんて分析をしている間に戦況は目まぐるしく変化していたみたいで、まばゆい光線の後にルギアは忽然と姿を消した。

 こちら側からちらりとボールのようなものが見えたのでゲットしたのか、それとも寸での所で逃げられたのか。

 それは定かではないが。

 

「・・・・・・・」

 

「やあシルバー、君も気になるかい?」

 

「・・・・・・」

 

「わあ!清々しいほどに無視だね!」

 

 そんなルギアとの戦闘の余韻もそこそこに、どうやら僕と同じ考えに至ったらしいシルバーは僕の横で洞窟内を観察している。

 

「か、カラー!?やっぱりカラーだったのね!」

 

「・・・ふむ、さっきやっぱり逃げときゃよかった」

 

 こんなに早く解決するとわかっていたなら。

 あれだけの危険の後でそんな純粋な笑顔を向けないでおくれ。

 

「そんなことより見なよ。クリス、ここなんだと思う?」

 

「え?なに?ここ・・・・?」

 

 僕は細かいお説教なんて聞きたくないんだ。

 だから華麗に話を変える。

 

「恐らくだけど、ルギアの住処だろうさ」

 

「この跡、そして先ほどのルギアの反応から見てまず間違いない」

 

「お、シルバーも同意見だって」

 

「聞いたことがある。ここ、うずまき列島は四つの島で出来ていてその地下がつながっているって」  

 

「おいおいおい!なぁに三人でコソコソしてやがんだ!」

 

「コソコソなんてしてないよ、前髪君」

 

「ゴールドだ!ヘラヘラ野郎!」

 

 ヘラヘラやr・・・ちょっと、それはお兄さん傷ついたなあ。

 

「って、ちょっと待って。ポケモン図鑑を見て!」

 

「あん?って、エラー!?故障か?」

 

「おーい、今度はそっちがわかんない話してるんですけどー」

 

「あ、ごめんね。このポケモン図鑑には一度出会ったポケモンを追尾できるシステムがあるんだけど」

 

「それが、エラーを吐き出したって?」

 

「う、うん。相変わらず、飲み込み早いね」

 

 クリスの話によれば、三つ同時にしかも同じ機能が故障だなんてありえないという。

 ま、僕も同意見だ。

 で、その追尾システムを信用するとして。

 ということは、だ。

 

「もう誰かの手持ちになっている」

 

 四人の内、誰かがそうポツリというと場に嫌な緊張感が走る。

 

「俺たち以外の誰かが、ルギアに向けてボールを放っていた」

 

「そしてそっちのほうが早かったわけだ」

 

 シルバーに補足するように僕がそう言うと、シルバーは苦い顔になってヤミカラスで空を飛んだ。

 今回のルギアのことといい、マチスさんが言っていたこのジョウトを襲っているロケット団のことといい。

 

 ここで、今何かがうごめいているのは確かだ。

 

 その何か、が僕の目的に通じるのか否か。

 ってのがわからないんだけど。 

 

 考え事をしていると、なんか横でわちゃわちゃやってた三人が静かになっていた。

 一つの見解を出したらしい。

 

「と、いうことで僕もそろそろお暇するよ」

 

「え!?え!?ま、また行っちゃうの!?」

 

「そんな泣きそうな顔すんなよクリス」

 

「泣きそうな顔なんてしてない!」

 

 顔を真っ赤にして怒る彼女に笑いながら、僕も同じく空を飛ぶ。

 

「じゃ、またどこかで会うかもね。前髪君も」

 

「ゴールドだっつってんだろ!・・・・ったく」

 

 そんな捨て台詞を吐いて、僕は大空を滑空する。

 

「っと、忘れるところだった」

 

 大海原に漂う、麦わら帽子がよく似合う”彼女”を見つけて。

 

 そしてそれはまた、次のお話へと。

 

 




どうも!HUGっと高宮です!
ということでもう三月、年度末です。
割とこのジョウト編も中盤に差し掛かって参りました。
ここから大事なことが増えていくようないかないような、そんな曖昧さを伴いつつも今後もよろしくお願いします。
あ、そして今気づきましたが一年たったんですね。最初に投稿した時から。
時の速さにゲロ吐きつつも、今後もゲロ吐き続けたいと思います。 

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