「あの、良いでしょうか・・・?」
「へ・・・?」
なんやかんややって、僕は今、クロバットでビル群を滑空しているところ。
泥棒は未遂に終わって、僕はまだ善良な市民であるはず。こんなところまで追ってが来るなんて予想の範囲外だ。
「少し、少しでよいのです。お話しをさせてくれませんか?」
不測の事態すぎて焦っていたところ、目の前の少女は伏し目がちにそう言った。
今まで暗闇で戦っていたために少女ということくらいしかわからなかったが、よくよく見れば奇怪な格好をしている。
黒髪を後ろでまとめて、口元を隠すマスク。全身網タイツに黒のスカート。
そう、まるでくノ一のような恰好をしていた目の前の少女はなおも口を開いた。
「お願いです・・・」
クロバットで夜の街を飛びながらとはとても思えない話の内容だが。
なんとなく、その少女のしょんぼり具合が凄まじかったので僕はわざとらしくため息を一つついて。
「わかったわかった。話を聞こう」
「ほ、本当ですか!?」
根負けした僕に、少女の表情は見る見るうちに晴れていく。
「で、一体全体、僕に何の話があるってんだい?」
ビルの屋上、そこに取り敢えず着地した僕たちはクロバットを撫でながら会話を続ける。
ちらと少女の方を見れば、同じようにクロバットを労わりながらどう話を切り出そうか、そう思案している顔だった。
「あの、拙者の顔。拙者の顔に見覚えはありませんでしょうか」
おいおい、恰好だけじゃなくて一人称まで忍者なのかよ。なに?甲賀とか伊賀の生まれなわけ?
なんて茶化せるような雰囲気ではまるでなく、僕のそれは心にしまう。
真面目、ともすれば泣きそうな顔で僕の目の前に自身のご尊顔を差し出す彼女を僕は不思議に思いつつも記憶を辿る。
「・・・うーん。見覚えかあ・・・」
僕とすれば珍しく真面目になっているのは、多分意外とマスクの下が美少女だったからだろう。
見覚えがあるかといわれると、あるようなないような。そんな曖昧な答えになってしまう。
見覚え、というよりかはなんかデジャヴというか似ている人を知っているかのような。
「君、誰か有名人に似ているとか言われる?」
「は・・・有名人、ですか?」
もしやテレビで似たような人を見たとかそういうことかと思い質問するが、どうやら的外れだったらしい。彼女は困惑していた。
まあ、この稀代のテレビっ子と言われた僕がパッと出てこないんだからその線は薄いか。
となると、なんだ?
「あの、有名人とは少し違うかもしれませぬが、私の名前は”アンズ”」
「ああ、そう言えば自己紹介もしてなかったね。僕の名前は・・・あ、ねえ、これで名前聞いてさっきの泥棒未遂を逮捕するとかそういうパターン?」
あまりにも不可思議なことに巻き込まれているので思わず聞いてしまった。もしそうならさっさとトンズラせねばなるまい。
が、それは杞憂に終わった。
「い、いえ。そうではありませぬ。私の名前はアンズ。前セキチクジムのジムリーダー」
ん?最後の一言で、もやっとしていた何かが晴れそうなそんな感覚に陥る。
「”キョウ”の娘であります」
「・・・・・・・・マジ?」
思わず目が点になる。開いた口が塞がらないとはまさにこのことか。
キョウ、ロケット団幹部の一人。忍者のような成りで毒のエキスパート。僕の元上司。
言われて見れば、似ているような気がせんこともない。いや、似てない、か?
「ふむふむ、へー。ほー」
「あ、あの・・・///」
「ああ、ごめんごめん」
結構驚いたために、ジロジロと見過ぎた。失敬失敬。
「お父さんは?今どこに?」
「それが・・・拙者にも」
一年前、四天王とのスオウ島での戦いでキョウ様は行方をくらました。生死すら不明で。
まあ、あのキョウ様のことだ。ちょっとやそっとのことでは死なないとは思うが。
マチスさんもナツメちゃんも、キョウ様のことをさほど心配していない様子だし。
まあ、娘さんは心配だろうけどね。
暗い表情になっていく彼女を見て、同情、なんてしませーん。
「で?そのキョウ様の娘さんが僕に一体何の用?キョウ様の行方ってんなら僕に聞いたって無駄だよ?」
「あ、いえ、それもあるにはあるのですが」
ん?どーにもこーにも歯切れが悪い。
「あの、一年前のこと。もし、違っていたら違うでいいのです」
ただ、ただ確かめたいだけなのです。
と、彼女はなお神妙な面持ちでそういった。
「一年前、セキチクの町を襲ったポケモン軍団。その戦時下の渦中に貴方様はおられましたか?それが、それがどうしても知りたいのです」
今までで一番力強く、彼女は僕の目を見てそう言った。
「・・・ああ、君の言う通り。確かに僕はそこにいたけど」
それがなにか?そう言いかけて、アンズちゃんの反応に押しとどめられる。
「やはり!やはり!あの時、”拙者を助けてくれた、命をかけて助けてくれたのは貴方でしたか”!!」
急に肩を掴まれ、涙ぐむ彼女を僕はただ見ている。
何を勘違いしているのか、まったくもって僕にはわからない。
「そうか、アンズちゃん。君はあの時、崩れ行くジムにいて、僕に助けられたにもかかわらず逃げていった女の子だね」
「う・・・」
少々意地悪な顔つきといい方になっていたかもしれない。けれどいいだろう?あれマジで痛かったんだからさ。
なるほど、どこかに感じていた既視感の正体はわかった。僕としてはもうすっきりしたのでここでお別れで全然いいんだけど、アンズちゃんのほうはそうはいかないらしい。
「そ、それは事実です。拙者は、あの時怖くなって逃げてしまいました」
なに?それを謝りたくってジョウトまで来た?
いや、それはないな。僕に会ったのは本当に偶然だろう。彼女のここまでの反応がそれを物語っている。
「うん、まあ、だろうね」
「しかし!あの時の自分を、拙者は恥じ、そして鍛錬してきました!今まで!」
必死、まさに必死の形相で彼女は伝えようとする。
別に謝ろうが、そうじゃなかろうがどうだっていいんだけどさ。
「要領を得ないなあ、本筋を話そうぜ」
今まですっぱりと忘れていたくらいだし、僕としてもそんな昔のことをネチネチ言うような小姑のような真似はしない。
だからさっと本題に入ろうと、僕は興味を失くしながらそう言った。
「・・・拙者は今、道に迷っております。鍛錬をして力を付けて、しかし!その力の使いようが分からない!」
「ふーん、で?」
「父上には仕えるべく主人を探せと言われてきましたが、それを探しているうちにジョウトまで来てしまった。自分のジムも放っておいて」
ん?自分のジム?
大体話の終着点は見えたので聞いてるフリをして今晩の夕食のことなんか考えていたところ。
最後の一言が引っかかった。
「自分のジムってなに?」
「え?ああ、継いだのです。父上のジムを」
「ってーと、つまりなにかい?今、セキチクジムのジムリーダーって君?」
「はい」
はー、親子そろってジムリーダー?ひえー、エリートっすねー。
まあ考えて見ればずっと空きにしておくよりかは、さっさとジムリーダーを決めた方がいいに決まっている。
そう言えば、忘れそうになるけれどナツメちゃんもマチスさんもジムリーダーなんだよなあ。全然そんな感じせんし、マチスさんに至ってはアノ人ジムにいる時間なんてあんの?って感じなんだけど。
にしてもちょっとその情報にビビりながらも、取り敢えず最後の一言までは黙る。
「・・・今、拙者の力を使うに値する人物。それは貴方様しかおりません!私の命を救ってくれた、貴方様しか!」
大方、この話の核にはたどり着いた。
つまりはこう言っているのだ。
”自分の主になってくれ”と。
「うへえ・・・」
頭にその言葉を描いた瞬間、苦いものを噛んだ、そんな顔になる。
「あ、主殿?」
「おいおいおい、ちょっとまて!なにナチュラルに主呼び!?いい加減にしてくれ!」
なにをどういう風に間違えれば元上司の娘から主なんて呼ばれにゃならんのだ。
悪寒しかしないんだけど。
「し、しかし!これ以上はないのです!命の恩人のためにこの力を使う!これ以上相応しい理由はないのです!主殿!」
「頑なに主殿呼びだよこの子!なにその押し売り!即刻返品してえ!」
なんで僕が部下なんて持たなきゃいけないんだよ。僕は一人がいいの、これは目的云々抜きに!
一人で勝手気ままに行きたいの。好きな時に飯食って、好きな時に風呂入って、好きな時に寝たいの!
なんてことを、一方的にまくし立てて、取り敢えず先方には諦めてもらう。
そう、主なんてそんな立派な人間なんかじゃあないことに。
「だ、大丈夫です!拙者も自分のことがあります!そこまでの干渉はしません!もちろん、主殿が望むのなら衣食住までお世話しますが!」
ここぞとばかりに、今度はアンズちゃんのほうからまくし立ててくる。
「あのさあ、なにを幻想抱いてんのか知らないけどさあ。僕は別に君の主なんてタマじゃあないわけ。君を助けたのだって、仕事だったからで、それがなけりゃあムシだよムシ!」
さっきだって見たろう?僕は自分のためなら他人なんざどうだっていい。そういう人間だ。必要なら泥棒だってするし、強盗だってするし、人だって殺す。
間接的にでも、直接的にでも。
「それでも!それでもかまいません!」
それがわからないアンズちゃんでもないだろうに、それでも彼女は今日一番声を張り上げる。
「ワタシだって、考えたのです。色々と考えて、そしてこの結論に至ったのです。おいそれとは変わりませぬ!」
意志は頑な、決意は変わらない。
自分もそういう人間だから、なおのことわかる。この子は誓いを立てたのだ。不変の、そして不滅の誓いを。
もう二度と、あんな真似はすまいと。
僕と違うのは、彼女のそれは健全で。
僕のそれは不健全だということだけだろう。
「・・・・・・・・・!」
「・・・あーもう、わかった。わかったよ」
二度目の根負けは、どうやら高くつきそうだ。
「本当ですか!?」
ただの気まぐれだ、こんなものは。
利点がないわけじゃない。ぶっちゃけ一人よりも二人の方が情報は集まりやすい。
限界を感じていたわけじゃないが、一人でやらなきゃ意味がないと、そう言い張る時期は過ぎた。
オーキド博士、イエロー、その他にだってもう既に一人でやるなんていうには他人に頼り過ぎた。
「ただし、主だというのなら。ちゃんと命令には従ってもらおう」
「もちろんです!」
・・・あーあ、まったく嬉しそうな顔しちゃってさあ。
女の子のそんな顔みたら、強く言えないじゃんかねえ。ほら、僕ってば紳士だからさあ。
「はぁ、僕の名前はカラー。奇妙な関係になっちゃったけど、取り敢えずヨロシク」
「はい!今一度、アンズです!よろしくお願いするでござる!主殿!」
まあ、その呼び名は悪い気はしないけれどさ。
と、いうわけで、なんだか一人この復讐劇に加わって。
僕の物語は相も変わらず進んでいく。
それもまた、次のお話で。
どうも!新年あけましておめでとうございます。って今頃言います高宮です!
ということでね、新年もね、無事に明けましてね。
ええ、もう、ね。ほら。
モンハンが発売するぞおおおおお!!
ということで、発売すると多分現実に戻ってこれなくなるので発売前のこのタイミングでいっぱい更新していきたいと思います!
ではまた次回もよろしくお願いします!