ポケットモンスター~カラフル~   作:高宮 新太

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33話 「筋肉痛がすぐやってくるのは若い証拠ってことで」

 

「それで?どうしたんだいこんなところで、散歩ってわけじゃあないんだろう?」

 

 ケン、リョウ、ハリーの中隊長三人組の登場で緊迫していた空気はいくらか弛緩する。

 

「当り前だ!我ら中隊長は隊長たちの敵本陣突入作戦につきガラ空きになる町を守りに来たのだ!」

 

 ケン君は気合い十分と言った様子で顔からもそれが見て取れる。

 にしても、この三人がそんなまともな作戦を立てられるなんて思えないんだけど。案外できるやつだったのかな?

 

「そう!我らが隊長たちの命令でな!!」

 

「久しぶりの命令で心躍るぜ!」

 

 ああ、やっぱね。

 ハリー君とリョウ君の言葉に僕は安堵する。よかった、僕の観察眼が衰えたのかと思った。

 にしても、あの人達め。それならそうと先に行ってくれよな。こっちにだって作戦のたて方ってもんがあんのに。

 まったく性格悪いなあ。

 

「つってもまあ、この戦力じゃあさしたる変更はないかー」

 

「おい!どういう意味だそれは!」

 

「額面通りさ、リョウ君」

 

「にしても、お前これ一人でやったのか?」

 

 ケン君が視線をやるその先には倒壊したセキチクの街並み。

 

「いやはや、実力不足で申し訳ない。怪我人もいっぱい出ただろうし、そこは言い訳のしようもございませんよ」

 

 別にこれは本心だったけれど、それをケン君に指摘されるとは思わなかったなあ。

 

「そうじゃねえ!あのポケモン軍団をお前ひとりで退けたってのかって聞いてんだ」

 

 わりかし神妙な面持ちでケン君はそう訪ねるので。

 

「いやいや、ライチュウもウインディもいたさ」

 

「・・・・・」

 

 おっと、そろそろおふざけが効かなくなってきた。

 君らが何を思おうがどうでもいいけどさ、こちとら時間がないんだ。そういうのはすべて終わった後にしてもらおう。

 

「さて、一つ確認だけど。君ら、町を守りに来たんだよね?それもマチスさんたちに頼まれて」

 

「ああ」

 

「それなら、僕と目的は一緒だね。だったら頼まれごとをしてくれないかな」

 

 言いたいことは数あれど、ここは遠慮なく利用させてもらおうか。

 なにせこれで不安材料が格段に減るのだから。 

 

「頼まれごとだと?この状況でか?」

 

「この状況だからこそだよ、ハリー君」

 

 まあ、助っ人に現れたのがこの三人だけっていう不安はなくならないんだけどね。

 

「いいかい、今回は時間との勝負だから、ちんたらやってる暇はないんだ。だから悪いけどノーという選択肢はない。僕の言葉は隊長たちの言葉だと思ってくれ」

 

「・・・・ふん、言われずともそうしろというお達しだ」

 

 あら、以外とそこは考えられてたんだね。どうやら腐っても隊長たちは自分の部下の力量くらいは知っていたらしい。

 ハリー君の不満そうな顔に僕は笑みを浮かべながら言葉を続ける。

 

「じゃ、遠慮なく。僕の作戦はこうだ——————————」

 

 そこで僕はなるべく手短に簡潔に今回の作戦の概要を伝える。

 

「・・・お前、それを一人でやろうとしてたのか?」

 

「無茶なのはわかってたよリョウ君。でもほら、やんなきゃいけないんだからしょうがない」

 

 そりゃ、僕だってこんなギャンブルしたくないけどね。レートが高くなきゃとっくに降りてるとこだよ。

 

「で、そうだな・・・。ハリー君はここセキチクの防衛を任せたい」

 

 いくら戦力を減らしたとはいえ、ゼロになったわけじゃない。一人くらい守りを固めておきたかった。

 町民がやってくれるか、やれるのかって賭けに出なくて済むだけでもこの三人が来た意味はある。

 本来はその賭けに打って出なくちゃいけなかったんだから、やっぱ無茶だよなあ。

 

「お、おおお俺一人か!?」

 

 ハリー君は思ってもみなかったのか、多少。いやかなり動揺した様子だ。

 

「あのねえ、見てわかるほどに戦力減らしてやったでしょーが。こんくらいは気張ってよ」

 

「ぐぐぐ・・・」

 

 基本的に僕のことを下に見ているであろうハリー君は悔しさと不安が入り混じった顔を隠そうともしない。

 

「大丈夫さ、僕にだってできたんだから。君なら楽勝だ」

 

「そ、そうか。いや、そうだな。うん、お前でできるんだ、俺にだって」

 

 いやー、君のそういうチョロイとこは大好きだぜ。

 君たちの唯一の長所だよ。今後も伸ばしていこうね!

 

「残りの二人は僕と一緒に他の町へ行くぜ」

 

 そこで、また同じように守りに一人おく。そうすりゃこの作戦の成功確率は格段に跳ね上がる。

 

「さあ、話は終わりだ。行こう!」

 

 そう僕は締めくくった時だった。

 一つの悲鳴が響き渡ったのは。

 

「———————っ!?」

 

「い、今のは!?」

 

「若い女の声だ!」

 

「おい!カラー!?」

 

 三人が言うが早いか僕は駆け出していた。

 まったくもう!初っ端から失敗なんて勘弁してくれってんだ!今後のモチベーションに関わってくんだろうが!

 声がした方向は、多分ジムの方向だ。

 

「———————くっ!!」

 

 なにがそろそろ大丈夫か、だ。

 全然残ってるじゃないか。

 

「おいこら!悲鳴上げたのはどこのどいつだ!?」

 

 瓦礫と凶暴な目をしたポケモンだらけで、人の姿なんて見当たらない。

 方向は間違っていないはずだ。だとしたら。

 

「一番ポケモンが集まっている中心地!」

 

 必然、そこに思考は向かう。

 

「—————————いた!」

 

 崩れ行くジムの真ん中で、半分倒壊し開けっ広げになっていたおかげで見つけられた。

 

「ウインディ!”しんそく”!」

 

 今まさに、一人の女の子がカイリューに襲われそうになっている。

 ウインディのしんそくで薙ぎ払い、僕は後を追うように走る。

 とりあえずポケモンの敵意はウインディに向いたらしい。これでひとまず女の子は安全に・・・。

 

「いや、まずったな」

 

 しんそくの影響か、半分ほど崩れていたジムの建物の耐久力は今まさになくなってしまったらしい。

 ぐらぐらと不安定に揺れ、そして———————。

 

「きゃああああ!!!」

 

 崩れるのを防ぐことはできなかった。

 

「・・・おいおい、耳元で大声を出さないでくれるかい?」

 

 ウインディは動けず、ライチュウはまだ命令を聞くほど完璧じゃない。

 あーあまったく、こんなん僕しかいないじゃん。

 

「あ。あ・・・あ」

 

 大きな瓦礫を背負って、女の子を見下ろしている僕を見て女の子は驚愕に目を染める。

 ぽたり、ぽたり。

 と、血が女の子の頬を伝った。

 

「おっとごめんね、可愛い顔を汚しちゃった」

 

「ひっ!」

 

 僕がその血を拭こうと手を伸ばすと、彼女小さく悲鳴を上げて今まで一歩も動けなかったのが嘘のように脱兎のごとく駆け出した。

 

「あらら、なんて、助け甲斐のない」

 

 ほっぺにチューくらいの働きはした気がするんだけどねえ。

 これだから正義の味方ってのは、ホントこんなことやるやつはよっぽど頭おかしくなきゃできないよ。

 

「おい!カラー!大丈夫か!?」

 

「あ?ああ、大丈夫大丈夫。ただ、ちょっとこの瓦礫どけてくんない?」

 

 予想以上に重くってさ、受け止めたはいいものの。背中に張り付いて動かねえの。

 

「お前、血が・・・・」

 

「大丈夫だって言ったろう?これくらいなんでもないよ」

 

 三人がかりで瓦礫をどかして、僕は背中をさする。

 どうやら重症なのはもろに受けた背中ではなく、頭のほうだったらしい。

 ダラダラと流れる血が止まんない。拭っても拭っても出てきやがる。おかげで左目が開けらんない。

 だからそれはもうあきらめた。

 

「問題は敵の方だ。ごめん、まだ結構残ってた」

 

 まったくいくら街全体を守んなきゃいけないとはいえ見落としなんて笑えないぜ。

 どうやらさっきの子で避難は完了したらしいことが不幸中の幸いだが。

 

「残って・・・?一体何の話だ?」

 

「・・・何って、そっちが何言ってんのケン君?」

 

 まったく敵の区別もできなくなったのかい?だったらさっきの作戦いくらか変更しなくちゃなんだけど?

 

「お前が何言ってんだ。敵はお前が殲滅させたんだろう?」

 

 いや、殲滅はさせてないけど。

 当然僕の作戦上、それはない。なのでそんなことは一言も言ってない。   

 はずなんだけど。

 そこで僕はようやくあたりを見まわした。 

 

「・・・・・うわお」

 

 確かにケン君の言った通りそこには敵なんていなかった。

 より正確に言うならば、全員倒されていた。 

 

「ライチュウ、君がやったのかい?」

 

 その戦場のど真ん中で立ち尽くしているのはライチュウ。状況から見るに、一瞬で敵を刈りつくしてしまったらしい。

 ぱっと見でも十匹くらいはいたはずなんだけど・・・。

 ははは、流石の僕もそんな乾いた笑いしか出なかった。

 だって、規格外だってそんなん。

 

「・・・・・ヂュウ」

 

 さっさと次に行くぞ。まるでそういっているかのように僕の隣を歩くライチュウに。

 

「やっべー、頼もしいわー。そこの三人より全然頼もしいわー」

 

「・・・くっ、反論ができない」

 

 その背中がいやに男らしかったのは満場一致の意見だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし!ついた!」

 

 次なる町はクチバ。この町はワタルからの攻撃もあって壊滅状態が他の比じゃない。

 だが、それが幸いして町にはもうほとんど人が残っていなかった。

 あれだけ活気のあった港でさえ今は見る影もない。

 死人は・・・・ま、出ていないことを祈ろう。

 僕は、僕のすることをするだけだ。

 

「「ぜえ・・・はあ・・・ぜえ・・・」」

 

 ケン君リョウ君の息が整うのを待つまでもなく、僕らは戦場へと足を踏み入れる。

 

「くそ・・!おい待て!ってうわ!」

 

 ・・・結構敵もやられている。

 けれど。

 やはり一匹だけで防衛というのは無謀が過ぎたかな。敵さんの勢いは先程の町と同様衰えてはいない。

 

「ケン君!リョウ君悪いけど敵の相手しといて!」

 

「なにぃ!!?」

 

「ヤバイヤバイヤバイ!」

 

 二人の悲鳴にも似た言葉を聞きながら僕は必死になって走る。

 くそ、どこだ・・・。どこだゴルバット。

 この敵の勢い、最悪のシナリオが頭に浮かぶぶん、僕の手からは嫌な汗が止まらなくなる。

 

「チッ!邪魔なんだよ!どけえ!」

 

 ウインディの”とっしん”で道を切り開く。

 縦横無尽に進み、やがて敵の密集地を抜けたころ。

 

「いた!ゴルバット!!」

 

 フラフラと上空を滑空するゴルバット。

 それは地上から見ていても疲弊していて、今にも落ちてきそうなほど弱々しいものだった。

 

「いや、ていうかマジで落ちてきてないか。あれ」

 

 ヤバイ。そう思うよりも早く、ゴルバットの高度はあれよあれよという間に下がる。

 

「—————くそっ!!」    

  

 まるでキャッチャーフライを受け取るがごとく、僕は顔を上空に固定させながら足を動かした。

 その間の敵の攻撃をウインディが防ぎ、ライチュウは自分のやりたいように暴れているだけだったが、僕らの傍を離れてはいかない。

 

「———————————————っ」

 

 落下速度が上がり、すんでのところではあったものの。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はは。おかえり」

 

「キュウ・・・・」

 

 力なく笑ったその顔を、僕はしっかりと見ることができた。

  

「よく耐えてくれたよ、本当。すげえよ君は」

 

 たった一人で、この戦場を生き抜いた。

 まったく、主人よりも何倍もかっこいいじゃん。

 

「さて、この頑張りに報いないとね」

 

 僕はゴルバットをボールに戻し、戦いへと自らを放り込んでいく。

 ・

 ・

 ・

 

「・・・こんなもんかな」

 

 ウインディの体力もそろそろ底をつきて来た。

 僕の方も、流れた血が固まってマジで左目が開かねえ。

 いまだ元気なのはライチュウくらいなもんだ。

 本当にゴルバットの洗脳がなけりゃとっくにお陀仏だぜ。

 

「ヂュウ!」

 

 このエリアの最後の一匹を倒して、ライチュウは一つ雄叫びを上げる。

 

「ケン君。後は任せても?」

 

「ああ、さっさと行ってこい」

 

「うん、頑張って」

 

「カラー、お前、大丈夫か?」

 

「はあ?大丈夫だって」

 

 どうやら僕はリョウ君に心配されるくらいには見た目的にもヤバいらしい。

 だけど、だからといってここでやめるわけにはいかないんだ。

 やめられるのならとっくにやめている。

 

「だからさあ、さっさと行こうぜ」

 

「あ、ああ」

 

 それ以上、リョウ君は何も言わなかった。

 クチバの町をリョウ君と共に後にする。

 

 次は、最後の町だ。

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 別に、断ったって良かったんだ。

 この任務を受けるべき大義名分というものは、正直言って僕にはなかった。

 ならなぜ受けたかと問われれば、まあ、色々とあるんだけど。

 昔の知り合いとのしがらみも、交換条件にだした要求も、四天王という目障りな連中を倒してくれるということも。

 そのどれもが、本当のことで。

 でもきっと、一番ではなかった。

 じゃあ、一番は。 

 一番は。

  

「え、エリカちゃん・・・?」

 

「本当に、本当にアナタという人は・・・!」

 

 最後の町、ヤマブキシティに差し掛かって。

 町に足を踏み入れたその数秒後。彼女は僕の目の前に現れた。

 

「な、なんでここに正義のジムリーダーが!?」

 

 リョウ君の言う通り自分の町を守っていたはずだ。

 それだけを考えろとオーキド博士から伝えられたはずだ。

 そも、ここは敵のテリトリーで彼女がここに来る理由なんか、義理なんぞ何一つだってない。

 

「なんで?ですって?」

 

 訳が分からないどころの話じゃないのに、加えて彼女は怒っていた。

 誰がどう見てもわかるほどには。

 

「それはこっちのセリフです!なんでこんな無茶をするんですか・・・!」

 

 静かに声を張り上げるという器用なことをやってみせる彼女に、僕は辟易する。

 何度も言うようだが、これは時間との勝負だ。

 こんなところで無駄に消費するわけにはいかない。

 

「言ったろう、自分の町のことだけ考えてろって。テメエの町はどうしたよ」

 

「そんなの!とっくに任せても大丈夫なんです!いいから私の質問に答えてください!」

 

 いかないのに、なぜだか足が前に出ていかない。

 

「はっ。任せて大丈夫だから、リーダーの自分が、自分の町放ってまで僕に説教しに来たって?」

 

 お笑い草だぜそんなのは。無責任もいいとこだ。

 

「私の精鋭たちは、そこまでヤワではありません。いいから、質問に答えてと言っているでしょう」

 

 ヤワじゃない、か。まあ、そうだろうね。知ってるよそんなん。

 彼女はまるで情緒が不安定。静かに怒気を含んだその声に、けれど僕は答えない。

 

「隣の人は何です?何で、またロケット団なんかと一緒にいるんです!?」

 

「悪いけどさあ、問答している暇はないんだ。そこをどいてよ」

 

 君に取っちゃあどうでもいい街だろうけどさ、僕にとってはそうじゃないんだ。

 街が、じゃあないぜ。そこにいるヤツが、さ。

 

「どきますよ、アナタが答えてくれるなら」

 

 今度は泣きそうな顔。まったく面白いほどにコロコロと表情が変わる。

  

「ギャアアアっ!」

 

 はは、ベストタイミング。そろそろこの場から脱出する理由が欲しかったんだ。

 

「カラー!!」

 

 再び歩き始める僕に悲痛な叫びを送るエリカちゃん。

 嫌になるぜ本当に。

  

「いくぜライチュウ。ウインディ」

 

 ポケモンの者と思われる悲鳴。

 今のはアイツじゃあないけれど、それでも、僕の心臓は全然安心なんてしてくれなかった。

  

「~~~~~!!もう!!」

 

 一声、大きな声を発したかと思うとエリカちゃんは僕らについてきた。

 

「おいおい、何やってんだよ君は」

 

「うるさい!全部終わってから全部聞きますからね!」

 

 どうやら、彼女の中でさっきまでの質問は取り敢えず置いておくらしい。

 目の前で襲われてる町を放っておけないのだろう。

 でも甘めえよ。そんな隙を見せちゃあね。

 

「モンちゃん!”しめつけて”!そして”すいとる”!」

 

「ライチュウ!”アイアンテール”!」

 

「息ぴったりじゃねえか」

 

 リョウ君の一言に寒気がするからやめてほしいなあ。ただでさえ出血多量で体温下がってんのに。

  

「行きますよカラー!!」

 

「言われんでもね!!」

 

 僕らは別々に各個撃破で戦闘に当たる。

 

「ライチュウ!”でんきショック”!」

 

 カラカラってば、小さいからなあ。見逃さないようにしないと。

 

「!!カラー後ろ!!」

 

「っ!?」

 

 気の緩み。リョウ君の一言があるまで後ろの敵の存在に気付かなかった。

 プテラの鋭利なツバサが一直線に最短距離で僕の首元へと伸びてくる。

 

「あ、やべ」

 

「———————っ!」

 

 そう思った瞬間、骨と骨がぶつかる鈍い音。

 

「・・・はは。ベストタイミング」

 

「フン」

 

 おいおい、なんだよ。全然元気じゃねえか。

  

「カラカラ、”ずつき”」

 

「っ!!」

 

 バキリ、という痛々しい音が響く。

 プテラの巨体は地面に倒れ、何事もなかったかのようにカラカラは両足で地に立った。

 

「よお、元気だったかい?」

 

「・・・・・」

 

 相変わらずのそのクールさが、今はなんだか心地が良い。

 

「誰かさんとは大違いだぜ」

 

 口にしたら飛んできそうだから言わないけれどね。

 

「さあて!これでもう気遣うことは何一つない!最後にもうひと暴れ、たまった鬱憤晴らそうぜ!」

 

 ごめんなあ、特に君たちにはなんの思い入れもないんだけど八つ当たりさせてもらうね。

 

 

「ったく、マジで・・・チクったヤツ誰だああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 広がるのは歓声と、喜びの声。

 安堵した住人たちが今一度自らの家があるヤマブキへと戻ってきていた。

 

 結局、あれだけ頑張って最後の最後に待っていた結末は謎の光がポケモンたちを無力化するというなんとも肩の力が抜けるオチ付きだった。

 

 ホント、服はボロボロだわ体は傷だらけだわ。慣れないことってのはするもんじゃないね。

 

「カラー!?カラー!?まったくどこ行ったのですあの人は!?あ、おじいさん、いいえ、私の力など微々たるものです。いえ、あの、それより、人を探してまして」

 

「おお、こわこわ」

 

 茂みになった物陰から、エリカちゃんの姿を見送る。

 ちなみに捕まるのが怖かったのかとっくにリョウ君の姿はない。

 混乱に乗じて上手く脱出したらしい。

 

「そういえば、ライチュウ。君、最後には僕の命令聞いてたよね」

 

「・・・・ヂュウヂュウ!!」

 

「あいてててて」

 

 どうやら一応あの瞬間だけは認めてくれたらしいけれど、うーん、まだまだ心開いてくれないや。電撃が僕を焼く。

 ま、どうせ全部終わったんだからいいんだけどさ。

 

「カラー!!」

 

「っとと、んなことやってっとマジで見つかる」

 

 なんだか前回もこんな風にして逃げたような。

 あの時はエリカちゃんに捕まったんだっけ?今回は同じ轍は踏まんようにせんとね。

 

「誰に見つかるって?」

 

「そりゃ、当然エリカちゃんに」

 

 言ってて気づいた。この声は。

 

「カスミちゃん。君も来てたの」

 

「ええ、まあ私の方はついさっきだけど」

 

 そこにいたのは仁王立ちがこれまたよく似合っているカスミちゃん。

 

「・・・今回はまた無茶したわね」

 

「あのさあ、どこまで広まってんのその認識」

 

 情報源はわかってるから後でちゃんと釘指しておこう。

 ああ、勿論物理的にだよ?

 

「さあね、でも安心しなさい。私はエリカみたいに説教するつもりはないから」

 

「おお、それは有り難い」

 

 正直ここでもエリカちゃんと同じ対応されると力づくで行かなきゃならんくなるからなあ。

 

「でも、ちゃんとエリカとは話しなさいよ。逃げてないでさ」

 

 カスミちゃんの顔は真剣そのもので、それは純粋に親友を案じてのものだろう。

 

「ああ、うんうん。するする」

 

 対して僕は、真剣さなど微塵もない。おちゃらけてお茶を濁してヘラヘラ笑う。

 いつもの僕だ。

 ほら、今回は慣れないことをしたからね。ここらでいっちょう自分を取り戻しておかないと。

 

「はぁ・・・まったく難儀なヤツと関わっちゃったわねえ。エリカも」

 

 おいおい、僕がめんどくさい子みたいな扱いは不服だなあ。これでもわかりやすい人間だと思うがね。

 

「で?話は終わり?もう僕いいかな?」

 

「どこ行くの?」

 

 それ聞いてどうすんのさ。僕に興味もないくせに。

 

「いいの?今出ていけば、一躍ヒーローでしょ?町を救った、それも三つ同時に。そんな救世主になれるのよ?」

 

「言ってる意味が分からないなあ。それは望んでる者がなるべきだ」

 

 そう、今回で言えばエリカちゃんのような。

 望んで、望まれている人間がなるべきだ。

 

「それに、僕はそんなもののために戦ったんじゃない」

 

 別に称賛されたいわけでも、誰かに喜んでほしくてやったわけじゃない。

 そんなチンケなもんのために戦ったんじゃない。

 

「じゃあ、なんであんたはそんな無茶してまで戦ったのよ」

 

 カスミちゃんの声に悲痛の色が灯る。

 結局根が良いやつなんだよ君は。嫌いなはずの僕にだって、そんな対応をしてしまう。

 まったく僕じゃなかったら勘違いして惚れられてるところだぜ?

 

「僕が戦ったのは僕のためだ。それ以上でも以下でもない」

 

 僕はただ決めているだけさ。昔からね。

 

「・・・それでも、アナタがしたことは称賛されるべきよ。それほど凄いことなのよ。アナタがやったのは」

 

「あっはは!」

 

 思わず、笑いが出た。

 

「なっ!なに!?」

 

「いや、そんなに優しいカスミちゃんは初めて見た」

 

「こんの、人が真面目に話してんのに!」

 

「そうそう、その顔だよ。僕に対して何か、そんな顔で十分さ」

 

 照れたような顔なんて、レッドにでもとっときなって。

 僕にはそうやってしかめっ面で十分さ。

 それに報酬というのならもうもらっている。いや正しくはこれからなのだが、なにもただ働きをしたわけじゃない。利益はちゃんとあった。

 

「それじゃあね。カスミちゃん」

 

「エリカに!エリカにちゃんと話してあげてよ!?」

 

 そのカスミちゃんの言葉に、僕は後ろでにヒラヒラと手を振って返す。

 

「さて、じゃあ行こうか。”ジョウト”にさ」

 

 かくして、四天王による一連の事件は収束へと向かっていった。

 そして物語の歯車は新天地へと向かう。

 

 それはまた次のお話で。

 

 

 

 

 




どうも!ホークス日本一だ!高宮です。
ホークスサヨナラ勝ちマジ痺れたぜ!
ということで次回からジョウト編、物語が一つの区切りを迎えます。
ので、また次回もよろしくお願いいたします。


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