走るウインディの上から、一瞬で過ぎ去っていく景色を横に僕は自身のポケモンたちに今回の作戦を告げる。
「さて、諸君。わかってるとは思うけど、今回は相当分が悪い戦争だ」
向こうの戦力は底知れず、計り知れない。
ただでさえ四天王という精鋭たちが相手なのだ、流石に本人たちが出張ってくることはないと考えていいとはいえ、その手下たちだって相当の手練れのはずだ。
「加えて僕らの勝利条件は無いに等しい。町を守るってったって、どうすればそれが成功するのかなんてわかんないしね」
簡単に言えば敵の殲滅だけど敵の総数が分からない中でそれを目標にするのはあまりにも無謀すぎる。
だから頼みの綱はナツメちゃんたちの本隊なわけだが。
「ま、そっちの勝率とかは考えないようにしよう」
とはいえ、僕だってここで死ぬわけにはいかない。打てる手なんて少ないけれど、一個だけ効果を発揮しそうなもんがある。
おっと、言ってるそばから電話だ。
「あ、ハロハロ。カツラさん?」
「ああ、カラーか」
電話のお相手はツルリンと眩しいイメージのカツラさん。
「そっちは無事に到着しましたかね?スオウ島」
「ああ、おかげさまでね。そういえば、イエローとも合流したよ」
スオウ島、ナツメちゃんたちが言っていた四天王の本拠地。その情報を僕はカツラさんだけには渡していた。
「お、生きてたんだ。やるねえ」
あのクチバの一件でどうなったのかは聞いていなかったからね。にしても生きてたか、悪運が強いのか、はたまた実力か。
「てことは、もうそろそろ出会う頃かな」
「・・・ロケット団の幹部たちのことかね?」
「あちゃ、もう会ってました?なんだよ、驚くカツラさんの声聞きたかったなあ」
「まったく、これを仕組んだのは君か?」
「いえいえ、まったくの偶然でごぜーますよ」
ロケット団の幹部たちとカツラさんは色々と思うところあるだろうからなあ、これを機に仲良くなってほしいもんだ!
「はぁ、電話越しからでも君の笑顔が想像できるよ」
「やだなあ、人のことをクズみたいに言わないで下さいよぉ」
でもまあ無事に合流できたのならこれ僥倖ってやつだ。流石にナツメちゃんたち三人じゃあ心許ないからね。僕の中で頼れる人なんて一人しかいなかったのは申し訳ないが。
これが僕からの餞別ってやつで。
「ま、なんにせよ。頑張って下さいね。アンタらが頑張ってくんないと。こっちが死んじゃうんで」
「・・・一人でなんて無茶にもほどがある」
あら、もうそこまで聞いてたんだ。
「はは、僕もそう思いますよ。でもほら、カツラさんたちのほうが大変でしょう?」
なにも命を捨てて無茶をしようなんて思ってるわけじゃない。
なにも命をかけてまで町を守りたいと思ってるわけでもない。
僕はただ、どうせ巻き込まれるなら少しでも楽な方を取っただけ。
だってほら、敵の総大将を討ち取るなんて一番労力を使うじゃん?
「それに、僕はこっちのほうが向いてるんでね。案外楽しいんですよ?こういうの」
「・・・健闘を祈ろう」
「お互いね」
その言葉を最後に電話は途切れた。
視線を感じて、モンスターボールの中のカラカラを見る。
「なんだい意外そうな顔をして」
楽しいって言ったあれかな?そんなに珍しいかな?
「別に嘘じゃないぜ、頭を使って策を巡らせ敵を討つ。僕は高みの見物ってほら、僕の理想じゃん」
「・・・・・フン」
鼻を鳴らしてそっぽを向かれた。なんだいなんだい、人がせっかく鼓舞してやってんのに。
「さて、本題に戻ろうか。いくら何でもこの戦力で街を三つ守るのは不可能だ」
僕らのミッションは、いかに被害を抑えながら敵の本丸が落とされるまで持ちこたえるかってことで。
ここで重要なのは、敵の殲滅が目的ではないということ。あくまで時間稼ぎが重要であり、敵さんどうこうは無視していい。
大将さえ討ち取れれば他の雑魚は所詮有象無象へと成り果てる。であれば、そんなものに執着してもしょうがない。
逆に言えば敗北条件は町の破壊。この場合は死人が出るかどうかってことだろうね。
例え向こうがワタルを討ち取ったとしても、こっちの被害が甚大ならそれは勝ちじゃない。
「まったく、正義の味方ってのは難儀だなあ」
完全勝利以外は許されず、勝っても得られるものは何もない。
これを酔狂と呼ばずなんというのだろう。
「そこで、僕らは戦力を三つに分ける」
「————————っ!!」
「いいリアクションをありがとうゴルバット」
ボールの中で驚いた表情をしている彼に僕は語り掛けるように言葉を続ける。
「いいかい、さっきも言ったが一つでも町が落とされれば僕らの負けだ。ならちんたら一個ずつ敵を撃破していく時間的余裕はない」
敵の戦力は現状わからんが、それを許してくれるほど甘ちゃんではないことは確かだ。
つまり多方面からの戦線同時展開しかない。
「戦力を削ってでも敵の進行を少しでも抑えたほうがいいってことさ」
そこで!と僕はこの計画の要を話す。
「ゴルバット、カラカラ。君達には町を一つ頼む」
「・・・・・・」
「————————、」
片方は反応なし、多分覚悟していたのだろう。
片やもう一方はただでさえいつも大口開けてる口が塞がってない。
「その反応は正しいし、痛いほどわかる。けれどここは君たちに頑張ってもらうしかないんだ」
僕の手持ちの戦力で一番対軍戦闘能力を有しているのはゴルバットだ。
その洗脳という特殊な性質をうまく使えば一番君が適任であり、一番君が輝く。
「それは、わかるよね」
「」(コクコク)
「よし」
しゅんと項垂れながらも、頷いてくれるのなら僕は信頼するよ。
その君の勇気にね。
「・・・本当はカラカラではなくウインディに任せたいんだけどね」
もう一方を見て、僕は思わず呟く。
もう一人の対軍戦闘で発揮する長中距離型のウインディだが。
「そうなってくると、この作戦の根幹が揺るぐ。要である移動手段がなくなっちゃうんだ」
町を任せるというのは、何も最初から最後までではない。
二人が粘っている間、僕は残ったポケモンで速攻で町の敵を一つずつギリギリまで削る。
それが終わったら次の町、次の町。と巡回していくわけなので、移動手段というのはなくてはならない。
「キャウン!」
「こらこら、走りながら喋るなよ。舌かむぞ」
それでなくても、ウインディを一人でってのはちょいと不安だしなあ。この子の性格上。
「っつーわけで、カラカラ。悪いけど貧乏くじ引いてくれるかい?」
当然、言葉は聞こえなくても態度がそう言っていたように思う。
「うん。ま、そう言ってくれると思ったからの選択だよ」
ああ、君はいつだって僕が一番困ってるときに———————。
「さて、ここから一番近いのはヤマブキだ。まずそこでカラカラ。君を降ろす」
そして次のクチバでゴルバットを降ろし、僕らは最後の町セキチクで戦闘を行う。
「町が助かるギリギリまで敵を削り次第、引き返していくから。皆、それまで死んじゃあだめだぜ?」
「キュウ!」
「キャン!」
「・・・・」
「ほーら、君も今くらい輪に加わんなさいよ」
右手に握ったスーパーボールは怒りを露わにガタガタと揺れるのみだ。
「はぁ、まあこの際贅沢は言わないけどさ」
なんせこちとらニャースの手も借りたいんでね。
「さて、作戦は以上。っつってもこんなもん作戦なんて呼んでいい代物じゃないけれど」
なんせ運否天賦が過ぎる、まったくもって危ない橋なのさ。
「でもどうせ運否天賦なら、最後まですがろうぜ、神様の気まぐれってやつに」
もうすぐヤマブキに差し掛かるところ。僕は最後にそういってカラカラを送り出す。
「————————よし!ついた!」
カラカラ、ゴルバットを戦場へと送り込み、僕は一つ目の町セキチクへと降り立った。
「は、いいけれど。なんじゃこりゃ」
そこはまさに地獄絵図。阿鼻叫喚の地獄だ。
悲鳴が町を支配して、絶望が空気中に蔓延している。
「今まで来た二つの町の中で一番ひどいや」
敵のスオウ島から一番近いのに、僕が来たのが一番遅いのは流石にまずったかな。
でもそこはしょうがない。町民の皆さんにはそこは許してもらおう。
さて。
敵の把握は既に済んでいる。
奴さん、どうやら人員的な戦力はないらしい。ここにいるのはやたらめったら数の多いポケモンのみで、トレーナーの姿はない。
多分、キクコの能力で洗脳しているのだろう。無人発電所で多数のポケモンを同時に操る実験をしていたと聞いてたけど、これはそのための布石だったんだな。
「なーんて分析している間にやっちゃおう!」
さあ、君にも活躍してもらわなければね。
「行くぜ、”ライチュウ”!」
マチスさんから預かったこのライチュウ。主人に似てまったく全然まんじりとも僕に懐かないけれど戦闘においてはこれ以上ないくらいの助っ人だろう。
「ヂュウ!!」
ワイルドな顔立ちに逆立っている尻尾と耳、そのほっぺには貯めた電撃。その電撃はことどとく敵を貫いていく。
「ヒュー、流石ジムリーダーのポケモン。僕が指示する必要ないなあ」
「キャウーン!!」
「っとと、こっちはダメか」
まったく、君だって同じジムリーダーのポケモンだろう?
「”しんそく”!」
必ず先制できるこの攻撃でウインディは一気に五体の敵を屠る。
「ま、戦力は申し分ないんだけどね」
さて、ここで一つわかったことがある。というか誰でもわかることだけれど。
敵さんがドラゴンタイプしかいない。
これが何を意味するのか、単純に一番戦力が大きいってことだろうけど、僕がここまで来た他二つの町もドラゴンだけだったからなあ。
全部そう、ってのは考え過ぎだろうけど。うーむ、これは一番貧乏くじ引いてるわ。
タイプ相性というものを考えれば氷タイプくらいが一番楽だったんだけど。
「なーんて言っている間にライチュウさん!?一人でグングン進むなよ!」
どうやらライチュウ、気合いは十分に入っているらしい。君のことは一ミリだって知らないけれど、今は好材料は一つだって有り難い。
「くっ——————!にしても」
数が多い。
純粋に数というのは暴力だ。
どれだけ差が開いた相手だって数をそろえればなんとかなることはままある。
だからこういう多対一ってのは策としては純粋でオールマイティに力を発揮するのだが。
「でもねえ、こちとらカードで言うジョーカーですから。そういうセオリーってやつをぶっ潰すのは得意なんですよ!」
やっ!と、僕は走りざまにその辺に落ちてた木の枝を投げる。
「ギャアア!」
「やり、命中」
敵の目を潰す。それだけで、ほら。
怒り狂ったポケモン、ハクリューは、手当り次第に尻尾を振り回しそれが周りのポケモンを巻き込んでいく。
するとどうだろう、統率の取れていたポケモンたちがたちまち仲間割れをしだしたではないか。
「いいかいライチュウ、これだけ聞いてくれ。敵を倒すのは結構だけど、こういうやり方もあるんだぜ?」
その様をライチュウは少し驚いたように見ていたので、僕は言葉で付け足す。
敵を倒す、それはいい。立派だしちゃんとした力がないとできないことだ。
だけど、今ここにおいてそれは最善ではない。
いつだって、僕らは最善を選び取らなければならない。勝ちつづけていたいのならばなおさらだ。
「敵はどうやらトレーナーはいないようだし、細かい作戦はとれないだろう。こうやってちょっと和を乱してやれば」
今度はウインディの”すなかけ”、先と同様、目を積極的に狙い潰していく。
敵のハクリューは、テンパッてカイリューやらハクリューを自身の尻尾でがんじがらめにしていく。
「ほら、この通り」
雑然としたポケモン団子の一丁上がりだぜ。
「わかったかい?」
「・・・・・」
うん、頷きはしないか。
けれど、瞳の色が変わった。好戦的な赤からものを考える青に。
今はそれで充分。
「さて、敵さんは烏合の衆だ。数に惑わされるな、一匹一匹に囚われるな。全体を見ていこうか」
ここからがショータイムの始まりだぜ?気を引き締めていこう。
「はぁ・・・はぁ・・・」
よし、だいぶ削ったな。
敵の動きが目に見えて鈍り、敵の数が体感できるほど少なくなった。
が、しかし。
「ヒュー・・・ヒュー・・・」
「・・・・」
ウインディは舌を出して荒い呼吸をし、ライチュウは無言で汗をぬぐう。
(思ったよりも疲労が濃いな。僕含めて)
腐っても四天王の配下のポケモンだってわけか。この分だと、他二つの町はどうだろうな。
「よし、ここはあと少し片づけたら撤退だ」
一息呼吸を入れて、僕はそう決断する。戦力はだいぶ削ったし、あれだけの数だ、さらに戦力を隠しているわけでもないだろう。意味も分からんし。
にしても、このポケモンたちは何の目的で送り込まれたのだろうか。
カントーを焦土と化すだけならジムリーダーの町に限定されてるわけがわからん。
分からんついでにもひとつわからんのは、四天王たちの目的だ。キクコは八つ目のジムバッジを探していたけれど、それを見つけてどうなるというのだ。
あの増幅器に一体なんの力が隠されているのか。
「ま、それを考えるのは僕の役目じゃあない」
興味ないしな。そっちはどっかの酔狂なバカに任せよう。
「————————————ギャアス!!」
「っ!?」
しまった。考え事してて周囲に気を配ってなかった!
多少なりともの油断、疲れからくる思考への逃避。
その虚をつかれ、僕は後ろからくる敵の接近に気付けなかった。
「スリーパー!!”サイケこうせん”!」
間一髪、目の前まで迫った鋭い尻尾は、だがしかしだらしなく地面へと落ちた。
「・・・・君たちは」
声がした方。ちょっとした丘を見れば眩しい大陽に遮られ、真っ黒に塗りつぶされた顔はどこか親近感を覚える。
「ケン!!」
「リョウ!!」
「ハリー!!」
「「「そう!!俺たちはロケット団中隊長!!」」」
少々頼りないが、どうやら正義の味方ってやつは都合のいい時に助けが来るもんらしい。
・・・ホント頼りないけれど。
そして戦闘は激化していく。
それもこれも、また、次のお話で。
どうも!ホークス勝った!!ウッチーやべえ!高宮です。
いやー、一時はどうなることやらと不安でしたがそんなもん吹っ飛ばしてくれましたね。
真礼さんとホークスの話したいなあ。
というとこで鷹党のこのss、次回もまたよろしくお願いいたします。