ポケットモンスター~カラフル~   作:高宮 新太

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30話 「お腹痛いで早退しまーす」

 

「う・・ぐ・・ぐうっ!」

 

 うまく立ち上がることすらできない。下腹部からの出血は想定以上で、頭がくらくらとさえしてきた。

 カンナとの戦いで、命を削る覚悟はしていたが、まさかここまでとは。

 生死の境ってやつを、きっと僕は今まさにさまよっている最中だろう。

 

「キャンキャン!!」

 

「・・・・そんな、心配そうな声ださんでも」

 

 ウインディの目線が物語っているように、きっと傍目から見ても僕の自己分析は間違っていないのだろう。

 氷の人形を砕いたのは失敗だったかな?死んでちゃ世話ないぜ。

 だが、ここまでしないと勝てない相手だったのは確かだ。

 チラ、とカンナを見る。

 起き上がる気配はない、すっぱりと頭を揺らしてやったんだ。しばらくは起きられないだろう。

 だから時間を気にする必要はないんだけど。 

 

「ダメだ。血が出すぎてる」

 

 動くこともままならず、応急処置した腹も大した効果が見えない。

 これじゃあ街まで戻って治療って手も使えない。ていうか治療してもらえんのか?さっきのはかいこうせんで木端微塵なんてシャレにならんぜ。

 ん?おっとお?これは手詰まりってやつじゃあないですか?

 しばらく考えても打開策が見当たらない。流石の僕もここからの一発逆転ってのは無理。

 なんて、思っていた時。

 

 

「随分と無茶したなあ!ええ!?おい!カラーよぉ!」

 

 

「クックック、貴様がそこまでリスクを背負うとは。この二年で変わったか?」

 

 

「それとも、ただ隠していただけかしら?」

 

 

 

「な・・・・!アンタらは・・・・!」

 

 

 どこからか聞こえてくる三人の声。

 その声はいつぞやはやかましい程に聞こえていた声。

 この二年ですっかり聞かなくなった声だった。

 

「マチス、キョウ、ナツメちゃん・・・」

 

「「「様をつけろ!!!」」」

 

「えー?そこ?」

 

 まったく、感動の再開だってのに、二言目には怒声って。もう、変わんないなあ。

 

「はは、生きてたんすね」

 

「フン、てめえが余計なお世話をしやがったからなあ!」

 

「はて?なんのことやら」

 

「とぼけたって無駄よ。私の超能力の力を甘く見ないで欲しいわ」

 

 なあるほど、ロケット団のビルが崩れ去りその瓦礫の下敷きになった三人を助けたこと。それも超能力でお見通しだったってわけかい。

 

「テメエがいなくてもなあ!あれくらい自力でなんとかなったんだよ!」

 

「うわあ・・・可愛くねえ」

 

 素直さも時には大切ってロケット団で習わなかったですか?

 マチス様ってば、本当に助け甲斐ないなあ。

 

「そりゃ、悪うござんした。余計なこと、しちゃって」

 

 つか、何しに来たの?この人たち。自分、取り込中なんすけど?

  

「フフ、けれどお前がここまでボロボロになっているのを見るのは愉快だな」

 

 だから本当になにしに来たの!?冷やかしなら帰ってもらいたいもんですねえ!!

 ナツメちゃんの嗜虐的な笑みはもっと余裕のある時に楽しみたいもんだぜ。

 

「あ、ヤベ。ツッコんでたら傷口が・・・」

 

 くそ、こいつらマジで僕を冷やかしに来ただけか?百害あって一利なしなんですけど。 

 

「フッ、まあそう邪険にするな。こいつらもこれで感謝をしている」

 

 はいぃ?感謝あ? 

 おいおい、この人たちと感謝なんてお花畑と拳銃くらい離れた言葉だぜ?

 

「ていうか、キョウさんはなにを僕のお腹に塗り込んでいるので?」

 

「忘れたか?俺のエキスパートは毒。相手の体内を蝕み、変幻自在に操る」

 

「ええ、覚えてますけど」

 

「つまりは、その逆。体調不良を治すことも造作もない」

 

 得意げに笑うキョウさん、ああ、見たことあるぜこの顔。外道な作戦が上手く嵌った時の顔だ。

 つまるところ、この顔のキョウさんが言ってるってことは自信あるって信じていい。

 

「そして、私のユンゲラーの”サイコキネシス”で破れた血管の代わりに血を巡らせている。幸いにして臓器に傷はついていないようだし、しばらくすれば治るわ」

 

「ほほお」

 

 確かに、ナツメちゃんの言う通り先程までの出血が噓のように血が巡る感覚はある。

 最後に、包帯でお腹をグルグル巻きにすれば、はい完成!

 

「ただし、まだ動くのはダメだ。我々のコレも応急処置の範囲だからな。あとはよく寝てよく食うことだ」

 

 そんな小学生の骨折みたいな!?んなことであの傷が治っちゃうんだ。

 

「で?マチス様は?」

 

「ああ?」

 

「他の二人は僕のために尽くしてくれしたけど、マチス様だけなんもしてないんですけどー」

 

「ん」

 

 そう言って指さすのは僕のお腹。

 

「その包帯を用意したのは俺だ」

 

「誰でもできるぅ!そこらのコンビニで売ってるよ多分!」

 

 温度差すごいな、マチス様だけなんの感謝も感じられない。今だって心底不服そうな表情を隠そうともしねえ。

 とはいえ。

 

「へえー、マジで感謝してんだ。意外だなあ、三人ともあんな傲慢で自己中心的で自分の出世以外に興味なしの腐れ外道だったのに。随分とまあ人間らしくなりましたねえ」

 

  

「「コロス」」

 

 

「まあ待て」

 

 マチスさん、ナツメちゃん。お二人ともマジで獲物を刈る目をしてますよ?

 

「やだなあ、ちょっとしたジョークじゃないっすか。怪我人ジョークっすよ」

 

「そうか、いいんだなそれが遺言で」

 

「今ここで黒焦げにしてやってもいいんだぜえ!?」

 

「だから待てと言っているだろうに。お前も、俺が止めるからといって煽るな」

 

 ぺろっと舌を出して、ごめんないと態度で表す。

 しかしまあ大変だねえ、僕の元上司も。この二人をまとめるのは至難の業だろうに。

 そして、その至難の業を駆使してまで一体全体僕に何の用なんでしょうか。

 

「ヘッ、わかってんじゃねえか」

 

「ええまあ、短い付き合いではありましたけど貴方たちが何の見返りもなく人助けをするような人達じゃないということは僕は胸を張って言えますよ」

 

 図ったかのようにタイミングよくここに現れたことも、妙に手際のよい治療も、そも、治療するという行為自体が。

 不自然極まりない。

 

「お前には、頼みごとをしにきたのだ」

 

「頼みごとねえ」

 

 なんだろうなあ、サカキ様を一緒に探そうとかだったらジョーク通りこして笑えないけど。

 でも、ナツメちゃんの顔を見るに真剣なのは伝わってくる。

 それもそうか、僕なんかに頼るほど切羽詰まった状況なんだ。

 否が応にも真剣にもなるか。

 

「四天王が、このカントーで不穏な動きを見せているのは知っているな」

 

 おっと、どうやら僕の目論見は外れたらしい。サカキ様関連じゃあなかったか。

 

「俺たちが復活するはずのこの場所で、好き勝手されるのは癪に障るんだよ」

 

 マチスさんも、そしてキョウさんもナツメちゃんもどうやら気持ちは同じらしい。

 郷土愛、とは多分違うのだろうが。

 

「今までの復活の準備、それをコケにされるのは一番腹が立つわ」

 

「だから、我々はまず敵である四天王の排除を決意した!」

 

 なるほど、キョウさんの言葉を聞いて納得する。

 つまりは敵は同じ、そう言いたいんだ。

   

「我々が仕入れた情報によれば、カントーはもう間もなく四天王により襲撃される」

 

「どこが襲撃されるのかは、まだわからねえ」

 

 そう言いながら、マチスさんの視線は自然とクチバに向かう。

 ジムリーダーとして君臨していた町、それはもう自分の町と言っても過言ではない。

 いくらその仕事を成していなかったとはいえ、一抹ほどのそういう感覚というのは持ち合わせていたらしい。

 

(ま、この人。部下には慕われてたしなあ)

 

 面倒見はいいのだ。僕に対して以外。

 

「そいで?具体的に僕は何をすればよろしいんで?」

 

「・・・意外ね、てっきり駄々をこねるとばかり思っていたが?」

 

「駄々って・・・子供じゃないんだからしませんよそんなん」

 

 別に特別な意味などない。

 ただ、三人が借りを返しに来たように。

 僕もまた、借りを返すだけだ。

  

「だからまあ、治療代分くらいは働きますよ」

 

「それは懸命な判断だな。断っていたら俺の電撃の餌食になるところだったんだぜ」

 

 極悪非道なその表情に、僕は笑顔がひきつるのを感じる。なんでそういうこと言うのか、いらん真実なんざ葬っておけよ闇にさ。そういうの得意でしょうに。

   

「お前には俺たちの町を守ってもらいたい。俺たちが四天王のアジトに攻め入っている間にな」

 

「へえ、アジトの場所知ってるんですね」

 

 どうやらキョウさんの言い分だとそこに乗り込む算段は整えてあるらしい。 

 

「だけど、攻め入っても守りがいない。四天王を倒したところで街が焦土と化せば意味はないし、そこで僕の出番ってわけですか」

 

「ええ、相変わらず気味が悪いほど察しがいいわね」

 

 褒め方下っ手!もっと上手にほめてもらわないとやる気でないんですけどー。

 まったく、元上司共じゃなかったら治療代なんて踏み倒してるところだぜ。

 いや、実際に踏み倒していたかもね。 

 アレを見なければ。

 

「クチバが一瞬にして消された。アレを見ていなければ断っていたところです」

 

 現実として目の前に脅威として現れてしまった以上は、まあ、ねえ。

 一応思い入れもなくはないし。

 

「つまり?」

 

 キョウさんの最終確認に僕は首を縦に頷く。

 

「いいでしょう。それで今回助けてもらったことはチャラってことで」

 

「交渉成立、ね」

 

「ええ、で?守るのは貴方たちの町だけでいいんですよね?」

 

 流石に僕といえど、三つの町を同時に守るのは苦しい。

 これ以上は手が回らないどころか体が足りない。

 

「ああ、それ以外なんざ知ったことか」

 

 うーん、そういうセリフがなければいい領主って感じなのに。惜しいなあマチスさんは。

 

「敵が襲来してくる時期は?」 

 

「そこまではわからん。が、そう遠くないと俺は睨んでいる」

 

 ふむ、こういう時のキョウさんは頼りになるなあ。

 今回も敵じゃなくて助かるぜ。

 

「ナツメちゃんの超能力でなんかわかないの?」

 

「近いうちに敵が来る、としか」

 

 かー、それに引き換えナツメちゃんは役に立たねえなあ。

 

「って痛い痛い痛い痛い!!」

 

「お前が何を考えているかなど、超能力を使わずともわかるわよ?それと、ナツメちゃんはヤメロ!」

 

 思いっきりエスパー技で頭を締め付けられる。

 ていうかちょっと!ユンゲラーは僕のお腹の血管巡らせるのに集中させといてよ!

 

「ふん、そんなもの。もうとっくに手を離れている。しばらくは留まったねんりきで動くはずだ」

 

 なんだ、そうなのか。じゃ、マジであんまり動かしちゃダメじゃん。

 で、請け負ったのはいいが現状じゃ情報が少なすぎる。

 四天王の襲来ったって、確実ってわけでもない。

 敵の戦力も動向も策もわからないんじゃあ、作戦だって大雑把になっちゃうし。

 ていうかなにより人手が足りねえ。三人の立場上、これ以上は見込めないし。 

 

「って、あんまりにも突拍子だったもんで記憶から抜け落ちてたけど、カンナさんに聞けばいいんじゃん」

 

 幸いにしてここには悪の幹部が三人もいる、拷問でもなんでもわけないだろ。

 って、思ったんだけど。

 

「跡形もなく消えてやがる・・・」

 

「あん?何言ってやがる。俺らがきたときからとっくにいねえよ」

 

 ・・・そうだったのか、気付かなかったけれど。

 大方キクコかな、そういうことをするのは。

 

「ま、やるだけやってみますわ」

 

 重要な情報源を失くしたのは痛いが、ポリポリと頭を搔きながら僕はそう言った。

 

「頼むぞ」

 

 最後にキョウさんはそう言い残して、三人は一瞬の内に目の前から消えた。

 ・・・そんなんじゃあもう驚きませんけども。 

 

「さて、時間はないとはいえ。情報はある程度欲しいな」

 

 とてもじゃないが、各町に四天王一人分の戦力でもつぎ込まれたら敵いっこないし。

 

「って、あれ?どうしたんすか?マチスさん」

 

 これからの指針を考えていたら、どこからともなくマチスさんが戻ってきた。

 

「っとと、スーパーボール?」

 

「ソイツをテメエに預ける。有効に使え」

 

 無造作に投げ渡されたのは一匹のポケモン。

 どうやら、戦力の足しにしろということらしい。

 彼なりの施しだろうか。

 

「いいか、貸すだけだからな。ぜってえ返しに来いよ」

 

「・・・・ははっ。そりゃもう、後が怖いですから」

 

 まったく、わかりづいらいねえ。気持ちってのは伝わんなきゃ意味ないってのに。

  

「それと、クチバをもう絶対に傷つけさせるな」

 

「それに関しては当然。請け負った仕事は完璧にこなしてみせますよ」

 

 マチスさんの怒りも、受け取ったポケモンの怒りも。

 全部乗せて有効利用させてもらいますぜ。

 

「ついでといっちゃあなんですが、一個、お願い聞いてもらえます?」

 

「・・・言ってみろ」

 

 やりぃ、こういうのは言ってみるもんだぜ。

 

「———————————————。っていう、簡単なお願いなんですけど」

 

「ああ、わかった。終わった暁には手配してやる」

 

「へへ、あざっす」

 

 こうして、四天王との対決の時は刻一刻と近づいてくる。

 

 が、それはまた次のお話で。

 

 




どうもブレンド・s高宮です。
もうそろそろドラフト会議ですねー、ドキドキワクワクしております。
プロ野球もほとんどシーズン終わったし、後はcs、日シリ。
十月は楽しみ一杯だ。
ということで次回もまたよろしくお願いいたします。

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