ポケットモンスター~カラフル~   作:高宮 新太

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24話 「ようやく会えた本命」

 

「あ、えっと。カラー?もうちょっと、その、優しく」

 

「仕方ないだろう?僕だって、初めてなんだから」

 

「なーにを意味深なやり取りをしてるのよ!この変態男!」

 

 四天王の襲撃から落ち着きを取り戻してきた今宵。

 僕たち正義のジムリーダーズはエリカ邸でひとまずエリカちゃんの治療をすることにしていた。

 

「おいおい、僕はただ服の上から治療するなんて初めてって意味で言ったんだけど?カスミちゃーん?一体全体どういう意味で受け取っちゃったのかな?」

 

「~~~出てけ変態!!」

 

 顔を真っ赤にしたカスミちゃんから勢いあるグーパンチをもらったところで、僕はお役御免となり部屋から追い出されてしまった。

 なんだよ、せっかくこの僕が珍しく治療してやろうって気になったってのにさ。

 廊下を歩きながら、ぶたれた頬をさすりつつ歩く。

 

「カツラさん」

 

「おお、カラーか」

 

 正義のジムリーダーがここにいるのだから、当然カツラさんに会うのは不思議ではないのだけど。

 僕は不思議にカツラさんに尋ねた。

 

「その男は?」

 

「ああ、こいつがレッドに化けてエリカ君にケガを負わせた男だ」

 

 ぐでーっとカツラさんの肩で伸びているその男は、なるほどキクコに利用されていたらしい小物感がする。

 眼鏡に黒髪というこれといって特徴的でもない出で立ちに僕は視線を外した。

 

「ふーん、で?そんな男を担いでどうするんです?」

 

「こいつがどうしてレッドに化けられたと思う?」

 

 なんだろう憑き物が落ちたかのようにすっきりとした表情のカツラさんは意味深に僕に問う。

 けれど、興味ないんだよ。そのカツラさんの表情の意味とか、昨日の謝罪の心情とかさ。

 

「さあ」

 

 だから僕は気のない返事を返すしかない。

 

「もっと言えば、なぜレッドではないと見破れなかったのか」

 

 しかしそんな僕を置いてけぼりにしてカツラさんは自分の世界(ワールド)へと入り込んでしまっているようでその口は止まらない。

 

「答えはこれだ」

 

 呆れていた僕にすっと取り出したるは、黒いグローブ?   

 ああ、これ確かロケット団のグローブだ。

 僕はそれに見覚えがある。意気揚々とマチス様が身に着けていた。

 

「レッドが身につけていたグローブだよ。もしこれを研究していけばレッドへの手かがりとなるかもしれない」

 

 ん?レッドが身に着けていた?そだっけ?

 最後にレッドにあったのは、確かシルフカンパニーでの対決だったけどそんときは結構必死だったしな。自然に負けるのに。

 だからあんまし覚えてないけれどカツラさんが言うならそうなんだろう。僕なんかよりよっぽど真剣にあいつを見てる。

 

「ふーん、じゃ。頑張ってくださいな」 

 

 そう言い残して、僕は玄関へとむかって歩を進める。

 

「もう、行くのか?」

 

「ええ、ここにやるべきことは僕の中にはないんでね」

 

 ひらひらと手を振る僕にそれ以上カツラさんは何も言わず。

 玄関から、壊れた門をくぐって。

 ぎゃーすか聞こえる女の子たちのやかましい声を聞きながら僕は一人呟くのだ。

 

「じゃあね、エリカちゃん」

 

 これでようやくイエロー探しに集中できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とはいえ、アテがあるわけではないので僕は取り合えず昔の旧友に会うことにした。

 

「やあ、久しぶり。リョウ、ハリー、ケン」

 

「ああ、久しいな。カラー」

 

 元ロケット団中隊長組、リョウ、ハリー、ケン。

 ロケット団が解散してからも、この三人はしぶとくロケット団の広報活動を行っていた。

 広報活動、つまりはロケット団復活ののろしを上げるべくゲリラ的に活動していたわけだ。

 そんな三人と握手しながら僕は昔話に花を咲かせる。

 

「僕が各地を旅していた時に偶然会ったのが始まりだったね」

 

「そうだな、結局まだロケット団は復活できていないが。俺たちは諦めない!」

 

 そのキラキラとした真っ直ぐな瞳は最早尊敬に値するけどさあ。無いに等しいと思うよ?その可能性。

 

「うん!流石だね!皆ならきっと出来るよ!」

 

 友達だからってなんでも本音を話すなんて勘違いしちゃあいけないよ。

 僕にはロケット団が復活しようがしまいが、もう関係ないもんねー。

 

「何を言っている!復活した暁にはお前にもそれ相応のポストしようではないか!だから一緒にロケット団を復活させよう!」

 

 リョウ君、君のその熱血誰かさんと被るからやめてくれよ。その黒い服が真っ赤に染まって見えるんだよ。

 

「毎度毎度、その提案してくるけどさあ。答えは変わらないよ、僕はもうロケット団には何も求めちゃいないの」

 

 何度断られても懲りないその諦めの悪さは、別に評価しないよ。普通に有難迷惑だ。

 とはいえ、じゃあなぜ今回来たかってーと。

 

「で、今回は何をしようっての?」

 

「お前もついに我々に協力する気になったか!」

 

「早とちりはやめてよねケン君。内容次第だよ」

 

 なぜなら今回の集合場所が場所だったから。遠い目で見て僕にも有益なことかもしれないと思ったからだ。

 

「今回、我々はサントアンヌ号強奪作戦を実行するのだ!」

 

「・・・ほう」

 

 サントアンヌ号、だからここクチバシティの港に集まったわけか。

 ふむふむ。

 

「そんで?具体的な計画は?」

 

「それはお前、まず動力源を壊して動かないようにしてだな・・・・」

 

 つまりハリー君。それは詳しいことは何にも決まってないってことだよね?

 

「でも、乗った」

 

「え?」

 

 僕の言葉に三人は意外そうな間抜けな声を出す。

 それもそうだろう、さっきまでの対応とは天と地ほどの差があるのだから。

 でも乗った。イエローを探すという当初の目的からはちょいと外れはするけれど、”その後”のことを考えればここで船を手に入れるというのは千載一遇のチャンスだろう。

 カントーを抜け、ジョウトに行くという僕の計画からすれば。

 

「その計画に、僕も協力すると言ったんだ」

 

「お、おお!そうか!お前もついにロケット団の一員としての自覚が・・・」

 

 ウルウルと目を潤ませて、今にも泣きそうな三人には悪いけど全然そんな理由じゃないんだ。

 

「よし!そうと決まれば善は急げ、いいや悪事は急げだ!」

 

 いや聞いたことないけどそんな言葉。なんの格言にもなってないし。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ということで僕らはサントアンヌ号に乗り込んでいた。

 サントアンヌ号と言えばマチス様が悪事を働いていた記憶しかないけれど、辺りを見回すと案外人で賑わっている様子。

 悪さをしたのはマチス様であって、サントアンヌ号ではないということを案外住民はわかっているのかもしれない。

 この賑わいを見て、そう思った。

 

「急げ!」

 

「よし!セット完了!」

 

「あとは”ねんりき”で作動させるだけだ!カラー!」

 

「はいはい」

 

 そんな人の多いこの船で、不用心にも動力室には誰もいない。

 外を見張っている僕の目の前で動力室に細工をしている三人を邪魔するものも、誰もいない。 

 

「船をぶっ壊した後のことは任せていいんだな!?」

 

「ああ、任せてよリョウ君。甘言に冷色、口八丁に手八丁。あらゆる手を使って騙し奪い取ってやるよ」

 

「おお!任せたぞ!」

 

 僕が協力すると決めたからいいものの、もし断られていたらどうするつもりだったんだろうこの人たち。

 ふと気になって逃げる際中に聞いてみた。

 

「そりゃ、お前全部終わった後に考えるつもりだったのさ!」

 

 あー、なるほどー。

 君たちが成功しない理由の一端が垣間見えた気がするよ。

 それはさておき。無事動力室から逃げおおせた僕ら。

 

「よし!それ!ヤドン!”ねんりき”だ!」

 

 かねてから計画していたように、彼らはスイッチを押すようにヤドンに命ずる。

 大きな爆発音と共に振り返れば動力室は見事に煙を上げていた。

 

「いよっし!あとはスリーパーの力で空中に逃げ、乗客に我らの名前を声高々に宣言するだけだな!」

 

「そう簡単に行けばいいけどね。リョウ君」

 

「なに!?」

 

 逃げる際にちらりと見えた麦わら帽子。

 うーん、運がいいやら悪いやら。

 いや、ここはポジティブに行こう。船なんて他にも腐るほどあるし、けれど”あの子”は一人だけだ。それにこれを逃せばまたいつ会えるかもわからない。

 

「よし、ここから別行動だ。三人共」

 

「なんだと!?急に何を言い出すんだ!」

 

 図太い眉のケン君が素っ頓狂な声を出すのもうなずける。何しろ今から僕は君たちに熱い掌返しをしようとしてるんだから。

 

「一つに固まってちゃ、いざという時に動けない。君らは空中から。僕は地上から援護させてもらうよ」

 

「そ、それもそうか!」

 

 そんなこと知りもしない三人は僕の口から出まかせを信じたらしく(いやそうじゃないと困るんだけどさ)さっさとスリーパーと空中へ逃げ込んだ。

 僕は取り敢えず適当なところに身を隠して、彼らの宣言を聞くことにした。

    

「ワハハハハ!我らロケット団の存在!!忘れさせるわけにはいかぬ!!」

 

 うわー、口上までベタだな。

 

「そうはさせない!」

 

「—————おっ!」

 

 出てきた出てきた。

 僕はより一層木箱に身を隠して、揺れる船と共に流れを見守る。

 

「なんだガキ!?誰だ貴様は!?」

 

「僕は・・・僕はイエロー!トキワの森のイエローだ!」

 

 麦わら帽子が特徴的のイエローは、なぜだかこのサントアンヌ号に乗り込んでいたらしい。

 まったくこっちから追いかけていた時はてんで姿を現さないのに、諦めたとたんこれだ。

 君といいミュウといい、神様ってのは僕のことが嫌いなのかね。

  

「いくぞ!皆!」

 

 イエローはそう言って、取り出したるは6匹のポケモンたち。

 エリカちゃんに聞いてた通り、ドードー、コラッタ・・・はラッタに進化したのか。あとは、レッドのピカにタケシのゴローン。カスミのオムナイト。

 ここまではいいけれど、あのキャタピーはなんだろう?新しくゲットしたのかな?聞いてた話だとポケモンを捕まえるのは苦手だって話だったけれど。

 まあいいや、お手並み拝見といこうじゃんか。

 僕が興味あるのは君のポケモンなんかじゃあなく、君そのものなんだからさ。

 

「ドドすけ!”ふきとばし”」

 

「うわっ!」「なに!?」「くっ!」

 

 ふきとばしを受け、船上が荒れる。それに恐れをなしたのか、元々あまりチームワークを感じさせなかったイエローのほかのポケモンたちも散り散りになって逃げてゆく。

 

「あ!コラ待て!」

 

「放っておけ!どうせあんなやつら、大したことない」

 

「寧ろ好都合だ!相手が二匹になったのだからな!」

 

 リョウ君たちの言葉に僕も概ね同意だ。今厄介なのはまず間違いなく目の前のイエローであり、単純に戦力としてみても本当に大したことはなさそうなメンツだった。

 が、僕は知っている。イエローがレッドを探すことを目的にしていることを。それを成すには、最低でもレッドと同等程度の力は持ってなきゃいけないということを。

 例え特別な力を持っていたって、純粋な戦力は確実に必要だ。それを分からずにジムリーダーたちに認めてもらったわけでもあるまい。

 

(さあ出せ、奥の手としてとっているのか知らないけど。このままじゃ船は沈むぞ)

 

「どうせここまで傾いている船だ。乗客ごと沈めちまえ!ヤドン!」

 

「いっ!?」

 

 おいおい、僕が乗ってること忘れてないかいあの人たち。頭に血が上っちゃってるじゃん。

 ギギギギ、と船が軋む音が木霊する。まるでどっかの大作映画のように真っ二つに折られようとしてる船からはポロポロと乗客が海に放り出されていた。

 

「あーもう!ゴルバット!」

 

 これ以上は危険と判断した僕は見つかることを承知で空に逃げる。これでイエローに逃げられたらあの三バカにはもう協力してやんない。

 で、その三バカはというと。

 

「スリーパー!”ヨガのポーズ”で我々を空中浮遊させろ!」

 

 これで安全とばかりに勝ち誇っている顔をする三人。まあ確かにイエローに空を飛べるようなポケモンはいないようだったし、勝負はあったかな。

 ふむ、ではどうやってイエローに取り入ろうか。

 三バカと一緒に脅迫するか、それともここで颯爽と助けに入るか。

 もうそんな計算ばかりしていた僕は不覚にも気付かなかった。 

 オムナイトがひっそりと三バカのほうに近づいていることに。

 ゴローンがなんとか船を支えていたことに。

 ラッタがガリガリとその自慢の前歯で船体を削っていたことに。

 

「・・・キャタピーが糸を乗客に巻き付けている?」

 

 そのことに。

 

「見ろ!先に落とした乗客も全員キャタピーが作った浮き輪に!」

 

「おのれ!!・・・・あれ?なんか、足元が冷たいような!?」

 

「ポーズを組んだ足元が凍り付いている!?オムナイトか!」

 

「お、おい!氷の重さで段々と沈んで・・・スリーパーがんばれ!」

 

 そしてここまで来たらもう形成逆転。

 

「乗客の皆さんは既に港に着きました。この船に乗っているのは僕だけです」

 

 残念僕もいます。空中にですけど。

 

「降参してください」

 

 あっという間の逆転劇。いや、しかも”すべてが計算された逆転劇”。

 にっこりと笑うその顔はとてもじゃないが純粋とは言いづらい。

 

(は、はは・・・人は見かけによらないとは、よく言ったものだね)

 

 まったく可愛い顔して、案外えげつないなあ。この子。

 ひきつった笑顔をしている自覚はありながら、それでもまだ僕は空中を漂う。

 なぜならまだ、戦いは終わっていないからだ。

 

「アーボ!マタドガス!」

 

「うわっ!」

 

「はは!お前も落ちろ!」

 

 最後の抵抗とばかりに三人の攻撃を受けるイエローだが。

 

「”でんきショーック”!」

 

「~~~~ッ!」 

 

 ああ、きっと終わりだ。これで決まった。

 三人には悪いけれど、君達と僕の縁もこれで終わりさ。 

 さて、戦いは終わってしまったしどうやってカッコよく登場しようかしらん?

 なんて考えてた僕は再度裏切られる。

 船体を削っていたラッタがついに船を真っ二つに折ったことによって。

 

「~~~~!!」

 

 声にならない声で泡を吹いていた三人は既に戦う意思などない。

 

「もう悪さはやめますか?でないとゴロすけが支える手を緩めますよ」

 

「は、ハイ」

 

 まさかそこまでするとは思わなかった僕はゴルバットを握る手が思わず緩む。

 うーん、意外と完璧主義だったり?

 いや、単にロケット団が許せなかっただけかな?

 とはいえ、これでようやく一件落着。

 

 壊れた船を港につけて、三人は縄でグルグル巻きに。

 

「ふー、なんとかなったね」

 

「やあやあやあ。お見事お見事」

 

 一仕事終えた感じで汗を拭き、自らのポケモンたちを労っていたイエローに僕は拍手しながら擦り寄る。

 こうやってようやく念願のイエローちゃんに会えたわけだけど。

 

「———————えっと、あなたは?」

 

「僕?僕はカラー。正義の味方さっ☆」

 

 それはまた次のお話で。

   

「ああ!てめ!カラー!今までどこに!」

 

「ゴルバット、”さいみんじゅつ”」

 

「「「————————ZZZ」」」

 

「・・・・えと」

 

「コホン、正義の味方さっ☆」(さっきよりも三割増しの笑顔で) 

 

 ・・・次のお話で。 

 

 

 




どうも!コクがあって癖になる~!高宮です。
RWBY、戦闘シーンが個人的にツボでハマりそうです。今の所緑の男キャラが好きです。
これからどうなっていくのかTV放送が楽しみですね。
あと変形武器超かっけー。
ということで次回もよろしくお願いします。 

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