「ミュウ?なんで、ここに?」
突如現れたその伝説のポケモン。
つか本当に伝説かい?最早その有り難み、僕の中じゃあないに等しいぜ?
この二年で何回も会ってきたからか大してそのレアさに感動もなくなってきたが、それでもやはりその理由だけはわからない。
なぜいつも僕の目の前に姿を現すのか、その理由が。
「・・・・・・うぐうううう!」
「おいおいおいおいおい、今度は何だってんだよ」
窮地に追い込まれているからか、笑顔で取り繕う余裕はない。四天王の大きなうめき声に僕は嫌になりながら目線を外せない。
「ミュ!」
するとフワフワと、白い塊のように光を発光しているミュウは一つ鳴き声を挙げて空中へと浮遊する。
敵である四天王はその自慢の筋肉を見せびらかすでもなく、ただ両手をわなわなと震わせ苦しがっているだけだ。
一体全体何をしに来たのか、その不気味さに生唾を飲み込みながら、僕はその光景をただ見ていた。
「————————————!」
「うわっ————————————!?」
「ぐうっ——————!?」
すると、突然ミュウの体から溢れ出る光が大きくなり、僕だけじゃなくポケモンも四天王の一人も包み込んでいく。
(なんだこれ。暖かい・・・?)
これがなんなのか、わかるはずもない僕は、ただ瞳をぎゅっとつぶって耐えるしかない。
けれどそれは耐えるというほど不快なものでもなく、どちらかといえばずっとこうしていたいような。
そんな光が、どれくらいの間続いていたのだろうか。
時間なんざわかるはずもなく、長いような短いようなそんな時がたち。
「ん・・・・あれ?」
光で目がつぶれたわけでも、なにか特殊なことをされた様子もない。
本当にただ光っただけ?いや、それもきっとないだろう。何か理由はあるはずなんだ。
「・・・ここは?」
その理由は目の前の敵を見ればなんとなくわかった。
「お前は、誰だ?それにここは、どうなっている?」
敵である四天王のおっさんは混乱したようにブツブツと独り言を喋っていた。
”まるで記憶がないかのように”。
「・・・どういうことだ?」
ミュウがやることにわけがわからないのはいつものことだが、今回もヒドいな。
あの光、大方目の前のおっさんを正気に戻したらしい。
まずおっさんが正気じゃなかったって部分が驚きだけど。いや仕方ないじゃん?だっておっさんの素なんてこっちは知る由もないんだからさ。
「あーあー、もしもーし?おっさん、自分のことわかる?ドゥーユーアンダスタン?」
「自分のこと・・・・俺の名前はシバ。四天王のシバだ」
お、ラッキー。どさくさ紛れに情報ゲッツ。
そんでやっぱり四天王かよ。
「ここに至るまでの経緯とか覚えてる?僕ってばなんにもしてないのに一方的に殺されかけたんだけどさあ。これって覚えてないで済まされるのかな?ねえ?張本人としてはどう思う?」
どうやら相手は混乱しているらしいし、搾り取れるものは絞っておこーっと。
「経緯、だと?わからん、確か俺はレッドと対決していて、そして・・・そうだ。その時もこんな感覚だった」
ううん?レッドのことはどうでもいいんだけど?もっとこうなに?ないの?四天王の秘密とかさ、弱点とか弱みとかそういうやつ。
ブツブツと呟くシバの言葉に大した情報はなく。
「・・・・・・うーむ」
それ以上聞いても無駄だと判断し、僕は踵を返すように街へと向かった。
ちらりと後ろを振り返ると微動だにしていないシバがいたけど、放っておいていいな。あれは。
四天王シバ、あの様子じゃ誰かに洗脳でもされてたのかもしれない。そんでもってそんなことが出来るのは、あの四天王の中じゃあきっと。
てことは、ミュウはシバの洗脳を解いたのか。なんで?
なんでそんなことをする必要があったんだろうか。それに僕が窮地に追い込まれてから現れたことも気になる。
そこで初めてあたりを見まわしたけれど、やっぱりというなんというかそこにミュウの姿は既になかった。
となるとマジでシバの洗脳を解きにきただけ?
うーむ。
「わからん、それを考えるのも阻止するのも僕の役目じゃあないね」
走りながら、僕はそう口を開く。
僕の役目は、そんなの決まっている。
「ああ、これでようやくイエローに会える」
拝ましてもらうよ。その面
待ってろよ人殺し。ぜってえその尻尾捕まえて見せる。
「はぁはぁ・・・なんだあれ?」
街へとついてすぐ。僕の真上を大きな影が過ぎ去っていった。
ポケモンのように見えたけど。野生かな?
「おっとと、こんな所で油売ってるわけにはいかねえんだった」
ただでさえシバのせいで時間食ったんだ。急がないとまたニアミスなんて笑えないよ。
なんて思っていたのに。
「はあ!?グリーンと修行に出ただあ!?」
「ええ。つい先ほど」
とりあえず適当に街を走っていると不意に人だかりにぶつかった。
その中心にいたのは、なぜか知らんけどボロボロになったエリカちゃんに。
「コイツが例の”カラー”?ふーん、ひょろっとしてるわねえ」
正義のジムリーダー様であるところのハナダジムのカスミ。
おてんば少女の異名よろしく短パンにへそ出しルックはどちらかといえば健康的な印象を受ける。
「その傷はどうした?なにかあったのか」
警戒心バリバリなのはニビジムのタケシ。細目でなぜか上半身裸だ。
「おいおい、僕は一体今日だけで何人の男の裸を見なきゃいけないんだい?」
「は?」
「いーや、こっちの話さ」
さっきニアミスは笑えないと言ったけれど、ことこうなってくると逆に笑いが出てくる。乾いたそれが。
グリーンと飛び立ったと言っていたし、さっき上空を飛んでいったのがそれかな。
あーあ、もうちょっと気を配っておくべきだった。
「でも、なんでまたグリーンと修行なんかに?」
「それは—————————」
ボロボロになったエリカちゃんにひとしきり経緯を聞いた僕。
「なるへそー。キクコがねえ」
理科系の男を使ってどうやら何かを企んでいたらしい。グリーンによって阻止されたそれが何だったのかは今はもう知る由もない。
「あんたねえ!まずは一言エリカの心配くらいすれば!?」
カスミの怒ったような、いや本当に怒っているんだな。これは。
カスミとエリカは親友だということは知っている。エリカちゃん家にちょこっといた時に聞かされたからね。
だから自分のことのように怒ってるんだと思うけど。
ダメだなあ。君はエリカちゃんのことは知っていても僕のことは知らないんだから。
もっと慎重に人を見極めないとダメだぜ?
おいおい。まったくなんでこの僕が、他人の心配なんかしなくっちゃあならないんだい?このたった今、目の前で目的が遠ざかっちゃった僕に慰めろって?逆に僕が慰めてほしいくらいだよ。これでまた捜査は一からなんだから。
大体それを頼んできたのはエリカちゃんの方だよ。だったらそんな言葉一つかける間に出来ることもあるはずなんじゃあないかな?
と、いうようなことを僕は一瞬で頭の中で描いて、あとはさあそれを口に出すだけだ。
だけの、はずだったんだけど。
「いいのです。カスミ。カラーはそういう人じゃないことは知っています」
「でも!」
げほげほと咳き込みながらそう口にするエリカちゃん。どうやら腹をやられたらしい。
「・・・・・」
そんなことをエリカちゃんに言われてしまったら、僕のセリフがないじゃないか。せっかく長文を考えたのに。
「カラー、と言ったか?俺もまたカスミと同意見だ。それに、お前の方こそなぜこんなところに、それもそんなボロボロでいる?元、ロケット団のお前が」
言外に何か企んでいるんじゃないのか、それを含んでいるのは明白だ。
「タケシ、と言ったっけ?聞いてないの?今回僕は味方だよ?イエローの調査をそこのエリカちゃんから承ったのさ」
だから、そんな面するなよ。とてもじゃないが君、正義の味方って面じゃあないぜ?
細い目をそらに鋭く尖らせ、今にも襲いかかってきそうな雰囲気じゃないか。
まったく、どうしてこうせっかちなんだろうね君たちってばさ。
「ボロボロなのは、ちょいと一戦やってきたからさ。知ってる?四天王のシバ。やれを今やっつけてきたところでね」
「シバだと!?その話、本当だろうな!」
「当ったり前じゃん。きっとこの街を襲おうとか考えてたんじゃない?キクコと二人で」
「・・・・・・」
「おいおい、仲間だろう?仲間ってのは無条件に信じるものでしょうが」
「俺はまだ、お前を仲間だと認めてはいない」
勿論、シバは僕を倒しにきたわけでそんなことを計画していたわけじゃないのはわかっているけれど。
でもそんなことは確かめる術なんてないし、きっとシバも流石にもう逃げているはずだから真実は僕だけのものだ。
「そこまでだ。今は味方同士で争っている場合じゃないだろう」
「・・・・・あれ?」
なんてやりとりをしていると見知っているような声が聞こえる。
この声、なんかつるっとしてそうなこの声は・・・!
「カツラさんだ。お久しぶりで-す」
「ああ、久しぶりだな。カラー君」
相も変わらずその眩しい頭は健在で何よりです。
それはいいんですけど、なんでこんなところにカツラさんが?
「ああ、それは私もこの度正義のジムリーダーとしてレッド捜索に協力するつもりだ」
「ひえー、あの元ロケット団の研究員のそれもまあまあ偉かったカツラさんが?」
うーん、世の中、人ってどうなるかわっかんないね。あんなに悪の街道爆進していたカツラさんが、正義の味方面して再登場とはね。
あ、面じゃなくて本当に正義の味方になったんだっけ?
「・・・・・」
そんな心の内が透けて見えちゃったんだろう。僕ってば素直だから嘘つけないんだよね。
カツラさんは神妙な面持ちで僕を見ていたけれど、やがてカスミの傍まで歩いてきた。
「この通り、難儀な性格をしているし目的のためなら手段を選ばないような男だが、だがその腕と観察力、推察力に関しては私が保証しよう」
えー、べっつに難儀な性格なんてしてないけどなあ。さっき言った通りちょっとばかし素直なだけだよ?やりたいことやって、言いたいことを言ってるだけさ。
けれどまあ、カツラさんがせっかく口利きしてるんだ余計な茶々は入れないでおこう。でも余計で不満げな表情くらいはいいよね?
「それと・・・・すまなかった」
カツラさんは唐突にそう言うとその頭を下げ謝罪した。
僕にはてんでなんのことかわからなかったが、とりあえず僕の不満げな表情は誰も気にも留めていないってことはわかったので元に戻す。
「二年前の、君のギャラドスのことずっと詫びたいと思っていた。すまなかった、許してほしい」
二年前のギャラドス。その内容を聞いても別にピンとはこなかったけれど、それでもカツラさんのその覚悟と、勇気だけは僕にも伝わってきた。
こんな僕に伝わるんだ、その当事者であり今目の前にいるカスミに伝わっていないはずがない。
「もう・・・いいよ。これからは一緒に戦ってくれるんだよね?」
「ああ、もちろんだ」
あれかな?昨日の敵は今日の友ってやつ?
僕にはどうでもいいことだし、関係ないな。
そう判断して僕はさっきのポケモン、グリーンが乗っていたとするならきっとリザードンだな。それが飛び去った方角を見る。
関係ないけど、カツラさんのことを水に流してくれるんなら僕みたいな下っ端のことなんてさっさとちり紙にでもくるんで捨ててくださいよ。
「うーん、流石に今回は予想がつかねえや」
徒歩や川を下っているのならある程度の予想はつけられるし行動範囲も限られる。
だが相手は空を飛んでいるんだ。その距離もスピードも予想できるものを超えている。
「・・・ここで振り出しかよ」
「ああ、そういえばカラー。イエローには会ったのですか?」
カスミとカツラさんがよろしくやっているのを傍目に見ていたエリカちゃんがふと気付いた様子で僕に問う。
「うんにゃ。ていうか、ここに来ている時点で察してよね」
「そうですか。ではそれはもういいです」
「はい?」
ひどく消耗している様子だけど、それでもエリカちゃんははっきりとした口調でそう言った。
「先程までイエローがここにいたのは知っていますね?その時に私達ではっきりとこの子に任せようと、そう決めました」
なんだいそりゃ、人に頼んでおいて随分自分勝手だなあ。
「ですから、あなたももう十分です。ごめんなさい、勝手なことを言ってるのは——————」
「エリカ!」
ぐらりとエリカちゃんの体が重力にあらがえずに落ちていく。
喋っている途中で立っている力すら尽きてしまったのか。さっきから目が虚ろだったもんね。
「・・・ったく。僕だって怪我人なんだぜ?その僕がこんだけピンピンしてるってのに、ジムリーダーが聞いて呆れるぜ」
「・・・ごめん、なさい」
本当に今にもぶっ倒れそうなエリカちゃんの体は軽い。左腕一本でも支えられるほどに。
その軽い体にどれだけの重荷を背負っているのか。
「まああれだね。僕は二回助けてもらったわけだから、二回までなら僕も君を助けよう」
借りを作るのなんて気にしないし、借りを作らせることに重きを置いてなんていないけれど。
でもまあ、せっかくの機会だ。返せるのなら返してもいい。
「勘違いしないでね。君を助けたくて助けるんじゃあないってこと」
「ええ、わかっていますよ。それでも、お礼を言わせてください」
ありがとうございます。
弱弱しい笑顔で、エリカちゃんはそういった。
「お礼を言うと言って、ありがとうを言わないような人間にはなりたくありませんから」
「はっはっは、なにそれ。意趣返しのつもりかよ」
まったく本当に、どこまでも可愛くない女だ。そんなだと嫁のもらい手もないんじゃないの。
「変な二人、仲がいいのか悪いのかわからないわ」
「あれでいいのさ。カスミ君。人と人との関係なんてそれこそ人の数だけあるのだから」
なーんか後ろでしたり顔で口にしている二人を無視しながら、僕はエリカちゃんに肩を貸しながら歩く。
そしてイエローのことは、また次回ということだね。
どうも!初めてのギャルと付き合いてえ!高宮です!
七月ももう中盤、2017年ももう半分。
マジで?俺だけなんか時間の感覚違うとかじゃないよね?俺だけザ・ワールドで時を止められてるわけじゃないよね?
ということで一日をもっと長くしてほしい高宮です。
次回もよろしくお願いします。