ポケットモンスター~カラフル~   作:高宮 新太

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22話 「明るい月夜に現れたるは」

 

「くっそ!」

 

 伸びる足に追いかけられ、追いつめられる。こんな風に卑怯なやり方で攻撃される心当たりなんかまったくもってないけれど。

 こんな時に都合よく僕の邪魔をしてくる奴らに心当たりはあった。

 

(こんな時に攻撃してくるなんざ、十中八九四天王!!)

 

 さっきから執拗に僕の右腕を狙っていることからもそれは確定だ。

 なんせこの腕をけがしてるのを知っているのは、ケガさせた張本人である四天王とエリカちゃんくらいだからね。 

 それはさておき、十中八九四天王って字面にすると数字ばっかでわけわかないね!

 

「おわっと!」 

 

 なんて現実逃避も敵は待ってはくれない。

 できるだけ人気のないところに攻撃を避けながら必死になって逃げる。

 さて、敵の正体が四天王だと分かったところで、実のところあまり意味はない。あ、そーなんすね。ぐらいの話だ。

 敵が四天王だろうがなんだろうが、結局僕より強いってことに変わりはないし。敵の正体を見破ったからって帰ってくれる話でもないしねえ。

 

「あ、やっべえかもこれ」

 

 なんとなく、人気のないところのほうが敵も姿を表してくれるんじゃねえかっていう淡い期待があったんだけど。

 え?他の人への危害?いやいや、自分のことを守るので精一杯ですよこちとら。

 それはともかくとして、どうやら嵌められたらしい。

 

「雑木林のなかじゃあ、あの蹴りがどこから飛んでくるかわからんぜ」

 

 たらりと垂れるのは冷や汗か、それとも今まで走ってきたためか、拭うことすら忘れた僕はとにかくモンスターボールを握る。

 まるで僕の心を写したかのように、ざわざわと林は揺れ。

 

「ぐうっ!!」

 

 握った手を持ち帰る暇もなく、蹴りの主はここぞとばかりに攻勢に転じた。どうやら今まではネズミを追い込んでいただけで本気を出してはいなかったらしい。

 かー、鼻につくねえ。その余裕がさ。

 

「だがしかーし!その余裕が命取りだぜ!?」

 

 この蹴りの持ち主がどんな奴でどんな性格をしていて、どんな気持ちで僕を襲っているかなんて知らないけれど。

 唯一知っているのは、この蹴りは、いやこの”足は”確実に敵のモノで敵の元に帰っていくってこと。

  

「つまり、その先に敵がいるってことは幼稚園児だってわかる簡単な問題さ」

 

 ピンポンパンポーン!じゃあその足っ先に僕のポケモンが入ったモンスターボールを括り付けたらどうなるでしょうか!

 

「正解は苦労せず、敵の位置がわかるって寸法さ!」

 

 いいね楽するって、苦労しないって最高!

 

「~~~~~!!」

 

「そこか!ウインディ!!」

 

 カラカラの鳴き声が林中に響き渡り、僕はウインディに跨り颯爽とかける。

 

「って、うん?」

 

 なんだか、鳴き声もこっちに向かっているような?気のせい?

 

「じゃ、ないですよね!?—————うおっ!」

 

 この野郎、位置がばれたと瞬時に判断して突っ込んできやがった。お陰で僕はウインディの上から吹っ飛ばされたんですけど?

 がぺぺ、と口の中に入った砂やら草やらを吐き出して敵のご尊顔をようやく拝める。

 

「・・・サワムラー、だけ?」

 

 敵のポケモンはサワムラーだった。特徴的なのはその伸びる足。これは最初の一撃を受けた時から予想通り。

 だけど、てっきりトレーナー、つまり四天王も一緒だと思ってた。

 どこかに隠れているのか、しかしそれじゃあ指示ができないはずだけど。 

  

「ぐうっ!」

 

 なんて考えてる暇はどうやらくれないらしい。近づいたことにより、より威力が増した蹴りを右腕に食らう。

 怪我人だぞ!もっと丁重に扱え!   

 

「カラカラ!」

 

 言われなくてもわかってると言いたげに、僕の声と同時にカラカラは動く。

 そのホネこんぼうで足技を巧みに防ぐ。

 

「オロオロするなウインディ!!」

 

「キャウ!」

 

 二匹の攻防に圧倒されたのか、ウインディは入れる隙間もなくウロウロしていた。

 

「”かえんほうしゃ”!」

 

 流石に、まだまだカラカラのようにはいかないか。まあ、そこまで求めるのは酷ってもんだ。

 今ある現状で、なんとかしなくちゃ。

 ったくさあ、こうなったのも全部サカキ様のせいだ。今度会ったら文句言わなきゃ。

 あれ?文句言わなきゃいけないやつがもう一人いたような?忙しいなあ僕も。

    

「カラカラ!スイッチ!!」

 

 その呼びかけと共に、前線で戦っていたカラカラが即座に離脱する。サワムラーにとっては急に眼前の敵が消え驚いたところに”かえんほうしゃ”が浴びせられるわけさ。

 ナイスコンビネーションだよね。

 そして、”カラカラにどくけしを与えて”。もう一度、戦線復帰。

 

「っとと。おいおい、ポケモン無視して僕に攻撃してきやっがたぜコイツ!」

 

 トレーナーがいないことといい、妙すぎるな。まったく不気味さだけを演出しやがって。

 

「その意図はちゃんと教えてくれるんでしょうねえ!」

 

 さっきから飛んでくる蹴り技に僕は逃げることに集中せざるを得ない。

 くっそ、これじゃあ指示もちゃんと出せない・・・!

 

「なーんちゃって」

 

「!!」

 

 ぺろりと舌を出して、僕はサワムラーを挑発する。

 その隙にウインディの”いかく”にカラカラの”ずつき”。

 

「残念だけど、僕ってば毎回毎回ちゃんと指示を出すような、そんなちゃんとしたトレーナーじゃないからさあ」

 

 僕のポケモンは次第に自分で動いて考えて戦う癖がついちゃうんだ。いいことか悪いことかは知らんけどさ。

 たまにウインディがテンパっちゃうんだよねー、それで。

 

「ギャウウ!」

 

 わー、いったそー。

 どうやらモロに”ずつき”が入ったらしい、悲痛な叫びが木霊する。

   

「さて、と」

 

 勝負はついた。いくら四天王だからって、一匹で僕に差し向けるだなんて舐められたもんだぜ。

 ようやくゆっくり考察できる。

 僕が戦った二人は、ゴーストタイプと氷タイプの使い手だった。ジムリーダーがそうなように彼ら彼女らもまた、一つのタイプのエキスパートと考えていいだろう。

 と、いうことはこのサワムラーは僕が戦っていないもう一人ってことか。

 サワムラー、戦ってからもわかるようにそのタイプは”格闘”。

 格闘、氷、ゴースト。それが四天王の内訳っつーことなのだけれど。

 四天王っていうくらいだ、三人じゃあ示しつかないよね。

  

「ま、あと一人が誰でどんなタイプのエキスパートかってえのは、襲われてから考えりゃいいや」

 

 これで僕は三人を退けたツワモノになっちゃったもんなー、あっはっは。もう一人が出てきてもおかしくないし、その一人が四天王のボスって線も濃厚だ。

 ゲームじゃあそういうパターンが多いんだけどなあ。

 

「どうしようこれ?」

 

 地面に伸びているサワムラー。別にこのままにしておいてもいいんだけど、また襲われても面倒だ。

 ・・・レッドのことを聞くのなら、こいつの御主人様の下に案内してもらうのも手なんだけど。

 

「うーん、リスクを考えても、そこまでする義理はないんだよねえ・・・」

 

 僕の目的はあくまでイエローであり、レッドなんて二の次、三の次だ。

 とはいえ。

 

「ま、連絡するくらいはしてやってもいいかな。恩を売るのも、悪くはない」

 

 どうせここはエリカちゃんの街だ。放っておいても見つかるだろうし、だったら僕が倒したことを全面的にアピールしたほうがいいもんね。

 そう思って、僕は電話を取り出す。

 だからというわけではないだろうが、僕は敵の実力を見誤っていた。

 四天王の力というやつを。

 

「—————————な!?うぐ!!」

 

 油断していたわけではない、サワムラーの一番厄介なとこはその伸びる足だ。だから最大限の注意を払っていたし、ウインディがしっかりとその足を封じていた。逆に言えばその足さえ封じてしまえばなんてことないのがこの目の前のポケモンだ。

 そのはずだった。

 

「ひ、卑怯じゃん・・・?聞いてないよ・・・手が伸びるなんて・・・!」

 

 僕の首と、カラカラの首。その両方をサワムラーの腕はがっしりと回され締め付けてくる。

 くそ。気絶したふりをして、気づかれないように手を伸ばしてやがった。

 眼鏡のお姉さんが川や海を凍らせていたのをもっと気に掛けるべきだったな。それほどの使い手なら、当然、同様に四天王全員そのレベル以上なのだと。

 とはいえわかるかい!こんな曲芸じみたことをさ!

   

「う・・・・ぐ・・・!」

 

 まずい、これじゃあ絞殺されて終わりだ。右腕を執拗に狙っていたのもこれか。おかげで動きやしない。

 片腕じゃあ限界なんて見えてる。

 ウインディはその光景を真っ青になってみているだけだ。

 でもいいんだよ君はそれで、君がこっちに来てみろ。今度こそ正攻法でその自由に足で蹴り殺される。

 今はその君の”おくびょう”さが役に立っている。

 

 ちっくしょう、我慢大会なんざ僕の趣味じゃないんだけどな。

 

 段々と視界がゆがみ、脳に酸素がいきわたっていないことをいやでも実感する。

 くそ、あと少し。あと・・・・。

 朦朧とする意識の中で、それは見えた。

 

「・・・・はっ!がはっ、ごほっ」

 

 一気に緩んだ腕を必死で引きはがし、僕は思いっきり空気を吸う。

 いやー、空気が美味しい!みんなも美味しい空気が吸いたいなら、わざわざ自然とかいくよりこっちをお勧めするぜ。命知らずなクレイジー野郎にはね。

 

「ふうー、あっぶねえ。マジで死ぬとこだった。助かったよ。”ゴルバット”」

 

「~~~キュウキュウ!」

  

 褒められたのが嬉しかったのか、顔を綻ばせ擦り寄ってくるゴルバット。今回ばかりは暑苦しいけど許してやろう。

  

「——————————っ」

 

「お、まだ意識あるんだ。さっすが四天王が差し向けてきただけはある」

 

 力なく横たわっているサワムラーの顔は、何が起きたのか理解できていない。そんな顔だった。

 

「保険ってのは、いついかなる時も打っておくべきなんだよ。今回みたいなドタバタ劇の中ではね」

 

 といっても簡単な話でね。君に襲われた瞬間から。僕は機を見てゴルバットを空に放ったのさ。

 

「そのゴルバットが、空から”どくばり”を放っていた。どさくさに紛れてね」

 

 にしてもあの混戦の中、よく気づかれずに当ててくれたよ。素直に流石だねと褒めておこう。 

 

「とはいえ完全に勝利したわけじゃあなかった。君の奇襲は完璧だったし、僕は本当にその前に倒したと思ったからね」

 

 最後は君の体力が尽きるのが早いか、それとも僕が絞殺されるのが先かの我慢比べだったというわけさ。

 よかったー、こんなこともあろうかと、この日のために肺活量を鍛えておいて。 

 これも日頃の行いさね。

 

「あっはっは、噓をつくなという目で見るなよカラカラ」

 

 そして心の中を読むなよこの骸骨頭。

 

「さて、これでようやく安心して————————、・・・」

 

 サワムラーは僕の声を聴いて、悔しい表情も何もなくただ力尽きた。職人って感じだなー。

 なんて思っている僕だけど、なんだか違和感が全身を襲う。

 その違和感はなんだか、下から這いあがってくるような。そんな感覚で・・・。

 

「うーはー!!」

 

「!!」

 

 一瞬。マジで一瞬早かった僕のとっさの機転でモンスターボールにポケモンを仕舞って、その場を回避する。

 

「・・・・マジかよ」

 

 結構素で驚いちゃった。

 

 だって、下の地面がぽっかりと口のように突然あいちゃうんだもん。  

 

 そんなの、怪奇現象と呼んでも差し支えないじゃん?

 

「いやー、どこにいるのか、もしくはいないのかなんて思ってたけど。まさか下からくるとは」

 

 まったく、聖徳太子もびっくりな荒業だぜ。

 筋骨隆々とはまさにこのことで、雄雄しいその体からはなんだか格闘家独特のオーラを放っている。

 状況からみてどう見ても四天王の一人。その一人が、ぱっくりと空いた地面から飛び出してきた。

 なんてことない顔で。

 

「・・・・・・」

 

 ちっ。ポケモンがポケモンならトレーナーもトレーナーだな。

 職人気取ってんのか知らんが、寡黙な脳筋って僕の嫌いなタイプだ。

 

「——————————っ!!」

 

「カラカラ!?」

 

 ボールに仕舞ったと思っていたけれど、どうやら一人逃れていたらしい。

 そんなカラカラが、ここぞとばかりに奇襲を仕掛ける。

 

「・・・・・・チッ」

 

 がそれは筋肉で固められた防壁によってシャットアウトされる。

 ちょうど、手首につけられていた腕輪に直撃したようだ。

 舌打ちまじりに、そのままの勢いでクルクルと僕の隣に着地する。

 わー、かっこいいー。

 

「エリカちゃーん、助けてくんないかなー」

 

 勿論、そんなこと言ったって通じないのはわかってるけどなんか言っとくと伏線っぽいじゃん?来てくれそうな気するじゃん?

 でも、現実はそうはいかない。僕はこういう時に都合よく助けが来てくれるような人間じゃあないってこと。

 ・・・フッ。わかってますよ。そんなの今更ね。

 そんな期待はこう生きると決めた時からとっくに捨て去った。

 

「エビワラー、カイリキー」

 

 筋肉のおっさんが出したポケモンはその二匹。僕の見立てに間違いはなく格闘タイプだ。

 それに呼応するように、僕ももう一度ウインディとゴルバットを出す。

 さっき見たいな奇襲はもう通じない。こういう力押しにはなんか策考えててもぶっ壊してくるからなあ。

 ほんと、厄介だぜ。

 たらりと垂れるのは今度こそ完全に冷や汗で。

 

 そして。

 

 そのポケモンは唐突に表れた。

 

 まるでずっとそこにいたかのように。

 

「・・・君は、ミュウ?」

 

 そして物語は次のお話に。 

 

「—————————————ミュウ!」

 

 

 

 

 




どうもマジで感謝!高宮です。
久々にイナイレを見返して、やっぱおもろいなあ。
吹雪と佐久間が好きです。
ということで次回もまた、よろしくお願いします。 

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