ポケットモンスター~カラフル~   作:高宮 新太

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21話 「奇襲夜襲は僕のものだってのに」

「ブルー?なんでこんなとこにいんのさ」

 

 イエローを追いかけている道中、四天王と対峙して逃げおおせたイエローを見つけたのはいいものの。

 数十メートル先には僕の右腕を貫いた四天王のお姉さんはいるわ、木陰に隠れたらブルーはいるわ。

 なんの板挟みだっつーの。

 

「しっ!」

 

「むがもご」

 

 なんて思っていると、唐突に僕の口はふさがれる。唇にはブルーの柔らかい手の感触が・・・ない。手袋のザラザラとした布の感触しかしない。

 おいおい、この距離だぜ。肉眼で見えるとはいえ声が届くとは思えない。

 そう目で訴えたのが伝わったのだろう。ブルーは静かに口を動かす。

 

「いいから黙ってなさい。私がここにいるなんて絶対ばれたらだめなんだから」

 

 その声からも、表情からも、緊張感と真剣さが伝わってくる。

 ふむ、なーるほど。大体は理解できた。

 なぜブルーがこんなところにいるのか、その疑問に対してね。

 ・・・数分の間。息を呑むブルーと対して緊張感も何もない僕は彼女に見つからないように息をひそめて。

 

「・・・行ったわね」

 

「行ったみたいだね」

 

 どうやら固唾を飲んで見守っただけはあったらしい。四天王のお姉さんはこちらには気づかずにその場を去った。

 残ったのは、強烈な寒さと凍った川。 

 おいおい、地球の生態系をなんだと思ってんだ。まったく迷惑な連中だ。

 

「で?なんでアナタがこんなところにいるわけ?」

 

 ふぅ、と一息ついたブルーはそのままの勢いで僕を指さす。

 

「割とこちらのセリフでもあるけどねソレ」

  

 まあでも僕の方の疑問は解決してるようなものだ、答え合わせをするくらいでね。

 だからここは良心的にブルーの質問を答えてあげることにしよう。

 

「僕はただ、イエローを追いかけてきたのさ。皆が情報を中途半端にしかくれないから、仕方なくこの優秀な僕がね」

 

 いやほんと、自分の頭が恐ろしいぜ。正直、こんなノーヒントでイエローをばっちり見つけたんだから称賛されてしかるべきだろうこれ。

 

「イエローを?」

 

「ああ、君には隠してもいずればれそうだからもう話すけど、イエローの”特別な力”を目当てにね」

 

 ブルーがここにいること。そしてトキワグローブという名前。その二つで、僕の予想は確信へと変わった。  

 

「・・・・・」

 

 僕の言葉に、ブルーは珍しく言葉が出ない。僕と同じで饒舌なタイプだからこそ、本当に動揺していることがわかる。

 

「僕が知ってることを話すから、情報を補てんしてくれると助かるよ」

 

 だから喋れない彼女の代わりに、僕が主導権を握ってあげよう。

 ああ、なんていい響きだ主導権を握るってのはいつでもどこでも元気になっちゃうね。 

 

「トキワグローブ、その名前にはある共通点がある。トキワの森の出身者がそうだ。イエロー・デ・トキワグローブ。トキワの森のイエロー」

 

 ここまでは、ああそうなんだ程度の認識だ。僕だって最初にそれを聞いたときだからなんなんだって思ったくらいだし。

 だけど、ここからが僕にとって肝心要の要所。

 

「これは、僕が二年かけてカントー中のありとあらゆる伝承、伝説、言い伝えからにわかには信じがたい噂まで拾い集めた中にあったものなんだけど」

 

「トキワの森の出身者の中には、稀に、ポケモンと心を通わせる者がいる。よね?」

 

「—————————っ!」

 

 やはりか。やっぱり、僕の予想は正しかった。間違っていなかった。

 僕が言うより先に、立ち直ったブルーが白状してくれた。

 白状というように、きっとブルーはその事実を隠したかったに違いない。イエローが本人がどうかは知らないけれど。 

 だってあんなあからさまな敵に本名を名乗っちゃうんだからね。でもま、そのおかげで僕は考えに確信が持てたわけだけれど。

 レッドと同じ馬鹿正直な考えなしだな。

 ・・・いや、考えなしというのは取り消そう。レッドはいつだってその頭は激しく回転させていた。考えていた。

 どうすればいいのか、どうしたらいいのか。

 だからこそ、僕に対する評価がエリカちゃんに聞いたようなものだったんだろう。

 

「そう、アナタの言う通り。イエローにはその力があるわ。ポケモンを癒し、ポケモンと心を通わせる。それがイエローの能力よ」

 

「ふふ、フフフフフ」

 

 わかっちゃいた。わかっちゃいたけれど、いざこう真実を告げられるとだめだね。口の端がどうしても吊り上がってしまう。

 

「なにをする気?イエローを使って」

 

「やだなあ。くっふふ。そんな、顔しないでよ」

 

「それはこっちのセリフ。そんな顔しないで」

 

 ブルーの顔は引きつっている。一体全体、どんな酷い顔しちゃってるんだろうね僕は。鏡がないからわかんないや。

 わかんないけどこれ以上同じ顔をしているとブルーがドン引きしそうなので、僕は一度くるりと後ろを向いて自分の感情をリセットする。

 

「よし、それでえーっと、イエローを使って何する気かと聞いたかい?」

 

「・・・ええまあ」

 

 ブルーの表情は相も変わらず優れなかったけれど、僕の表情はいつも通りのニコニコ笑顔を取り戻したから良しとしよう。  

 

「別に大したことじゃあないぜ。ただ、その、ポケモンと心を通わせるっつー能力を見てみたいだけさ」

 

 世にも珍しい能力だ。世界にそうコロコロといるものじゃあない。だったら、試す価値は大いにある。

 あの火事の中。黒いポケモンを見ていたのは僕だけじゃあない。

 カラカラだって、しかとその脳みそに焼き付いているはずなんだ。僕と同じく、その深いところに刻まれているはずだ。

 どうしようもないほどに。

 

「見たいだけって、見世物じゃないのよ?」

 

 無論そんな事情なんざ知りもしないブルーは僕をただの野次馬と一緒にしている。

 別にその辺の事情を隠している意味も特にはないけれど、それと同じように話す必要も感じられない。

 

「わかってるよ。君はイエローの正体を隠したいんでしょ?」

 

 ブルーがここにいる理由。それはイエローがオーキド博士の元を尋ねることが出来た理由と重なる。

 

「君がどうしたいのかは知らないけれど、イエローの能力を知っていた君はピカのもとに向かわせ、ピカの記憶を探りレッドを探そうとしている。こんなとこだろ?」

 

 どこでレッドの訃報を知ったのかは知らないけれど、大方ボロボロのピカとすれ違ったりでもしたのかな。

 そこら辺はまあどうでもいいや。

 これでイエローがオーキド博士の元を尋ねることが出来た理由が埋まる。

 ここにいた理由も同じこと。イエローのサポートだろうよ。

  

「ええそうよ、その通り。憎ったらしいほどにその通りよ」

 

 うーん、僕はいつも通りに戻ったってのに、ブルーの表情は変わらず苦虫を噛み潰したようだ。

 何がそんなに悔しいのか僕にはてんでわからない。

 わからんついでにもう一つわからんのは。

 

「なんで表立って協力しないの?わざわざイエローを使うくらいだ、レッドのことは気にかけてるんでしょ?」

 

「・・・勘違いしないで。私には私の目的があるの。そのために今は別行動をしているだけよ」

 

 ふーん、真剣な目つきから見ても、嘘とは感じられない。

 まあ、別にどんな理由があろうと僕には関係ないんだけどね。ちょっと気になっただけさ。

 

「そっか、じゃあ僕はこの辺で」

 

「ええ、精々気を付けることね。奴ら四天王はアナタより強いわよ」

 

「そうかい、肝に銘じておくよ」

 

 言われなくてもこの右腕がしかと覚えているけどね。 

 さて、そろそろ動き出さないと、またイエローを見失ってしまう。

 この海をそのまま道なりに進んでいったとして、ある街にたどり着くはずだ。

 

「あーあ、こんなことならエリカちゃんの言う通り家でグータラしてればよかった」

 

 そう、タマムシシティに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ということで、再度やってきたのはタマムシシティ。

 辺りは暗くなり、もうすっかり夜になってしまった。

 

「ったくさ、こうグルグルと回り道させないでよね。会ったら一度文句言わなきゃな」

 

 イエローに会うというただそれだけなのに、なぜこうも労力を使うんだろう。そろそろ右腕の傷が開きそうだ。

 貫かれ、火傷を負った右腕は正直重症だ。風に当たるだけでも痛いので、包帯でグルグル巻きにしている。

 そんな腕をさすりながら僕はエリカちゃんのお家へと着いてしまった。

 

「あんだけ啖呵きって、イエローの真偽を確かめるだけだと言ってしまったのは失敗だったなあ」

 

 そんでおめおめ「てへっ。ごめーん、結局もどってきちゃったー☆」なんてカッコ悪いったらありゃしない。

 あーあ、本当になんでここに来るんだよ。

 なんてことをいつまでも言っていても致し方無いので。

 

「大丈夫、僕のキャラなら受け入れられる!やったね!日頃の行い!」

 

 と、勢い良く僕はインターホンを押そうとしたところ。

 

 ”勢い良くいったのは、僕の真横から伸びてくる長い長い足だった”。

 

「————っ!?」

 

 何が何だかわからない僕は、頭の中が一瞬フリーズして思わず伸びてきた足をただ見つめていた。

 まるでバネのようにいかにも伸縮自在ですといったようなその足で、一瞬でインターホンをぶっ壊したその足は。シュルシュルと胴体がいるであろう位置まで縮んでいく。

 

「・・・よし、逃げるか」

 

 その間のタイムラグがなければ、いやもっと最初。その一撃があと数センチ右にずれていれば。

 僕の頭はサッカーボールのように高く舞い上がることになっていただろう。

 

「———————はやっ!」

 

 思ったよりも追撃は早く、エリカちゃん家の門は僕が逃げるせいで崩れ去っていく。

 

「ごめんねエリカちゃん。埋め合わせは今度するよ。”生きて会えればの話だけど!”」

 

 この時点で、敵の正体なんて考えるまでもない。

 

 けれど、それと、僕が生き残れるのかって話はまた別物で。

 

「レッドの二の舞だけは避けないとですね!」

 

 さて、どうなることか。

 それもまた、次のお話で。

 

 

 




どうも聖杯大戦高宮です。
いよいよ七月!いよいよ夏!最近くそあちいよなんだよふざけんなよ!クーラー最高!
春アニメも楽しかったですが、夏アニメがそりゃあもう楽しみです。
フェイトにニューゲームに賭ケグルイにてーきゅうに・・・最高ですね!
ということで次回もまた、よろしくお願いします。 

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