ポケットモンスター~カラフル~   作:高宮 新太

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20話 「暑いのは嫌い。寒いのも嫌い。丁度いい日が好き」

 実を言うとこの僕、カラーはイエローのことを知っていた。

 イエローのことだけではなく、レッドが行方不明になったということも、エリカちゃんに聞く前から知っていた。

 だからエリカちゃんに聞かされても特に驚きはしなかったわけだけど。

 

「あ、ハロハロ?オーキド博士?」

 

 で、そのあれやこれやを頼んでもいないのに僕に教えてきたのは当然のごとくこのオジサンであるわけ。

 まったく黒いポケモンに関しては雀の涙ほどの情報も持ってこない癖に、どうでもいい情報は素早く報告してくるんだから本当に迷惑なオジサンだよね。

 

「イエローに関しての情報を、詳しく教えてくださる?」

 

「なんじゃ急に」

 

 驚いたような声に、僕はうんうん頷いて。

 

「無駄話をする気はないんです。面倒なことはさっさと終わらせたいんでね」

 

 イエローの真偽を確かめると、約束してしまった以上。事は早急に済ませるべきだ。

 それに、ことによっちゃあ僕は前のめりな対応をせざるを得ないかもしれない。

 

「・・・さては、お主。エリカに頼まれたな?」

 

「無駄話をする気はないって、言ったんですけど?」

 

 どうもこの年頃のお爺さんは若者をいたぶるのが趣味のようだ。にやついた声が抑えられていない。

 

「そうかそうか。いやいや、ええんじゃええんじゃ」

 

 すべての言葉を二回言ってやがるぜこの人。

 

「誰かのために、そういう気持ちは大事じゃぞ?」

 

 くっそー、電話を切りたい。激しく投げつけたい。

 何を勘違いしているのか知らないが、さっさと情報だけ渡せよ。余計なことしかしないんだからさあ。

 これだから老人のお節介は煙たがられるんだよ。

 ギリギリと電話を握りしめていると、それが伝わった。というわけでもないのだろうがオーキド博士は口を開く。

 

「イエローの情報は、わしもいま調べているところじゃが・・・」

 

 その口ぶりと声色から察するに、大した情報はないのだろう。本当に使えねえお爺さんだ。

 

「あー、じゃあ。オーキド博士は何か感じませんでしたか?例えば・・・そう、”不思議な力を使ったとか”」

 

 せっかくかけたくもない相手に電話を掛けたのだ、貰える情報は貰っておきたい。それに、人を見る目だけはあるお爺さんだ。何か掴んでいるかもしれない。

 

「不思議な力じゃと?ああ、そういえばボロボロだったはずのピカがなぜかイエローに触れた途端元気になったような」

 

 ・・・・なんだって?

 その大事な大事な情報に僕の声は自然と真剣味を増す。

 

「それ、本当ですか?」

 

「いやしかし、回復機械に入れておったし。気のせいかもわからんが」

 

「いいえ、十分ですよ。良かったです、もう二度と電話しないと誓うところでした」

 

「・・・あ、そう」

 

 オーキド博士の呆れた声とは裏腹に僕の声は弾んでいた。

 なにせ、もしかしたらもしかするかもしれないからね。

 ピースの一つ、それも強力なのが埋まってくれた。これは俄然やる気がでるというものだ。

 そうだな。あと一つ、あと一つ確信できるものがあれば僕の目的のその陰くらいは見えてくるはずだ。

 

「それでは、失礼します。今後ともよろしくお願いしますね♪」

 

「なんとも都合の良い男じゃ」

 

 その言葉を最後に、僕は電話を切る。なんだよ、流石博士なだけはあるじゃん。その観察眼は大したものだ。

 熱い手のひら返しにオーキド博士もあきれていたけど、そんなものはどうでもいい。

 

「さて、と。これで後は本人に聞くだけさね」

 

 これまでと違って、わざわざ遠回りで面倒なことをしなくていいってのは最大級に嬉しいな。

 本当に、正義の味方ってのはいい奴だぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、いうことで。

 

「ふむふむ、麦わら帽子が特徴で低身長。コラッタとドードーを連れており物腰は柔らかい。か」

 

 オーキド博士とエリカちゃんから貰った情報を元にまずは地道に聞き込みだ。

 二人の話じゃあ博士の元を旅立ってまだ間もないし、移動手段も特にないとくればまだマサラからそう遠くは離れていないはず。

 

「にしても、どうやってイエローはレッドを探すつもりなんだろう」

 

 レッドがどうなろうが知ったことではないが、もしその方法が僕の”予想通り”ならば。 

 

「イエロー、君は僕にとっての女神となりえる」

 

 意地の悪い笑みがどうしてもこぼれる。誰も見てないからこそできることだ。

 口に出せば出すほど、その重要性を再確認できる。いやー、これは久方振りにまともな情報だぜ!

 

「んっと、あれ?なんか寒くなってきたな」

 

 トキワの森、いつの間にかここまで来てしまったようだ。

 

「クシュン!」

 

「ウインディ、君もか」

 

 ちなみに僕の移動手段は当然のごとくウインディだ。   

 そのウインディが肌寒そうにくしゃみをするので、いったん立ち止まる。

 

「森に入った辺りから、急激に寒くなったかな・・・?」

 

 トキワの森、普通の森に見えたけど。もしかして、そういう名所だったりするのかな?

 いいや。それはないか。

 自分の考えに僕は自分で首を振る。

 そんな名所ならもっと有名になっていていいはずだし、もっと注意書きのようなものがあっていいはずだ。入る前なりなんなりね。

 人里離れた、ってわけでもないし。通行人も町の人も普通に通るんだから。

 それがないってことは、ここは当初の予想通りトキワの森。何の変哲もないってのはないけれど、温度に関してはただの森だ。

 森特有の温度の低さだけじゃあない。こう、なんか、肌を突き刺すような寒さがある。

 

「ていうか、ダメだなこれ。酷くなってきてやがる」

 

 最初は、肌寒いという感じだったのに。歩みを進めるにつれ、もう半袖の僕はガクブルだ。

 それはポケモンも同じようで。僕よりあったかそうな毛皮に包まれているウインディですら吐く息は白い。

 

「戻って、ウインディ」

 

 ま、モンスターボールの中のほうが幾分かはマシだろう。

 ・・・くそ、一枚羽織るものくらい持ってきておくんだった。

 ポケモンはこれでいいとしても、トレーナーがこれじゃあ話にならん。

 

「えーっと、なんかあったかなー」

 

 バックの中身をゴソゴソと確認する。

 

「携帯、お菓子、ジュース、警官服にショップ店員の服に制服にウエイトレスの服・・・うん!我ながらロクなものがないな!」

 

 なんでこんなものもってるかって?趣味さ!

 だって、いつどこで女の子とそういう関係になるかわかんないもんね!

 なーんて言っている場合ではそろそろなくなってきたらしい。

 

「ロケット団の隊服。まあ、黒いし、一番暖かそうかな?」

 

 取り敢えずまだ持っていた真っ黒い服に身を包んで、通行人に見られないことを祈ろう。

 見られた所で大したこともないんだけど。

 

「ふんふん、寒いのはこれが原因か」

 

 そんな感じで少し歩いて見つけたのは、川。

 ただし、ただの川ではない。

 

「凍っている。これは、人工的に凍らされたのか」

 

 強烈な冷気、川一面が氷塊と化していた。勿論、自然のものなんかじゃあない。

 この氷、見覚えありありですねえ。

 

「・・・・四天王、ねえ」

 

 別に興味はないし、そいつらが何をしようと構わないけど。

 この形跡から誰かと戦闘になったのは明白。

 うーん、イエローじゃなきゃいいなあ。

 

 

  

     

 

 

 

 

 

「はっ、はっ、はっ」

 

 川下に向かって伸びる川沿いを走っている僕の頭の中は、寒さのせいか思いの外冷静だった。

 あの四天王の目的はもうわかっている、八つめのバッジだ。

 ということは、今向かっている先にはその八つめを持っている人物ということになる。

 が、その可能性は物理的にない。

 なぜなら八つめのジムバッジ。それを持っているのはレッド、サカキ様、この二人だけでありそれ以外には存在しないからだ。

 あのサカキ様がほいほいとジムバッジを上げるなんて豚が真珠の価値を知るくらいにありえない。

 これは確実なんだ。

 と、いうことは今向かっている先にいるとすれば。

 もう一つの目的。 

 そう。 

  

「ピカ、それしかないよね」

 

 レッドとの戦いでピカに逃げられたのは相当な痛手だろう。

 なぜなら四天王と自ら名乗るくらいだ、相対した感じからして相当プライドは高そうだし逃げられたという事実を消したいと考えるのはごく自然な流れだ。

 

「あはっ。それって僕にも当てはまっちゃうんだよなあ」

  

 というのは今のところ置いておいて、まだ追手が来てないのはきっと優先順位の問題だろう。

 つまり逃げたという事実は同じなのに、ピカの方が優先順位が高いんだ。

 それが示すは—————————————。

 

 ピカに知られたくないなにかを知られた。

 

 これしかない。

 

「———————っ!」

 

 川下を目指して降りてきたんだ。そりゃ海に出るってことはわかっていたけど。

 

「ちっ。遅かったか」

 

 良い知らせと悪い知らせが一つずつある時、皆はどちらを先に知りたい?

 僕は、別にどっちでもいい。かな。

 だってどうせそのどちらを聞く羽目になるんだから、どっちとったって結果なんか変わりゃしない。

 だから取り敢えず良い知らせからいくと、僕の予想通りイエローはいた。

 ”いた”っていう所で察して欲しいのは、もういないってことだ。

 より正確に言えば、グングンと遠ざかっている。

 

「あーあ、ありゃ追いかけるのは無理だな」

 

 川と同じように凍らされた海の一面、その凍らされた高波の先っちょがぽっきり折れている。

 よくよく見れば、イエローたちをどんぶらどんぶら運んでいるのはその氷の塊だ。

 

「そんでもって、悪い知らせは」

 

 イエローが逃げたってのは悪い知らせじゃあない。そりゃ残念だが、追いかけてりゃそのうち会えるだろう。

 顔もばっちり把握したしね。

 悪い知らせってのは。

 

「メガネのお姉さんにまた会えるとは思わなかったなあ」

 

 なんだろうね、運命かなあ。

 なるほどイエローはどうやらあの人と対峙して、そして逃げおおせたらしい。

 存外オーキド博士の話よりも肝が据わっているのかな。

 とっとっと。

 

「ちっ。”イエロー・デ・トキワグローブ”。やはりあいつも・・・」

 

 ずっと海のほうを向いていたお姉さんが、すっとこちらに振り替える。

 こんなとこで見つかるなんて馬鹿げてる。イエローも見失ったし。

 だからその辺の木陰に隠れた。勿論、お姉さんの独り言はばっちりこの両耳が聞いておりますよ。

     

「はは、ようやく運が向いてきやがった、これも二年の地道な努力のおかげかな?」

 

 いやー、してみるもんだな。無駄な努力。

 トキワグローブ、トキワの森のイエロー。

 この情報の価値は、僕にはダイヤモンドよりも高い。 

 なんて、一人でニヤニヤしていると。

 

「なーんで、アンタがここにいんのよ・・・!」

 

「ん?」

 

 てっきり、一人だと思っていた木陰にはどうやら同居人がいたらしい。

 

「・・・ブルー?」

 

 そしてお話は、次の局面へと移っていく。

 それもまた次の話ということで。

  

 

 




どうも夏アニメはフェイトが一番楽しみです高宮です。
アガルタ!アガルタ!アガルタはよ!
ということで楽しみなことがいっぱいなこの夏。このssも他のssも頑張りたいな。
あれ?今日はちょっと前向きだぞ?
ということで次回もよろしくお願いします。   

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