「兄ちゃん!?」
驚くレッドに僕は満面の笑顔で返す。
久々のオフ、本当は僕だって街に繰り出して女の子と遊んだり、女の子と遊んだり、果てには女の子と遊んだりしちゃったりしたいんだけど。
でも、そんな魅惑の誘惑を振り切ってまでマサラタウンにわざわざ戻ってきたのにはちゃーんとした理由がある。
「やあレッド久しぶりだね。何年ぶりかな?」
「ほ、本当にカラー兄ちゃんなのか!?」
「本当にカラー兄ちゃんですよー」
口をパクパクさせて、僕を見るレッドの顔は面白いからほおっておいてもいいんだけど。
「こら小僧!ちゃんと真剣に探さんか!」
「うおっと、探してますって!!」
レッドの傍にはなぜだか自転車に乗ってヒイヒイ肩を上下させたおじいさんが。
「レッド、こちらの人は?ていうか、何やってるの?」
まったく、感動の再会ってやつが台無しだ。僕の予定ではもっとこう涙を流しながら抱き合っていたはずなんだけど。
「しねえよ!そんなこと!!」
「あら、声に出てた?」
ま、わざとですけど?
真っ赤になって否定するレッドは相変わらずからがい甲斐がある。
「いつ帰ってきたんだよ。五年ぶりくらいか?」
「そうだね、ところでお兄さんの質問はガン無視かい?」
こういう小生意気なところも変わってないなー、ノスタルジックになっちゃうや。
「だから!しゃべっとらんでさっさとお前さんが逃がしたポケモンを探さんか!」
カンカンに怒っているおじいさんの血圧はどうみても上がっている。
「まあまあおじいさん。そんなに怒ると白髪が・・・は、もう手遅れか」
頭のほうを見やって、僕は思わず目を伏せる。人が気にしていることは言わないと親に教わったはずなのにな。思わず口が開いちゃうや。
「やかましいわい!それより誰じゃ!お主は!!」
「僕?僕はここ、マサラタウン出身のしがない旅のものですよ。全国を回って珍しいものを売り歩いていたりしてたらいいですよね」
「いや、結局願望じゃんそれ」
レッドの呆れたような瞳でそういわれ、僕は「そうとも言う」おどけてみせる。
そんなことよりも。
「逃がしたって?」
僕が肝心な話の核心に近寄ると、レッドはばつが悪そうにぽそりと話す。
「う、たまたま運悪くオーキド博士のポケモンを逃がしちゃって。それでその逃がしたポケモンを探しているんだ」
オーキド博士?ポケモンを逃がした?
ふーん。どうやら先ほどの質問はここで一気に提示されたらしい。うしろのおじいさん、オーキド博士は機嫌悪そうに鼻を鳴らした。
「でもこんなとこまで?もうすぐトキワシティだぜ?」
そう、ここはマサラタウンの端も端。もう数分でトキワシティという隣町だ。
どこでポケモンを逃がしたのかは知らないが、こんなとこまで来ているのなら二人じゃ見つからないだろう。
「あ、そうだ!兄ちゃんも一緒に探してくれよ!!」
なんて思ってたらレッドってば、僕の予定とか一切無視して頼んでくるんだから。
あ、先に行っておくけど別に僕はレッドに会いに来たわけじゃない。冒頭で言った理由ってのは別の理由だ。
が、まあ。急ぐものでもない。逃げるというわけでもないしね。ポケモンは逃げたけど。
強い瞳。僕に断られるなんてみじんも考えてない強い意志がこもった瞳だ。
ホントしょうがないなー。
「はぁ・・・いいよ。めんどいけど、久々に会ったんだ優しさのバーゲンセールくらいはしてもいい」
「は?何言ってんの?」
わー、ユーモアセンスないなこいつ。
先ほどとは打って変わって冷たい瞳に変わったレッドに僕は重い溜息をつく。
「なんでもいいが早く探さんと日が落ちるぞ」
ズイっと怖い顔をしているのはオーキド博士。この人怒ってばっかりだなー。
なんにせよ。僕とレッドとオーキド博士の不思議な三人パーティーは逃がしたポケモンを捜索し隊を結成することになった。
「よーし、これであと一匹じゃ!」
「ふいー」
額の汗をかくレッドとオーキド博士。僕?僕はほらどんなに働いても疲れない体質だったらいいのにねー。
あー、はいはい。また願望ですよー。普通に疲れましたよー。
「あとはフシギダネだけですよねー」
フシギダネ?ああ、ポケモンの名前か。
オーキド博士は博士ということはきっと研究者なのだろう。そしてこんなにものポケモンを所持している。
これはもう十中八九、ポケモンを研究しているのだろう。
・・・幻のポケモンについて何か知ってるかな?
「ねえねえ」
「なんじゃ。というかわし年上じゃぞ」
「おっと、すいません。そういう細かいこと気にしてハゲないといいですね?」
「満面の笑みでそういうことをいうんじゃない」
「ってそうじゃなくて、あれ」
いつもの調子でスルーしそうになったが、思いとどまって指摘する。一度話すと止まらなくなっちゃうんだ僕って。
指摘というのも、フシギダネというポケモンっぽいのがいたから。ま、そのポケモンがどんな姿なのかは僕しらないんだけど。
「あー!!あれだ!」
レッドの大きな声でわかった。どうやら正解していたらしい。わーい。
なんて喜んでいる場合ではないらしい。そのフシギダネは僕らを見るや否や、すたこらと建物内に逃げてしまった。
「あっはっは、博士ー、人望なーい・・・ってあれ?」
僕が大笑いしているうちに、二人ともさっさと建物内に入って行ってしまった。
「人望なーいのはー、僕の方?」
悲しい歌ができました。
「おーい、置いていくなよー。寂しいとうさぎは死んじゃうだってー。一つ豆知識ー」
早速できた悲しい歌の二番を歌いながら建物内に入ると。
「コフー、コフー」
「あ、兄ちゃん!助けてくれ!!」
扉を開くとそこは今の僕より寂しいなんにもない広いだけの殺風景な部屋だった。
ただし、一匹のポケモンが緊張感を作り出している以外は。
ゴーリキー。マッチョな肉体と超人的なパワーが長所のポケモンだ。
どうやらここに迷い込んでしまったらしい。非常に興奮気味で今にも襲い掛かってきそうだ。
「・・・・・」
そっと開いた扉を閉める僕。うん!あれは無理!勝てない戦はしない主義に今日からなろう!
「白状者ー!!」
閉めたはずの扉から確かに聞こえてきた絶叫に手を合わせて僕はマサラタウンへと帰った。
ごめんね。悪いとは思ってる。
さて、そんなレッドたちを見捨てて一体全体僕が何をしに来たかを話さないと嫌われちゃいそうだから話すね。
「うーん、流石に五年たってるといろんな所がボロっちいなあ」
ここマサラタウンは僕の故郷だ。詳しいことはめんどくさいから省くけど僕はつい最近までマサラタウンはおろかカントー地方すら離れて生活していた。
だから久しぶりにきた僕の故郷のその家の様子を見に来たというわけだ。
「取り壊されてないだけマシかー」
小さい一軒家。壁の所々はヒビが入っていたり、錆びていたり、周りは雑草だらけ。
もう何年も人の手入れなんて届いていないことがわかる。
正真正銘、僕の家だ。
「お、ラッキー。まだ鍵使えんじゃん。さっきのレッドといい、やっぱ日頃の行いって大事」
レッドには会えればいいかなくらいに考えていたのであちらからばったり出くわしたのはラッキーといえる。
変な雑用は押し付けられちゃったけど。
「——————————。」
錆びて変な感触になった鍵穴を無理やり回して僕は自身の家へと五年ぶりに足を踏み入れた。
ギシギシと軋む床、蜘蛛の巣だらけの天井。埃のかぶったキッチン。
家には当然のように誰もおらずそこにはただ経過した年月だけがくっきりと映し出されていた。
「・・・・・・・」
リビングには未だに懐かしいソファ、テレビ。
「ま、点かないよね」
電源ボタンを押してみるもテレビは反応しない。
そんなリビングを後にして、二階へと上がる。
二つの部屋、の内の一つ。「カラー」とつたない字で扉に直接書かれた僕の部屋を開ける。
五年前から変わらないベットと机。机の上には色んなポケモンが書いてある絵本がたくさん積まれたまま。
そこだけ時計の針が止まったような、まあこの部屋の時計は本当に止まっているんだけど三時四十分で。そうではなく。
そこだけ時間から切り離されたようなあの時あの場所のままで、留まっている。
「さて、いつまでも感傷に浸る僕ではないぜ」
マサラにきたのは家の様子を見るというのが理由の一つ。
一つというからには二つがあるのは自明の理でしょ。
「んー。あれ?ここにあるとおもったんだけど」
ガサゴソとなんの躊躇もなく僕は部屋を荒らす。僕の家であり僕の部屋であるから誰にも文句は言われない。
「やっぱりないや」
お気づきかとは思うが理由の二つ目は探し物である。ちなみに三つ目はない。
「・・・・あっちかな」
僕は隣の壁を見やる。この家の二階には部屋は二つある。その中の一つは当然僕のだ。
ではもう一つは?空き部屋ではないよ。答えはWEBで!
あ、ここがWEBでした!てへっ。
「おお、一人でやるこのノリはきついな」
うん。さっさと目的を果たして本当に町で女の子と遊んだりしようっと。
そう考えなおして僕は自分の部屋を出る。
そして同じ足で数歩先の隣の部屋へ。
僕の部屋と同じく扉に直接、こちらはもっと拙い字で「レイン」と書かれていた。
「お邪魔しますよー」
躊躇は同じくない。ギシギシいう扉を無理やりこじ開けて僕は一歩を踏み出す。
「ゴホッゴホッ。すごい埃」
こっちはさっきよりもなお汚い。
まるで——————。
「まるで、僕の心のようだ。・・・とか言ってみたりして」
口元を手で覆いながら僕は同じく探し物を探す。
ピンクのベット、オレンジの机。赤い椅子。黄色い照明。
「五年たってもこの部屋は慣れねえな」
色とりどりなんていえばいい風に聞こえるが、実質はただ目がチカチカするだけでいいことなんて何もない。
本当になぜこんな部屋にしたのか、問いただしてみたいぜ。
寝るときなんて落ち着かないだろうに。
「お、あったあった」
ベッドの下。埃に埋もれたソレはそこにあった。
ゴシゴシと埃をふき取り、ふーっと息を吹きかけようやくそのブツの姿が拝める。
「うん。良かった”写真はまだ死んでない”」
そう探し物というのは写真だ。たった一枚の写真、これを見つけるために町の女の子と遊ぶのは我慢したのだ。
大したものじゃない。ただの”家族写真”さ。どこにでもある普通の。
これは皆でピクニックに行った時に偶々カメラを買ったばかりの父親が使いたがってとった一枚だ。
だから母親はやれやれといった表情だし、”妹”は機嫌が悪い。僕は写真に映るのが嫌でそっぽを向いているし、笑っているのは父親だけ。
いい写真とも言えないし、別段いい思い出でもない。
でも、僕はこれが欲しかった。他のどんなものよりこれが。
「——————さて、今度こそ遊びに行くとしますか」
長居するつもりはなかった。これさえ手に入ればあとはどうだっていいんだから。
と、せっかくのオフを満喫する気満々で僕は街に繰り出したのだが。
「よお、カラー。ちょっと手伝ってもらうぜ」
大きな体格に鋭い目つき。金髪に迷彩柄の服に身を包んだ大男。
「げ、マチスさん」
僕が所属している組織の上司のさらに上。幹部と呼ばれる役職についているマチスさんが僕の前に立ちふさがっている。
「なーんでこう僕はオフを満喫できないんだろう」
ニヤニヤと意地の悪い顔を浮かべているマチスさんをまえに、僕は盛大にため息を漏らす。
日頃の行いってやつはあんまり信じるものでもないらしい。
では、また続きは次のお話で。
どうも僕もガールズバンド組んで青春したい高宮です。
もうすぐバレンタインー、僕はー、いつも通りー、バレンタインイベで忙しいー。
はい悲しい歌の三番目ができました。
それでは涙で目の前がみえないまままた次回。
よろしくお願いします。