ポケットモンスター~カラフル~   作:高宮 新太

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18.5話 「二年って案外短いもんだね」

 

「もうそろそろレッドが来ますよ。”サカキ様”」

 

「そうか」

 

 二年前、ロケット団が壊滅して数週間たったある日。

 トキワシティのジム、そのリーダーであるサカキ様に僕はなぜだか雑用を押し付けられていた。

 まったく、勘弁してほしいぜ。ロケット団は壊滅して、僕はもうとっくに自由の身だっていうのにさ。

 今日だってこれ、完全にボランティアだからね。ブラック企業も真っ青な仕様だ。

 

「フッ。これで、ようやく対峙できるわけだ」

 

 うわあ。一人で笑ってらあ、あの人。ひくわー。

 昨日急にエリカちゃんの家に来るんだもんなー。僕がいち早く気づいてなければ今頃どうなっていたことか。

 まったくもう、もうちょっと自分の立場ってやつを自覚してほしいね。振り回されるこっちの心臓が持たないんだから。

 

「そんなものは些細なことだ。特に、これからつける決着の前ではな」

 

「おっと、声に出てましたか?」

 

 わざとらしく口を抑える。サカキ様はそんな僕の仕草を気にも留めず、イメトレに励んでいた。

 長く使われていないせいでボロボロだったこのジムを一日でなんとか使えるようにセッティングしたのも、レッドがトキワに来るという情報をキャッチしてそれを知らせたのも。

 ぜーんぶ僕のおかげだってえのに。

 

「ま、精々頑張ってくだせー。僕はこれで」

 

 寄りかかっていた壁から体を離して、僕は早々に立ち去ろうとする。巻き込まれるのも嫌だし。

 

「・・・お前は、どちらが勝つと思う?」

 

 そんな僕に、サカキ様は問う。初めてサカキ様のそんな質問を聞いた僕は。

 

「そんなことを、下っ端の僕に聞くんですかあ?」

 

 いつもの嘲笑まじりに答えた。

  

「・・・・」

 

 ってーのに、サカキ様は相変わらずその強面ぶりを発揮してらっしゃる。

 

「お前の意見が聞きたい」

 

 表情一つ変えないその顔は、どうやら真剣な答えを求められているようだ。 

 サカキ様ってば、真面目なんだから。

 

「そっすね。普通にやればサカキ様の圧勝じゃないですか?」

  

 オッズでいえば一対百。賭ける側とすれば、何の難しさもない。 

 そりゃ、百の側が勝てばウハウハだけどね。世の中そう上手くは出来てないんだよねこれが。

 経験、知力、瞬発力、非道さに、純粋な力としても。

 そのどれをとっても、サカキ様に軍配の旗は上がる。

 

 

「普通にやれば、か」

 

 

 それはサカキ様自身もわかっているだろう。

 きっと、僕のその言葉の意味も。

 

「・・・気にすることないですよ。こんな下っ端の言葉なんて」

 

 あの年頃の男の子は、何するかわかんないですから。

 勝負には、たまにジャイアントキリングが存在する。

 弱者が強者を喰らうことが稀にあって、そこが面白いところらしいけど。

 僕にはさっぱりだね、そんな不確定なもんに命かけて怖くないのかと思っちゃうもん。

 

「思えば、お前は最初から不思議な男だった。オレのところに直接”入れてくれ”と懇願してきたときはふざけたヤローだと思ったものだ」

 

「・・・・ありましたね。そんなことも」

 

「その癖大した功績もあげず、地方ばかり飛び回り。かと思えば、平気な顔で伝説のポケモンを捕まえてきた」

 

 なんだなんだ?

 僕は、サカキ様の話の本意が見えず訝しげに視線を送る。

 あのサカキ様が雑談なんぞするはずもないし、ましてやサカキ様にとっちゃ因縁の決着の前だ。

 もしかして、柄にもなく緊張しているのかな?

 

「不思議なヤツだったよ、お前は」

 

「えー、そっすかね?ワリとどこにでもいるフツーの人間だと思いますが」

 

「フン。その性格も、損なものだな。いいか」

 

 そこで言葉を区切り、きっとサカキ様は一番言いたかったことを言った。

 

 

「ロケット団は必ず再構する。必ずだ。何年かかろうともな」

 

 

「・・・・・」

 

 うーわ、まだ諦めてなかったんだー。その執念深さに僕は言葉もない。

 

 

「その時までに、”用事”は済ませておけよ。今度はくだらんガキなんぞに潰されないようにな」

 

 

 用事。その言葉に、目を見開く。今度は驚きで、僕は言葉が出ない。 

 僕の目的を知っていたのか、それともそこまでは知らないのか。そんなことはどうでもいい。

 僕がロケット団に入った真意を、この人は見抜いていた。その事実だけで、僕は心臓が絞められたような恐怖を味わった。

 ナツメちゃんだけが知っていた、僕の目的を話した余裕があるとは思えない。サカキ様はこの日のためにきっと誰にも会っていないだろうから。

 

「はは、また入るなんて言ってないんですけど」

 

 ゾクリとした背筋を隠すように、軽口を返すので精一杯だなんて、まったく僕らしくはないな。

 

「それじゃ、まあ。ご武運をお祈りくらいはしておきますよ」

 

 なんだかその場に居たくなくて、僕は後ろ手にジムの扉を閉めた。

 

「・・・おっそろしー」

 

 勝手に垂れる冷や汗と、震える手は恐怖からか。

 にしては、頬は緩んでいる。矛盾だなあ、なんて、思いながら。

 

「そういえば、サファリパークに行った時貰ったものがあったな」

 

 いつだったか、ケンリョウハリーの中隊長たちと遊びに行ったことがあった。その時パク・・・貰ったのがサファリのエサ。

 

「何かに使えるかと思ったけど、対して使い道もないし。ちょうどいいから捨てていこう」

 

 入り口付近に、それをばらまいて。

 僕は、緩む頬を抑えながらその場を去るのだった。

 

 

 

 

 

  

 サカキ様が負けて、行方をくらましたってのは後から風の噂で聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら?このウインディは・・・・カラー?」

 

 そして時は戻って現在。

 焦ったように扉をカリカリしているのは、人を背負ったウインディ。

     

「酷い火傷・・・!大変!誰か!誰か医者を呼んでください!!」

 

 約二年ぶりに訪れたその家の家主にまた、助けられることになってしまう。

 

 




どうも!ポケスペ二十周年って最近知ったぜ!高宮です。
ということで今回はいつもの半分くらいの幕間の物語。決して楽してるわけじゃないぜ!
六月も半分が過ぎ、2017年も折り返し地点。ふざけんな!もっとダラダラしてたいのに!時間を返してくれ!
ということで次回もよろしくお願いします。 

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