ポケットモンスター~カラフル~   作:高宮 新太

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四天王編
18話 「凍らされて」


「あ、よっこいせっと」

 

 あの、カントー全土を震撼させたロケット団が壊滅してから丸二年がたった頃。

 そんな中、僕は一体全体何をしているのかというと。

 

「うーん、こっちも空振りかー」

 

 洞窟を抜けて、太陽の光に目を細めながら落胆する。

 何をしているかって?決まってるじゃないか、例の黒いポケモンを探しているのさ。

 全土各地を旅して、本格的に僕は探索していた。

 別に今までだって本格的じゃなかったわけじゃないけれど、ロケット団時代に集めた情報と旅をしながら新たに得た情報をしらみつぶしにしているわけだ。

 結果は、芳しくないけれどね。

 

「ふむ。これで一応全部回ったわけだけど」

 

 過去の伝承から、田舎にある言い伝えまで。

 目ぼしいと思われる情報は粗方潰したが、結局伝承は伝承。言い伝えは言い伝えだったということだね。

 現実は小説より奇なりっていうけれど、そんなのは限られた話さ。

   

「グルアアアアアア!!」

 

「カラカラ」

 

 黒く凶暴なポケモンが統率する洞窟。人はおろか、そこらのポケモンすら寄り付かないという洞窟の情報をゲットした時はこれだ!って思ったけどなー。

 なーんて。 

 実際は、ただ暗闇で姿がよく見えなかっただけってのは笑えないオチだな。

 いうが早いか、カラカラはあっという間に急所にホネこんぼうを叩き込む。

 

「ただのゴローニャだしねえ」

 

 これで手もちの情報は最後。そして、これ以上粘ってもあまり期待は出来そうにない。

 オーキド博士もなー、もうちょっと頑張ってくれないと。あの人からの情報、有益なの一個もないぞ。

 ・・・ふむ。カントーはもうダメかな。

 僕の生まれ故郷であり、復讐の原点であるこの土地が一番可能性があると思ったし、だからこそここまで粘ったんだけど。

 二年間探して、カスリもしないってことはそういうことなんだろうね。 

 せめて何か黒いポケモンに繋がる情報があれば、話は違うけれど。

 

「まったく。探してもないのにはバンバン会うってのに」

 

 とはいえ、これからどうしようかな。

 一つ、アテがないわけではないけれど。

 

「うげ」

 

 出た。

 探してもいないヤツが。

 

「ミュゥ」

 

 自身の名を、そのポケモンは鳴く。  

 

「あのさあ、君なんなわけ?僕のストーカー?」

 

 黒いポケモンを探そうとした時から、この”ミュウ”はなぜか僕の前に姿を現すようになった。

 現すだけで、すぐにどこかへ去ってしまうんだけど。

 

「そういえば、初めて会った時はマサラだったっけ?なんか、黒いポケモンと関係あったりするのかい?」

 

 そう思って、その思わせぶりな態度に実はミュウを追いかけたこともあったけど、その時は姿を現してはくれなかった。

 めんどくさい女じゃないんだからさー。せめてなんの目的か、くらいは教えてくれないかなあ。

 振り回されるこっちの身にもなってくれよ。

 

「あ」

 

 なんて思っているうちに、やっぱりミュウは飛び去って行ってしまう。いつもと同じように。

 

「はぁ」

 

 ため息をつくことしかできない僕。アンニュイな午後はこれっきりにしてほしいけど。

 よし、決めた。もうこの土地とはおさらばだ。

 いい加減、しがらみが鬱陶しくなってきた頃だし。

 それを全部一掃することなんて、わけないんだぜ。

  

「みんな決めたよ。ジョウトに行こう、僕のもう一つのルーツだ」  

 

 

「フェッフェッフェ。独り言かえ?楽しそうだのお」

 

 

「—————っ!?」

 

 殺気。それも並大抵ではないそれに、僕は自ずと距離をとってしまう。

 反射神経ってのは、人体のセーフティだと聞いたことはあるけれど今ほどそれを身に染みたことはないね。

 

「えーっと?どちら様ですかね?おばあさん」

 

 腰が曲がった老体に、杖がないと立っていられなさそうなおばあさんが僕の後方から声をかけてきた。

 心当たり、なし。

 実は僕の血のつながったおばあさんで、今更僕を心配して一緒に暮らそうと言い出す可能性。

 なし。

 

「ゲンガー!”シャドーボール”!!」

 

「ああ!?」

 

 僕の質問には一切答えずに、その代わりといっては何だが開幕先制攻撃を繰り出す。

 

「まったく、昨今のおばあさんはクレイジーだね。年老いていくうちに常識も忘れてきちゃったのかい?」

 

 あーやだやだ。こんな年の取り方は絶対にしたくないね。

 ”シャドーボール”が僕の眼前でぶち当たる。その衝撃でモクモクと煙が上がった。

 

「・・・・ほう」

 

「”かみくだけ”ゴルバット」

 

 勿論僕そのものではなく、壁となったゴルバットに。

 構えたモンスターボールと、シャドーボールを口で受け止めていたゴルバットは僕の指示通りに粉砕した。 

 

「直撃したと思ったんだけどねえ。その煙、モンスターボールを開閉したときの煙だったかい。フェッフェッフェ」

 

 その一撃で仕留められるとは最初から思ってなかったのか、おばあさんは特徴的な高笑いをするのみだ。    

 うん、やっぱり知らないや。こんな特徴的な人、一度会ったら忘れそうにないしね。

   

「なんの用ですかね?見知らぬ人からこんな仕打ちを受ける憶えはないんですが」

  

「フェッフェッフェ。憶えがないとは、よく言うよ」

 

 んんん?なんだなんだ?僕が知らない内にどこかしらで恨みを買っていたのかな?

 ない、とは言い切れないのが僕の人生の悲しいところだよね。

 

「”コレ”に見覚えは、当然あるよねえ」

 

 そう言って、おばあさんはガサゴソと大きな荷物を取り出した。

 そう。円盤型の両手で抱えないと落っこちてしまうそうになる、その大きな荷物を。

 

「それは・・・エネルギー増幅器」

 

 二年ほど前、ロケット団が開発したジムリーダーのバッジの力を増幅させる機械。

 だけどそれは。

 

「今更そんなの持ち出して、ダメですよおばあさん。ゴミはちゃんと分別しないと」

 

 そんなだからゴミ屋敷だとか近所で噂になっちゃうんですよ。

 昔の物に頼りたくなるのもわかりますがね、時代は受け入れないといつまでも老いて枯れたままになっちゃいますぜ。

 

「フェッフェッフェ。やはり気づいていなかったか」

 

「なに?」

  

 その妙な自信と、含みを持たせた言い方が気になって僕は思わず聞き返す。

 

「妙だとは思わなかったかい?トレーナーバッジは全部で八つ。だけど、この機械には”七つしかない”ことに」

 

「・・・・・」

 

 確かに言われてみれば妙な話だ。数が合わないなんて、そんな初歩的なミスあのサカキ様がするわけがない。  

 

「なーんて言うと思った?そんなことに気づかないほど、愚かじゃありませんよーだ。その機械の目的は、あくまで三匹の伝説ポケモンをパワーアップさせ、操るのが目的だった。つまり、それには七つで充分と判断した。ただ、それだけの話でしょう?」

 

 機械の、そしてロケット団の目的さえ知ってればそれくらいわかる。 

 得意顔で若者に自慢したかったのか知らないけど、わざわざこんなとこまで僕を追っかけてご苦労なこって。

 崩れたアジトのビル本社から必死こいてそれを探したのかな。そう思うと込み上げるものがあるね。

 

「ぷぷー。徒労ご苦労様でしたー」

 

「フェッフェッフェ。それは、半分正解といったところだね」

 

「はあ?」

 

 まったく、煽ってんだからちゃんと反応してよね。

 僕の言葉は無視で、おばあさんは言葉を続ける。

  

「確かに、ロケット団の目的程度には七つで充分だっただろうさ。だが、この機械にはもっと秘められた力がある」

 

 程度、というところにおばあさんがロケット団を下に見ているということがわかる。

 

「八つ目の・・・穴」

 

 カパリと、おばあさんは僕に見せつけるように真ん中のくぼみを押して八つ目のバッジを埋める穴を開く。

 そこは当然のように空洞で。

 そこで僕はようやく目の前のおばあさんの目的が分かった。

 

「フェッフェッフェ。この機械の凄さはね。あんなものじゃあないのさ。この八つ目の穴を埋めると、どうなると思う?」

 

「はっ。知ってたらとっくに埋めてるよ」

 

 最早敬語を使っている余裕は、僕にはなかった。

 たらりと、冷や汗が落ちた瞬間。

 

「ぐっ!ゲンガーか!」

 

 いつの間にか、忍びよった陰に不意打ちの”おどろかす”を食らって、僕は後ろに転がっていく。

 

「この八つ目のバッジの所持者。サカキがどこに行ったのか、吐いてもらうよ。最後にサカキに会った、カラー。お前にね」

 

 やっぱりか。なまじ想像していた通りすぎて、少し笑う。

 あーあ、あの人に関わるとロクなことになりゃしないや。

 

「別に、サカキ様を庇うつもりは一ミリもないんだけど」

 

 モンスターボールから、最後の一匹ウインディを取り出して戦闘態勢に入る。

 

「知らないって行ったところで、簡単には返してくれないんでしょ?」

 

「フェッフェッフェ。伊達に悪の組織にいたわけじゃないねえ。そこら辺、よくわかってるじゃないか」

 

 そこで、おばあさんは言葉をいったん止める。そのにやけ顔が何かを企んでいるのがモロだぜ。

 ま、それを知ったところで警戒する以上のことはできませんけどね。

 

「レッドとは、大違いだ」

 

「・・・・レッド?」

 

 なぜそこでその名前が出てくるのか、とんとわからず僕はきょとんと首を傾げてしまう。

 

「いやねえ、少し前にもサカキの居場所を教えてもらおうとレッドの元を尋ねたのさ。結果は、お前と一緒だったがね」

 

 フェッフェッフェと、高笑いするおばあさん。その反応から見るにどうやらレッドは無事じゃあないようだ。

 

「心配かえ?弟分がどうなったか、教えてやってもいいんだよ」

 

「へー、そんなことまで調べてるんだ。本当に老人ってのは暇なんだね。いいな、わけてほしいくらいだ」

 

「なに?」

 

 ムカツクな。僕のことをそこまで調べておいてそんなことで、動揺すると思われてたことが。

 本当にムカツクぜ。 

 

「ウインディ!!」

 

 ”高速移動”でスピードを上げた中で”とっしん”。

 

「弟分?だーれが、あんな戦闘バカ弟にするかよ。僕の家族に、あんなの入ってないんだよ」

 

「くっ。速い!」

 

 傍らにゴース、後ろにゲンガー。わからないけど、ゴーストタイプを主に使うらしい。

 

「ゲンガー!」

 

「カラカラ!」

 

 なんて、指示なんていらないよね。君は。 

 ゴーストタイプに力押しは危険だ。

 なんて常識も、さ。

 

「さて、ゴルバット!ウインディ!気を引き締めて行こうか!」

 

 後ろは振り返らない。負けたら死ぬまで弄ってやる。

 

「フェッフェッフェ。ポケモンとの絆ってやつかい?いいねえ」

 

「薄ら寒いこと言うなよ、おばあさん」

 

「キクコ」

 

 ぼそりと不敵な笑みは崩さずに、おばあさんは名乗る。

 

「四天王、キクコだ。覚えておいてほしいねえ」

 

「はは。悪いけど、守備範囲外だぜ。おばあさん」

 

 そして同時に、戦闘中にベラベラと喋るもんでもない。気が散るだろ?

 

「”どくばり”にご注意ください」

   

「っ!?アーボック!」

 

 天高くゴルバットが舞う。その針の矛先はキクコの首へ。 

 

「ありゃ」

 

 三匹目、アーボックのおなかにどくばりは虚しく突き刺さる。

 この二年で、ズバットからゴルバットに進化して多少は強くなったけど。

 どうやらその強くなったゴルバットより、目の前のおばあさんは勝るらしい。

 

「まあいいさ。おかげで、時間は十分稼げたし」

  

 この技を使うには、まだ一瞬の隙が生まれてしまうからね。

 

「ウインディ!!”だいもんじ”一乗」

 

「ぐ、ぐうううう!?」 

 

 大きな”だいもんじ”がキクコとそのポケモン達をまとめて襲う。

 体をぐるりと囲み、四方から攻撃を続ける。

 

「ふぇ、フェッフェッフェ。こんなもんで倒れるほどまだ老いちゃいないよ!」

 

「いいや。終わりだよ」

 

 苦しそうに、けれどまだ負けた目をしていないキクコの声に僕は首を振る。

 なにせ、そのだいもんじ。

 一度はまればもう、抜け出すことは不可能だ。  

 

「さっき言ったけど、時間がかかるんだ。この技は」

 

「なにを——————!」

 

「まあ、どこまで”かけるか”にもよるんだけどさ。今の溜めならとりあえず”二乗”までは行けるんだよ」 

 

「ガウ!」

 

 鳴き声と共に、もう一度。

 飛んでくるのは”だいもんじ”。

 

「な!馬鹿な!?」

 

「二年間、情報の真偽を確かめるためにさ。戦闘するってことも増えたんだ。できるだけ回避してきたけどね」

 

「ぐうううああああ!」

 

 それでも避けられない戦いというのもあって、そしてそれを凌ぐのは現状の最低限の戦力じゃ無理だったわけだ。 

 

「そこで地道にレベルアップなんてかったるいじゃん?」

 

 誰でも特別なオンリーワンになりたいじゃん?

 

「ちょっと頑張っちゃいました。ねー?」

 

「キャウ!」

 

 甲高い声で甘えてくるのは、相変わらずだけど。

 

「て、もう聞こえちゃいないか」

 

 さっきから一人でしゃべっていることに気づいて、ちょっと恥ずかしい。

 

「一応言っておくけど、サカキ様が今どうしてるのかなんて本当に知らないぜ。興味もない。ついでにバッジも持ってなーい」

 

 このまま粘着質に追い回されても鬱陶しいし、持ってる情報は噓偽りなく伝えた。

 

「さて、そろそろ終わったかい?カラカラ?」

  

 こちらの戦いも終わり、なんの気なしに振り返る。

 

「・・・カラカラ?」

 

 いつもなら、こちらが呼ぶ前にもう終わったとばかりにスタスタと先に行ってしまうカラカラが、今日は返事すらない。

 いや返事があるほうが珍しいんだけども。

 

「なっ!?」

 

 珍しいついでにもう一つ。僕が思わず光景がそこにあった。

 

「凍らされている・・・?」

 

 キクコの手持ちを見る限り、こんな強力な氷技を使えるようなポケモンはいなかったはずだ。

 それとも、隠していた手持ちがいるのか。

  

「お見事、あのキクコを難なく倒しちゃうとは。計算外」

 

「なるほど、アナタがやったのか」

 

 眼鏡がよく似合う知的なお姉さん。そんなお姉さんとパルシェンがいつの間にか僕の後方に立っていた。

 気を抜いていたわけじゃないはずだけど、いつの間にって感じだなあ。

 ゲンガーが倒されていることから、きっと倒した瞬間を狙われたんだろう。どうしてもほっとしてしまうのは致し方ないことだ。

 

「そう、私は四天王。カン——————」

 

「ぷっぷー!ホントに氷漬けにされてやんのー!あーんなかっこつけてたのに!」

 

 あれ?なにか言いましたお姉さん?

 

「アナタ。状況が分かっているのかしら?笑っている場合ではなくってよ」

 

「いやいや、笑う場面でしょ。ここは」

 

 あんなに自信満々で挑んでおいてさ、これはお笑いだよ。

 

「ねえ、カラカラさん?」   

 

 僕の一言、一言に。

 ピシピシと氷漬けにされているカラカラから音がする。

  

「あ、ちょうどいいや。写真撮っておこ」

 

「——————!!」

 

 と、カメラを構えた瞬間。

 カラカラは見事に内側から氷を砕いて見せた。 

 あー、おっしーい。もうちょっとで撮れたのに。

 

「・・・馬鹿な。あの状態から、自力で脱出するなんて」

  

 ホントだよ。もうちょっとイジってたかったのにさ。

 めったにないんだから。

  

「うーわ、怒ってる?」

 

 見た感じ、目が吊り上がってるし態度悪いし。

 あ、元からか!

 

「—————っ!」

 

 ヒュン。という風を切る音。

 ”ほねブーメラン”。

 僕の髪の毛をかすったそれはきれいに後ろにいたゲンガーに直撃した。

 

「よし、ごめん」

 

 本気で当てに来たと思った。ちょっと声出ちゃったじゃん。

 

「いいかしら?茶番は」

 

「ああ、待ってもらってありがとうございます」

 

 さて、あれほど強力な氷技。その手のタイプのエキスパートと見たほうが——————。

 

「・・・・・へ?」

 

「”れいとうビーム”。待ったんだからもういいわよね?」

 

 考える暇すら与えられないとはまさにこのことで。

 ”れいとうビーム”。パルシェンから放たれたそれはまっすぐに、最速で僕の右腕を貫いていた。

 

「くっ—————」

 

 貫かれた右腕から血が噴き出す。

 

「悪いけどサカキの居場所を知らないアナタに用はないわ」

 

「僕にだってアンタらなんかに用なんてないんですがね」

  

 まずいな。次第に右腕が凍り始めてる。このスピードじゃあ十分と持たない。

 仕方ない。先程僕が言った通り用なんてないわけだし。

 

「それにしても、よくよく見ると綺麗な顔をしていますね。どうです?あんなおばあさんとではなく、僕と一緒に楽しい夜を過ごしませんか?」

 

「はっ、はあ!?」

 

 ズズイと近づいて、柔らかく冷たい手を握る。メガネのレンズには笑顔の僕が写ってた。

 ここは、トンズラといこうか。

 

「冗談言わないで!悪いけど、私にはやるべきことが——————」

 

「あ、さいですか。じゃあ、アディオス!」

 

「きゃあ!」

 

 ピン、と流れた血を飛ばし目を潰す。

 

「うぐうううう!」

 

「血液ってのは固まるんで、すぐに洗い流したほうがいいですよ」

 

 その言葉を最後に、僕はウインディに乗って戦場を華麗に離脱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおお。やべえやべえ」

 

 森の中をひた走りながら後ろを何度も振り返る。 

 正直言ってやばかった。特に最後に現れた女。奇襲が通じるのもこれが最後かもしれない。

 二度とは会いたくないね。美人だけど。

 

「・・・・チィ。思ったよりも早い」

 

 凍るペースも広がる場所も、予想以上で。

 

「しゃーねえ。ウインディ」

 

 心なしか体温も下がってきている気がする。しかも、逃げた場所が悪かった。

 ここしかなかったとはいえ、こんな森じゃあ、太陽光は遮られるわ気温は上がりにくいわ、最悪のロケーションだぜ。

 名前を呼んで、降ろしてもらう。

  

「焼いてくれ」

 

「キャウ!?」

 

 驚いているとこ悪いけどさ、時間無いから早くしてよ。このままじゃ、右腕が壊死しちゃうじゃないか。

 そう目で訴えると、ウインディは涙目になり。

 覚悟したのか、キッと目を引き締めて。

 

 ”かえんほうしゃ”で右腕を焼き尽くした。

 

「———————。”ひのこ”で、炙ってくれれば、よかった、のに」

 

 あまりの熱に意識が持ってかれ。

 そこで、僕の記憶はぷっつりと途絶えた。

 

 そして物語の歯車はまた、回りだす。  

 それはまた次のお話で。

 

 

 

 




どうも機動戦艦ナデシコの搭乗員になりたい高宮です。
もう六月。え?今年もう半分?もう夏?早くない?早くない。
ということでマッハで過ぎ去る人生の中で次回もよろしくお願いします。

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