ポケットモンスター~カラフル~   作:高宮 新太

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16話「最終決戦にふさわしく」

 レッドがカラーを破ってから数分後。

 

「ぜえ、はあ・・・まったく、なんて無駄に高いんだこのビル」

 

 レッドは、素直にもカラーの言う通りに最上階の左奥の部屋へと向かっていた。

 カラーの今わの際の言葉を信じる程度にはまだ、彼への信頼がなくなったわけではないらしい。

 カラー、その人物のことを大してレッドは知らない。

 昔、近所に住んでいてよくポケモンバトルの相手をした大勢の中の一人で。

 その中では一番の年長者だった癖に、それを感じさせないほど彼は、いや、彼等は子供だった。

 いつもケラケラと笑って、イタズラっ子で、妹思いで、それなりに家族と仲が良く、たまに駄々をコネては周囲を困らせる。

 そんな普通の子供だった。

 だから、彼の家が火事になったと聞いた時は子供心に心配したものだ。

 直接火事になった所を見てはいないけれど、その後の悲惨な家の状態はあまりにもショックで。

 他人の家でさえそうなのだ。きっと自分の家ならレッドは耐えられていないだろう。

 そんな耐えられない状況下になってしまったカラーは、どれだけの傷を負ったのか。そう考えると心根の優しいレッドには胸が痛い。

 火事になってすぐに、カラーは遠くの土地にある孤児院が受け入れてくれたらしく引っ越してしまいそれ以降なんの接点もなかった。

 そう、なかったんだ。

 

「はぁ・・・はぁ・・・ここ、か?」

 

 最上階の左奥にある部屋。

 ここが、カラーの言っていた「いいもん」がある場所。

 

「って、いないじゃないか。ブルー」

 

 てっきり「いいもん」ってのはブルーのことだとばかり思っていた。

 カラーだって彼女がここにきていたことに気づいていたし、それを撒き餌にまで使ってきたのだから。

 

「・・・・結局、また嘘かよ」

 

 子供の頃から数えて何度目だろうか、これで騙されたのは。

 その度に見えていたあの人を小ばかにするような、それでいてどこか怒る気を無くさせるようなケラケラと底抜けな笑顔は、もう無い。

 そんなことを考えながら、それでもなぜかその場を離れる気にはならず。

 レッドは足を動かす。

   

「うん?なんだこれ」

 

 動かしてみると、ふと違和感に気付いた。

 その部屋はやけにただっ広いくせに真ん中にある不思議な円盤のようなものしか置いておらず。

  

「おっとと」

 

 それは持っていみるとやけに重く、両手で持ち抱えるのがやっとなくらいだった。

 ここがロケット団のアジトだということ、加えてカラーの言葉の意味。

 それらを考えるにこれがその「いいもの」であることは、どうやら疑いようがないらしい。

 

「いたか?」

 

「いや」

 

 ふと、声が聞こえてきた。

 当然だろう、先程言った通りここは敵のアジトだ。先の戦いで派手にやらかしてしまったわけで、本来ならロケット団の戦闘員がうじゃうじゃいてもおかしくないのだ。

 

「マチス様だけでなく、キョウ様も倒された。おまけに・・・ビルに炎を放ったようだ!」

 

 信じられないといったニュアンスが多分に含まれたその会話に、レッドはコソコソと円盤が置いてあった縦長のショーケースの陰に隠れる。  

 

「早くあのガキ共を探さなければ!・・・だが、トレーナーバッジのエネルギー増幅器のそばを離れるわけには」

 

(トレーナーバッジのエネルギー増幅器・・?)

 

 自らの手元にある円盤の、きっとその名前にレッドは疑問を浮かべる。

 その名前の、意味について。

 幸いにして、この部屋は暗がりであるために外からはよく見えない。

 

「——————、!!」

 

「ハハッ!”ナツメ”様!」

 

 トレーナーバッジの増幅器を眺めたり小突いたりしていると、声が聞こえ、二人のロケット団員が慌てたようにその場を去っていった。 

 なんだなんだ、と入口の方をコッソリ見ると。

 

「あ、あいつは・・・!」

 

 気づかれないように、けれどそれを防げずレッドはあっ、と声が漏れる。 

 そもそもの発端。レッドがこのヤマブキに来ることになった元凶。マサラタウンの研究所を襲った奴。

 確か、ナツメと先程呼ばれていたその女。

 モデルのようなスリムな体型に、切れ長な瞳と長い黒髪がよく映える。

 そして、同時に。

 カラーが口にしていたその名前。

 

(——————!入ってきた・・・!)

 

 コツコツと、何かを探す風にキョロキョロとナツメはその部屋に入ってきた。

 何をどう楽観的に考えても、これを探しているのは明白で。

 ドックン、ドックン。

 と、予期しない幹部の登場に心臓が痛いほど跳ねる。

 今までだって予期はしていなかったけれど、今は状況が違う。

 なにせ、レッドが胸に持っているそれは間違いなくロケット団にとって大事なもので。

 円盤にぽっかりと空いている穴は全部で七つ。

 そのどれもに見覚えがあって。

 

(トレーナーバッジ。俺が持っているのは六つ)

 

 自身が持っているトレーナーバッジの形とそっくりだ。

 が、旅の途中でゲットしてきたバッジは六つ。

 あと一つ。そう、ナツメのバッジが足りない。

 

(七つの穴を埋めるのに、あと一つ!)

 

 逆に言えば、そのあと一つを埋めれば完成なのである。

 

 コツ。

 

「ム?誰だ!」

 

 しまった。

 

 と、思った時にはもう遅い。

 地面と接触しないように持っていたのが仇になった。重さに知らず知らずのうちに耐えきれなくなり、ついに小さな。けれど自分の存在を知らせるには十分な音が響いた。

 

「こ、こうなりゃ攻撃だ!ピカ!!」

 

 先手必勝。焦ったレッドは、ピカを出し攻撃の指示を出す。

 が。

 

「!?ど、どうしたピカ!?」

 

 ピカは攻撃することはなく、スタリ。と優雅に床に着地した。

 まさか、今の一瞬でピカも洗脳にかかってしまったのか。

 そう焦ったレッドを、嘲笑うかのようにナツメはピカに手を出す。

 

「かわいい子だこと。私が攻撃すべき相手ではないと知っている。おや?その機械を発見したか」

 

 言うが早いか、ナツメは変わらぬ足取りで敵とは思えないほど距離を詰めてくる。

 

「ねえレッド?」

 

「うわああああ!」

 

 敵が怖くて叫びをあげたのではない。

 叫びをあげたのはもっと本能的な部分。

 ドロリと、人の顔が溶けていくその怪奇現象についてだ。

 

「なんてね♪アタシよ!レッド。変装の名人だって知らなかった?」

 

「ブルー!?」

 

 ドロリと溶けたその顔からは、今まで心配して探していたはずの顔が。

 そうか、ピカは最初からブルーだってわかっていたのか。

 

「ねえ、レッド。これを見て」

 

 服を着替え、時間がないと言いたげに早速ブルーは口を開く。

 

「ゴールドバッジ。さっき超能力お姐さんからもらっちゃった。ウフフ」

 

 どうやら既にナツメと戦闘を終えた後らしい。軽くコテンパンにしてきたとはブルー談。

 

「ああ!く、くれよブルー!」

 

 思いがけず最後の一個が目の前に現れて、思わずレッドはおもちゃを欲しがる子供のような声を上げてしまう。

 ブルーもそれを分かっていて、バッジを出したのだろう。

 が、それを簡単に、そしてタダでくれるほど目の前の少女は何も考えてないわけじゃない。

 

「私の性格知ってるでしょ?取引よ。月の石と交換でね」

 

 月の石。ハナダの洞窟でカスミと探しに行き偶然見つけたアイテムだ。なんでもポケモンに対して特別な力を発揮するらしい。

 それをなぜ目の前のブルーが知っているのかはこの際置いておいて。

 

「なあ、ブルーそんな取引しなくても力を合わせて戦えば」

 

 きっとブルーはその石で自分のポケモンを強化させたいのだろう。

 レッドだってせっかく手に入れた石だ。惜しいという気持ちもある。

 

「勘違いしないで、レッド」

 

 だがブルーはそんなレッドの思いを見透かすように釘を刺す。

 

「アナタとアタシは別の目的でここにきたのよ。大丈夫、これでお互いの目的が達成されると思うわ」

 

「信じて、いいんだな?」

 

「当たり前でしょ?」

 

 レッドの訝しげな視線に間髪入れずに答えるブルー。

 そんなブルーをどうやらレッドは信用したらしい。 

 ここに、取引は成立した。

 

(ホホホー♪やったわこれで計画通り!)

 

 当然、心の中でしてやったり顔のブルーにレッドは気づかない。

 

「ねえレッド。ついでだから教えてあげる」

 

 つつつ、とすり寄ってきたブルーが口を開く。

 

「その機械は奴らの切り札よ。七つ揃ったバッジはポケモンの力を上げるエネルギーを生むんだって」

 

 そして、当然のようにこれもまたブルーの嘘であるのだが。

 

「そっか、サンキュ!」

 

 これまた当然のようにレッドは彼女の言葉を信じてしまうのだ。

 本当は新ポケモンが誕生する。と、彼女は聞かされている。

 ブルーの目的はその新ポケモンを頂くということにあったのだから。

 

 

「そこまでわかっているのなら、なおのこと生かしておくわけにはいかないな!」

 

 

 二人の体がビクッと震える。

 その凛と一つ通った声の主は。

 

「ほ、本物のナツメ・・・」

 

「さあ、その機械を渡せ!!」

 

 今度はブルーの偽物なんかじゃない。正真正銘、本物のロケット団幹部。

 ナツメだった。

 なぜかひどく怒っているが。

 

「くっ。ブルー、下がってろ!」

 

 仮にも女の子に戦わせるわけにはいかないとレッドは男の子の矜持で前に立つ。

 

「はぁい♪」

 

 猫なで声で答えるブルーはいそいそと逃げる準備。

 

「さあこれで七つ目だ!」

 

 そんなブルーを気に留めず、ナツメを迎えることができたのはこの機械がまだ自分の手元にあるからに他ならない。

 が。

 

「あ、あれ?」

 

 七つ、しっかりとはめ込んだのに。周りにはなんの影響もない。しん、と静まり返ったままである。

 考えらるのは一つ。

 

「レッド、ごめんね。この前返したバッジは、ニセモノだったの」

 

 ぺろりと小さな舌を出して、一ミリも謝罪の気持ちが籠っていない「ごめんね」を吐き出して、ブルーは機械と共にすたこらとその場を逃げ去っていった。

 依然、バッジを奪われた時にちゃんと返してもらっていたと思っていたのに。だからこそ、どこかで信用していたのに。

 

「あ、あ、あいつ~~~!!」

 

 してやられたのは、もうこれで何度目か。顔を真っ赤にしたレッドがブルーを追うよりも早く、ナツメの攻撃はレッドを襲う。

 

「フン、仲間割れか」

 

 しょせんはガキ。マチスもキョウも油断していたからやられたのだ。

 そして、自分が洗脳したアイツも。

 

「まったく、もっと頭のいいヤツだと思っていたが」

 

 洗脳したことにより、たった一つのいい点が消えたか。なんて、考えることはやめた。

 まずは目の前のガキを排除することだ。と。

 

「いでよ!ファイヤー」

 

 そして、サンダーとフリーザーをユンゲラーの力でこの場所へと呼び戻す。

 他人のポケモンであるはずなのにそんなことができるのは、ロケット団という組織の異常性とナツメの力だろう。

 ただでさえ不利なレッドは、これで勝ちの目が著しく低下する。

 

「———————!!来たな!」

 

「な、なんだこれ!」

 

 レッドが絶望的状況に冷や汗をたらしていると、唐突に後ろから光の球体。いや、エネルギー体が飛び込んできた。

 

「きゃあああ!?」

 

「ぶ、ブルー!?」

 

 球体を追っかけてきたのだろう。部屋に入ってすぐブルーはあまりの迫力に気を失ってしまった。

 

「フフ、さきほど、その機械のことを何やら言っていたようだが、その全ては的外れだ」

 

「なにい!?」

 

「機械から発したエネルギーは、この伝説の三匹のためにある!」

 

 そうこわ高々に宣言したナツメは、三匹に同時に指示を出す。

 

(ほのおのうず)!」

 

(ふぶき)!」

 

電気(かみなり)!」

 

 あまりの迫力に、技が出る前に回避行動をとるレッド。

 おかげで、どうやら塵とならずには済んだらしい。

 代わりに後ろの壁が塵となったが。

 

「三鳥一体攻撃が可能になるのだ」

 

 その威力は、最早言うまでもない。

 

「三つのタイプを合成する研究は前から行っていた」

 

「ブイ!」

 

 ドサリと、ナツメは弱々しく力のないイーブイを物のように扱う。

 

「それも、この時のための実験だった。言うなればプロトタイプといったところか」

 

 その言葉に、レッドの中のなにかが切れた。

 イーブイを物のように扱ったことに。また酷いことをされたのだと、何も言われずともわかる。

 イーブイを実験なんかに利用したことに。それにどれほどイーブイが苦しんだか、レッドには手に取るまでもなくわかる。

 イーブイをプロトタイプと呼んだことに。イーブイを勝手に失敗作と断じたことに。イーブイをまた勝手に苦しめたことに。

 

「最終調整が必要だったので取り返したが、ウフフ。もう用なしだ。まったく、アイツが余計なことをしなければ面倒なことをせずに済んだものを」

 

「ふ、ふざけるな—————!!」

 

 最後の言葉の意味すら考えられないほどに、レッドは激昂する。怒りに任せ、フッシーのつるが飛ぶ。

 が。

 

「無駄だといったはずだ!」

 

「ああ!」

 

「ウワーハハハ!」

 

 呼吸を合わせた三匹の前には、しかしそれも無力でありフッシーは簡単にそして無常にも先程空いた穴から外に落ちていった。

 

「気分がいい!ついにこの力を手に入れた」

 

 正義のジムリーダーからバッジを巻き上げようと画策していたことも、中々上手くいかなかったことも今となってはもうどうでもいい。

 

「お前たちがバッジを集めてくれるのを待っていた。ご苦労だったな。もう用済みだ」

 

 結果として、望んだ力は手に入れ。これで敵はいなくなったも同然だから。

 始末しようと思えばいつでもできたが、放っておいたのもこれでおしまいだ。

 

「さあ、虫けらのように死ね!!」

 

 三匹の強烈な猛攻がレッドを襲う。目を開けていることすらできない中で、ナツメの声だけが耳に届く。

 

「マサラの地は我らが利用させてもらう!お前たちはそういう運命なのだ!」

 

 猛攻に耐えながら、頭の中でいつかグリーンがいった言葉が反芻していた。

 

『マサラとは世界で一番ポケモンが汚されていない場所。マサラとは白。穢れなき白。という意味だ』

 

「く、くそー!俺たちの街を汚されてたまるか!!」

 

 最後の最後、無駄も無駄。

 だが、そんな些細な抵抗がどこかで歯車を動かすことがある。

 

 

「よく言ったレッド!諦めるのは、まだ早いぜ!」

 

 

「グリーン!?」

 

 外からリザードンに乗ってきたのはグリーン。どうやらオーキド博士の救出に成功したらしい。

 

「こしゃくな、無駄だと言っているのがわからないのか!!」

 

 が、そんな状況の変化も有無を言わせぬ力でねじ伏せようとするナツメ。

 

「くらえ!”かぜおこし”」

 

 外で飛んでいたリザードンですら、中に引き込まれるほどのかぜおこし。

 

(なにか、何かないか)

 

 この絶望的状況をひっくり返す、なにかが。

 レッドが、薄れゆく意識の中で必死に考えていた時。

 それは目に飛び込んできた。

 

 そう、月の石が。

 

(グリーンが敵の攻撃を耐えてくれているその隙に・・・よし)

 

 どうやら一応の策くらいは思いついたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じょ、冗談じゃねえぜ!とんでもねえクソガキどもだっ!」

 

「ビルの炎が広がってきやがった!早く街から逃げろ!」

 

 けたたましく鳴る非常用のサイレンとわらわらと蜘蛛の子のように散り散りになる黒い集団が、この街を占拠していた。

 

「イワーク、”たいあたり”」

 

 ロケット団のアジトから出てくる出てくる。まるでゴキブリだ。

 そんな害虫を駆除するかのように、一人の男が立ちはだかる。

 抵抗する力もない害虫は、イワークの重みにただただグロッキー状態。

 

「レッド、お前に一度は倒されたこのイワーク。復活して今度は助太刀しにきたぞ」

 

 その男の名前はタケシ。ニビシティのジムリーダー。

 正義を名乗るジムリーダーである。

  

「もしもし?こちらタケシ。南側通用門はまかせる」

 

 そして電話の向こう側にはもう一人。

 

「こちらカスミ。北側は封じたわ」

 

 ジムリーダー、一人で封じられてしまうロケット団の下っ端どもの頼りなさを嘆くべきか、たった一人で逃がさないジムリーダーたちに驚愕すべきか。

 

「こちらエリカ、西側も万全ですわ」

 

 残る東側はタマムシの精鋭たち、つまりエリカが直々に鍛えた精鋭たちが総出で抑え込んでいる。

 まさに、一網打尽とはこのことだった。

 

「そ、それで・・・ですねっ」

 

 これで、あとは仕掛けた網に魚を追い込むだけ。

 の、はずだが。

 

「?どうした、お嬢」

 

「エリカ?」

 

 三人に通じている電話の向こう。エリカは逡巡したような素振りを見せ、数秒の沈黙の後、口を開く。

 

「ロケット団の中に、こう、飄々とした。ふざけた軽い感じの男はいませんか?」

 

 逡巡したわりにはスラスラと、そして力強い言葉たちにカスミもタケシもはてなを浮かべる。

 

「あ、あの!こう、なんていうかいつもニヤニヤヘラヘラ顔がくっついたような。こちらの全てを茶化してくるような、そんな腹の立つ男はいませんか?」

 

 言葉を重ねるもそれはあまり意味を持たず。

 

「さあ、こちらには来てない。と、思うが」

 

「まあ、私も全員を一々見てないけどね。こんな切羽詰まった状況でいくらなんでも目立つよね。そんな奴いたら」

 

「そう・・・ですか」

 

 当然といえば当然の、その二人の言葉に電話越しでさえわかるほどに落胆するエリカ。

 

「えー?ナニナニ?男?」

 

 だから、そんなわかりやすいリアクションをする彼女に、カスミがこう返すのは自然だろう。

 

「ちっ、違いますわ!ただワタクシはあの男が勝手にいなくなるから!一言文句を言ってやろうと!!」

 

「あーはいはい。なるほどねー、そいつから聞いたんだ。アジトの場所。で、なに?密偵か何か?」

 

 そんな予想通りの親友の反応に、カスミは勝手に合点がいく。

 よもや、本当にロケット団の団員だとは思いもよらないだろうが。

 そしてそのカスミの考え通り。このアジトの場所を、教えてくれたのはカラーだった。

 正確に言えば、カラーのズバットだが。

 ズバットがエリカの元を尋ねた瞬間に、エリカは精鋭を一人尾行させた。

 結果、そのエリカの選択は正しかったわけだ。

 

「違います!ええ、違いますとも!ちゃんと!自力で!見つけましたから!」

 

 自分のとこの精鋭たちはともかく、急な招集なのに二人ともよく駆けつけてくれた。

 それはきっと、レッドの人徳の成せる業なのだろう。

 

「あの、俺も聞いてるってこと思い出してくれよ?」

 

「あっ・・・」

 

 どうやら本当に失念していたらしい。

 小さく声を漏らすと、誰にも気づかれずに一人で顔を真っ赤にするエリカ。

 

「と、とにかく!このままレッドたちのサポートに尽くします!いいですね!」

 

「も、勿論」   

 

「おーけー」

 

 その有無を言わせぬ迫力とともに、電話を切る。

 尾行からの情報は当然、アジトのビルの居場所だけではない。

 対象がナツメと戦闘になったこと。負けたこと。気を失いビルに連れ込まれたこと。

 その全てを優秀な尾行はエリカに報告していた。 

 

「カラー・・・・」

 

 その呟きが、届かないと知りながら。

 エリカは一人、ビルを見上げる。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにい!?」

 

 外でレッドたちのサポートとしてジムリーダーが踏ん張っている間。

 こちらの戦局は、わずかに傾いていた。 

 どちらに傾いたのかは。

 

「”れんぞくパンチ”!”みだれひっかき”!”はかいこうせん”!」

 

「ぐうっ!」

 

 ブルーのポケモン、ピッピが月の石で進化してピクシーとなった今。”ゆびをふる”でランダムに出る技に、ナツメは応戦しきれていない。

 

「よし!突破口は開けた!次は・・・!」

 

「させるか!」

 

 ようやく兆しが見えてきた。が、それもやはり強大な力で閉じられる。

 一度は冷静さを欠いたナツメだが、一度それを取り戻してしまえばあとはたやすい。

 

「”ゴッドバード”!」

 

 ただでさえ強力な技を、伝説と呼ばれるポケモンが。それも三匹同時に放てばどうなるか。

 答えは、ビルのほうがもたない。だ。

 

「ぐう、ううう、うわああああ!」

 

 依然、意識が戻らなかったブルーは当然としてグリーンもレッドでさえ。その圧力にあらがうことができずにビルの屋上から外に放り出される。

 

「ふう、この高さから落ちればまず命はないだろう」

 

 もはや壁の意味をなさなくなったビルの崩壊した部分から吹き込む風に髪を抑える。

 

「一瞬、ヒヤリとした・・・ん?」

 

 確信するまでもなく勝利だ。その余韻に浸ろうと、最後にレッドたちの無残な死体を拝めようと地面をのぞき込んだ。

      

「!?」

 

 が、ナツメが期待した結果は得られない。

 そこにいたのはフシギソウのツルをネット状にして空中に佇んでいる三人だったからだ。

 どうやら今の衝撃でブルーも目覚めたらしい。

 

「いっけえええええ!!!」

 

「ええい!もう一度”ゴットバード”だ!」

 

 度重なる衝撃で、ビルはもはやその形を保つすべを失い、崩壊のカウントダウンを始める。

 が、ビルが崩れるその前に、などという不安はどうやら杞憂らしい。

 力の拮抗は、フシギソウの花が開くことで決着に沈んでいく—————————。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷはーっ!」

 

 そんな決着から数分後。

 まだ、その場にレッドたちが勝利の余韻に浸っているころ。

 崩れたビルの一角で、少しばかりの砂埃がおこる。

 

「まったく、派手にやってくれちゃって。いやはやまさか、ビルまで潰すとは」

 

 そこにいたのは、ボロボロになったビルに合わすようにボロボロのカラー。

 そう、僕だよ。

 

「レッドめ、ロケット団を潰すだろうとは思ったけど。ここまで僕の期待を裏切らなくていいんだけど」

  

 いやほんと、予め脱出できるように空洞を探しといてよかった。それでもこうして、瓦礫の餌食にはなっちゃったけど。

 あの戦いで僕が勝ったら、レッドにロケット団を潰してもらう予定だった。ズバットの”あやしいひかり”で命令してね。

 ま、結局負けちゃったんだけど。それでも、こうして結果は僕の予定通りってわけ。試合に負けて勝負に勝つってね。僕の好きな言葉さ。

 

「さて、これで心置きなくロケット団を抜けられる。なーんでだか知らないけどジムリーダーなんて厄介極まりない人種の人達までいるし」

 

 ここはさっさとトンズラするに限るね。

 なんせ、もう追手にビクビクしなくてよくなった。これで今日からよく眠れる。

 

 ・・・。

 

「あー、ま。少しくらい情報はもらいましたしね」

 

 受けた恩はちゃんと返せっていう、昔のお母さんの教えでも久々に思い出しますか。

 瓦礫の塊をきっちり三つ。カラカラが砕いて。

 そこから現れた人影三つは、流石というべきかなんというべきか。致命傷には至っていなかった。流石に意識を保っていた人はいなかったけど。

 

「ま、俺ができんのは精々これくらいっすよ。これで、今まで世話になった恩は返しましたんで」

 

 後は、見つからないうちに目が覚めるのが先か。目が覚めた場所が留置場か。運試しですね。

 っと、本当に早くしないと僕が見つかってちゃあ世話ないぜ。

 くるりと、最後に人が大勢で賑わっているストリートを見て。

 

「じゃあね。レッド」

 

 なんて、柄にもない挨拶をしてみたりした。

 

「なにが、じゃあね。なんでしょうね。カラー」

 

「・・・・・・んんん?」

 

 はあ・・・。どうやら神様はタダで許すなんてそんな聖人君子ではないらしい。

 やっぱ嫌いだ。

 それも次のお話で。

 蛇足だけどね。

 




どうも冴えない高宮です。ホワイトアルバム2めっちゃおもろいぜ!睡眠の重要性を忘れそうになるくらいには。
ということでカントー編も次か、次の次くらいでおしまいです。
それではみなさんまた次回もよろしくお願いします。

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