レッドが二階へと上がると、グリーンはすでにキョウの前に敗れ去っているかのような局面に出くわす。
レッドはそんな仲間の姿を見て、無謀にもキョウに突っ込んでいくがグリーンをとらえていたベトベターが既に動かなくなったグリーンの代わりにレッドをとらえる。
「くっ———————、グリーン起きてくれ!」
「無駄よ!こいつは今、”かまいたち”の一撃をくらったばかり。すでに動けぬ!」
ぐりぐりと、キョウの足はグリーンを弄ぶ。
「あとは首をはねるのみよ!」
なんの躊躇もなく、なんの躊躇いもなく。
ギラリと、ゴルバットの鋭い羽が輝グリーンの首を映した。
「!!」
「今度こそ死ねえええええ!!」
何度も邪魔をされたフラストレーションと、これで終わりだという高揚感でキョウの手元は加速する。
が、しかし。
「あ・・・・!」
レッドは、驚いたように口から声が漏れる。
その視線の先、メキリ、と肋骨の折れた音が鈍く響き、キョウの顔は苦悶に歪んでいた。
「よくやった。ピジョット」
気を失っていたはずのグリーンの手には、開閉されたモンスターボールが。
そして、そこから放たれたであろうピジョットは今日の腹部にそのくちばしを突き立てている。
「か、かはっ・・・ば、ばかな。なぜあの”かまいたち”を心臓に受け、動いていられる・・・!?」
その問いにグリーンは答える。手に持ったボロボロのペンダントを掲げて。
「このペンダントは”リフレクター”と同じ効力を持つ
そのおかげで、どうやらグリーンは助かったらしい。そして、倒れたふりをしてベトベターを引っ込めるのを待っていたということだろう。
「お、おのれえええ!いでよ!フリーザー!!」
その事実に、キョウはわなわなと両手を振るわせる。怒り心頭といった様子だ。
そして、ついに伝説の一匹『フリーザー』を召喚するキョウ。
「”ふぶき”!!」
辺り一帯を凍らせるほどの強力な”ふぶき”。
「調子に乗るなガキ共め!こちらが有利なのは依然変わらぬ!!」
流石はロケット団の幹部。伊達にその地位まで登り詰めたわけではない。
すぐさま冷静になると、キョウは捕らえていたもう一人。レッドを人質にグリーンに相対する。
これ以上歯向かうならば、言葉にせずともその意図は明白だった。
「レッド、とか言ったな。クク、このフリーザーはふたご島でわが部下が捕獲したもの。覚えておろう?」
ふたご島。カラーが得た情報により何度もその地に足を運んでいたロケット団はたまたまその地に降り立った裏切り者のカツラを始末すると共にこのレッドと敵対している。
「捕獲には手間取ったがな。もう一歩で取り逃がしてしまうところを捕まえることができたのは、クク・・・お前のおかげなのだ」
「!・・・そ、そんな」
キョウの言葉に少なからずレッドは動揺する。
あの時、ピンチを助けてくれたのはフリーザーだった。そんなフリーザーが自分のせいで悪の組織に捕まり、悪事に利用されているなんてレッドには耐えられない事実だ。
「フリーザー・・・」
呼びかけたところで、今のフリーザーには届かない。敵となってしまった、今のフリーザーには。
「あのときお前を救ったフリーザーが、今度はお前を倒す!ク~ックックック!気の毒な運命だなあ!」
高らかに、それでいてスキを見せずにキョウは笑う。どう転んでも勝利はすでに我が手の中にある。と確信しているようだった。
「やれ!!フリーザー!グリーンもろとも吹き飛ばせ!!」
声高々に宣言されたフリーザーは部屋の中央に飛び立ち。
「”れいとうビーム”!!!」
「くっ」
「レッド!!」
捕らえられているレッドのほうが幾分か攻撃の対象になりやすく、その身はパキパキと凍っていく。
その威力は、流石の一言だ。
だが、グリーンには一つ、疑問があった。
(なぜこいつはこんなにも伝説のポケモンを自在に操れているんだ・・・・!?)
「どうだ!これもロケット団の力ぞ!」
そして、その問いに対する答えはキョウの右手に込められていた。
「あれはピンクバッジ!?」
「フフフ、今頃気づいたか」
キョウは勝ち誇ったようにジムバッジについて高説を垂れる。
「お前たち、バッジにはポケモンを操る力があることを忘れているようだな」
キョウが喋っている間にも、どんどんと氷は部屋を侵食していく。
「これらのバッジは単なるジム戦に勝った証ではない!それぞれにポケモンの能力を高める力がある!」
そして、とキョウの言葉は続く。
「今、このフリーザーは幹部の三人とボスのバッジ。四つのバッジの影響下にある!」
だからこそ、きっと幹部の三人はジムリーダーを辞めロケット団に所属しているわけだ。力が得られるというマチスの言葉の通りに。
「それ!次はお前だ!」
「逃げろ!グリーン!」
お喋りは終わりだと言うようにキョウはフリーザーを操る。レッドとグリーンはその強大な力の前に成す術がない。
「しまった!壁が!」
レッドに言われるまでもなく逃げるグリーンだったが、どうやら先に建物の方にガタがきてしまったらしい。
崩れ、飛んでくる壁の破片を避けた拍子で運悪くフリーザーの氷に捕まってしまう。
「勝った!!」
最後の攻防が今終わり、勝利の天秤は大きく傾く。
「クックック。トレーナーの氷漬けが二体完成だ」
勢いと激しさを増したフリーザーの攻撃はポケモンだけでなくトレーナーも巻き込み、部屋全体を凍てつかせ凍らせた。
これが、伝説のポケモンの、そしてそれを操るバッジの威力。
凄まじく、そして凄まじい。
「馬鹿なガキ共だ」
キョウは最早一人になったその戦場で呟く。
大人しくしておけば部下にしておきたいものだった。それほどの逸材だと感じていた。
歯向かってきたのが運の尽きだ。そう心の中で呟くと、用のなくなった戦場を去ろうと歩を進める。
「ふう・・・・ん?」
それにしても、楽な戦闘ではなかった。三幹部ともあろうものが子供二人にここまで苦しめられるとは思わなかった。
だがそれも致し方なかろう。レッドが上に上がってきたということは、それすなわちマチスがやられたことを意味するのだから。
だからだろうか、少し暑いと感じるのは。戦いで汗でもかいたのか。
そう思った矢先だった。
「——————————!」
「・・・・な、なにい!?」
背中に加わる急な衝撃。折れた骨が砕ける音に顔をしかめずにはいられない。
「ば、バカなぁ!完全に凍っていたはず・・・!」
しかめたその面で後ろを振り返る。すると、そこには凍っていたはずの、命を奪ったはずの二人の人影が。
「ま、まさか・・・・」
そこで、キョウの頭に一つの可能性が浮かぶ。ありえない、大胆不敵なその作戦が。
「リザードン!!」
己のその可能性を確かめるようにキョウは建物の外を見た。
そこにはグリーンの手持ちであるリザードンが外から建物を炙っている。
道理で熱いはずだ。フリーザーが凍らせていなければ、とっくにこの部屋は灼熱地獄と化していただろう。
いや、逆か。
キョウは自らの考えを否定する。
きっとフリーザーを出した時点で既にこの作戦は実行されていたのだ。でなければ、こんな迅速な対応ができるはずがない。
「レッド!」
「おう!」
二人は、息を合わせるように掛け声をかけて。
「”トライアタック”!」
「”でんきショック”!」
「ぐああああ!」
同時にキョウ自身に技を食らわせる。トライアタックもでんきショックも威力でいえば大したことはないが、二つ同時、それも生身で食らえばしばらくは動けないだろう。
ドサリと力なく倒れるキョウに二人はほっと息をつく。
「おい!グリーン!」
と、同時にレッドの大きな抗議の声が響く。
「もう!建物ごと火炙りなんて無茶するよな!あー、暑かった!」
レッドの体には凍傷、ではなく、火傷による裂傷が主だった。
控えめに言ってもボロボロである。
「ちぇ、派手にやられやがって」
そんなレッドを見ながら口角が吊り上がるグリーンの体も、どうやら限界のようで。ふらついている。
「ゴルダック・・・・やはり無理か」
ふらついた体で試しているのはゴルダックの念写。この町を覆っていたバリアの主、バリヤードを見つけた時のようにオーキド博士を念写で見つけようとしたのだが、どうやら失敗したらしい。
と、なると。
「おじいちゃんの居場所はこれで探すしかない」
ガサゴソと、倒れたキョウの体を探り、目的のものを見つける。
「さあ、ゴルバット。教えてくれ。俺のおじいちゃん、オーキド博士が捕らえられているのはどこだ?」
キョウと共に気絶しているゴルバット。このゴルバットも特殊な超音波で目的のものを映し出すことができる。
ゴルダックでは無理でも、キョウの手持ちならどこにいるかくらい知っているだろう。
そして案の定、グリーンの”あて”は当たる。
「おじいちゃん!」
「こ、ここは地下か!?行こうグリーン!」
ゴルバットにより映し出されたのは縄で縛られ、痛めつけられた痕跡のあるオーキド博士だった。
見たところ、荷物やら大きな箱やらで埋まっている部屋のようで、地下のような雰囲気を感じた。
「きゃああああああ!」
「上の階から女の子の悲鳴?・・・・ブルーか!?」
突如響き渡ったその悲鳴に、レッドは聞き覚えがあった。
思い返してみれば、このヤマブキシティに入ろうと四苦八苦していた時。助言をくれたのは彼女だ。
彼女もまた、この町のこのビルに侵入していたのだろう。
気になる。今の悲鳴から察するにブルーは、レッド達を迎え撃つために用意周到に計画されたこのビルの餌食になっているのではないかと。
「行けよ、レッド」
「!!」
そんなレッドの心情を察したのだろう。グリーンはいつの間に拾っていたのか、ピンクバッジと共に言葉を投げつける。
先ほどのキョウの話を聞けば、持っていかないわけにはいかないだろう。
相手は、また伝説のポケモンになるのは必至なのだから。
「また後で、必ず会おう」
普段感情を表に出さないグリーンの、それは珍しい言葉であり表現だった。
その言葉に、レッドは言葉を返さない。
言葉を返さずとも態度で示すように、レッドは足早に上の階を目指した。
「くそ、どの部屋だ!?」
上の階に上る階段は案外早く見つかった。
と、いうよりも隠されていなかったのだ。きっと三階に上がることなどないと驕っていたのだろう。
「・・・?暗いな」
とにかく手あたり次第に部屋を開けていったレッドは、一つ奇妙な部屋にぶち当たる。
その部屋には明かりがなく、レッドは暗闇に慣れていない目を細めた。
「ピカ!」
目を慣らすよりも照らしたほうが早い。そう判断したレッドはピカに命ずる。
照らした光に、今度は視界が奪われる。加減を間違ったことを反省しながら、徐々にやがて視界はクリアになっていった。
「・・・・敵!?」
かろうじて、人がいることがわかる。
中央に椅子、その椅子に座っている人影。どう見てもブルーではないのは確かだ。
「やあ、
「・・・その声、まさか・・・・!?」
驚愕に目を見開いていくレッドに、畳み掛けるように声の主は告げる。
「そう、僕だ。カラー兄ちゃんだよ。レッド」
そして、因縁は結ばれ。次の話へと繋がる。
どうもやっぱり冴えカノは最高だぜ!高宮です。
ああ、素晴らしきフェチズム。黒タイツ太ももは正義なり。
僕にもドSで黒タイツが似合う年上美人作家と仲良くなるルートがあればなあ。
あ、本編はそろそろカントー編が終わるぜ。
それではまた次回もよろしくお願いします。