ポケットモンスター~カラフル~   作:高宮 新太

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11話 「酒に酔ってたわけじゃない」

「ぜえ・・・ぜえ・・・」

 

 息も絶え絶え、体はボロボロ。

 まったくもって僕らしくもない始まりだ。もっとスマートに始めたいもんだけどね。

 

「まったく、マチス様ったら手加減って言葉を知らないんだから」

 

 黒焦げになった自分の体を見て、そう一人つぶやく。

 まともに電気技を食らったからな。いまなら僕、電磁波くらいなら出せる気がするよ。

 タマムシの街を、なんとか壁伝いに歩いていく僕の姿は夜中ということもあってまだ見つかっていない。

 見つかっていない。どういうことかと聞かれれば、僕は今日をもって組織を抜け出したのだ。

 今現在、組織の追ってから逃走中。これが僕の現状。

 ナツメ様の力、研究室のポケモン。僕が組織にいた目的は概ねこの二つ。

 黒いポケモンの正体を、それでなくても何か一つくらいの情報をあわよくばゲットしたかったがその願いは叶わなかった。 

 組織にいれば全国各地のポケモンの情報が集まってくるものと思っていたが、それも結局空振り。

 何一つ、入る前から進展していない。これじゃ何のために悪事に身を染めたのか、あーあ、後悔ってのはこういうことをいうのかね。

 

「はは、ムカツクからちょっと反抗してやったぜ」

 

 一つのモンスターボールを手に持ち、僕は不敵に笑う。ちょいと遅めの反抗期だ。 

 

「・・・・チッ」

 

 やばい、体力が尽きた。

 ついに自分の体重を支えることすらできなくなって、ドサリと僕は道端に倒れこむ。

 くそ、こんな最期は望んじゃいねえんだよ。

 

「せめて、キミくらいは、逃げておくれよ」

 

 本当に、最後の力を振り絞って僕はモンスターボールを開けた。

 

「—————、」

 

 ボールから出たポケモンは怯えながら僕のほうを見る。

 

「おいおい、僕の、心配かい?随分と余裕だな」 

 

 こんな実験体に心配されるくらい、今の僕はヤバイらしい。自覚はあるよ。

 

「さっさといけ。組織の追ってだって、君を狙ってるんだ・・・か・・ら」

 

 ああ、なんだか緊張の糸が解けた。キミを逃がすことが、どうやら僕の意識を保つセーフティとなっていたらしい。存外、僕にもいいところがあるもんだ。

 僕の言葉に、怯えは相変わらず消えていないけれどそれでもそのポケモンは脱兎のごとく走り去っていった。

 

「・・・あー、せめて温めてもらえばよかった」

 

 この時期に、この格好で夜空の下は寒いや——————。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 目が覚めた。

 毎朝同じように、朝が来たことを知らせるアラームが鳴るわけでもなく。自然と目が覚めた。

 

「いつつ・・・」

 

 体全体が痛い。寝ぼけた頭で記憶を揺り起こす。

 えーと、確か昨日は組織を抜け出そうとしたらマチス様に見つかって。

 そんで一方的にやられて、ボロボロにさせられたんだった。

 

「・・・嫌なこと思い出しちゃったよ」 

 

 朝から気分が悪い。さて、良いことを考えよう。

 ・

 ・

 ・

 なーい!いいこと一個もなかった!!

 よし、つらい現実から逃げるべく現状把握に努めよう。

 どうやらここは僕の知らない家であるらしい。 

 こういう時は、純然たる事実のみを把握したほうがいい。

 まず、家は確実に豪邸だ。僕が寝ているのは和室の一室だが、布団のフカフカ具合と畳の匂いでわかる。

 伊達に組織の金で豪遊してきてないぞ。

 他にも理由がある。

 僕の体だ。

 昨日あんなにボロボロだったのに、丁寧でかつ正確な治療が行われていることがわかる。あのままあそこで野垂れ死にできる状態から体を動かせるまでに回復しているのだから。

 優秀な医者に診てもらったのだろう。

 痛いのはほら、我慢すればいいだけだからさ。

 さて、事実確認終わり。

 流石にこの一室だけじゃわかる情報などたかが知れている。

 

「あら、起きましたの?」

 

「ええ、そりゃもうばっちし」

 

 襖から零れる光に、眩しさに目を細めながら僕は口を開く。

 まるで後光がさしているかのような登場。女の子、ということだけが辛うじてわかる。

 

「ええと?知り合い、じゃ、ないですよね」

 

「ええ。あなたが私の家の前で倒れていたのを、家の者が発見しましたの」

 

 これ見よがしなお嬢様口調。なるほど、所作からも育ちの良さがにじみ出ている。

 というか、そうか。人様の家の前でぶっ倒れていたわけかい僕は。

 

「それはお手数おかけして。申し訳ないです」

  

「ええ、本当に」

 

 わー、この人オブラートって言葉知らないのかしらん?

 まあいい。見知らぬ人の家にこれ以上長居するのも悪いしね。

 

「それにしても、助かりました。あなたは命の恩人です。一生忘れませんよ」

 

 よっこらせ、と痛む体に顔をしかめながらも僕は帰る支度をするべく服を探す。

 あれ、そういえば僕なんの服着てたっけ?

 

「お探しの物はこれでしょうか?」

 

 ようやく光に目も慣れてきたところで、僕より年下っぽい少女の声に振り向く。

 手に持っているのは間違いなく僕の隊服。

 あら、美人。そして、その美人には見覚えがあった。

 

 

 

「ねえ、”ロケット団さん”」

 

 

 

「これはこれは、誰かと思えばタマムシシティのジムリーダーさんじゃありませんか」

 

 無論、面識はない。ただ、ロケット団という組織の都合上、”正義のジムリーダー”の顔くらいは目を通している。

 目の前の少女、名前は、確か——————。

 

「エリカです。タマムシシティの正義のジムリーダー。キャッチコピーは『しぜんをあいするおじょうさま』ですわ」

 

 その表情は笑顔そのものだが、残念だ。敵意を隠そうともしていない。

 仲良くなることは、難しそうだな。

 

「なぜ私の家の前で倒れていたのか、何を企んでいるのか。お話しできますよね?」

 

 どうやらその為にわざわざ敵である僕を手当てしたらしい。

 が。

 

「残念無念また来年ってね。悪いけど、君の家の前で倒れていたのは偶然だし、企みもなにもないよ」

 

 この状況、完全に敵地ど真ん中。

 なのは、ロケット団だった頃の話だ。

 

「そんな言い訳が「通用するんだなこれが」」

 

 エリカお嬢様の言葉をさえぎって僕は口を開き続ける。

 

「だって、僕。ロケット団抜けてきたばっかだもん」

 

 ニコニコと言ってのける僕に、多少面食らうエリカお嬢様。いいね、優位性を保てるってのは。

 僕女の子には乗られるより乗るほうが趣味なんだ。

 

「それを、信じろ。というのですか?」

 

 まあ、すんなりとはいかないよね。

 

「でもしょうがない。事実だ」

 

「・・・・」

 

 譲らない僕に、多少考え込む仕草をみせるエリカお嬢様。

 ここぞとばかりに僕は畳み掛ける。   

 

「大体、おかしいだろ?なんで敵地ど真ん中でこんな下っ端崩れが倒れこんでいるのさ。僕なんて、悪・即・斬で切り捨てられるよ」

 

「それは、そうですが・・・」

 

 どうやら何かの確信があって言ってるわけではないようで。僕の言葉に揺れているのが丸見えだ。

 はは、勝てるな。この僕相手に口喧嘩しようなんざ百億光年早いんだよ!

 光年ってのは時間じゃなくて距離の話ってのは、勿論知ってるよね。

 なーんて思っていたら。 

 

「・・・わかりました。一つギブアンドテイクと行きましょう」

 

「・・・んん?」

 

 なんでか優位性が奪い取られていた。マウント奪い返されてた。

 

「ちょいちょい、僕は別に君らと敵対する気はないんだって」

 

 こんな丸腰の元下っ端を掴まえて、ジムリーダーさんも暇なんですね。

 

「あなたにはなくても、あなたの組織にはあります」

 

 そこで、とエリカお嬢様は言葉を続ける。

 

「あなたが本当に組織を抜け出してきて、我々と敵対するつもりがないというのなら証拠を見せていただきます」

 

「で、その証拠を見せたら一体全体僕にどんな利益があるっていうんだい?」

 

 大した器の大きさだ。鼠一匹から搾り取ろうとしてるんだから。

 

「身の安全と、怪我の回復をお約束いたしましょう」

 

 ・・・これは痛いところをついてくる。

 

「確かに、魅力的だ。特に身の安全ってのがデカイ」

 

 組織の追ってから身を守る場所が必要だったのは確かだ。

 加えてこのケガじゃあ追ってから逃げるのも一苦労だろう。逃げ切れないとは言わないけれど。

 

「では、交渉成立ということで」

 

「・・たまには踊らされるのも悪かない」

 

 なーんて掌で躍らすのなんて女の子くらいのものですが。

 

「それで?証拠って、いったい何を出せばいいのかな?ボスの正体?幹部三人の使うポケモン?それとも、本部の居場所とか?」

 

「——————、」

 

 はは、あからさまに動揺してる。顔に出やすいんだねえ。

 別にロケット団に温情なんてないし、ていうか最後にマチス様に殺されかけたせいでほぼほぼ恨み一色だ。

 だから知ってる情報は全部教えてあげてもいいんだけど。

 

「そうだなあ。面白いから一個だけ質問に答えてあげる」

 

「なっ!一個だけですか!?」

 

 思わず大きな声を荒げてエリカお嬢様は立ち上がった。 

 

「そうだよ。一個だけ。よく考えて質問してね」

 

「・・・あなたは!ロケット団の悪事に我慢ならなくなって抜け出したんじゃないのですか!?」

 

 思うところがあったのか、エリカお嬢様の音量は下がるどころか上がっている。

 ていうか、人の気持ちを勝手に決めつけないでほしいもんだね。

 

「悪事に我慢ならなくなって抜け出した、ねえ」

 

「なんです?」

 

「いいや、もとよりそんなものに興味はなかったなって思ってさ」

 

「悪事に興味がないのなら、どうしてロケット団なんかにお入りになったので?」

 

 大きな声を出したのが恥ずかしくなったのか、少々しおらしげにエリカお嬢様は尋ねた。

  

「最近よく聞かれるなあ。それ」

 

 どうしてどうしてって、皆そんなに他人に興味があるのかね。

 僕は一ミリだってないっていうのに。 

 

「とある目的があったのさ。でも達成できそうもないんで今時の若者らしくさっさと辞めたんだ」     

 

 いいだろ?今僕は自由の身だぜ?

 

「まあなんだっていいのさ僕の理由なんぞは。で?質問は決まったかい?」

 

「・・・ええ。決まりました」

 

 あら。案外すんなりと決まったもんだ。それとも最初から決めていたのかな。

  

「実験体のポケモンのこと。それを聞きたいのです」

 

 まっすぐと、芯の強いものの目だ。

 レッドと同じ。まっすぐに痛いほどこちらを見ている。

 

「それでいいのかい?ボスの正体でも、アジトの本部のことでもなく?地下の隠しアジトのことだって教えてあげられるぜ?」

 

「ならば、教えてください。あなたの正義で」

 

 一ミリも歪んでいないその背筋が。

 僕には威圧感にしか感じない。

 僕の一個だけ質問に答えると言った回答がそれか。

 曲げる気は、ないらしい。

 

「オーケー。僕の正義なんてものはちり紙にくるんで捨てるとして、その質問にはちゃんと答えよう」

 

 凛としたエリカお嬢様の姿勢に感化など絶対にされないけれど、それでも約束くらいは守ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——————————以上が、僕が知ってる実験体となっているポケモンたちだよ」

 

「ありがとうございます。助かりました」

 

 和室の大広間、畳何畳分だこれ?な、所で朝食を食べながら僕は情報を渡す。

 こんなに広いのに、僕とエリカお嬢様の二人だけ。寂しいねえ。

 実験体、つまりは組織の研究室であれやこれやと体をいじくりまわされているポケモンたちは大勢いる。

 その大半が失敗作なわけで、その失敗作の末路まで僕はちゃんと話してやったさ。

 

「・・・・・」

 

 流石は正義のジムリーダー様。大変思うところあるらしい。

 

「エリカお嬢様」

 

「なんです?」

 

 そんな二人っきりの朝食に、エリカお嬢様のお付きと思しき女性がふすまから顔を出す。

 

「例のポケモン。”イーブイ”の情報が手に入りました」

 

「なんですって!?それで、どこに!?」

 

 どうやら緊急の件らしい、客人を無視してまで話を進めている。あ、客人と思われてない説のほうが濃厚かな。

 

「それが、この近所です」

 

「はあ!?」

 

 素っ頓狂な声、今朝から何回か聞いてるので慣れたもんだ。

 なんて、吞気にお味噌汁をすすっていると。

 

「っ!!」

 

「ん?」

 

 ガバリ!と、勢い良く振り返ったお嬢様は。

 

「貴方!何か知りませんか!?」

 

「えー」

 

 すごい勢いで迫られて悪い気はしないけどねえ。  

  

「知・り・ま・せ・ん・か!!」

 

 わー、押しがすごい。

 何が彼女をそこまでさせるのか、なーんてことも本当は興味ない。

 だから、さらっと僕は答えた。

 

 

 

 

「知ってるよ。だって、それここら辺で逃がしたの僕だもん」

 

 

 

 

「は?」

 

 そしてどうやらまた、次の話に進むらしい。

   




どうもウェルカムトゥジャパリパーク!高宮です。
最近ずっと眠いです。いくら寝ても眠いです。太陽浴びても眠いです。
眠気をとる方法探し中です。
それでは皆さん次回もよろしく・・・zzz

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