ポケットモンスター~カラフル~   作:高宮 新太

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カントー編
一話 「VSとVHってなんか似てるよねー」


 

 

「いやー、ひっさびさに来たなー。マサラタウン」

 

 

 

 ポケットモンスター。縮めてポケモン。

 

 

 

「相も変わらずなーんにもないや」

 

 

 

 人ではない、けれど確かに人と暮らしている不思議な生き物。

 

 

 

「おいこら!カラー!何してる!?とっとと”例のポケモン”を探せ!」

 

 

 

 この世界ではそんなポケモンが時に、ペットとして人間に寄り添い。

 

 

 

「へいへーい。わかってますってー」

 

 

 

 時に友として人間と生き。

 

 

 

「まったく、人使いが荒いんだから。とんだブラック会社だぜ」 

 

 

 

 時に競い合い、鍛え、名誉と富を得る。そんな世界で。

 

 

 

「で、例のポケモン名前なんでしたっけ?」

 

 

 

 この男、長い黒髪を後ろで縛り飄々とした表情を携え黒い隊服に身を包んだその男。

 

 

 

「お前なあ!任務を適当に受けるなといつも言ってるだろ!」

 

 

 

 その名は、『カラー』。性別は男。年のころは15歳。

 

 

 

「僕もいつも言ってますよね。そんなに怒鳴るとまた白髪が増えちゃいますよ?」

 

 

 

 これはそんな彼の物語。

 

 

 

「てめえ!俺が気にしてることを!」

 

 

 

 そんな彼の、復讐の物語。

 

 

 

「てへっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、皆さんこんばんわ。こんにちわかな?おはようございますかもしれないね。

 僕が誰かって?やだなあ、さっき紹介があったじゃあないか。人の話はちゃんと聞いておくものだぜ?

 僕はカラー。年は15で性別は男。ほら、さっき言ったとおりでしょ。

 

「おい!そっちはいたか!?」

 

「いえ!見つかりませんねー」

 

 そんな僕が、一体全体何をしているかって?

 

「それはね、幻のポケモンってやつを、あ、カメラこっちか。幻のポケモンってやつを探しているのさ!!」

 

「誰に向けてしゃべってんだお前!?」

 

 さっきからガミガミとうるさいこの人は僕の上司、黒い服に黒い帽子。服の真ん中に真っ赤な彩色でRと書かれた服に身を包んだ見るからに怪しいおじさんだ。

 まあそんな僕ももれなく同じ服を着ているんだけど。

 

「いいから!さっさと幻のポケモン”ミュウ”を探すんだよ!!」

 

「はーい!」

 

「ったく、返事だけはいいんだ。返事だけはな」

 

 わーい、褒められちゃった。僕、褒められると頑張れるタイプなんだよね。

 ということでポケモン探し頑張りますか。

 ああ、そういえばここがどこだかまだ言っていなかったね。

 ここはカントー地方はマサラタウン。

 自然がいっぱいあるだけのただの田舎さ。

 そんな中でもここはとびっきり自然いっぱいだ。

 なにせ、森の中だからね。

 なんて言ったけかな、ここの森。もう名前忘れちゃったよ。

 ま、忘れたってことはたいして物語には重要じゃないから。思い出す必要ナッシングだ。

 

「あいたたた」

 

 なんて言ってる今もさっきから草にかぶれちゃって所々が痛痒いんだけどね。これもそれも任務だからしょうがない。

 そう、任務なのさ。

 僕の周りにも同じ服を着た人たちが目を皿にして一匹のポケモンを捕まえようと躍起になっている。

 そんな明らかに異質な集団だけど、不思議とクレームがこないのはここにほかの人がいないからで、加えてこの人たちの顔が恐ろしく怖いからだろう。

 

「ま、誰もこんな森の奥に好き好んで入ってこないんだけどー」

 

 そんなことするのは強いポケモンが欲しい自信過剰なポケモントレーナーか、好奇心旺盛な研究者くらいのものだろうよ。

 さて、そろそろ僕も本格的に探すフリくらいはしなきゃ、またお叱りを食らうのは勘弁だ。  

 

「おーい、ミュウちゃんやーい。お菓子あるよー。出ておいでー。ほらー、こんなに美味しそうなお菓子だよー」

 

「真面目にやれ」

 

 おっとっと。低く鋭い声がしたと思ったら、こりゃ運が悪いことに先ほどの上司と遭遇しちゃった。

 本当に怒っているようで、眉間にしわが寄せ合っておしくらまんじゅうをしている。暖かいといいけど。

 

「やー、やってますけどね。そもそもこんな田舎の森に幻のポケモンがいるんですかねー?だって幻ですよ?幻。それってつまり現実にはいないってことじゃないんですかー?僕はそれが疑問で」

 

「ボス直属の命令だ。お前みたいな下っ端は脳みそよりも手を動かせ」

 

「でもほら、嫌々やらされてるのと納得してやるのじゃ効率ってもんがね「いいからやれ」」

 

 僕のセリフの途中で被せるほどに、上司はどうやらカンカンらしい。ここは僕もおとなしく引き下がることにしよう。

 結構どうでもいいことだったし。

 幻のポケモン。それはこの世にいるかどうかわからない。神話上のポケモンだったり、誰も見たことがなかったりするポケモンのことだ。

 そんな眉唾物のポケモンが、どうやらこの森で見たという噂が流れたらしく僕らはこうやってボスの命令でそのポケモンを探している。

 あーやだやだ。大の大人が噂に左右されるってそれどうよ。いい大人なら話の分別くらいはつけてほしいよね、まじで。こっちだって暇じゃないんだ。

 という文句は全部心の中だけに留めておいて。僕は草むらを掻き分け、奥へ奥へと進む。

 次目をつけられたら、容赦はないだろう。あれはそういう目だった。

 

「・・・・・ん?」

 

 一ミリも期待していない僕に、なぜそれが現れたのか今でもとんとわからない。

 別段一ミリも神にお祈りをささげたことなどないのだけど、それは少し神様の力のような気がした。

 そして、誰でもない僕の目の前にそいつはやってきた。

 神々しいような、でも暖かいようなそんな光をまとった・・・・きっと、ポケモンだ。

 いや、これでも一応そこいらの一般人よりはポケモンに詳しいと自負はしてるぜ? 

 だけど、そんな自負は一瞬で搔き消えるほどに目の前の生き物はなんなのかがわからなかった。

 まあポケモンだろうと予測はしてみるものの、自信はない。

 見たことも聞いたこともない、白く眩いポケモン。

 そんなポケモンは十中八九。

 

 

 

 

 

 幻のポケモンだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁはぁはぁ・・・・!!」

 

 僕は森の中をひた走っていた。

 顔の怖い、ついでにオーラも怖い妻子持ちの上司に報告することすら忘れ。

 ただ、目先数メートル先を浮遊している光。幻のポケモンを追っかけていた。

 正直、幻のポケモンなんぞに興味はなかったけれどこれはボスが夢中になるのもわかる気がする。

 それほど魅力を持ったポケモンだった。

 強いのか知らない。どんな姿をしているのかは見えない。そもそも本当にポケモンなのかすら怪しい。僕が見ている幻覚のほうがまだ現実実がある。

 

「———————————?」

 

 そして、どれだけ走ったのかわからなくなったころ。その光の塊は止まった。

 

「あれは、人?」

 

 どうやら僕は森の入り口へと逆走していたらしい。どうりで他の隊員に会わなかったわけだ。他の隊員はみーんな奥へ奥へと進んでいるわけだからね。

 そんな僕を尻目に、光の塊はある一点で止まる。

 多少開けたその場所には、首からペンダントを下げたどうやらトレーナーらしき人物が斜に構えていた。

 そのトレーナーは横にポケモンを従えてその光の塊と戦うつもりみたいだ。

 そのポケモンはしっぽの先に炎を揺らめかせ、「わっちっちち」辺りなんてお構いなしに焼き払う。

 おいおい。自然破壊もいいところだなー。環境保護団体から訴えられろ。

 真っ黒な隊服がさらに黒焦げる前に、炎の巻き添えを食らわないように遠くに避難したところで僕は考える。

 とはいえ、これは運がいい。あのトレーナーと戦っているところをばっちり撮ってあわよくばゲット。が、できなくてもあれが本当に幻のポケモンなのか、そうならどれほどの強さなのか知ることができる。

 僕は隊員が支給されている安物のカメラを構えて、茂みの中に隠れた。 

 

「—————、——————。」

 

 何を言っているのかはちょっと遠くて聞き取れないが、どうやら手こずっているらしいことは見て取れる。

 トレーナーのほうはあくまでクールに表情を崩しはしないけど。

 あーやだねー、何でも分かった風な顔しちゃって。僕の苦手なタイプだ。

 あ、ポケモンを戻した。

 どうやら諦めるらしい。

 なんでえ。もっと弱らしてくんないと僕がゲットするの大変じゃん。

 

「なにやってんだ!チャンスじゃねえか!勝てそうなのになんでやめちまうんだよー!」

 

 その大きな声に思わず僕の体はびくりと震える。ああ、びっくりしたー。いっつも怒鳴られてるからつい反射でびびっちゃったよ。

 いいや、それよりも。

 

「あれは・・・・」

 

 赤い帽子を後ろ向きに被った少年が、僕とは正反対の茂みから現れた。どうやらこの戦いを見ていたのは僕だけではなかったらしい。

 が、その少年もポケモンを手にしているということはわかった。

 

「いけ!ニョロ!!」

 

 うずまき型の模様がおなかにあるのが特徴的なポケモン。そのポケモンと共にどうやら戦いを挑むらしい。

 

「うわ!!」

 

 だが、光の塊。いやこれで確信したあれは確かにポケモンだ。

 そのポケモンに赤いトレーナーのポケモンはあっさりと一撃でのされる。

 

「ニョロ!!?」

 

 ショックだったのか、血相を変えて自分のポケモンを支える赤い少年。

 

「————————、————。」

 

 ああもう、クールな方の少年はもっとこう大きな声ではきはきと喋れって親に教わらなかったのかな。親の顔が見てみたいぜ。何しゃべってるのかまったく全然聞き取れないや。

 もうちょっと近づこうか。そう思った瞬間。

 

「あ!!」

 

 まさか僕が近づいたからじゃあないだろうが、そのポケモンは高速でどこかに飛んで行ってしまった。

 

「・・・やべー、逃がしたことばれたら殺されちゃうや」

 

 冷や汗が頬を伝う。そんな僕のことなんてまるで気づかずにクールな方の少年は要は済んだとばかりにどこかへ立ち去って行ってしまった。まさかとはおもうけど、あれを目的にここにきたわけ?

 

「これは!?」「どうしたんだ一面焼け野原だぞ!!」 

    

 どうやら騒ぎに気付いて隊員たちが集まってきたようだ。

 なんて呑気に言っている場合じゃねえや。やべやべ、見つかったら絶対問いただされる。

 そうなれば減給は免れない。ただでさえ最近謹慎を食らったっていうのに。それは勘弁だ。

 ということで僕は他の隊員たちに気づかれないようにそっとその場を離れた。

 

「ま、手ぶらよかいくらかましっしょ」

 

 手中に収めたカメラと先ほどのポケモンが映った写真を大事に抱えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、はっはっはっ!運が良かっただけですよー!ま、日ごろの行いが良いせいですかね!」

 

 何の変哲もないただのビル。その地下深くに僕が所属している組織のアジトがある。

 先日撮った写真を上に報告し、今日はその報酬としてたんまりお金をもらったところだ。

 逃がしたことについては咎められなかったのでセーフ。

 そしてここはそのビルの中の一室。暗い部屋に液晶モニターの明かりが毒々しい。

 

「それにしてもこれは貴重だよ。ここまではっきり写っている写真はね」

 

 目の前にいるのは研究員のリーダー。カツラさんだ。サングラスにチョビ髭がよく似合っている。その手には先日撮った僕の写真をまるで恋人を見るかのごとく愛おしんでいる。

 ちなみに、ハゲているけどカツラさんだ。被ってないけどカツラさんだ。

 

「はっはっは。私にそんなことを面と向かって言えるのは君くらいだよカラー」

 

「いやー、それほどでもー」

 

「褒めてないんだがね」

 

 あれ?でも僕ってばほら、褒められると伸びるタイプですから。むしろ褒められてなくても褒められていると受けとれる人間ですから。

  

「それで、どうだった。ミュウは」

 

 カツラさんは色々な精密機械があるこの部屋でいつもポケモンを研究している。

 その研究を社会に貢献しようとしている大変偉い研究員さんなのだ。

 

「・・・馬鹿にしているのかね」

 

 おっと。これは触れちゃならないブラックボックスだった。僕ってば未だに間違えるんだから。反省反省。

 

「そんな怖い顔しないでくださいよ。ちょっと浮かれてるってことで許してください」

 

「・・・・・・」

 

 ヘラリと笑う僕の顔。そんな僕の誠心誠意込めた謝罪が伝わったのだろう。くるりとこちらに向けた体をカツラさんはまた青いライトが光る画面のほうへと向けなおした。

 怒ると怖い人だということはちゃんと忘れないでおこうっと。

 

「怒らせたお詫びに、ちゃんと質問に答えるとですね。なーんかよくわかんないってのが正直な感想です」

 

「ほう」

 

 どうやらカツラさんもミュウの話は興味があるようで少し声が上ずっている。

 よしよし、どうやら機嫌を直すことには成功したようだ。まったく現実ってのはギャルゲーより難解だぜ。

 

「幻?っていうんですか?まあ強いんでしょうけど、正直あれより強いポケモンなんて五万といるでしょう。価値としちゃ、高値で売りさばくくらいしかないと思うんですけどねー」

 

 それは本当に正直な感想だった。怖さ、強さで言えばウチのボスとそのポケモンたちのほうがよっぽど怖いし強い。

  

「ふふ、まあ常人にはそうだろうね」

 

 カツラさんはいかにも意味ありげなセリフで僕をけむに巻く。この人はいつだって肝心要のその真意を、こちらに伝えてはくれないのだ。

 

「例のトップシークレットの実験と、なんか関係あったりするんですかねー」

 

「さあね」

 

 カツラさんのその声にはなんの感情も乗っていない。ただ機械的に発した「さあね」だった。

 

「あ、話変わりますけどタマムシシティのゲームセンター行きました?面白そうだなーって思ってて、あそこ一度は行ってみたいんですよねー」

 

「それくらい行けばいいさ。それくらいの金はもらったんだろ」

 

「ええ、まあ。でもほら、僕根がチキンだからあんまり大きなお金かけるとブルッちゃうんですよー」

 

「失ったら、また取り返せばいい」

 

「・・・・そうですね、取り返せれば、いいんですけど・・・」

 

 ・・・・・・。

 

「ん?」

 

「いやほら、取り返そうと躍起になって挙句破産なんて笑えないでしょ?」

 

「それは、そうだな」

 

 なんてとりとめもない会話も、あっという間に時間が来てしまったようだ。

 

「おっと、僕これからオフなんですよ。町の女の子と遊びに行く約束してまして」

 

「そうかい。それは楽しんでくるといい」

 

「それじゃ、暇な時また来ますよ」

 

「いつでも来なさい。今度はお茶くらいだそう」

 

 そういって、僕はその部屋を後にする。

 

 

 

 

「まったく、食えないおっさんだぜ」

 

 

 

 

 聞こえないように配慮してそう呟いた後に。

 

 

 

 

「まったく、食えない男だ」

 

 

 

 

 おなじくカツラさんも同じ言葉を発していたことには気づかずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、久々のオフだ。いつもの隊服を脱ぎ捨てて、私服で僕はある街へと向かっていた。

 

「やあ、レッド。久しぶり」

 

 ある街、そうマサラタウンにね。

 

「え・・・・ええ!?兄ちゃん!?」

 

 赤い帽子を後ろ向きに被り、生意気そうな面したこの少年。

 名をレッドという。年はたぶん11とかだったと思う。

 驚愕満面の表情で僕を見るその顔が面白くって笑ってしまう。

 

 

 思えば明確な始まりというのをつけるのなら、僕の物語はここだろう。

 ここから僕の歯車はゆっくりと遠回りしながら、けれど着実に噛み合っていくのだ。

 

 

 ほら、こうすると一話っぽい締めくくりでしょ?

 

 

 町の女の子とはちょっーと違うけど、まあこれはこれで楽しいオフになりそうだ。 

 え?なんでこの少年を知っているかって?

 それはほら、次の話でってやつさ。

 

 




どうも皆さん初めましての方は初めましてそうじゃない方もここじゃ初めてだから、だから初めましてって言ってもなんにも間違ってないから。初めまして。高宮です。
さて、活動報告で書いた投稿予告、さっそくしょっぱなから破りました。まあ一時間だからいいよね?
ここからカラーとその周りの物語が始まります。
ここではあんまり作品のことに触れないので気になる質問、感想はこちらの宛先まで。ドシドシ送ってきてくださいねー。待ってまーす。

それではまた次回。シーユー。

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