高海達の初ライブの翌日、俺は激しく後悔していた。
なぜなら、これから女子高に入っていかなければいけないからだ。大抵の男子やどこぞの智也にこの話をしたらきっと羨ましがられるんだろう。だが、今の俺には恐怖でしかない。
マリーから色々な肩書を与えられ、それを了解したまではよかった。だが、俺の考えが浅かったのか、はたまたマリーに嵌められたのかは微妙なところではあるが、高海達の活動のサボートをするという事は、つまりこの浦女に・・・女子高に入らなくてはいけないと言う事だった。すなわちそれは、ダイヤに俺が陰でこそこそ動いて高海達の手助けをしていた事がバレると言う事であり、ばれたら絶対に暫くは口を聞いてくれなくなるだろう。下手をすれば一晩正座なんてのもありえる。以前ダイヤとのデートに寝坊して4時間くらいの大遅刻をかました時には、デートは中止になり、そのかわり半日正座をしてダイヤに説教されると言う事があったくらいだ。冗談ではなく可能性は大いにある。
「はぁ・・・。なんであんな簡単にOKしちゃったんだろうなぁ。ダイヤにバレる前にいっそ自分から打ち明けるか?・・・ないわ~。下手すれば正座はおろか、暫く飯も作ってくれないだろうなぁ・・・。かと言って他人からバレたらそれこそ何が起こるやら・・・。」
それに理事長であるマリーからの依頼であり、やましい事は何もないけど、文化祭や特別な事がないのに女子高に足を踏み入れるという行為に物凄い罪悪感もわいてきて、色々な意味で後悔しているのだった。
そして今俺は後悔しつつも受けてしまった手前逃げるわけにもいかず、重い足取りで浦女に向かっているのだった。と言っても自分の車で向かってるから重いのは足でなく気持ちなんだけど・・・。
「ん?あそこに居るのはルビィとマルちゃん?」
俺が浦女に向かう途中、防波堤の上で話をしている2人が見えた。このままクラクションを鳴らして挨拶だけして通り過ぎようと思ったが、近づくにつれ2人の表情がしっかりと見えるようになったが、何やら深刻な顔をしていたから車を止めて声をかける事にした。
「2人とも今帰りか?」
「え!?・・・あぁ、お兄ちゃん。」
「あ、お兄さん。こんにちわ。」
「おう。で、こんな所で何をそんな深刻そうな顔で話してたんだ?・・・はっ!!まさか男に言い寄られてて困ってるとかか!?どこのどいつだ俺の可愛い妹に色目を使う不届き者は!!」
「ち・違うよ!!そんなのじゃないよ!!」
「そうずら。ルビィいちゃんが可愛いのは分かるけど落ち着くずら。」
「はい・・・。」
ルビィに悪い虫が付いたかと思ったらついつい興奮してしまった。年下に窘められるとはお恥ずかしい・・・。
「で、違うんなら一体何に困ってたんだ??」
「えっと、困ってたと言うか悩んでたと言うか・・・。」
「ん??」
「ルビィちゃんがこの間ライブをした先輩達にスクールアイドルに誘われたずら。」
ほう、高海達がルビィを?それはなかなかお目が高い。ルビィは恥ずかしがり屋だが頑張り屋だし、スクールアイドルの知識もダイヤほどではないが豊富な上に、裁縫が得意だから優良物件だ。
「それはよかったじゃないか♪ルビィはずっとアイドルとかに憧れていたし、夢が叶ったじゃん♪」
「それが、そうでもないみたいなんです。」
「なんで?・・・あぁ、ダイヤか?」
「うん・・・。昔はお姉ちゃんもスクールアイドルが好きで、よくμ’sのマネをして歌ったりしてた。でも、高校生になって・・・夏休みに入る少し前くらいだったかな?ある日お姉ちゃんがスクールアイドルの雑誌を見たくないから片づけてって・・・。」
「そうなんだ・・・。」
あぁ、解散が決まってすぐくらいの時の事かな?ルビィは結局ダイヤがスクールアイドルとして活動してるのは知っていてもやっているところを見たことないし、解散の原因も理由も知らないんだった。確かあの時ルビィに辛く当ってしまったって、ダイヤに泣きつかれたんだったなぁ。
あれ以来、ダイヤもルビィも何も言わないから、言いそびれたままだった事も忘れていた。すまん、ルビィ。
「それ以来お姉ちゃんとスクールアイドルとかの話は一切しなくなって・・・・。だから、本当はね、ルビィも嫌いにならなくちゃいけないんだけど・・・。」
「どうして?」
「お姉ちゃんが見たくないってものを好きでいられないよ・・・。」
「ルビィ・・・。なんか、すまん。」
「どうしてお兄ちゃんが謝るの??」
「いや、なんとなく・・・。」
本当にごめん!!俺がちゃん話してあげていれば、ルビィもこんなに悩まなくて済んだだろうに、マジでゴメン!!そして、今更本当の事言えないし、ダイヤが今まで言わないのに俺が言う訳にもいかないし、色々ゴメン!!
「変なの。」
「ねぇ、ルビィちゃんは本当にそれでいいの??」
「花丸ちゃんこそ興味ないの?スクールアイドル。」
「マル!?ないない!!オラ運動苦手だし、オラ、オラとか言っちゃうし・・・。」
「じゃぁ、ルビィも平気。」
「・・・」
「まぁ、2人とも、そんな急いで結論出さなくてもいいんじゃないか?」
「「え?」」
「ルビィはダイヤの事は気にしなくていいから、やりたいようにやればいいし、マルちゃんも、そんな事気にしないで興味あれば挑戦してみればいいさ♪」
「でも・・・。」
「ずら・・・。」
「もちろん強制してるわけじゃないぞ?ただ、本当にやりやい事は何か、ゆっくり考えて答えを出せばいいと思う。それで、やらないなら、それはそれで全然ありだと思うよ。」
「うん・・・。」
「ずら・・・。」
そう、時間は無限じゃないけど焦る必要はない。焦ったり、本当の気持ちをごまかしたりしてもなにもいい事は無いんだから。今やりたい事、今しかできない事を思いっきり楽しんでほしいと、今なら言える。
「だから、そんな深刻な顔をするなって♪今を思いっきり楽しめばいいだけなんだから♪」
「うん。ルビィ、ちゃんと考えてみるね!」
「マルもずら♪」
「よし。なら、気をつけて帰れよ♪」
「「はーい♪」」
俺は2人を見送ってから車に乗り家に帰ろうとすると高海からメールが入っていた。そこには、いつ来るのか?と言う内容の文字が書かれていた。
そう言えば俺、浦女に向かってたんだった。ルビィ達と話していてすっかり忘れていた。いやウソです。浦女に行きたくなくて忘れようとしていました。
「はぁ・・・。腹くくっていきますか・・・。」
俺は再び車を走らせ浦女に着くと、流石に勝手に入るわけにもいかないので高海に連絡すると、今は近くの浜辺で練習しているとのことだったのでそちらに向かう事にした。正直浦女の中に入らなくていいと分かってかなりホッとした。
「お疲れ~。」
「あ、蒼谷さん。お疲れ様です。」
「ヨーソロー♪お疲れ様であります♪」
俺が声をかけると、桜内と渡辺が気持ちよく挨拶をくれたが、その後ろでアホ毛を揺らしながら高海が何やら不貞腐れていた。
「高海、どうかしたか?」
「どうかしたか?じゃないですよ!!来るの遅いですよ!!折角、部活動に承認された記念すべき初日に、こんな大遅刻してくるなんて!!おかげで部室の掃除が凄く大変だったんですよ!!ルビィちゃんには誘い断られちゃうし・・・。」
「うん、わかった。遅刻したのはすまなかった。だが、部室の掃除はちゃんと自分たちでしような?高海達の部室なんだから。」
「そうだよ千歌ちゃん。蒼谷さんは協力してくれる人だけど、運動部で言う監督やコーチみたいな人なんだし、浦女の生徒じゃないんだから。」
「あと、ルビィちゃんは蒼谷さんに関係ないわよ?」
そんなに関係ないと言われると、来るのに躊躇していたとはいえ疎外感を感じて寂しいんだけど・・・。
「と・とりあえず、明日からは遅れないようにするよ。大学があったり、用事もあるから毎日来るってのも無理だけど、来れるときはちゃんと来るから。」
「それなら、明日の朝練に付き合って下さいね♪」
「いや、すまん。それは無理だ。」
「えぇ!?」
「いや、朝は弱いんだよ。」
「むぅ!!」
「そのかわり、今度なんか奢ってやるからさ。」
「それなら・・・。絶対に約束ですよ?」
「はいはい。わかりました。」
「やったね曜ちゃん♪梨子ちゃん♪」
「今度何奢ってもらうか考えないといけないね♪」
「なんかすみません。」
「いいっていいって。」
とりあえず高海は機嫌を直してくれたようでよかった。まぁ、そのかわり俺の懐が厳しくなりそうと言う代償は大きい気もするが仕方ない。
そして、俺は高海達の練習をしばらく眺め、いい感じで日が暮れてきたので今日はお終いとなった。
おそらくこの時間ならダイヤはまだいると思うんだけどどうしようかなぁ・・・。何か適当な理由でもつけないと怪しまれるし・・・。うん、マリーに呼び出されたけどいなかった事にして迎えに行こう♪
俺はダイヤにまだ学校に居るか確認したところやはりまだいるようなので、高海達と別れダイヤを迎えに行った。ダイヤは『まったく鞠莉さんは!』と怒っていた。すまんマリー。濡れ衣を着せてしまった。
ダイヤと家に帰った俺は、なんか最近ウソが増えて少し後ろめたいなぁ、なんて考えながらダイヤの作ってくれた旨い夕飯を食べてからダイヤとのんびり過ごした。
そして翌日、俺が浦女に着くと状況が大きく変わり始めようとしていた。
なんかマルちゃんは「ずら」しか言ってない気もするけど気のせいだよね?w