浜辺で高海達を見かけてから数日が経った。結局あの後、高海達のグループの名前がどうなったか分からずじまいで、桜内あたりにでもメールで聞けばいいんだろうが、いきなり『グループ名決まった?』と聞くのもおかしいよなぁ、なんて考えていたら結局ズルズルと今日まで来てしまった。
そして、今俺は黒澤家に来ていた。今日は午前中にお琴の稽古があると言うので、午後から映画を見に行く約束をしていた俺は、折角だからダイヤが琴を奏でてるところを見学しようと頑張って早起きをして稽古風景を見学させてもらっていた。
ピンポンパンポーン
俺がダイヤの奏でる琴の音を聞きながら縁側でお茶を飲みながらまったりしていると、町内放送の始まりを告げる鐘の音が鳴り響いた。
『皆さんこんにちは!突然ですが、わたしは浦の星女学院2年の高海千歌です♪』
『同じく渡辺曜であります♪』
『桜内梨子です。』
『わたし達は、せーの!』
『『『浦の星女学院スクールアイドル、Aqoursです♪』』』
『待って、でもまだ学校から正式な承認貰ってないんじゃ・・・?』
『あ・・・。じゃぁ、えっと、浦の星女学院非公認アイドルAqoursです♪今度の土曜日の14時から体育館にてライブをやります♪』
『非公認って言うのはちょっと・・・』
『ならなんて言えばいいのーーーー!!』
『と・とにかくよろしくお願いしま~す!!』
ピンポンパンポーン
と言った感じの町内放送だったが、それを聞いた俺は大爆笑をした。いやぁ、マジで面白いなあいつら♪まぁ、この放送を聞いたダイヤはプルプル震えていたけど・・・。
「どうやらダイヤの企み通りグループ名はAqoursになったみたいだけど、ご感想は?」
「企むだなんて人聞きの悪い・・・。ですが、今は少し後悔してますわ・・・。」
「なんで?」
まぁ、なんとなくは分かるような気がするけど・・・。
「私は真面目に活動していると思ったからAqoursという名前を託したんです。なのに、あれではコメディグループみたいではないですか!!」
「確かに面白かったけどな♪」
根が真面目なダイヤにはああいったのは許せないんだろうなぁ。まぁ、俺からしたら、結構ポンコツで天然でボケをかますダイヤも高海達と似たり寄ったりな気がしないでもないが、この考えは飲み込んでおこう。ダイヤに言ったら暫く口を聞いてくれなくなりそうだし。
「でもまぁ、Aqoursの名前に決まってよかったな♪」
「それは・・・まぁ・・・」
ダイヤは嬉しさと、寂しさとほんの少しの苛立ちが混じった複雑な表情を見せた後、また琴を弾き始めた。俺はその音色を聞きながら時間までのんびり過ごし、午後にダイヤとデートをして家に帰った。
家に帰ると高海達からメールが入り、明日ビラ配りを手伝ってほしい、と入っていた。先日もヘルプのメールが入っていたが、大学の講義とかぶっていた為断ってしまったし、明日は暇しているので『了解』と返信をして俺は眠りに着いた。
そして翌日、沼津の駅前で高海達と待ち合わせをした俺は高海達と高海のクラスメイトとで駅前でビラ配りをした。暫くして高海達は練習をするので抜けると言って帰って行ってしまった。だがここで一つ困ったことが起こった。知り合いがいないこの状況はどうしたらいいのだろうか?ただビラを配ればいいだけなのだが、一緒に行動しているのは今日がはじめましての女の子、しかも女子高生だ。どっかのバカなら喜びそうな状況だけど、普通の俺はどう接したらいいものか悩んでしまう。
「蒼谷さん。」
「ん?渡辺?なんか忘れ物か?」
俺がビラを配りながら周りの女子高生に馴染めず悩んでいると、練習に向かったはずの渡辺が戻ってきた。
「まぁ、そんなところです。」
「で、何を忘れたんだ?」
「えっと、これを渡し忘れてまして・・・。はい。」
そう言って俺に差し出されたのは俺が今まさに配っているビラだった。これはあれか?もっと配れと?この間手伝えなかったから、その分も働けと??
「えっと、これは?」
「チラシですけど?」
「うん、それは見れば分かる。そう言うことじゃなくて、俺もまだ結構持ってるんだけど、これも追加で配れと?」
「あぁ、そうじゃなくてですね、このチラシを持って果南ちゃんのところに行って欲しいんですよ。」
「果南のところに?なんで??」
「まだ、果南ちゃんにライブやること伝えてないのと、果南ちゃんのところのお店にこのチラシを置かせてもらえないかなぁと思いまして♪」
「なるほど。」
「それと、流石に知らない女子高生の中に男の人一人は居心地が悪いと思いまして、この場から抜ける口実になれば、なぁんて♪」
渡辺よ、君は神かエスパーか??なんて気づかいの素晴らしい子なのだろう。
「正直、困っていたから助かる。サンキュウな♪」
「いえいえ♪」
俺にビラを渡した渡辺はクラスメイトに俺が抜ける事を伝えてくれ、練習に向かって行った。本当にどこまで気が利くんだあの子は・・・。
俺は一応近くに居た高海達のクラスメイトに挨拶をして、果南の家へと向かった。
果南の家に着くと、相変わらず忙しそうに機材のメンテナンスや酸素ボンベを運ぶ果南か見えた。
「よっ♪相変わらず忙しそうだな?」
「あれ、悠君?なんでここに居るの?」
「あぁ、ちょっと頼まれものをしてな。」
俺は鞄から先ほど渡辺から渡されたチラシを果南に渡した。
「ライブのお知らせ??」
「そ。今度、高海達がそのお知らせ。果南に伝えてくれって渡辺に頼まれてさ。ついでに、店にチラシを置かせてくれってさ。」
「それは構わないけど、悠君、この間曜と初めて会ったばかりだよね?」
「そうだけど?」
「曜は誰とでもすぐ仲良くなれるけど、一回しか会ったことない人にこんな面倒な事頼む子じゃないんだけど・・・はっ!!!もしかして悠君・・・」
「な・なんだよ?」
「まさか浮気してる?ダメだよ悠君。ダイヤを泣かせたら、いくら悠君でもただじゃおかないよ?最低でも魚の餌になるくらいは覚悟してもらうからね!!」
「んなわけあるか!!あと、最低でもって何だ!?最低が最高じゃないか!!これ以上に何があるっていうんだ!?」
「それは・・・ねぇ?♪」
「おい!!なんだその意味深な笑みは!!」
「冗談だよ♪」
いや、たぶん冗談じゃないだろう。昔から果南はダイヤとマリーが絡むと俺には厳しかったし・・・。
しかしそれ以上が本当にあるかは置いておくとして、魚の餌は言い過ぎにしても、絶対に何かする!!俺はダイヤを裏切る事は絶対にしないけど、ダイヤとマリーが絡むと果南は暴走するからなぁ・・・。
「まぁ、そんな事よりも千歌達のグループ名の事なんだけど・・・」
「そんな事って・・・」
「ねぇ悠君、一体何を企んでいるのかな??」
「企むって何だよ?」
「だってこの名前、『アクア』だよ?」
あえて触れなかったが、やっぱりと言うか、当然だけどそりゃ気付くよな。
「そんなの偶然だろ??」
「確かに『Aqua』だけだったら偶然かもしれないけど、『Aqours』だよ?この名前は造語なんだから偶然なんて考えにくいんだけど??」
ですよねぇ。反射的に誤魔化してしまったけど、造語が偶然かぶるなんて事まずあり得ないよね。とは言えここは押し通さねばダイヤからも果南からもお仕置きを受ける結果になってしまうような気がする・・・。
「本当に偶然だって!!俺だってそのチラシを見たとき驚いたんだぜ??」
「本当かなぁ・・・?」
「こんな事でウソつく意味はないだろ??」
「まぁ、確かに・・・。今はとりあえず信じてあげよう。」
果南はまだ飲み込み切れてはいなかったが、俺が引かなかったのでとりあえずは納得してくれた。まぁ、バレたら相当嫌みは言われるだろうなぁ・・・。
「それにしてもライブかぁ・・・。」
「なんだ、懐かしいのか?」
「まぁね。あの頃はなんだかんだで凄く充実してたと思うし、楽しかったからね・・・。」
「なら、またやればいいじゃん。折角マリーも帰ってきたんだし。」
「そうはいかないよ。わたし達もう3年生なんだよ?進路の事とか色々考えないといけないし・・・。仮にやったとしても、鞠莉にまた自分を犠牲にさせちゃうだけだよ・・・。」
「そんなのやってみなきゃ分かんないだろ?あれから、2年たったんだぞ?俺も果南も、ダイヤだって多少なりとも成長してるだろうし、あの時見つける事の出来なかった道だって見つかもしれないじゃん?」
「無責任なこと言わないで!!『かもしれない』ないなんて曖昧なものにすがって、また同じことを繰り返せって言うの?!」
「果南・・・。」
俺はこれ以上何も言う事が出来なかった。これ以上何を言っても果南を説得できないと言うのもそうだが、3人の気持ちを唯一知っているのに、これほどまで拗らせてしまい、上手く3人の気持ちを伝えてやれない俺が何を言っても余計に拗らせてしまうだけだと思ったからだ。
「心配してくれてるのにごめんね・・・。でも、もうあんな辛い思いはしたくないの・・・。」
「俺の方こそ悪かった・・・。果南の気持ちも考えず出しゃばったこと言った。」
「ううん、気にしないで。・・・とにかくこのチラシは店のカウンターに置いておくから、千歌達によろしくね。」
「あぁ。・・・なぁ果南?」
「なぁに?」
「スクールアイドルはやらないにしても、高海達のライブは見にくるよな?」
「・・・・。」
「高海達が歌ってるところを見たら、あの頃を思い出して辛くなるかもしれないけど、高海達頑張ってるから見に行ってやってほしいんだ。高海達もきっと喜びと思うし。」
「・・・考えておくよ。」
そう言った果南は店の奥の方に消えて行ってしまった。俺は店に1人取り残されてしまったが、いつまでも突っ立っていても仕方ないので帰ることにした。
そして帰りの定期船に乗り海をボーっと眺めながら今までの事を考えていた。
2年前のあの日、俺は何もできなかった。でも、あの時は何もできなかったがあれが最善なのだと思ったし、ああする以外出来なかったと思っていたし、それはダイヤ達もそうだと思っていた。
だけど、ダイヤと果南も距離が出来て、2人とも物凄く辛そうで寂しそうな顔をするから、何とかしたいと思って高海達を利用してまできっかけを作ろうとした。でも、ダイヤも果南もいい顔はしなかった。俺はただあの頃のように笑ってほしかっただけなんだけど、余計に辛い思いをさせてしまったらしい。一体どうすればよかったのか?これからどうすればいいのか全く分からない。
「なんか自分が嫌いになりそうだ・・・。」
俺の独り言は誰に届くことなく、海に吸い込まれ消えて行った。俺らしくも無く感傷に浸っていると、連絡船は対岸に着き俺は家路に着いた。
結局家に帰ってからも俺は、これからどうしたらいいか考えがまとまらないまま、高海達のライブ当日になってしまった・・・。
いかかがだったでしょうか?
今回は果南ちゃんの気持ちにスポットを当ててみました。
上手く書けませんでしたが、雰囲気だけでも伝わったらと思います。
本当は初ライブまで書ければとも思っていましたが、上手くまとめられなかったので、
次回にお預けですorz
では、宜しければ次回も読んでやってください♪