ルビィ達の入学式から一週間ほどたったが、困ったことにあれから何も進展がなかった。状況を引っ掻き回してほしいと思いマリーに、『浦女に新しくスクールアイドルが誕生するかもしれない』という事は連絡したのだけど、『分かったワ』の一言だけの返信が帰ってきたっきり連絡がつかなくなり、ダイヤの為に何かしてやりたくても状況も分からず手詰まりになってしまった。
そして今大学の講義も終わり暇になってしまった俺は、もともとダイヤが今日は家に来る予定だったんで、ダイヤを迎えにいつものコンビニに来たはいいが、さっき連絡を入れたら生徒会の仕事が忙しいらしくまだ1・2時間はかかると連絡が来た。
「まいったなぁ・・・結構待ちそうだし・・・寝るか?」
「きゃ!?」
コンビニの前で俺の愛飲ドリンク、モン○ターを飲みながらスマホをいじっていた俺は、ダイヤからの連絡を受け車の中で寝ようと思い、振り返ると丁度店から出てきた女性とぶつかってしまい転ばせてしまった。
「おっと!?す・すいません!!大丈夫ですか?」
「あ、はい。だいじょう・・・って蒼谷さん!?」
「はい??確かに蒼谷ですけど、どこかでお会いしましたっけ?」
ぶつかってしまった女性を起こそうと手を差し出すと、俺の顔を見た女性が急に俺の名前を呼ばれ面喰ってしまった。そりゃそうだろ?手を差し伸べた相手は美少女で、その美少女が俺の名前を知っているんだから。
「覚えていませんか?丁度一年くらい前に東京で助けてもらったんですけど・・・」
「だれに?」
「この流れで蒼谷さんじゃなかったら私変な人ですよね!?」
ですよね~。ん~~、一年前かぁ・・・。一年前って何してたっけ?えぇっと、確か勇さんに『生の現場を見せてやる』と言われて東京に行った辺りか?その時くらいしか東京行ってないしなぁ・・・。
俺は女性の顔をもう一度しっかりと見てみた。女性は見つめられ照れたのか顔を赤らめていたが今はそれどころではない。しかしこのワインレッド色の髪は見た事あるような・・・。
「もしかして、駅で迷子になって・・・」
「なってません!!」
「なら迷子を助けようとしたら自分も迷子に・・・」
「だからなっていませんっ!!と言うか、この年で駅で迷子になったりしません!!大体なんでそんなに迷子にこだわるんですか!?」
これは失敬。駅で迷子になった事があるのも、迷子と一緒に迷子になったのもダイヤだった。まぁ、そういう抜けてるところがまた可愛いんだけどな♪・・・って、違い違う!!そうじゃなくて!!となると後は・・・。
「ん~っと・・・・」
「本当に覚えてないんですか?」
「すまん!ここまで出かかってるんだけど・・・・。」
東京かぁ・・・。そう言えば、あの時不良に絡まれてる女の子を助けたっけ?・・・・・ん?あれ?
「あぁ!!」
「思いだしてもらえました??」
「思いだした思いだした!!確か、さ・・・さ・・・・・桜木さん?」
「違います!!桜内です!!」
「そうだそうだ!!桜内・・・梨香子ちゃん・・・だったっけ?」
「違います!!」
物凄い睨まれた・・・。ダイヤもそうだが、美人が睨むとかなりの迫力になるのはなんでだろう?そんなことより早く思い出さないと今度は泣かれるやもしれん・・・。
「えっと・・・り・・・り・・・梨子、ちゃん・・・?」
「やっと思い出してくれましたか?」
よかった。どうやら今度はあっていたようだ。あぶない、あぶない・・・。
「すまんすまん。人の名前とか覚えるの苦手でさぁ。」
本当はウソです。そこまで苦手じゃないけど、あの時の事はプロの仕事に興奮していて、それ以外の事をすっかり忘れていただけだけど、これ以上いらんこと言ったら泣くどころではなく怒らせそうなので誤魔化しておこう。
「あの時はお世話になりました♪」
「気にしなくていいって♪それよりどうしてここに?てか、その制服は浦女の制服だよな?」
「はい・・・・。まぁ、色々ありまして・・・。」
ふむ、何か訳ありみたいだしあまり深くは聞かないでおこう。ダイヤ達の事があってついついお節介をしたくなるが、良く知らない・・・しかも女の子からあれこれ聞くのは良くないよな。
「そうだ、もしお時間があるようなら少し相談にのってもらえませんか?」
「へ!?べ・別にいいけど・・・」
「けど?」
「いや、俺なんかが聞いていいのかなぁって。桜内の事はよく知らないし、年頃の女の子はそう言うの嫌なんじゃないかなぁと・・・」
「他の人だったら絶対に嫌です!!でも蒼谷さんにならいいかなぁって///」
「ん?」
「いえ///ほら!私の事助けてくれましたし、『困っている人がいたら助けるのは当然』って言ってたじゃないですか?だから、良い人なのは分かりますし///」
「一年前の事なのによく覚えてるなぁ?俺そんなこと言ったか?」
「はい♪」
「そっか。それなら、話を聞かないわけにはいかないな・・・。ならちょっと待っててくれないか?」
「え?あ、はい?」
俺はコンビニに入り2人分の飲み物を買ってきた。込み入った話になりそうだし、ただ立ち話するのもなんだしね。
「おまたせ。はいこれ。」
「え?」
「俺のおごり。ただ話すだけってのも意外に疲れるしさ、向こうで座りながら話そう♪」
「あ、はい!それと、飲み物ありがとうございます!!」
飲み物を買い終えた俺はコンビニ裏にある堤防に誘い、そこに座り桜内の話を聞かせてもらった。
桜内の話の内容を要約すと、去年まで東京の高校に通っていて、そこで子供の頃からやっていたピアノの大会の為に曲を作ったが、ある時からピアノが弾けなくなり、当然ながら大会でも弾けず、応援してくれていた友達や同級生達の目が怖くなり逃げるようにここに引っ越してきたということだった。
「そっか・・・大変だったな。なんとなくだけど桜内の気持ち分かるよ。」
「そんな簡単に分かるなんて言わないでくださいっ!!私は・・・はっ!!す・すみません!!私から相談したのに・・・。」
「気にしなくていいよ♪」
桜内は声を荒げた事にハッとして、謝ってきた。
「でも・・・。」
「俺も似たような事あったから、完全に分かる、なんて言えないけど理解はできるからさ。」
「え?」
「俺さ、将来は編曲とかの仕事をしたいって思ってるんだ。」
「編曲ですか?」
「うん。それで、今はプロの人に色々教わってるんだけど、当然ながら実力の差を痛感したり、思っている物を上手く表現できなかったりしてさ・・・。ついこの間までそれなりに納得できていた物が、ある日を境に全然納得できない物になったりね・・・。」
実際、一年前にプロの現場を見せてもらった後はその凄さに興奮を覚え、その後は暫くスランプに陥ったしね。あの時はプロの凄さを目の当たりにして、自分の作ってる物が子供のお遊びの様に思えて、色々と試行錯誤したりしてかなり苦しんだなぁ・・・。
「私と似てる・・・。」
「それに、勇さん・・・そのプロの人が見込みはあるって言って教えてくれていたから、少し自惚れていたところもあったとは思うんだけど、それにしても俺の目指している場所があまりにも遠くて、焦ったりもして余計にいいものが出来なくて、勇さんに申し訳ないやら、自分が情けないやらで悪循環に陥っていたよ・・・。」
「それで、蒼谷さんはどうなったんですか?今もまだそこにいるんですか?」
「いや、俺は最近だけどそこから最近抜け出せたよ。」
「ど・どうやったんですか!?」
桜内は俺があの状況から抜け出したと聞いて身を乗り出してきた。それほどまでに桜内は追い込まれていたのだろう。どんな些細なことでもいいから今の状況を変えられるヒントが欲しいんだろう。とは言え、俺のは参考になるか怪しいが・・・。
「ん~・・・しいて言えば、周りの人おかげ、かな?」
「周りの人?」
「あぁ、俺が落ち込んでる時に、あまり詳しくないのに俺の作ったものを聞いて意見をくれる人や、俺の心境を無視して馬鹿やって俺から悩む時間を奪った奴がいたりね・・・。」
ちなみに前者はもちろんダイヤだ。そして後者は最近存在感が薄くなっているが智也だ。
「でも、それだけだと何も変わらないですよね?」
「そうだね。でも、そのおかげで、投げ出さずに来れたんだと思う。」
「そうですか・・・・でも、それなら時間が解決してくれたってことですか?」
「それも違うよ。・・・・あ、いや、そうとも言えなくはないか・・・・」
「どういうことですか?」
桜内は訳が分からないという顔をしていた。まぁ、こんな返答なら当然だよね。
「実は俺のスランプは勇さんに仕組まれたものんだったんだよ。」
「はぁ・・・。」
「ちゃんと話すと長くなるから掻い摘んで話すね。」
「はい・・・。」
要約するとこうだ。実際のプロの現場を見る事でその場の空気を感じてほしいと言うのは本当だが、それと同時に俺とプロとの差を実感してほしかったそうだ。
俺なら自分とプロの間にどれくらいの差があるのか分かるだろうし、それによって俺がスランプになる事も分かっていたが、プロを本気で目指すなら必要なことだったと言われた。プロともなれば納期だ、流行りだのあり、若くて力もある新人だってどんどん後を追ってくる。そんな中で何度も壁にぶつかるし、それら全てを乗り越えられなければプロとしてやっていけない。今回はその壁を1人で乗り越えられるとは思っていないが、諦めずもがき続けられるかが見たかったそうだ。結果、勇さんの読み通り1人では越えられなかったが約1年諦めずいた事により、勇さんから合格を貰い、そして種明かしをされた。
「そんで、勇さんには『今のお前とプロとの間に大きな差があって当たり前だ。でも、俺はお前の作る音は結構気に入ってる』って言われて目が覚めたんだ。」
そう、俺は無意識にプロの人たちの音を意識するあまり勝手にスランプに陥っていたのだ。だから勇さんに言われ、今はとにかく俺らし音を作る。その中で知識と技術を磨けばいいんだと、初歩的な事だけれどそれに気づけた事によって俺はスランプを脱したのだ。
「そうだったんですね。」
「参考にならなくてごめんな。」
「いえ!気にしないでください。」
「ただ、アドバイスになるかは分からないけど、スランプの抜け方なんてのは色々あると思う。それこそ時間が解決してくれたり、誰かの何気ない一言がきっかけだったり・・・。だから、もう少し肩の力を抜いて周りを見渡す余裕を持ちな。」
「でも・・・。」
「なんなら他の事をしてみるのもいいかもしれないぜ?」
「諦めろってことですか?」
「そうじゃないよ。ただ、一度離れて全く違う角度から見てみるんだよ。もしかしたら意外にあっさり答えが見つかるかもしれないよ?」
「そうでしょうか?」
「たぶんね。だから少しでも気になる事があったら関係ない事とか何でもやってみたらいいさ。無駄な事なんてたぶん一つもないから。」
「・・・・」
それから桜内は少しの間黙っていた。今の話を聞いて思うところでもあったのかな?まぁ、俺の話がほんの少しでもなにかのきっかけになってくれたらいいんだけど・・・。
「蒼谷さん、今日はありがとうございました。」
桜内が黙ってから10分くらい経っただろうか?桜内は立ち上がると笑顔でお礼を言ってきた。
「もういいのか?」
「はい。蒼谷さんと話せて何か見えそうな気がしました。って言っても、そんな気がしただけで、まだどうしたらいいかわかりませんけど・・・」
「そっか。まぁ、焦ってどうにかなるもんでもないし、とにかく思い詰め過ぎない事だ。」
「はい♪それじゃ、そろそろ帰りますね?」
「あぁ、気をつけてな。」
「あっ!!」
「ん?」
「その前に連絡先教えてもらってもいいですか?」
「別にいいけど?」
俺と桜内はお互いの連絡先を交換した。俺の連絡先を見て桜内はどこか満足げな顔をしていたようにも見えたがなんでだろう?
「もし何かあったらまた相談に乗ってもらってもいいですか?」
「あぁ。大したことは言えないと思うけどそれでいいんならな。」
「ありがとうございます♪」
そして桜内と別れた俺は、ダイヤから連絡がなかったかスマホを取り出し確認したが、ダイヤからはまだ連絡が無かった。
『ぶっぶっぶーーっ!!!ですわっ!!!』
車に戻ろうとすると、学校の方からダイヤの声がスピーカーから大音量で聞こえてきた。あまりの音量に物凄くハウリングしていて、通行人が何人も耳を塞いでいた。
何やら面白そうな事になってそうだけど、愛しの彼女は今度はなにをしている事やら♪
俺はそんな事を思いながらダイヤが戻ってくるのをルンルンで待っているのであった♪
いかがでしたでしょうか?
悠君と梨子ちゃんが再会しましたね♪
これで新生Aqoursと繋がる準備ができました♪
そして、この場をお借りして、
ノブオ様、高評価ありがとうございます♪
また、新たにお気に入りとうろくをして下さった皆さまありがとうございます♪
こんなですが、これからも頑張って書いていきますので、よろしくお願いします♪
ではまた次回も宜しければまた読んでやってください♪