もしも友沢が投手を諦めるほどの天才の親友がいたら・・・ 作:八百屋財団
帝王野球部一軍グランド マウンド
「フフフ、やっぱ名門の四番なだけあって凄いね、蛇島先輩」
マウンドの中心に居る雛壇は笑顔である。普段と変わらぬ笑顔だが・・・
「フフフ、絶対三振させる!」
背中には仁王が立っていた。どう見ても阿形と吽形だ。
二柱とも物凄い気迫を発している。
「おい、どうなってんだこれ・・・。てかなにアレ?スタ〇ド?」
「キャラ変わりすぎだろ・・・。近距離パワー型?それとも群体型?」
「笑うという行為は本来攻撃的な(ry」
普段の雛壇からは考えられないほど、闘志に溢れた姿に困惑する紅組レギュラー。
普段の雛壇は「温厚」が服を着てるような穏やかな少年なのだ。
間違ってもこんなシグ〇イとかジ〇ジョとか、
絵柄が濃いキャラではないのだ。ないのだ(二回目)。
「あ~・・・、まあ大丈夫だと思うぞ」
困惑している空気の中で口を開いたのは奥居。
「今の祭は言うならば
「まあ挑発されてやる気が満ちたと思えばいいさ」
奥居が確信をもった口調で説明し、友沢がそれに付け加えた。
「そ、そういう事でしたか・・・」
「まーお前たちがそういうなら大丈夫だな」
「そうだな」
奥居達の説明で与志を含む複数は納得したようだ。
「雛壇君、本当に大丈夫?」
「大丈夫!大丈夫!!絶対三振に打ち取る!!!」
「本当に大丈夫かなあ~・・・」
やる気満々の雛壇を見て、レギュラー一同は正位置に戻ろうとした。
「あ、ごめん日下部君、ちょっと待って」
「ん?どうしたの?やっぱり何か不安でも・・・」
しかし日下部だけは雛壇に呼び止められる。
因みに雛壇は仁王はそのままだが、笑顔は崩れて普通の表情だ。
仁王はそのままだが。
「次に投げる球だけど、———を投げたい。というか———で抑えたい」
「ええ!?それは本気かい!?」
「ごめん、無茶なお願いだと思うけど、今回は譲れないんだ」
「・・・」
「お願い」
悩む日下部に、グローブを脇に挟んで両手で拝む雛壇。
仁王は拝まない、彼らは拝まられる側だからだ。
「分かったよ。元々は僕の采配ミスが生んだ展開だからね、今回は君に従うさ」
「日下部君・・・ありがとう」
雛壇は日下部に感謝を伝えた。
先程とは違う、自然な笑顔だ。
「プレイボール!」
主審の言葉で試合が再開される。
「さて・・・次は遠くまで飛ばさせてもらうよ(・・・雛壇の後ろに何か変なのが見えるような・・・気のせいか?)」
「・・・」
再度挑発する蛇島。しかし今の雛壇には通じなかった。
やる気はもう充分満ちたのだ。
「(ストレートか!しかも同じコースとは・・・舐めやがって!)」
蛇島は狙い撃つ。来る球が分かっていれば強打するのは容易い。
しかし蛇島の予想は外れる。
「ッフ!」
「・・・!?」
雛壇は第二球を投げた。そしてそのコースに蛇島は驚いた。
「(ば、馬鹿な!?)」
キュルルルッ、カクンッ!
ボールはバッターの手元で変化し、急降下した。
投げたのはストレートではなくVスライダー。
全く同じコース、全く同じ球種で、
ブンッ!
バシンッ!
「す、ストライークッ!ツー!」
四番を空振りに打ち取った。
「(何だ今の球は・・・本当に一球目と同じなのか?)」
全く同じコース、全く同じ球種。だが別物だった。
速度が違う。変化量が違う。何よりも「キレ」が違った。
蛇島が困惑してる間にも、雛壇は投球姿勢に移り終えていた
「ッフ!」
「・・・!?」
雛壇は第三球を投げた。そしてそのコースにまたも蛇島は驚いてしまった。
「ふざけやがって・・・」
思わず声に出る。取り繕う余裕もないほど怒りに染まっていた。
蛇島は確信した。この球は落ちると。そしてバットを振る。
どのタイミングで曲がるか、どれだけ落ちるかはさっき確認した。
あとは捉えるだけ、
キュルルルルルルッ、カクンッ!!
「(!?、さっきより「キレ」が増して)」
ブンッ!!!
バッシンッ!!!
ボールがミットに収まる音が響く。
時が止まったように辺りが静まり返る。
「・・・・・す、ストライークッ!バッターアウトッ!!チェンジ!!!」
主審の言葉がこの打席の勝敗を告げていた。
「ありえない・・・何だ今の球は・・・」
蛇島は信じられないものを見たという顔をしている。
投げられた三球。一球を投げる事に「キレ」が上がった。
今までの投球が手を抜ていた?その可能性はある。
だがもしそうでなかった場合、
即ち二球目三球目は、通常時より「キレ」を上がったという事だ。
変化球の「キレ」を生み出すのはボールの回転数だ。
回転数が多ければ多いほど、より「ノビ」や「キレ」がある球になると言われている。
だが回転数を上げる事はそう簡単な事ではない。
握力や手首の強化、何百回という練習の果てに得る独特の感覚。
そういった地道な練習の果てにようやく得られるものなのだ。
ではその球の「キレ」が精神の変化で、通常時より上がるのかと言えば不可能ではない。
精神状態次第でパフォーマンス性の変化幅は大きく変わるが、
低下ならともかく、上昇だと限度はあるのだ。
普通に考えてどれだけ高揚しても、
平均140キロ代のピッチャーがいきなり160キロの球は投げれないし、
暴投を繰り返すピッチャーがボール一個分単位の制球はできないのだ。
もし「キレ」を精神の変化などで能力が上げられるとしたら・・・、
「(僕以外には手を抜いていたのか・・・。そうでなければ・・・)」
練習の果てに、本番で本来の実力が出た努力家か、
「・・・化け物め」
努力という過程を省略する「天才」だけである。
帝王野球部一軍グランド 紅組ベンチ
「・・・」
雛壇は帽子を目深に被りうつむいてる。
仁王は休んでいる雛壇の両隣に立っており、
未だ周りを威圧していた。
そのため雛壇の半径2メートル以内に空きスペースが出来ていた。
「おい、いつになったら戻るんだアレ」
「まさか・・・試合が終わるまでずっとあんな感じ?」
「てか狭いよ、もうちょい寄ってくれ」
「い、嫌だよ。アレに近づきたくない・・・」
「マウンドの時は饒舌なのに、ベンチでは無言なのが怖い・・・」
端に逃げたチームメイト達がヒソヒソと話をする。
しかしそんな雛壇に話しかける勇者がいた。
マネージャーの丸田である。
「お疲れ様です雛壇さん。とりあえず水分補給でもどうぞ」
「・・・」
丸田はドリンクを手渡し、雛壇は無言で受け取る。
その時である。
今まで周りに威圧を振りまいてた仁王の姿がだんだんと薄くなり、
ついには完全に消え去った。
心なしか消える際に、仁王の顔が少しだけ和らいだように見えた。
「あ~スッキリした~。あ、丸田君ドリンクありがと~」
バッ!と顔を上げた雛壇はいつもと変わらぬ笑顔であり、
先程とは違う、いつもの穏やかな雰囲気を纏っていた。
「良く分かりませんが、戻ったようで何よりです」
雛壇の突然の変化を目の前にしても、丸田は冷静に返した。
丸田は大物なのかも知れない。後に紅組全員がそう思った。
未だ突然の変化に対応できず固まってるチームメイトが居る中、
奥居と友沢が開いていた(避けれれていた)雛壇の両隣に座る。
「無事・・・還って来たか・・・」
「何を悟ったような顔で言ってるんですかあなたは」
「ああ・・・本当に良かった・・・」
「友沢君まで!?」
「いや~山口先輩への意趣返しが出来て良かったよ~」
「あなた本当にマイペースですね!?」
事の張本人を含めた親友トリオのボケを捌く丸田。
「後に彼のツッコミ芸は帝王野球部の伝説に・・・」
「残しませんからね!というかどこに向かって話してるのですか奥井君!」
奥居のボケに適度に対応する丸田。
意外と仲が良いのかも知れない二人であった。
新入部員歓迎紅白戦。序盤はどちらもヒット一本は出るも得点に至らず、
0—0で二回へと移った。
闘志モード
主人公・雛壇の闘争心に火が付いた状態。
全ての能力が上昇し、
青の特殊能力が金の特殊能力に変わる。
ただし投球に柔軟性が欠ける。
今回だと打たれたコースに打たれた球種のみで三振を取ろうとする。
頑固で意地を張ってる状態なので、キャッチャーとの話し合いで抑えるのは無理。
この状態になると「劇的な勝利」か「劇的な敗北」しかない。
イメージ的には栄冠ナインの選手ごとの固有コマンドみたいな感じで、
急激に能力と技術が上がるのを、
小説で書いて見たらどうなるんだろうと思って、書きました。