もしも友沢が投手を諦めるほどの天才の親友がいたら・・・   作:八百屋財団

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今回は完全に説明会。次回は互いの戦力分析等で、次々回がプレイボールの予定。


紅白戦準備とスラッガー

「し、新入部員歓迎紅白戦?」

 

奥居は聞きなれない単語にオウム返しをしてしまう。

 

「そうだ。ここ帝王野球部に入部してくる奴らは、中学時代に何らかの成績を残した者が多い。中には即スタメンも張れる奴もいるかもしれない。本来なら貴様ら新入部員は全員二軍スタートなのだが、この紅白戦で好成績を残した者は昇格定期試験を飛ばして即一軍入りさせ、場合によってはスタメン入りもあり得る。またこの試合で低成績でも退部にはせんから安心しろ」

 

「・・・・・・・・・」

 

監督の説明で新入部員達は一度静まり。

 

「うおーーーーー!!!」

 

一斉に歓声が沸いた。

 

「マジか!?マジか!?」

 

「この試合で活躍するだけで一軍入り!一年でスタメンも夢じゃない!」

 

「低成績でも退部じゃないんだ。安心して挑めるぜ!」

 

「よっしゃー!オイラの伝説はここから始まるぜー!」

 

破格とも言える昇格条件に新入部員の多くは歓喜する。ちなみに最後の発言は奥居だ。

 

「・・・浮かれてるな」

 

「悪い傾向だね~。()()()()何だろうけどね~」

 

多くは歓喜した。しかし一部の聡い少年たちはこの試合の別の意味を読み取っていた。

友沢は楽観的すぎるチームメイトに呆れ、雛壇は変わらぬマイペースで意味深な発言をこぼす。

 

「喜ぶのもそこまでにしとけ貴様ら。これよりワシらは上級生達を連れて一軍グランドに向かう。詳しい試合説明は丸田から説明がある。しっかりと聞くように」

 

そういうと監督は上級生をすべて連れて一軍グラウンドに向かった

 

 

 

「それでは皆さん詳しく紅白戦の説明をさせていただきます」

 

丸田は監督から預かった書類を片手に説明を始める。

要点をまとめると以下の通り。

 

・試合場所は一軍グランド。

・五回までやる。五点差でコールドあり。

・上級生チームこと白組は現在の帝王野球部スタメンメンバー。

・新入部員チームこと赤組は選抜メンバーがスタメン。

・赤組及び白組は事前に調べた情報を利用し、相手チームへの偵察を禁じる。

・日程は三日後の午前10時プレイボール。

 

「ではここまでで何か質問はありませんか?」

 

丸田は淡々と説明を終わらせ、質問を集める。

 

「は~い」

 

まずは雛壇が手を上げる。

 

「では雛壇さん」

 

「この三日間で僕たちは何をするんですか~?」

 

三日間とは絶妙な期間である。

十分な対策をするには時間が足らず。

付け焼き刃をするには足りる期間だ。

 

「いい質問です。この三日間で皆さんは能力測定とオーダー決めをやってもらいます。ここで測った結果は紅白戦後に監督に報告するので、皆さん全力でやってください。」

 

「わかりました~」

 

「他には?」

 

「はい」

 

次に手を上げたのは日下部だ。

 

「では日下部さんどうぞ」

 

「相手スタメンチームの情報が欲しいんだけど」

 

チームの指令塔であるキャッチャーにとって相手チームの情報は重要だ。

ただし最近だとそういう「頭脳派キャッチャー」が減っているのは悲しい事である。

 

「それは明日のオーダー決めの時に話します」

 

「それなら分かったよ」

 

「時間も押してるので最後に一人どーぞ」

 

「はい!」

 

最後に手を上げたのは奥居。

 

「・・・では奥居さんどうぞ」

 

丸田は少し嫌そうな顔をする。何を言うのか予想がついてるからだ。

 

「向こうのチームには瀬久維さんがいるけど、こっちには女の子はいないの!?」

 

「居ないです」

 

丸田、安定のセメント対応。予想通りの質問であったからだ。

 

「ちくしょーめ!」

 

「それはあなたじゃなくて監督でしょう。いいから能力測定しますよ」

 

むなしい叫び上げる奥居をよそに、丸田と新入部員達は準備を始めた。

 

 

 

能力測定は5つの分野に分かれる。

フリーバッティング(打力)、ノック(守備力)、100m走(走力)、遠投(肩力)。

そして実際にバッターとピッチャーとキャッチャーを揃える実践練習である。

 

フリーバッティング

 

ピッチングマシン「球青年」が放つ10球をどれだけ打てるかという練習。

「球青年」は130~140km/hのストレートと変化の低いカーブ,スライダーを放つ。

 

「貰ったー!」

 

カキーーーン!

 

奥居 10球10安打2本塁打でパーフェクト。

 

「甘いな!」

 

カキーーーン!

 

友沢 10球10安打4本塁打でパーフェクト。

 

「打撃も得意だよ!」

 

カキーーーン!

 

雛壇 10球8安打

 

「あの三人は凄いな、僕もアレだけ打てればな・・・」

 

日下部 10球4安打

 

「くそー!亮に負けちまった」

 

「10球勝負だからな、俺が有利なルールだった」

 

「打率だけならノリくんのが上だしね」

 

友沢に負けて悔しがる奥居とフォローする雛壇。

他の新入部員を突き放す好成績を残した3人は、まだまだ余裕そうである。

 

「ん?亮くんノリくん」

 

「なんだ?」

 

「どうかしたか?」

 

「あの人・・・・」

 

二人を呼んだ雛壇は一人の人物を指さす。

赤い髪に鍛えられた大きな体に大きな顔。

ただしその見た目に相反して口調はとても気弱で腰が低い。

柔軟で力を入れ過ぎた少年、与志剛志であった。

 

「亮くんよりもホームラン打つよ」

 

「何だと?」

 

普段の伸びきった言葉でなく、短く確信を持った言葉である。

その言葉を聞いた友沢は自然と与志への視線を強める。

三人が注目する中、ピッチングマシーンは球を放つ。

 

「フンッ!!!」

 

カッキーーーーーン!!!

 

与志 10球6安打6本塁打

 

「ふう・・・」

 

フリーバッティングを終えて一息、そんな与志の元に三人が近寄る。

 

「お見事。豪快なフルスイングだったぜ!」

 

「え?あ、どうも」

 

「全球フルスイングで6割とは、間違いなく天性のスラッガーだな」

 

「あ、ありがとうございます?」

 

突然奥居と友沢の二名に称えられて困惑する与志。

 

「お疲れ様~。僕は雛壇祭。ポジションはピッチャー。よろしくね~」

 

「えーと、与志剛志です。ポジションはファーストと外野です。よろしくお願いします」

 

変わらずマイペースで自己紹介をする雛壇。

話の主導権を握るのが上手いのかもしれない。

 

「友沢亮。ポジションはショートだ」

 

「奥居紀明。ポジションは同じく外野だ!」

 

さっきと同じく自己紹介する二人。

 

「ところで与志くんはどこの中学で野球やってたの?あれほど凄いスイングなのに全然噂を聞かないけど~?」

 

「いや私は」

 

「そこの四人!次はノックに移りますから早く移動してください!」

 

雛壇の質問に対して与志が答えようとしたが、二軍監督代行の丸田が移動を急かしたため、この質問の答えを知るのは紅白戦の後である。

 

 

 

与志剛志。後に歴代帝王野球部の最強のスラッガーの一人に数えられる人物であるが、

今は体は大きく気が小さい、探せばどこにでもいるような少年である。

彼の才能が完全に開花するのはもうしばらく先の出来事である。

 




オリジナル設定⑪新入部員歓迎紅白戦による昇格。紅白戦については次回についても書きますが、「即戦力を一軍入りさせる」も理由の一つです。プロならともかく、アマで金の卵を二軍で時間かけて煮るのはナンセンスです。

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