彼女がモテないのは性格がダメダメだからでしょう   作:ラゼ

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遅くなりました。オーバーロード、まどマギの最終話も更新してますのでよければご覧ください。


吾輩は猫になる

 超能力とはいったいなんなのだろうか。実際に持つものとしてそれを考えた時、やはりなにかを超越した能力としか言いようがない。あえていうならば、身体的なものではなく魂とかそういったものと密接に関わりがあるんじゃないかと思っている。

 

 何故かと問われれば答えに窮するのだが、結局のところなんとなくとしかいいようがない。ただ能力そのものは魂に連なるものとはいえ、それを処理するのは体――延いては『脳』である。

 

 読みすぎたり、特殊な使い方をしてしまうと身体的にも精神的にも影響が出るのは、詰まるところ脳の処理速度が追い付かなくなるからだろう。並列思考などできればまた違う景色でも見れたのかもしれないが、天はそこまで贈り物をしてくれなかったのだ。

 

 まあこの美少女っぷりと二度目の人生と、更には運動神経と柔らかい頭を持っている時点で二物も三物も与えてくれてはいるわけだけどね。さて、何故わざわざこんなことを今さら考えているかというと、先程言及した『特殊な使い方』とやらが今必要かもしれないと考えているからだ。

 

「むむむ…」

「葵お姉ちゃん、はやくー」

「悩んでも仕方なくない?」

「そんなことはありませんよ。表情から読み取れる微細な変化は、私に正しい道を教えてくれます……コール」

「ツーペア!」

「ば、馬鹿な…!」

「いやなんでワンペアで勝負いくのさ…?」

 

 ポーカー。それは奥深く、そして運と読み合いを試されるギャンブルの王道といってもいいだろう。数々の人間を読んできた私にはぴったりのゲームだ。流石に勝負している最中に触るわけにはいかないからズルはできないけど、これまでの経験が彼女達の心中を簡単に推し量らせてくれる。じゃあなんで負け続けてんだって? 知るか! まったく、古き良き家屋の縁側でカードゲームに興じるというのは中々貴重な体験だろうが、この私が負け続けているというのはあってはならぬ事態だ。

 

 

「葵お姉ちゃん十連敗だねー」

「ぐ、ぐぅ…」

「こういうの強そうだったのに意外だ…」

「つ、次は負けません!」

「えー、もう飽きちゃった」

「じゃ、じゃあ最後にもう一回だけ! 今までの負け分すべて上乗せしましょう!」

「んー……じゃあ『お願い一つ聞く権利』十回分だから、次負けたら『なんでもお願い聞く権利』一回分でいいよね? 葵お姉ちゃん」

「結構ですとも!」

「うわー、未来が見える…」

 

 ふはは、かかりおったわ小娘が。私の能力の真骨頂を見せてやる。つまるところ、相手の手札が全て透けて見えればポーカーなぞ負けようがないのだ。降りて降りて、私の手が強い時にコールすれば負けはない。掛け金――お願い聞く権利がどれだけ上乗せされようが意味はないね。むしろ負け分取り返して、きーちゃんへの命令権を獲得してやろうではないか。チップ制じゃないから五回降りで負けの特殊ルールだけど、いくらなんでも五連続で手が弱いってこともないだろう。

 

 さて、ちょっと失礼。

 

「ちょっとトイレ行ってきますね」

「はーい」

 

 特に催しているわけではないが、必要な段取りというものがあるからね。確かここのトイレ鏡あったよね? ああ、あったあった。ではポケットから取りいだしたりますは私の旅の必需品『ブドウ糖』。コンビニでも近くにあればピルクルとか買ってくるんだけどね。知ってる? ピルクルって一日に飲む量は65mlくらいが適正らしいよ。逆にいえば一リットルくらい一気飲みすれば凄まじいカロリーと糖分、つまりエネルギーを摂取できるのだ。

 

 一年間くらい続ければ糖尿待ったなしだね! さて、なぜ私がそういうものを必要としているかといえば――能力の酷使は脳のエネルギーを尋常ではなく使用するからだ。普段は大したことないけど、ずーっと読み続けたりすると頭がボーっとしてきたり物凄く苛ついたりしてくるのだ。察するに血中の糖分が一気に下がっているのだろう。あとおそらく血圧も。

 

 そんな時には甘いものをたっぷり食べればすぐ治る。一応間に合わなさそうな時用にブドウ糖を常備してるんだけどね。そのまま粉末で経口摂取すると物凄い勢いで吸収されるのさ、こいつは。

 

 で、これから使う能力は非常に疲れるので先に飲んでおくというわけだ。ま、別に二つ目の能力とかじゃなくて単に読める距離を伸ばすだけなんだけどさ。私を中心に円を大きくする形で読心フィールドを拡げられるんだけど、とにかく燃費が悪い。そして円の中に生物がいればいるほど影響を受けてしまうのだ。

 

 だから滅多に使わないんだけど……今回は二人しかいないし、きーちゃんの家族も出かけてるから突発的な事態に関しても大丈夫だろう。なんでそこまでリスク負ってまで使うかっていうなら、あれだね。ほら、たぶん誰も気づいていないだろうけど私って案外負けず嫌いだからさ。もこっちときーちゃん如きに舐められたままで終われるか!

 

「私は大谷葵、私は大谷葵、私は大谷葵、私は大谷葵、私は…」

 

 鏡に向かってなにしてるかって? いやさっき影響を受けるっていったじゃん。必然的にずっと読みっぱなしになるから自己をしっかり認識しとかないとね。終わった後に『私って誰だっけ、ふひひ…』とかなったら冗談じゃないぜ。いやまあ、影響受けても時間たてば治るからそこまで重大ごとじゃないんだけど。

 

「さ、お待たせしました。始めましょうか」

「はーい」

 

 能力発動。うむ、もこっちが呆れているな。ふふん、私が負けるんだろうなぁって? そんなわけないじゃないか。ふむ、今日も下着はノットシャレオツだな。見えないところに気を使ってこそ良い女だよ。流石に下着は貸せないしなあ……って違う違う。今はきーちゃんの方が重要だ。

 

 くっ、このガキ既に勝った気でいやがる…! 馬鹿め、今までの私は擬態だ。ここからが本当の闇のゲームだということを思い知らせてやろうではないか。勝ったら『お姉ちゃんといつまでも友達でいてくれる』ようにお願いするだと? そんなの言われんでもそのつもりじゃい。

 

 …良い従妹じゃないか、ちくしょう。

 

「あ、葵ちゃん大丈夫? なんか目が潤んでるけど…」

「ええ、大丈夫ですお姉ちゃん」

「へっ?」

「あ、いえっ! だ、大丈夫ですよ黒木さん」

 

 あぶなっ! ちょっと感動したせいでダイレクトに心にきてしまったじゃないか。まったく、きーちゃんめ。私は大谷葵、大谷葵……っと。糖分補給に横のかりんとうもいただこう。個人的には熱い緑茶が欲しいところだが、この季節だしキンキンに冷えた麦茶と合わないこともない。

 

「…太るよ?」(すごい勢いで食うとる…)

「どれだけ食べても太らない体質ですから大丈夫ですよ」

「マジか」(マジか)

 

 つーか太りそうだと思ったら読みまくるから大丈夫。偶にベタベタするのはそういうわけです。まさに理想の体。体重を維持するために努力が必要ないのは素晴らしいことだね。ま、もこっちも太らない体質みたいだしきーちゃんも同様だ。女性お決まりの嫉妬も特にはないだろう。

 

「…降り」

「うん」

「…レイズ」

「降りー!」

「むっ…」

「レイズ!」

「降りです」

「うーん…」

 

 なんで的確に降りられるんだよ!? 私みたいに心が読めるわけでもないのに! ぬぅ……顔に出てるだって? 馬鹿な、私はポーカーフェイスの女帝といわれてもおかしくはないほど猫かぶりは上手な筈だぞ。あえて読んだことはないが、誰も彼もが私を可憐で真面目でたおやかな優等生としか認識していないに決まってるし。

 

「ぐぬぬぬ…」

「あ、猫だ」(顔がぐぬぬシリーズになっとるwww)

「このへんに住み着いてるノラ猫なの。色んなとこで餌もらってるみたいだけど……おいでーミケ、ポン、タマ~」(かりんとう食べるかな?)

「名前普通すぎだろ…」(さすがきー坊)

「うむむ――えっ、猫? やっ、あっ…」

 

 しかも三匹!? やば、こっちくん……あ、しまっ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …うーん……ん? あれ、いつのまに私寝たんだっけ。こんな太陽降り注ぐ真昼間を寝て過ごすなんて勿体ない。私は昼寝に喜びを感じないタイプなんだ。まどろみの心地よさは否定せんが、やはりアクティブに動いてこそ楽しみを見つけられるというものだ。

 

「あ、だ、大丈夫葵ちゃん?」

「えっと……すいません、私どうしたんですっけ。朝起きてご飯食べて…」

「…! …う、うん……あ、いや、話してるうちに寝ちゃったみたいだからさ。布団に運んだんだ」

「ありゃ、そうですか。それはご迷惑をおかけしました。夜更かしし過ぎましたかね」

「たぶんそうだよ」

 

 んなアホな。顔が引きつってるぞもこっち。私を相手に嘘がつけるとは思わないことだね。だいたいDの一族じゃあるまいし、喋ってる最中に寝るってどんな人間だよ。キムチでもいい?

 

「んー……ちょっと体がだるいなー。黒木さん、ちょっと手をかしてくださいな」

「う、うん…」

 

 …妙に顔が赤いな。今更私の美貌に気付いたんだとしたら、それは遅すぎるといわざるを得ない。どれ、いったいなにがあったのか――

 

「…」

「葵ちゃん?」

「…ちょっと死んできますね」

「うおぉぉい!? 待った待った!」

 

 離してくださいませ! あのような痴態を晒して生き永らえようなどとは思いませぬ! …意外と余裕あるな。じゃなくて! ぐおお、まさかあの悪夢が繰り返されるなんて! 人生最大のトラウマがいまここに! 包丁で首を掻っ切りたい気分だぜ。くぅぅ……なにか言い訳を考えねば。

 

「黒木さん…」

「う、うん」

「先程の私のことですが」

「お、おう」

 

 二重人格? いや無理があるな。精神疾患だとは思われたくないが、さりとて“あれ”はどう考えても異常者のそれだろう。馬鹿猫共め……なんであんなタイミングよくくるんだよう。五人……というか二人と三匹は流石にキャパオーバーなのだ。まずエネルギー不足で頭がぼやけ、次いで読んだ記憶が一気に脳を襲ってくる。

 

 上手く働いていない脳にはよーく染みこむんだ、これが。怪しげな宗教団体がよくやる手だね。何日もの断食や暗闇での瞑想を修行と称し、憔悴しきった頭と体に団体の素晴らしさと教えの偉大さを染みこませる。するとどうでしょう、宗教狂いのいっちょあがりだ。瞑想の最中、アップ系の薬を併用すると効果は更に抜群である。

 

 偏見と穿ちが過ぎるって? すまない、こんなことでも考えていないと柱に頭を打ち付けたくなってしまうんだ。あと鰹節が食べたい。

 

 はっ、まだ影響が…! と、とにかく今は言い訳だ。妖怪『スネこすり』になったわけや、じゃれまくったり甘えまくったりゴロゴロしまくったりした訳を上手く説明しなければ…

 

「あれはそう、まだ私が小学生の頃のことです…」

「う、うん」(なんか語り始めた)

 

 黙らっしゃい。喋りながらストーリーを創造していくのは骨が折れるんだから、邪魔をするんじゃない。大丈夫、私ならやれる。

 

「修行と称し、体中に鰹節を巻きつけられ猫だらけの蔵に閉じ込められた私は…」

「『ら〇ま』じゃねーか!」

 

 ちっ、バレたか。私も男で女みたいなもんだし、上手く誤魔化せると思ったんだが。他に上手い誤魔化し方は…

 

「ま、まあそれは冗談ですが、猫に関して少し色々ありまして。普段は大丈夫なんですけど、急に寄ってこられるとですね、その…」

「あー、まあ、その……うん。人には色々あるよね」

「そ、そうです。色々と深い事情があるんだにゃん」

「!?」

「あ、あるんです! 少し噛みました! 失礼!」

 

 くそ、経験上半日は抜けきらないなこれは。いっそ猫の演技の練習中だとでもいうか? いや意味不明すぎだろ。しっかりしろ私。そういえばきーちゃんはどこに行ったんだろう。もこっちは起きるまで待っててくれたみたいだが、あの子もなんだかんだで優しいから放置するってこたないと思うんだけど。

 

 …もしかして黄色い救急車でも呼ばれた? いや、流石にそれはいくらなんでも――

 

「葵お姉ちゃん!」

「あ、希心ちゃん。先ほどはすいません、実は猫に関してひとかたならぬものがありまして…」

「ううん。はいこれ、きっと葵お姉ちゃんに似合うと思って持ってきたの」

「こ、これは…!」

「ぶふっ! く、くくっ、た、確かに似合うかも…!」

 

 

 首輪……首輪!? チョーカーでもなく首輪! こ、このアマぁ…! 猫はそういうの嫌いなんだよ! 常に詰襟姿でいろというようなもんなんだぞ! …いや違う違う、怒りどころはそこじゃない。なんで猫の立場で意見してるんだ私は。

 

「あのね希心ちゃん。それは私がつけるようなものじゃ――」

「“お願い”ね、葵お姉ちゃん。はい、付けて?」

「にゃっ!?」

「うわー……ま、まあ意外と似合うかもよ、ぷふっ」

 

 こ、ここで権利を使うだと…! ふざけるなよこの小娘ぇ……ああ、付けられてしまった。ちくしょう、中学生の女子に首輪をつけられるなんて。それをご褒美だと思うような変態じゃないぞ私は! あと笑い過ぎだもこっち。覚えとけよ、後でひどいからな。

 

 はぁ……なんて日なんだ今日は。にゃーん。





わたモテ11巻、22日発売だからねー(ダイマ)

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