彼女がモテないのは性格がダメダメだからでしょう   作:ラゼ

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 要望があったのでもこっち視点です。原作からしてもこっちのセリフにはパロネタが多いので、それに準じています。そういうのが嫌いな方はご注意ください。



私がモテないのは友人が悪い!

 高校二年生の初日。一年間という長きに渡ったぼっちの脱却を目指し、私は自己紹介で笑いを取りに行くという暴挙に出てしまった。思えば最初から気付くべきだったのだ。ニュース番組の合間に入るくだらない血液型占いや星座占いでワーストワンを飾り、“糞”が着く――じゃなかった、“超”がつく程の美少女が後ろの席に座った時点でその日の運勢は決まっていたのだと。

 

 私の後ろに座ることそのものが既に馬鹿にしているじゃないか。なんてのは冗談だが、こんなのが近くに居たら周りが相対的に低く見えてしまう。『Fカップです』なんてつまらない冗談で失敗した挙句、後ろの席には超リア充。まったく、憂鬱だ――などと思っていたらトイレから教室に帰る際、私の失敗の揚げ足をとって笑いを取りに行きやがったのだ。栄えある年度初の殺意は葵ちゃんに献上することになったというわけだ。

 

 怒りに任せトイレでエア腹パンをしていたのが悪かったのだろうか。

 

 そんな最悪の初日が終わり、さっさと帰り支度をしていると葵ちゃんが話しかけてきたのは未だに鮮明に覚えている。というかいまだに何故仲良くしてくれるのかが解らない。もしかしたら百合かつロリコンだからじゃないか――などとこの前ぼんやり思っていたら、頭をはたかれた。偶に意味不明の行動に出るよね、葵ちゃんって。

 

 心でも読んでるんじゃないかと時々思う。そこまでいかなくても、やたらと当たる占いから考えて異常な直感力でも持っているんじゃないだろうか。占いといえば、最初にやってもらった時は恥をかいたものだ。葵ちゃんがリア充の皮を被った処女であるとわかったから調子に乗ってしまった結果、色々と恥ずかしい事実を暴かれたのだ。最初は天然なせいかと思っていたが、最近はああいう時の葵ちゃんは確信犯(誤用)だとなんとなく思っていたり。

 

 あ、そういえばネモとそこそこ話すようになったのはこの次の日だっけ。一緒にお弁当を食べて、意外とオタクなことに気が付いたんだ。というか葵ちゃんも何気にそっち系に詳しいのにはびっくりしたものだ。割とガチだと知ったのは結構後だけど……『サブカルチャーは結構好きですよ』なんていうものだから、単に“オタク系にも詳しいアタクシ可愛い”系のサブカルクソ女だと思っていた。後日急に頬を抓られたがいったいなんだったんだろう。

 

 二年になって暫く経ち、私は完全にぼっちを脱却した。調理実習において男子で一番のリア充、清田と何度も喋ったのだ。これはもう、ぼっちどころか女子高生のカーストの中でも相当上位に食い込んだんじゃないかと思っている。しかも最後には少し接触もあったし、もう交際経験が一回はあると言っても過言ではないだろう。そういえばこの時が初めて葵ちゃんの腹黒さを垣間見た瞬間だったな。

 

 腹黒さに加え――そうだ、葵ちゃんには謎すぎる病気……病気なのか? よくわからないが、キャットシンドロームとでもいうような秘密があった。あの後猫を近付けてもなにもならなかったので、いったい何が引き金になっているのかわからない。けどなんか凄かったから、もう一回見てみたいと思うのは人情だろう……などと思いながら三匹くらい猫を抱えて葵ちゃんに放り投げてみたら、傘の柄で脇腹を十連続くらい牙突された。先のほうじゃなくてよかった。

 

 でも本当にあれは面白かったなぁ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「葵ちゃん…?」

「葵お姉ちゃーん。うーん……猫が嫌いだったのかなぁ」

「そんなの聞いたことないけど…」

 

 猫が縁側に近付いてきただけで葵ちゃんが気を失った。あれ? でもこの前公園で寄ってきた猫を撫でてたし、嫌いな訳はないんだけど…

 

 とにかく布団に運んだ方がいいかな。流石に救急車はいらないと思うけど……でも急に倒れるって結構やばい? 素人判断はまずいかなぁ。というかきー坊落ち着きすぎだろお前。もう少し慌ててくれないと私が落ち着きのない女に見えるだろうが。

 

 とにかく――あ、起きた。

 

「葵ちゃん、だい――!?」

「わぁ…!」

 

 キ、キスされ――じゃない、顔に顔を擦り付けられた! 何が起こってるんだ!? 幻術か? イヤ……幻術じゃない…! …イヤ……幻術か? また幻術なのか!?

 

 ってなにわけわかんないこと言ってんだ私は! と、とにかく色々とまずい気がする。ぬわっ、押し倒されたー!? なんか腕をチュウチュウされてる……あれか、偶に猫が赤ちゃん返りしてやるやつか? いったい何が起きてるんだろう。まさか猫の霊に憑りつかれたとか? 結構田舎だし、意外とオカルティックなものが存在してる土地なのかもしれない…

 

「お姉ちゃん、そのまま動かないでね」

「え? い、いや写メなんて撮ってる場合じゃ…」

「いいから動かないで。ね?」

「う、うん…」

 

 き、きー坊ぉ…! くそ、何故かこの状態のこいつには逆らえん。中学生になってからますます私の言うこと聞かなくなってきたなぁ……このままじゃいつか立場逆転されてしまう。その牽制のために葵ちゃんを連れてきたというのに、効きゃあしないなまったく!

 

 うあぁ……めっちゃ甘えてきよる。すりすりしてくる。やばいやばい、これお金取れる――じゃなかった、とにかくやばい。いつまでこのままなんだ? もしずっとこのままだったら、結婚するしかない……じゃない、なに言ってんだ私は。もしずっとこのままだったら、いつか汚いおっさんに滅茶苦茶にされる葵ちゃんが……ってそうでもない、何考えてんだ私は。混乱しすぎだ。

 

「寝ちゃったねー」

「う、うん…」

「…! そうだ、私良いもの持ってくる!」

「へ?」

 

 きー坊が駆けだしていった。良いものってことは、やっぱりこの辺に昔から伝わる症状かなにかなんだろうか。お祓い棒かなんかかな……とにかく速くしてくれ。私の腕がキスマークだらけになる前に。掃除機で腕にキスマークを付けまくった黒歴史がぶり返してきそうだ。とりあえず布団の方に運ぶか…

 

 あ、起きた……おお、元に戻ってる。よかった、私の従姉妹の家に来た結果正気を失ったなんてことになれば流石に責任を感じるからな。にしてもさっきのことは記憶にあるのだろうか。そう思って喋っていたら、なにやら記憶があやふやなようだ。良いのか悪いのか……しかしさっきのことを思い返すとまともに顔を見れないな。顔が赤くなる。

 

 そして布団から起きるのを手伝うために手を取ったら、葵ちゃんの様子がみるみる変わっていった。青くなって、白くなって、赤くなって、乙状態になった。乙女ではなく乙だ。ちょっと死んで来るって……まあ気持ちはわからんでもない――って待った待った!

 

 なんとか宥めすかし、ポツリポツリと事情を話し始める葵ちゃんの言葉に耳を傾ける。なるほど……昔猫だらけの蔵に鰹節塗れで放り込まれたのか――ってら〇まじゃねーか! どんな誤魔化しかただよ。流石に突っ込んだら、なんだかんだで理由の方は濁された。あれかな、お稲荷様に憑りつかれた人の猫バージョンみたいなやつ。おどろおどろしいというよりは萌えの塊みたいだったけど。

 

 結局きー坊は間に合わなかったけど一件落着……と思いきや、なんと葵ちゃんに首輪を付けるという暴挙に出た。当然拒否していたが、先ほどの勝負は結局葵ちゃんの負け越しだったから無理やり付けさせられていた。嫌がる美少女に無理やり首輪を付ける、か。写メ写メっと。こんなに面白い夏休みは初めてかもしれない。

 

 葵ちゃんのおかげで葵ちゃんを凌駕する美少女にもなれたことだし(主観)、もしかして原幕一のリア充になるべき時がやってきたのかもしれないな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――とまあそんなことがあったわけだけど、本当になんだったんだろうなあれ。実は超甘えん坊な内心が抑えきれず外に出たとか? あれ以降は海に行った時もコミケに行った時も特に何もおきなかったし、一過性のものだったんだろうか。コミケといえば、待ち合わせた駅の中で紙袋からエロ本をぶちまけていたのは笑った。離れたところから見てたんだけど、本が地面に付くかどうかの刹那で眼鏡を置き去りにするあの判断力……その時、葵ちゃんが美しく気高く、絶対的なものとして私の目に映った。

 

 まあそれは冗談として、眼鏡が顔を真っ赤にしながら涙目で本を拾い集めていたのは、私でさえなんか少しぐっときたよ。後で内容を聞いてみたところ、百合の花に関する本だったりキノコに関する本だったらしい。葵ちゃん、割とガチ?

 

 海に行った時はやたらとナンパを受けた……主に葵ちゃんがだけど。大和撫子の見本市に出てきそうな黒髪ロングの美少女が、均整の取れた体で肌を晒していればそれも仕方ないだろう。日焼け止めクリームを塗る時には思わず涎が垂れそうになったものだ。もう完全にリア充だよねこれ。

 

 葵ちゃんと比べてゆうちゃんにはイタズラしたくなる雰囲気が漂っていた。ちょっと手が滑って水着の中に手を入れても大丈夫なんじゃないだろうか、なんて思ってしまう感じ。まあ間違って女の子の乳首をつまんじゃうことなんてよくあることだよね……なんか変な悪寒がするな。

 

 まあでも、一年の時と比べれば私も変わったものだ。この前葵ちゃんの妹の服を借りたまま家に帰り、弟に見せびらかしてやったら硬直してたからな。ネッシーでも見たかのような動転ぶりには笑ったものだ。あいつの肩に手を乗せながら、葵ちゃんがニヤニヤしていたのが印象に残っている。

 

 襲われないように気を付けなさいね、という言葉を残して帰っていったがどういうことだおい。もしかして近親相姦ルートに入ってしまったのか? まあ確かに生まれ変わった私の魅力は家族の垣根を乗り越えても仕方ない魅力かもしれんが。

 

 もし夜這いにきたらからかってやろうと思っていたのに、まったく何事もなく一晩徹夜になってしまったのにはむかついた。田舎に行って遊んだ後だったから疲れてたのに、やはりどうしようもない弟だ。徹夜で髪も乱れてクマも出来てしまったし、朝起きてきた時のあいつの『誰こいつ?』的な視線が非常に苛ついた。

 

 またあの美少女に戻るべくお母さんの化粧を駆使したけど、どうやっても難しい。やっていくうちに何が良いのかまったくわからなくなって、帰ってきた弟に化物呼ばわりされたのは非常に業腹だった。仕返しにきー坊の家に行った時の着替えを――カバンに突っ込んだまま洗い忘れていた下着を机に突っ込んでおいてやった。

 

 姉に欲情する変態だし、使っている気配があったらすぐに部屋に飛び込んで証拠を掴んでやろう……と思ったら、マスクと手袋をしながら下着をつまんで部屋に入ってきた上にどつきまわされた。葵ちゃんの言っていた襲われないように気を付けろというのはこれのことだったのか。

 

 まあそんなバカなことをしつつ、夏休みは順調に過ぎていった。夏休みが明けても葵ちゃんは相変わらず美少女で、リア充達は相変わらずリア充していた。しかし最初の席替えで奴らに囲まれたのは計算外だったが、意外と上手くやっていけていると思う。おそらく……おそらくだが、やつらも私のリア充オーラに気が付いたのだろう。類友というやつだ。

 

 そういえば葵ちゃんにもらったワンピースが清田からの贈り物だったというのは驚いた。返そうかと聞いたところ、『黒木さんにこそ使ってほしい(意訳)』とまで言われたので仕方なく使ってやっている。前々から思っていたが、清田は私に気があるんだろう。この前もみんなで話している時に気安く肩を叩かれたし、間違いないと思う。

 

 うーん……処女の葵ちゃんには悪いけど、これはもう決まってしまったな。

 

 そう――これからは私が天に立つ。

 


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