真剣で私に恋しなさい・微勘違い   作:勘違い練習者

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 ・・・・・・一週間ぶりに見たらお気に入りが増えててビックリ
 嬉しいです。そして頑張ります!


真剣に決闘しなさい!

「・・・駄目だ、完全に気絶してる。おーい、誰か運び出すのを手伝ってくれ」

「は、はい」

「(・・・一体何でこうなったし)」

 

 今日からクラスメイトになる、まだ名も知らない1人の男子が担ぎ運ばれていくのを他人事の様に眺め、白目ウボァしたい気持ちで一杯な状態の春樹君。見上げればそんな暗雲立ち込める心と真逆の、雲一つない澄んだ青空が広がっていた。ちくしょうめ

 ん?何でさっきまで教室にいたのにグラウンドにいるのかって?・・・自分も知りたいよ(吐血

 確か・・・・・・なんかいきなり突っかかって来て、ワッペンでめんこ遊びして、グラウンドに移動して・・・そこからどうしたっけ?突き出した手が当たった事は覚えてるんだけど、何でそうなったかの経緯が分からない。いきなり目の前にいたからビックリした拍子でつい手が出ちゃったし。多分自己紹介で自爆したショックで所々記憶が飛んでると思う

 というか真剣に自己紹介どこか変なところあったかな・・・?ちゃんと色々調べて作った自己紹介の台本通り言えたし、声の大きさも問題なかったはずなんだけど。アカン、マジで分からん。やっぱ笑顔か?笑顔がマズかったのか?自然な微笑みの練習は雑誌見ながら鏡の前で三桁越すくらい頑張ったんだけどな・・・傍から見たら結構死にたくなる光景だな。また黒歴史を増やす所だった

 

 うーん・・・・・・はっ!?も、もしや・・・鼻毛か鼻くそでも付いてた!?事前に身だしなみは確認してたはずなんだけど・・・。それで女子は気持ち悪さに胸を押え、男子は女子にそんな気分にさせた自分に怒り、突っかかって来た、と。うん、これで全ての辻褄が合うや。これしかない

 うわぁぁぁ!やっちゃったぁぁぁッッ!?Σ(゚Д゚;)・・・・・・転校初日から早退したい気持ちでいっぱいいっぱいです。嗚呼、第二の地元の同級生達と両親よ、離れて僅か数日程度にも関わらず、今すぐ会いたいです。そしてそのまま田舎でひっそりと余生を送りたい

 

「───ぉうを始める!」

 

 あ、鉄心さんだ。っと、ここでは学園長って呼ばないといけないんだっけ?まぁ、心の中だから勘弁ね。ところで何をおっぱじめる気なんですか?

 

「東方、川神一子!」

「はい!」

「西方、紗埜春樹!」

「はい!」

 

 あ、名前を呼ばれたら元気よく返事をしましょう!の原理で思わず反応してしまった。素直な春樹君にほっこり。というか今気づいたけど、目の前にいる赤毛ポニーテールの子って昨日川神院で見かけた子だよね?苗字が同じって事は鉄心さんのお孫さんだったのかな?んー、こうして近くで改めて見るとかなりの美少女だなぁ。印象的には活発な元気っ子。あ、なんかちょっと犬っぽいかも

 

「いざ尋常に────始めぇッ!!」

「川神流、大車輪!」

 

 鉄心さんの合図と共に、川神さんがその手に薙刀を振り回しながら突進して来た

 

 ゑ・・・?

 

 

 ● ○ ● ○ ●

 

 

「いざ尋常に────始めぇッ!!」

「川神流、大車輪!」

 

 開始の合図と同時に飛び出した一子が技を打ち込む。それは構えすら取っていない対戦相手の紗埜に直撃し、その衝撃で盛大に上がった土煙に包まれる2人。

 周りを囲んでいる外野側から見ても、全く反応出来ずに直撃したのが見えた。勝負ありだ

 

「犬の圧勝だな」

「あーぁ、分かりきってた事だけどあっさり決まっちまったなぁ。胴元しなくて正解だったなこりゃ。そして憎っきイケメンも滅んだ!」

「全くだ。まぁ、ワン子のお蔭で昼飯は豪華になりそうだ。あと岳人、醜いぞ?」

「それとどっちかと言うと美少年じゃないかな?」

「うるせぇ!どっちにしたって俺様の敵だ!」

「あー、なんか面白い事ねぇかなー?」

「キャップは相変わらず自由だな」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 既に決闘の事は頭から消え、帰り支度を始めている生徒がちらほらと見える。窓からグラウンドを見下ろしていた他学年、他学級の生徒達も興味が消えて授業の準備を始める。そんな中、未だに動かない人物が若干名。1人は決闘の立会人の鉄心。もう1人は風間ファミリーの一員である椎名京。普段は殆どの事に興味無さ気な彼女は、いつもと違いジッと土煙を見つめて視線を逸らさないでいた

 その様子に不審に思ったファミリーの面々が声を掛けようとした所で、ようやく土煙が晴れた。するとそこには驚くべき光景が存在していた

 

 一子の一撃は確かに直撃していた。その威力は並みの者ならば打ち倒す事は容易。けれども対戦相手の紗埜は健在していた。それも受け止めたり躱した様子もなく、直撃した状態のまま平然と佇んでいた

 次第にそれに気づいた者は誰もが唖然とした。それは外野にいた生徒、窓から見下ろしていた生徒も。そして一番はその一撃を放った一子本人

 確かに手応えはあった、一応幾らか手加減はしていたとはいえ無防備で直撃すれば最低でもいくらかダメージがあるもの。けれどそんな様子は無く、最初と変わらないまま。そして一切視線を反らす事無く、その水晶の如き透き通った水色の瞳に見つめられていると、何もかもが見透かされている様な感覚に陥りそうになる

 

「ッ・・・!?」

 

 反射的にその場から飛び退き、大きく距離を取る。薙刀を構え直すも、対戦相手の春樹は相変わらず動きはない。構えも取っていない。それどころか気迫も、闘気も、意思も、何も感じない。まるで無機質と相対している様だ。けれど自身の呼吸が荒くなっている事に気づく。一子にとってこんな感覚は初めてだった

 彼には、紗埜春樹には自分には測りきれない何かを持っている。自分の背中に、冷たい汗が伝った

 

 そのままどちらとも動くことなく、対峙する両者。時間が経つにつれて、場を占める空気の重圧が大きくなっていく。それは外野にいた生徒にまで及び、自然と距離を取るようにじりじりと後退していく

 

「ほぅ、なんだか面白そうな事になってるじゃないか」

「姉さん!」

 

 いつの間にか大和の隣に現れた武神こと川神百代。一子の姉にして鉄心の孫である彼女は戦闘狂な事でも有名だ。若くして武人として壁越えを果たし、強くなり過ぎたが故に敵う相手が中々おらず、いつも欲求不満を訴えている彼女が紅い瞳をギラつかせ、獰猛な笑みを浮かべながら紗埜に興味津々な視線を送っている

 

 そんな自分の姉貴分の彼女に、大和は簡潔に説明する。同学年のAクラスに転校生がやって来た事。一つ前の決闘に触発され、一子が決闘を申し込み、転校生が壱も弐もなく承諾した事。そこでクリスと少し揉めたが結局じゃんけんで勝った一子が挑戦権を得た事。武器は刀を要求した事。そして一子の一撃を無防備で貰っても無傷だった事

 説明を聞き、黙り込んで何かを考えている様子の百代。どうしたのかと大和が問いかけようとしたが、それより前に膠着状態が崩れた

 

「はぁぁぁぁッッ!」

 

 一子が再び突進する。猪突猛進、一子らしいと言えばらしいが、今回のそれは焦りから突き動かされたものだと百代は気づいた

 スピードの乗った突きが春樹に迫る。が、ここでようやく彼は動きを見せた

 

「なッ!?」

 

 一子の渾身の突きは虚しく空を切った。一子は目を見開き視線を下へ移す。そこにあったのは自身の薙刀の下にある彼の後頭部だった。まるで深く礼をする様に体を90度に折り曲げた事によって、攻撃を躱したのだと遅れて理解する

 

「あっ・・・わっぷ!」

 

 次いで後頭部の頭突きが薙刀の柄に直撃し、思った以上に呆気なく一子の手から弾き飛ばした。さらに勢い殺しきれず、前のめりに倒れ込むようにして顔を上げた春樹に抱き着く形になってしまった

 

「・・・・・・えっと、川神さん?」

「はっ!?」

 

 春樹の呼びかけに慌てて離れる一子。あわあわと顔を赤くしながら弁解する彼女と、若干困惑した表情の春樹。既に決闘という事は頭から消えている様子。とはいえ今回のルールに則って言うならば得物を失った方が負けになり───

 

「勝者、紗埜春樹」

 

 立会人の鉄心の宣言。静かだった外野が俄かに騒めき出す。そしてその外野の中に視線は彼から逸らさず、体から僅かに闘気が漏れ出ている百代が。それを背中越しに感じ、やはり面倒な事になったのぅ、と若干冷や汗をかきながら心の中で深く溜息を吐いた

 

 ~先日~

 

 所変わって先程まで春樹がいた和室には2人の老人、かつて武神と称された川神鉄心と春樹の祖父紗埜夜叉が、いつもは明るい表情がどことなく影を差し、皺が深くなる

 閉じられた襖の向こうから、修行僧達の元気な掛け声が静かな茶の間に木霊する

 

「・・・それで、あの子の状態はどうなんじゃ?」

「・・・さっき見ての通り、だ」

 

 深い、溜息が零れる。まだ微かに湯気の上がる緑茶に、愁いを帯びた瞳を落とす

 

「・・・あの事件から一見するとマシにはなったように見えるが、根本と言うか深い部分は未だ変わっておらん。時折酷く(うな)されては、決まって何かに繰り返し怯えておる。そして先程の様に武を見ていると思い出すのじゃろうな・・・あの事件の事を」

 

 先程の本人は無意識だろうが僅かに震えていた彼。そしてあの事件を振り返り、鉄心は顔を顰める

 

 今から数年前、とある銀行に強盗の立て籠もり事件が発生した

 お昼時の正午の事、明らかに正気でない男がライフルを突き付け、職員に金を要求した。この時、威嚇射撃として天井に一発。逃げようとした客に二発発砲。この時、1人は足を負傷。やがて通報に駆け付けた警察が包囲。犯人はシャッターを下ろして職員、客合わせて二十人を人質に立て籠もる。

 警察側は人質の安全を確保すべく何度も交渉を訴えるも、犯人は極度の興奮状態の為に断念。時間をかけると人質の危険度が増すと判断し、機動隊の突入の準備を進める

 しかし、その最中に中から発砲音と悲鳴。最悪の事態が頭によぎり、機動隊は突入したが、思いもよらない光景が入って来た。

 泡を吹いて気絶し、床に倒れ伏している犯人と思しき男。縮こまって固まっている人質達。そしてただ一人立っていたヒーローのお面を付けた小学生程の少年

 怪我人はいたが、幸い命に別状はなく、大多数の者はそれで終わったと思った・・・はずだった

 

『もっと早く助けろ、このヒーロー気取りが』

 

 はじめは誰だったか、人質の中の1人がその少年へ向けてあまりに心無い言葉をぶつけた。恐らく溜まりに溜まっていた恐怖や緊張のはけ口が欲しかったのだろう。そしてそれに釣られる様に、1人、また1人と同じように矛先をその少年へ・・・

 後の事情聴取で明らかになったが、機動隊が突入する少し前に犯人が、警察の準備の遅さに苛立ちと我慢の限界を超え、見せしめとして誰かを撃ち殺そうとしたらしい。その時、偶々犯人のすぐ傍にいた少女が標的にされた。近くにはその少女の祖母がおり、庇おうとした所を容赦なく蹴り飛ばされ気絶。泣き叫ぶ少女に銃口が向けられ、あと数秒でその尊き命が失われようとした時、横からその銃身を蹴り上げ、銃弾は天井に。それを成したのはいつの間にかお面を付けた少年。間髪入れずに少年は急所に頭突きを打ち込み、完全に無防備を晒していた犯人は避ける事叶わず直撃し、銃を取り落として泡を吹き気絶。勇気ある少年のその行動で、少女の命は助かった。もし、少年が行動を起こさなければ、確実に間に合わなかっただろうし、他の人質にも被害が及んでいたかもしれない

 機動隊が罵声暴言を制止するより前に、その少年は人の合間を縫う様して銀行を飛び出し、何処かへ走り去ってしまった。何人かが追いかけるも、結局見失ってしまい、その少年が一体誰なのか分からず仕舞い・・・一部を除いて

 

「だからと言って、いくら何でも子供相手になんという事を・・・ッ!」

「気持ちは分かるが落ち着けい。その気でこの部屋を吹き飛ばす気か」

 

 夜叉から溢れる気を鉄心が抑え込む。夜叉は落ち着くために湯呑を一気に煽る。その湯呑には僅かに罅が入っていた

 

「それにそんな事を気に出来る程の心理状態ではなかったんじゃろう。まぁ・・・だからといってあれは仕方がなかった、等と言えんのがそれを一心に受けた幼い心じゃ。こういう場合、トラウマと深く結びついてしまっている武から遠ざけてしまうのも手なんじゃが」

「・・・・あぁ。武だけがあの子の未来ではない。例え他の道へ進もうとも、ワシ等は喜んでそれを応援するだろう」

 

 事件があってすぐの頃は、武や事件に関するものと距離を置き、人と関わる事を避ける様になった。無理もない事だと思ってその話題に関して一切触れる事はせず、せめて出来得る限り傍にいる事を務めた。その甲斐あって、小学校を卒業する頃には元の明るさを取り戻し、学校で友達も出来るまでになっていた

 安心した夜叉と娘夫婦だったが、冒頭で述べた通り深い部分では未だ傷跡は残っている事に遅れて気づいた

 

「だがそれでも尚、春樹は・・・武が大好きだったんだ」

 

 そして同時にそれだけでなく未だ胸の奥に残る熱い武の心も

 

 そう語る夜叉の瞳から安堵、喜び、安心、親愛など様々な感情が伝わって来る。自身も同じく愛する孫を持つ身として、その身持ちはよく理解出来た

 

「まぁ、儂も未来ある若い芽が潰えてしまうのを黙って放ってはおけん。それに、あの少年には恩もある事だしの、可能な限り協力は惜しまんつもりじゃ」

「・・・助かる」

 

──────

 

─────

 

───

 

 

「(・・・とか言っておきながら僅か一日でこれは・・・夜叉の奴に真剣でシバかれるやもしれん。加えて昨日の酒の代金まで請求してかねんわい)」

 

 少なくとも百代は興味を示してしまった。想定していた内では悪い方から三番目。一番は春樹のトラウマの再発による心の閉鎖。二番目は百代が春樹に挑む事。そしてこれは三番目から順に連なって行く事が容易に想像出来る。特に今の百代の戦い方や精神はそれを誘発する可能性が高い、頭の痛い話じゃが。止めても逆に更に関心を引きかねんし・・・

 というかこうならん様にじっくり計っていく算段じゃったが、昨日夕方まで夜叉と、そしてその後師範代の李も交えて久々に夜明けまで飲み明かし、学校へ少し遅れてやって来たせいで出遅れた。つまり酒を持って来た夜叉にも原因があると言える。暴論?世の中は責任の押し付け合いじゃい

 

 とはいえ、これは本当に参った。正直鉄心としても今回の事は予想外だった。最初の決闘は醜い男の嫉妬から来るものと聞いている。これはまぁ、正直仕方のないものだったと思う。勝負自体はお互い無手、決着は数秒。勢いよく飛び込んで来た相手を突き出した掌底が顎に当たり、脳震盪を起こして気絶という呆気ないもの。これだけならばさして百代も興味も示す事無く、有象無象の1つとして認識して終わっただろう

 問題はその次。別に一子が悪いという訳ではない。それに決闘を申し込んだとき間に入って適当に理由を付けて終わらせるつもりだったが、一子の申し出をすぐさま了承するとは思わなんだ。何か一子に触発される様な事があったのか?そう言えば昨日の鍛錬を見ていた様じゃが・・・あとで探りを入れてみるかの

 まぁ、それにしても・・・

 

「ホント、どうするかのぅ…」

 

 情けない吐露が、生徒の歓声に掻き消された

 

 

 

 

 


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