真剣で私に恋しなさい・微勘違い 作:勘違い練習者
『川神市──関東の東にある政令指定都市で人口は全国第九位
市の北端には多摩川が流れ東京都との境になっており、東部には東京湾が広がっている
反吐時代から栄えていた歴史ある街で、武家も多く馬も多かった事から川に多馬の名前が付いた
古くから精悍な住宅地が多く、ここ数十年で川神の駅前付近は東京との近さから一気に近代化し、若者の街とも呼ばれるようになっている。駅前周辺は昼夜を問わず、人で賑わっている
川神院が部の総本山として有名な為、何かと勝負しにくる気骨のあるものが多い』
注!)観光客は間違って“親不孝通り”などには近づかないように!大変危険です!マジで!!
「え、なにそれ怖い」
簡単な川神のパンフレットを読んでみて思った感想が素直に言葉に出た。
最後のなに?なんか題名に次いで大きな文字とドクロのマーク付きだよ。しかも通りの名前も凄い。これだけ堂々と張る程やばいって事なの?逆に気になっちゃうくらいでなんか余計危ないよ・・・とりあえず、ちゃんと頭に入れとこ
えぇーと、じゃぁ川神学園の方は・・・っと。これか
『川神学園──校訓は「切磋琢磨」
それぞれの個性を重んじるための自由な校則とユニークな行事・授業が特徴的で、市内を代表する学校。人気も高い分、学生数も多い、大規模な学校。川神鉄心が学長を務める』
自由な校則、生徒の自主性を重んじてるって感じかぁ。俺はあんまりそういうのは得意じゃないけど・・・まぁ、何とかなるかな?
川神鉄心っていうのは・・・確かメッチャ強いおじいちゃんだった気がする。印象的にB○EACHの総隊長さんが一番近いんじゃないかなうん、それくらいしかわかんね。
『また、生徒の競争意識を尊重するために「決闘」というユニークなシステムがあり、お互いの合意があれば、白黒つけて戦う事を学校側が許可している。
形式は、喧嘩でもスポーツでも論戦でもなんでもいい。一対一でもチーム戦でもクラスあげての戦いなど
人数による縛りもない』
いや、「決闘」システムはともかく、学校で喧嘩を許可してるってどゆことよ?確か「決闘罪ニ関スル件」っていうのであった気がするんだけど・・・もしや治外法権なのか川神学園は!?学園長の・・・川神鉄心、何回かニュースとかで見たけど、やっぱり偉い人なのか。別にマフィアじゃないよね?いや、和っぽい服装だったからこの場合はヤーサン?
「じいちゃん、この「川神鉄心」の事って知ってる?」
「ん?あの老いボケエロ爺の事かの?」
「え、そうなの?っていうかまさかの知り合い?」
「知り合い、というかなんというか・・・若い頃に共に女風呂を覗こうとしたというか」
「なにやってはるんや」
なんとなく聞いてみれば色々驚くべき事が。思わずあんま使った事ない方言が出ちゃったぜ。個人的にちょっとレアだけど誰得やねん。美少女の方言は萌えるけどな!異論は認める
まぁ、じいちゃんの知り合いって事は少なくとも大丈夫な人なんでしょう、多分。今までも色んな個性豊か過ぎるじいちゃんの友達に会って来たけど、根は良い人ばっかりだったし。ただ皆決まって自分の孫だとじいちゃんに紹介されたら目をギラつかせるのは勘弁。女の人ならまだしも、男の人にそんな目で「(ゲーム)やろうか」なんて言われたら思わずお尻を庇ってしまいます。そのお蔭でゲームの腕向上と多少度胸が付いちゃったのは春樹君の悲しい過去の一ページです(泣)
というか皆ホントにゲーム初心者だったの?春樹君全戦ボコボコにされまくっての完全敗北だった訳なんだけど。あと老若男女問わず美男美女揃い。そこんとこどうよ?
「っと、ほれ。見えて来たぞ、春樹」
追憶からじいちゃんの言葉に従って視線を向ければ、見慣れた光景の先に懐かしの一軒家が
数年ぶりに生まれ育った家に帰って来ました
● ○ ● ○ ●
「んー・・・懐かしいなぁ」
久々の我が家(一号)に胸の奥が温かくなる。まぁ、あんまり呑気に眺めてる暇はないから早いとこ荷物を持って入らないといけないんだけど。なんかこの後も用事があるみたいだし
気持ちを切り替えてハンビーに積んだ荷物を持って玄関の扉を開ける
「よいしょっと・・・あれ?」
ちょっとした違和感に回りを軽く見渡して見る。自分の予想では数年も人がいなかったから多少なりとも汚れていると思ったんだけど、埃どころか逆にフローリングにはワックスまで掛けられて艶やかに輝いてる様に見える
その他の場所も同じでどこもかしこも綺麗だった。どゆこと?
「じいちゃーん!なんか家がメッチャ綺麗なんだけど、どゆことー?」
「んー?おぉ、言い忘れておったが引っ越してからこの家の管理はさっき言った鉄心に任せておいたんじゃー」
「おー、なるほどー」
へぇ、そういう事か。にしてもこの掃除具合はかなりのものじゃないかな。かなりマメで綺麗好きな人なのかもしれない。変態じじいと思ってしまった自分をお許しください。今度会ったら謝っておこう、勿論心の中で
「その最後の荷物を運び終えたら出発するぞー?」
「あいさー」
最後の荷物を家に運んで再びハンビーに乗り込む。というか家の駐車場が広くて良かった、じゃないと駐車出来なかったよ。パーキングには停められないだろうし
ブルルル・・・プスンプスン、ピーピー!
「あ、ガソリン切れてしもうた」
「じいちゃんェ・・・」
「仕方ない・・・奥の手、ジェットエンジンを!」
「止めんか!?」
● ○ ● ○ ●
じいちゃんの暴挙をなんとか止め、結局車は家に置いて歩いて目的地に行く事に。というか改めて聞かされたハンビーのスペックが凄すぎて怖い。あれにいつも乗ってたかと思うとホント冷や汗もの。水中どころか宇宙空間でも活動可能とかホントどうかしてる。そしてそれを作ったじいちゃんも
閑話休題
にしても、流石日曜なだけあって、商店街は人でごった返してる。普通に歩いてたら人とぶつかりそうだけど、じいちゃんの後ろをピタリと付いて進めばスイスイと通れる。ホント便利
仲見世通り沿いにある和菓子屋で、名物の久寿餅くずもちとお饅頭をお土産用と、すぐに食べる用にあんみつや飴ちゃんをいくつか買って(決して可愛かった店員の子に進められるがままに買ったわけじゃない)辿り着いた先には、立派な門を構え、威厳と迫力に満ちた寺院。奥からは沢山の人の威勢のいい掛け声が聞こえ、肌がピリピリする
「おーい、邪魔するぞー?」
けどそんな事を全く気にした様子もなくじいちゃんは、てくてくと寺院の中に入って行ってしまう。もう俺は呆れてものも言えない。まぁ、そんな自分も口の中で飴コロコロしながらじいちゃんのすぐ後ろにいるんだけどね
途中、THE修行僧な人に一言二言話すとそのまま案内される事に。思ったけど、やっぱり修行僧って坊主なんだなぁ。しかも皆裸足だった。冬は寒そうだなぁ
そして案内された部屋は畳が敷いてある純和室。いやぁ、これぞまさに日本の心、なんつって。そう言えば川神院って来た事あったっけ?なんかの行事の時に家族と来た様な来てない様な・・・あった様な
「ほっほっほ、久しいのぅ夜叉」
と、呑気に考え事をしていたらいつの間にか部屋に1人の長い髭を蓄えた老人──川神鉄心その人が杖を持ってそこに鎮座していた。おい誰だ、ザ・ワールドを使ったやつは。そして久々に聞いたじいちゃんの名前。紗埜夜叉って小さいのも含めたら「や」が3つ。どうでもいいですね、はい
「おう、久しぶり。あと頼んどいた家の事礼を言う。これ手土産の地酒じゃ」
「まぁあれくらいなら大した負担でもないわいっと、おぉ!これはこれは・・・中々良いものじゃな」
「掘り出しもんの一品じゃ。久々に後で一杯やらんか?」
「ほぉ、それはそれは」
なんか2人で盛り上がってしまってすっかり自分置いてけぼり。まぁ、数年ぶりに会った友達ってこういう物なんだろうけどさー。取りあえず出されていたお茶で一服・・・結構なお点前で、なんてね。口の中の飴で緑茶の苦さを中和だ。にしてもこの飴ちゃん美味いなー、帰りにまたストック用を買いに行こっかな?
そのまま飴ちゃんコロコロしながら少しぼーっと空いてる襖から庭(?)で稽古してる修行僧の人達を眺めてみる。今は正拳突きをやってるけど、皆掛け声や動きに一切乱れがない。なんだか体育の集団行動にちょっと似てるかな?
ん・・・?あ、修行僧の中にポニーテールの女の子も混じってる。ほへー、すごいなぁ。周り成人男性ばっかりなのにちゃんと付いて行ってる。というか表情的にはかなり余裕そう。頑張ってる女の子って、素敵だと思います。春樹君も思わずほっこり。そんな彼女を眺めながら食べる飴ちゃんの甘い事甘いこt…って苦ッ!?何これ!?口の中がなんか滅茶苦茶だ!これは・・・あっ!これコーヒーだ!コーヒー味の飴って斬新!?てっきりコーラだと思ってたよ。うえぇ、俺コーヒーメッチャ苦手なのにぃ。吐き出したいけど流石にここでそれは躊躇われるしなぁ。うぅっ、体にも拒否反応がブルリと・・・あ、ちょっと涙出て来た
「・・・紗埜春樹君や、大丈夫かの?」
「え?あ、いえ・・・はい」
いきなり鉄心さんに話しかけられて、ちょっとどもりながらも言葉を返す。なんか悲しそうな顔をした様に見えたけど・・・気のせいかな?あっ!もしかしたらハブられて寂しそうに見えたとか?いやー、別にそういう訳じゃないんだけどなー。そこまで気を使って貰ってなんか逆に申し訳なくなっちゃうよ。ホントいい人だなぁ・・・マジで変態じじいって思ってしまってすいません。後でじいちゃん叩はたいときます
それから明日からお世話になる学校の学園長としての挨拶やらなんやらをして用事も終わったみたいなので、俺は先に家に帰ってる様に言われた。そのついでにこの辺りを色々見て回ってはとおこずかいを渡されたので、お言葉に甘える事にしよう
「おっ!まさかの樋口一葉さん。これは中々太っ腹!よーし、久々に買い食いでもするかなーっと」
寺院を出て上機嫌の俺は、口に飴を放り込んでそのまま川神の町へと繰り出した
「あ、今度は甘い」
● ○ ● ○ ●
引っ越しの翌日、つまり平日の月曜で、俺の転入日だ。真新しい制服に身を包んで、2-Aの教室の前で待っている今の自分の正直な感想は・・・めっちゃ緊張するぅぅぅぅ!
もう心臓ばっくばく!ポーカーフェイスが保ててるかも自信ないです!真剣で!なんか変な汗出て来ちゃいそう
いや落ち着け、落ち着くんだ紗埜春樹。こういうときこそ平常心だへーじょーしん。平常神様にお祈りを捧げるのだ・・・ふぅーよし、ちょっとマシになった。これなら大丈夫、多分
壁の向こう・・・つまり教室の中ではさっきここで待つように言ってた先生が今転入生の話をしてるみたい。というかさっきの職員室であった女の先生が腰に鞭装備してた気がするんだけど、もしかして女王様系なんだろうか?俺はそっち系の趣味はない、豚になりたくないブヒィ
そして先生の言葉に例によって騒がしくなる教室内。まぁ、話題の1つとしてはメジャーな方だけど、廊下の外まで聞こえるくらい騒がなくてもいいんじゃないかな?隣のクラスまで届いちゃうからやめて下さいホント
『先生ー、転入生は女ですかー?美少女ですかー!?』
『男だ』
『えぇぇぇぇー!』
うわぁ・・・なんか男子の不評の声が凄い。帰っていいですか?
『せんせー、じゃぁイケメンですか!』
『んー、それは各自で判断してくれ』
『うわ、なんか思わせぶりな台詞。これは期待値高い?』
『もしかしてエレガンテ・クアットロクラスだったりして』
『楽しみ~』
うわぁ・・・(白目)なんか勝手にハードルがががががが・・・・・帰っていいですか?(懇願)
なんか盛り上がっている教室内と反対に、廊下はテンションだだ下がり。おじいちゃん、助けて
『ほらほら静かにしないか全く・・・では紹介するぞ、入って来い』
御呼ばれしたので覚悟を決めて教室の扉を開け、中に入る。めっちゃ視線が集まって・・・あ、今誰かに舌打ちされた(泣)
涙を堪えて教卓の傍に立ち、黒板にチョークで名前を書いていく。背中に視線が集まってるのをビンビン感じるぜ。何とかぶれずに書き終えてチョークを置き、意を決して前を向く
「(うわぁ)・・・」
予想に違わず、クラス全員の視線がこっちを向いてた。顔や声に出さなかったけど、心の中で中々堪えた。改めて考えてみると、こんな人数の前で自己紹介するのって小学校の頃以来かも。中学はそんなに生徒の数多くなかったし。こ、こういう時は目の焦点を合わせない方がいいんだよね。ちょっと暈すくらいがポイント。そして周りにいるのはみんな鶏なのさ☆
じゃがいもじゃないのは特に気にしちゃいけない。というか生きてるものを植物の根とは思えん個人的な理由から
さぁて・・・俺の自己紹介を聞けぇぇぇぇ!(錯乱
「えっと・・・皆さん初めまして。この度ちょっと微妙な時期ですが、本日よりこの学園でお世話になります事になりました、紗埜春樹です。
趣味は、物作りと読書。あとは体を動かす事です。あの、これからよろしくお願いします」
うん、無難!長すぎず短すぎず、超無難で面白味全くなし!趣味のプラモ作りも物作りだし、読書もラノベや漫画だけど言い方を変えればこんなもんよ!ちょっと最後尻すぼみ感がしたけど、ちゃんと噛まずに大き過ぎず小さ過ぎずな声量で言えたから根暗な奴や煩いやつって思われないはず!それと無愛想って思われない様に笑顔と礼(45°)も忘れずに。笑みが引き攣ってなかったか不安残るけどそんなのはもう無視しよう。俺はやれる事を全てやった。さぁ、反応は・・・!
『・・・・・・』
『チィッ!』
顔を上げてぼやけた視界に入って来たのは、まるで吐き気を堪えるように胸の辺りを押えているクラスの大半の女子達と、暈した視線でも分かる位憎々気に顔を歪めて殺気混じりにこちらを睨む大半の男子達。
・・・じいちゃん、俺もうダメかもしんね(白目)