真剣で私に恋しなさい・微勘違い   作:勘違い練習者

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プロローグ

 

 

 人間、生きていればどうしようもない事の1つや2つはあるもの

 

 その中でもう本当にどうしようもないものの一つは過去。起きてしまった事はどうやったって変えることが出来ない。少なくとも今現在は。タイムマシンが出来れば話は変わるかもしれない、ウチにも某猫型ロボットが来て欲しいと何度願った事か

 

 こんなくだらない事を述べている自分にも、当然そんな過去が存在する。流石に死にたいくらい身悶えるほどのレベルではないけど。まぁ、中二病患者に比べれば可愛いものだろう、多分。自分は精々「子供時代ってアグレッシブルだよねー。いやぁ、あの頃はホントやんちゃだったなー」くらいで済むレベル。多分、きっと、maybeー・・・いや、やっぱ無理かな

 

「ん~?どうしたー春樹?何か悩み事かのー?」

「あ、いや、別に何でもないよじいちゃん」

「そうかー」

 

 もう十数年も聞きなれたどことなく気の抜けた、けれどもよく耳に入って来る声。綺麗に真っ白になった白髪頭をポリポリ掻きながら、隣の運転席でちょっぴり眠そうにハンドルを握る姿もなんだか妙に似合っている。

 

「って、タバコ吸おうとしないでよじいちゃん。俺、煙たいのイヤなんだから」

「おー、すまんすまん」

 

 のんびりとした口調で詫びを入れるじいちゃん。全く、と呟きつつも俺は視線を再び窓に向ける

 さて、そんなやんちゃ(強)だった自分ももう高校2年生だ。中二病なんて発症しなかったんや。自分のは小学生だからノーカン。お面被ってちょっと派手なヒーローごっこ遊びを1人でしてただけだから。小学生の頃に引っ越す前に住んでた家の、偶々近所にあった駄菓子屋のくじで当たった一昔前のヒーローのお面がカッコよくって、テンションがMaxになっちゃっただけだから。よくあるよね、そういうのって。自分がまるでヒーローなっちゃったみたいなあの高揚感。完全にヒーローに成りきってたからなぁ。中々の成りきりっぷりでした(白目

 態々そのヒーローのビデオ全巻借りて来て台詞とかポーズとか覚えたりもしてたし。といっても、人気が無かったから途中で打ち切られて話数二桁行かなかったけど。今もビデオ屋に置いてるのかなぁ

 

 そしてあれから数年、今年で17になる俺こと「紗埜(すずや)春樹(はるき)」は高校2年生という微妙な時期に転校とな。しかもその事伝えられたのが昨日で、今日引っ越しして、明日転入、と。うん、何この急展開。いくら何でもこれは酷すぎんかね?折角出来た友達もビックリしてたし。勿論自分もだけど。お蔭で別れもグダグダ感満載だった。これはちょっとした黒歴史入り?将来同窓会では笑い話に出来るといいなー。呼ばれるか分かんないけど。あっ、そういえば挨拶出来てないのが何人かいたっけ。事後報告だけど、着いたらメールしと・・・こ?

 

「あれ・・・?というか引っ越し先がどこかも聞いてなかった気が・・・」

「おぉ、ようやくそこに気づきおったか」

 

 そうだよ!なんかいきなり引っ越しだとかどうとか言われて、その準備でてんやわんやでそれどころじゃなかったからだよ!趣味のラノベとか詰め込みが間に合わなかったり、作った戦艦のプラモやガンプラとかも置いてく事になったし。出来れば後で送って欲しいんだけど・・・しばらくは無理だろうなぁ

 

「じいちゃん、結局引っ越し先ってどこなん?」

「ふむ・・・まぁ、ここまで来たらもう言ってもいいじゃろうなー」

「それってどうゆう────」

 

 聞いている途中でふと、フロントガラスから見えた標識の文字が横目に入った

 

 『川神インターチェンジ 3km』

 

「引っ越し先は川神市。そして明日から春樹が通う事になるのは川神学園じゃ」

 

 ・・・・・・ふぁ?

「・・・・・・ふぁ?」

 

 心の声が思わずそのまま口から零れ落ちる

 うん、ちょっと落ち着こう。人間落ち着く事が大切って偉い人も言ってたネ

 川神、カワカミ、KAWAKAMI。どう変換しても意味は変わらないや

 忘れもしないその地名は神奈川県に存在し、恐らくある意味日本で最も有名な場所でもあり・・・自分にとって最悪な場所でもある

 あー、やばい。もうなんか色々とやばい・・・・・・先に述べた様に子供の頃の自分は中々やんちゃだったから、というのがそもそもの原因だけど。その時に遭遇した「ある出来事」の数々の記憶が今でも自分を苦しめる・・・ってあれ?これって殆ど元中二病患者と大して変わらないんじゃないの?(愕然

 ま、まぁ、と・も・か・く!そういう訳だから(もはや)事件の起こった地には戻りたくない訳なのよ!

 

「じいちゃん、俺帰りたい」

「はっはっ、今帰ってる所じゃ。春樹が生まれ育った家にのぅ」

「俺は二代目(家)の方が好きです。ほら、個人的にはなんか響きとか初代よりはカッコイイと思うんだよね!」

「二代目かぁ・・・あいつは良いやつじゃったわい。今頃は草葉の陰からワシ等を見守ってくれとるじゃろ」

「ご臨終!?え、まだ我が家と別れて半日でっせ!?」

「芸術は、爆発じゃ!」

「まさかの 爆 破 解 体 !?」

 

 ということは、家に置いていった私の私物は・・・

 

「木っ端微塵こ☆」

「嘘だぁぁぁぁぁぁッッ!?」

 

 絶望に悲痛な悲鳴を上げてダッシュボードに頭を突っ伏す。な、なんて事だ。あそこにはまだ数多くのお気に入りのラノベ達と、お正月のお年玉やらおこずかいやらを貯めて買ったプラモの数々が存在していたというのに・・・!PGとか学生にとっては高いんだかんね!?ウチはバイトとか出来ないから色々やり繰りしてようやく買えたんだかんね!PGのストフリ&角馬さんと、流石に1/144・超精密巨大迫真模型は100万越えで無理だったけど、それなりな大和さんも暇な時間を見つけては2か月間、ちまちまと組み立てていった我が人生最大の超大作だったのに、のに・・・ッ!(血涙

 

「うん、嘘(笑)」

「焦ったぁぁぁぁッッ!!」

 

 今度は勢い良く跳ね起きて精一杯安堵の叫びをあげる。勢い良すぎて後頭部ぶつけたけど、んなのは些細な事だ。それよりどっちかというとぶつけた額の方が痛い。これ絶対赤くなってるやつ。だってダッシュボード凹んでるし。あ、なんかのメーターがおしゃかになってるや、ドンマイ。いや、それより今は──

 

「もうっ、止めてよね!?ホント止めてよねッ!?じいちゃんが言うと洒落や冗談に聞こえないんだからさぁッ!?」

「えいぷりるふーるじゃ」

「それもう過ぎちゃってますから!」

「はっはっはっ」

 

 飄々とした様子でこっちの言葉を受け流すじいちゃん。ちくしょう、こやつ全く反省した様子が見られないぜ。こういうのは相変わらずだけど、今回は一層たちが悪い。かなりヒヤッとしたぜ

 じいちゃんって家に秘密の地下室作ったり、各国の軍事事情について色々知ってたり、ガレージに触ったら危険な物が普通にあったりする人だから。よく庭で爆発騒ぎを起こしては、。毎回毎回「あぁ、またか」みたいな顔で警察の人が来るし。今乗ってるこの車もハンヴィー(魔改造済み)というね。てっきりそっち系(軍事・裏家業)の人だと思ったけど違うらしい。というか本人は発明家&武術家を自称してるし。最初聞いた時はその両極端さに幼い自分は意味不明だった。そして今も若干意味不明

 

 まぁ、その後色々知った結果、発明家っていうのには素直に納得だ。寧ろ尊敬するレベル。なんたってこのじいちゃんはあの夢の技術、VR(Virtual Reality)を可能にする小型装着式フルダイブマシンを独自に作り出しちゃってるんだから。どこの茅場さんですかあなたは(戦慄

 俺もその稼働テストも前から手伝ってるけど、本当に生身の様なリアル感。そしてVRならではの超人的な身体能力や、気功術や魔法、幻想的なフィールドの数々。まさに夢のようだ

 あれを体験したら他のゲームがちょっと見劣りしちゃって、面白味を感じなくなっちゃうくらいだからなー。でもまぁ、まだまだ改良しなきゃいけない点が多いんだけど。中でも操作がちょっとというかかなりややこしくて、慣れるまでには根気よくやっても数年かかるくらい、っていう欠点なんだよなぁ。気功術や魔法が使えるまでにはかなりの苦労をしたよホント。それでも最初の頃はテストの意味合いが強かったせいで、その場で正拳突きを一万回ーとか、ただひたすら走るとかっていう感じだったからそれよりはマシかな。結局流れで最終的にはついでで剣や槍、弓とかも習得したし。そしてVRと言えば二刀流は欠かせないよね!マジで黒の剣士だぜ!練度は本家に比べるのも烏滸がましいくらい全然低いけど。片手直剣の二刀流なんて滅相もない。しかも態々重くしてるんだからVRとはいえブラッキー先生マジリスペクト

 武術家については現実では殆ど見た事ないけど・・・VRでいつも1vs1対戦してるからなんとなくは分かるって感じ?というかじいちゃんが強すぎてマジワロタ。こっちが操作に全然慣れてないのに、向こうは気も魔法も剣術武術弓術抜刀術と何でも御座れ。言うなれば、ビギナーとアマチュアかプロ・達人レベルの差だったぜ。もう殆どイジメじゃん。痛みまで再現されてるから最初の方はホント大変だったんだかんね!VR終わっても滅茶苦茶死にそうなほど疲れるし!あれでもし設定とか弄ってるならマジで大人気ない。単衣(ひとえ)に頑張れたのは魔法や気功術を使いたかったからと、ちょっぴりおこずかいがもらえるからなんだし。どっちかが欠けてたら続けてなかったかもしれないなぁ

 

「というかあれでしょ、今の洒落にならない冗談って話を反らす為でしょ?」

「流石春樹、察しが良いのぅー。と言うか洒落にならんかったか?」

 

 やっぱりかぁー。話の流れ的は上手かったけど、流石に違和感あったし。落ち着いてよく考えればまだ二号(家)さんには両親が住んでるんだから爆破なんてしないよね。まぁ、逆に言えばいなければやるって事だけどさ

 あと今後そういった冗談はマジで止めてつかあさい。私がショック死します

 

「何年じいちゃんと一緒にいると思ってるのさ。流石に分かるって」

「春樹、トゥクン…」

「やめんか・・・で、何で引っ越し先黙ってたし」

「だって、言ったら反対するじゃろ?」

「それは・・・」

 

 恥も外見も捨てて駄々っ子になる事も厭わないね。というか高速走ってる今も、このドアから飛び降りて戻りたいくらいなんだけど。タコメーターが百キロチラチラ差してる?んな事は関係ない。いや、下手するとメッチャ痛いどころじゃないかもだけど、それより重要なんだよ。思い出すたびにあの身が捩れるほどの羞恥、あまりにも阿保な事しまくってたから近所の滝に身投げしようと何度思った事か。でも実の息子が自殺するか、子供の頃の阿保の所業の数々がバレちゃったりなんてしたらウチの母が白目ウボァチーンしちゃうし。いや、ホントに。あの小動物()さんは見た目通り心臓がめちゃ小さいから、なんか些細な事でもショック死しちゃうレベル。真剣で。だから態々のどかで静かな田舎に引っ越す事になったんだし・・・いや、その時なんか他にも色々あった気が───

 

「・・・・・・それはまだ、今でもお主が「あの事件」を引きずっておるからか?」

「っ!?」

 

 じいちゃんの言葉に、ある意味さっきとは比べものにならないくらい衝撃を受け、思わず顔を向ける。じいちゃんは深く息を吐く。まさか、誰にも話してないはずなのにどうして・・・?

 目を見開いたまま固まってしまった自分を尻目に、じいちゃんは普段あまり見せない真面目な顔を前を向いたまま、徐に口を開く

 

「気にするな・・・等と軽々しく言えん。お主にとっては初めて誰かを傷つけ、幼い自身の心にも深い、深い、傷を負ったのじゃから。当然恐れもあるじゃろうて」

 

 え、いや・・・うん。自分の心はまぁともかく、前者は確かに。それに(バレる)恐怖も当然ある。でも、今その恐怖が目の前にあるんですがそれは。何でじいちゃんが知ってた事が気になるんだけど、なんか真面目な顔したじいちゃんに口を挟む事は出来そうにない。俺、空気読める子

 

「じゃがな、じゃがそれでも、お主の行動で救われた者が存在するのも事実なのじゃ。その事はしかと頭に入れておけ」

 

 救われた・・・?ん?

 じいちゃんの言葉に内心疑問符を浮かべる。というか全く記憶にないんですけど。流石にヒーローごっこでの話じゃないと思う。だよね?こんな真剣(マジ)な空気でそれだったら、俺はじいちゃんを病院に連れて行かないといけない。もちろんボケの方。川神に老人ホームはあったかな

 いや、もしかしたら本当に俺が誰かを救ったのかもしれない・・・

 

 ねーな。うん、それはねーよ。ご都合主義もいいところだよ、いくら自分でもそこまで楽観的な甘い考えは持てない。というかそんな展開には遭遇してないって。寧ろその逆で迷惑でしょ、あれだけ派手に騒いだんだし

 

「それに、いつまでも過去に縛られたままでは真の意味で前に進む事は出来ん。いつかはその鎖を解かくてはならん」

 

 あっ、これはあれだ。諭してるんですね分かります。確かに鎖という(過去の出来事の)呪縛はいずれ解かれなきゃ(乗り越えなきゃ)いけない。正論です。反論の余地もありませんわ

 という事はもしかしてその為に態々彼の地へ引っ越すの?いつまでも過去を引きずってる情けない孫の為に、御手間かけさせました

 

 ・・・・・・腹を括る、か・・・

 

「じ、じいちゃん、俺は・・・・・・っ」

 

 思わず声が震え、言葉が上手く出て来ない

 今まで長い間黙っていた事を正直話すのってこんなに大変なんだな・・・・・・例えるなら、いつまで経っても嫁の出来ない事に不安を覚えた親が見合いの話をいくつも持って来るけど、本人はどれも全く乗り気じゃなくて一体何が不満なのかって問いただしたらようやく口を開いた息子が「自分はホモなんです」って告白する感じ?その後の事諸々を考えるととてもじゃないけど言えないよね、経験はないけど

 いや、今はそういうアホな話してる場合じゃないんだった。また変な事で考え込んじゃったよ、悪い癖が出た・・・っと?

 

「よい。別に今すぐという酷な事は言えん。焦らず、ゆっくり、ゆっくりでよいのじゃ。それに今回は少しばかり強引だった故、まだ心の整理が出来ておらんじゃろうしな」

 

 ふと、じいちゃんの手が頭に置かれた。そしてそのまま少し乱暴気味に撫でられる。昔から変わらない、あったかくて、おっきなじいちゃんの手だ

 

「なぁに、春樹ならばきっと前に進む決心をしてくれる。ワシはいつまでも気長に待っとるよ。そしていつまでも、ワシはお主の味方じゃ」

 

 顔を上げれば、さっきまでと違いいつもの優しい微笑みを浮かべているじいちゃんが

 

「・・・・・・うん、頑張る」

 

 それから特に会話はなく、車はインターチェンジを降りた。約十年ぶりに、俺はまたこの地に戻って来た

 

 

 そしてこの日、俺は心の中で誓った。もう逃げないで、ちゃんと向き合う事を

 

 

 

 これは1人の少年(の勘違い)が巻き起こす物語

 

 

 





 プロローグはこんな感じです。勘違いの伏線っぽいのはこんな風でいいんでしょうかね?感想、意見待ってますm(__)m

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