東方転生伝 ~もう1人のスキマ妖怪~   作:玄武の使者

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第5話 「10年後」

第5話 「10年後」

 

 

 

 

 

 

 

 

八雲 ゆかりside

 

 

八雲 ゆかりが『東方project』の転生を果たしてから10年の月日が流れた。

シアンディーム、ルーミアという新しい仲間を得たゆかりはいつの間にか竜脈を流れるエネルギーの溜まり場付近を縄張りとする妖怪になっていた。

最初こそ、竜脈の乱れによって枯れ果てていた大地だったが、10年も経つと豊かな場所になった。

 

 

「八雲式剣舞・弐の舞、雀蜂!!」

 

 

ドスドスドス!!と突きの三連撃が太った猪の身体に突き刺さる。猪はそのまま力尽きた。

 

 

「今日の食事、確保。戻ろうか?」

 

 

《 《はい。》 》

 

 

ゆかりは刀剣状態のまま焔月と蒼月を例の神様から受け取った専用の鞘に納めると、つい先ほど仕留めた猪を豪快に担いだ。

 

 

「あれから10年。妖精や動物も結構増えてきたね。」

 

 

《自然や生態系が元の状態に戻りつつある証拠です。》

 

 

「だね。」

 

 

それにしても、シアンディームといいこの辺りの妖精って知能が高いんだよね。竜脈のエネルギーの影響かな?

 

 

そんなことを考えながら、ゆかりは寝床になっている洞窟に足を向けた。

 

 

 

・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「ただいま~。」

 

 

「おかえり~」

 

 

洞窟に戻ると、ルーミアが瞳を閉じて瞑想していた。

慣れた光景なので、ゆかりは気にすることなく狩ってきた猪の解体作業に取り掛かる。

 

 

「何か異常は?」

 

 

「現在何もなし。ちらちらと妖怪の姿が見えるぐらいかな?」

 

 

ルーミアは目を閉じたまま答えた。

ルーミアは使い魔(式神)を通じて、縄張り一帯を監視している。その使い魔は視覚や聴覚をルーミアと連結させているので、何か見つければそれがダイレクトにルーミアに伝わるようになっているのだ。

ちなみに、ルーミアが使っている式神は八雲式符術の一端であり、本来は霊力を持たないルーミアは使えない。

しかし、ゆかりは“妖力”と“霊力”の境界を弄くることでその問題を解決したのだ。

 

 

「シアンはどうしたの?」

 

 

「果物を採りに行った。そろそろ戻ってくると・・・・・・侵入者発見。」

 

 

「場所は?」

 

 

「縄張りのちょうど入口だね。」

 

 

猪を解体していた手を止めてスキマを広げるゆかり。そして、スキマを通じて侵入者の姿を確認する。

ゆかりの縄張りに入ってきたのは、集落規模の団体。すぐに侵入者を発見した妖精に囲まれていた。

 

 

「ねぇ、ゆかり。あの人たち食べて良いかな?」

 

 

「あの侵入者たちが無作法な輩だったらね。」

 

 

そんな物騒な会話を交わしながら、ゆかりはスキマを通じて聞こえてくる声に耳を傾けた。

 

 

―――お願いします!!少しだけでも、私たちに食糧を分けてください!!―――

 

 

若い男性が妖精たちに必死に懇願する。妖精たちも困ったような表情を浮かべている。

 

 

「仕方ない。」

 

 

ゆかりは解体途中の猪を放置してスキマの中に潜った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうするよ?」

 

 

「うーん・・・あの態度が演技かもしれないしね。」

 

 

侵入者を取り囲んでいた妖精たちは小声で侵入者の扱いを相談していた。

妖精たちは過去に何度か実った作物で金儲けを考える奴らに森を荒らされそうになってから、侵入者に対して強い警戒心を持っている。

此処に住む妖精たちは総じて知能・戦闘能力が高い。なので、森を荒らすような輩には容赦なくその力を振るって追い出す。

人間たちが過去に森を荒らしたのもあって、侵入者を非常に警戒している。

 

 

「此処はやっぱり・・・・・・」

 

 

「ゆかり様に相談するべきね!!」

 

 

「じゃあ、喚んでくる!」

 

 

「その必要はないわ。」

 

 

「あ、ゆかり様だ!!」

 

 

「実はこの人たちが・・・・・」

 

 

「事情は分かってるわ。後は私がやるわ。」

 

 

ゆかりがそう言うと、妖精たちはそれぞれ自分の住み処に帰っていった。

 

ゆかりは不思議と妖精に好かれている。彼女の人柄なのか、妖精たちの気紛れなのかは分からないが、縄張り内に住む大半の妖精はゆかりのお願いを聞いてくれる。

 

 

「さて、こんな辺境にある私の縄張りに何の用ですか?

もしこの土地を侵略しようという魂胆なら、容赦なく排除します。」

 

 

焔月を抜き、ゆかりは殺気を放つ。

 

 

「わ、儂らはこの土地を侵略するつもりはない!!」

 

 

若い男性に変わって、少し年老いた中年の男性が人混みを掻き分けて前に出てきた。

 

 

「儂らは安住の地を探しているのじゃ。すまぬが、この土地の一部を貸して貰えぬか?」

 

 

うーん・・・嘘をついているようには見えないけどね。そもそも、この時代は結構土地が余ってる筈なのに、態々こんな辺境に出向く必要はない。

 

 

「何か、訳ありなのかしら?」

 

 

「そ、それは・・・・・・」

 

 

中年の男性は口ごもった。

すると、白い外套のフードで顔を隠した10歳前後の子供がその男性の裾を引っ張った。

 

 

「・・・・・・」

 

 

「いや、ダメだ!!」

 

 

ぼそぼそと小さな声で男性に話し掛ける子供。

何を言っているかはゆかりにも分からないが、どうやらその男性に何か提案しているようだ。

 

 

「・・・・・・。・・・・・・・・!!」

 

 

「む、むぅ・・・・・・」

 

 

子供は男性を言いくるめると、ゆかりに見えるように顔を隠していた白いフードをとった。

 

子供の正体は日本人形のような白い肌に艶のある黒い髪を持つ少女だった。その整った顔立ちは異性を惹き付けるほど美しい。

しかしながら、その少女には普通ならあり得ないものが生えていた。

 

それは黒い髪の合間から顔を覗かせる黒い毛並みの猫の耳と尾てい骨辺りから生えている2本の猫の尻尾。

 

 

「儂の娘はこのように妖怪憑きで・・・。役人が娘の首を差し出せと脅してきたのです。

儂らはこの子のおかげで大変助かりました。そのような子を見捨てるわけにもいかず、村総出で逃げてきたのです。」

 

 

妖怪憑き・・・多分猫又に憑かれたみたいだね。猫又って、結構悪いイメージが定着してるけど、単に長生きしただけの猫なんだよね~。

でも、普通なら追い出したり、迫害する妖怪憑きを匿うってことは、信用しても大丈夫そうだね。

 

 

「・・・・・・」

 

 

ゆかりは無言で手を翳した。

すると、スキマが開いて木の実が沢山出てきた。

 

 

「良いでしょう。妖怪を庇うあなた方を信用してこの土地を貸し出しましょう。」

 

 

「ほ、本当ですか!?」

 

 

「ええ。ただし、いくつかの条件があります。」

 

 

ゆかりの言葉に少し身構える中年の男性。

 

 

「収穫の一部を私たちに分けること、無闇に生きてる樹を斬り倒さないこと。これが私の土地を貸し出す条件です。」

 

 

ゆかりから提示された条件にみんな面食らった。その表情を楽しむかのようにゆかりはクスクスと笑う。

 

 

「そんな簡単なもので良いのですか?」

 

 

「あら?もっと厳しい条件にして欲しいのかしら?」

 

 

「め、滅相もございません!!」

 

 

「ふふ♪じゃあ、頑張ってね。」

 

 

「それはお裾分けよ。好きなだけ食べていいわ」

 

 

そう言い残してゆかりは立ち去ろうとした。

しかし、先ほどの年老いた男性に声を掛けられて足を止めた。

 

 

「な、名前を教えてもらえないだろうか?」

 

 

 

「私は八雲 ゆかり。この辺りを縄張りとする妖怪よ。

 何か困ったことがあったら、湖の畔まで来るといいわ。」

 

 

そう言って、ゆかりは今度こそ立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~洞窟~

 

 

「ただいま~」

 

 

「遅かったね。」

 

 

ゆかりが戻ると、洞窟内に芳ばしい肉の香りが漂っていた。

ルーミアたちが猪の肉を焼いていたのだ。木の実を採りに行っていたシアンディームも戻っている。

 

 

「焔月、蒼月。戻って良いよ。」

 

 

鞘に入っていた焔月と蒼月が光の粒子となって霧散し、人の姿で再構築されていく。

 

 

「ゆかり、あの人間たちを住まわせて良かったの?」

 

 

「妖精たちも少し騒いでましたよ?」

 

 

「遅かれ早かれ、この土地にも人間が住み着く。それがちょっと早まっただけ。」

 

 

二人にそう説明しながら、ゆかりは骨付きの猪の肉にかぶり付く。

 

 

「それにあの人間たちが約束を破るようなら、すぐにでも滅ぼすよ。」

 

 

ゆかりはそう断言した。

ルーミアもシアンディームもゆかりの言葉が本気であることを察して、それ以上は何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 


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