第4話「常闇の妖怪」
八雲 ゆかりside
異形の妖怪を無事に討伐した八雲 ゆかりたちは“水の妖精”と名乗るシアンディームを連れて洞窟まで戻ってきた。
異形の妖怪よりも少し前に現れた少女の方はまだ意識を失っている。
「それで?貴女はさっきの妖怪とどういう関係なの?」
「えっとですね・・・・・・あの妖怪は妖精喰らいという特殊な妖怪です。
わたくしはその妖怪に取り込まれていたんです。貴女たちのおかげで解放されましたが。」
妖精喰らい・・・フェアリー・イーターね。まあ、スキマ妖怪が居る時点で聞いたことのない妖怪が出てきてもおかしくはないか。
そして、あの再生能力はシアンディームを取り込んだことで手にいれたものだったわけか。妖精を殺すには自然そのものを破壊しないといけないし。
「あのままでは、わたくしはずっと妖怪に取り込まれていました。
本当にありがとうございます。」
そう言ってシアンディームは深々とお辞儀した。
「気にしなくていいよ。偶々、妖怪を倒したら貴女が助かっただけ。」
「それはそうかもしれませんか・・・・・・」
シアンディームは納得できずに少し不満そうな表情を浮かべた。
「主ゆかり、目が覚めたようです。」
意識を失い、閉じられていた瞼がゆっくりと開かれた。
「ここ、は・・・・・・?」
「気が付いた?」
意識が戻った少女は身体を起こした。
ゆかりよりも濃い色の髪に闇を彷彿させる漆黒のワンピース。瞳は深紅に輝いており、口元から鋭い歯が見える。
「貴女たちは、食べてもいい人類?」
少女が開口一番に呟いた言葉はその場の空気を凍り付かせるには十分だった。
「私たちは人間じゃないから、美味しくないよ?というか、食べちゃダメ。」
真っ先に正気に戻ったゆかりがそう言うと、少女はしょぼくれた。
「そーなのかー・・・・・・」
うん。今のやり取りで分かった。
この子、博麗の巫女に封印を施される前のルーミアだ。確かにルーミアの面影があるし、間違いない。
「貴女、名前は?」
焔月が問う。
「私は“常闇の妖怪”ルーミア。」
「じゃあ、ルーミア。貴女は何でこんな場所をさ迷ってたの?」
「あ~・・・ちょっと変な妖怪に不意打ちを喰らってね。しかも、妖力も根こそぎ持っていかれて、この様」
ルーミアは自嘲の笑みを浮かべた。
ルーミアの髪には雨でどろどろになった泥が付着し、着ている衣服はあちこち切れている。
「正直に言うと、妖力が空っぽで身体を起こすのも辛い。だから、早く私の目の前から消えた方が良い。」
「穏やかではありませんね。助けてもらった相手への言葉とは思えません。」
「助けてもらった覚えはないけどね。さっきも言ったけど、私はほとんど妖力が残っていない。
だから、さっきから本能が囁くんだよ。目の前に貴女たちを食べて妖力を補給しろってね。
私が出ていくのが筋なんだろけど、何せ歩くのも辛い状態だからね。」
つまり、ルーミア自身はゆかりたちを食べることを拒否しているが、ルーミアの生存本能がルーミアの意識を塗り潰そうとしている。
だから、ゆかりたちが自分から離れてくれることを望んでいるのだ。
ルーミアの深紅の瞳を見てみると、理性の光が消えかかっている。こうして会話を交わしてる間にもルーミアは何とか生存本能を抑え込もうとしていたのだろう。
「もうあんまり持ちそうにない・・・・・・」
「・・・・・・」
ゆかりは自分の右手を左腕に当てた。
そして、何かしらの細工を施した左腕をルーミアに突き出した。
「食べなさい。」
ゆかりの言葉に焔月、蒼月、シアンディームは驚いた。
すぐに焔月と蒼月が止めようとするが、焔月と蒼月が止めに入る前にルーミアは鋭い歯をゆかりの左腕に突き立てた。
ゆかりの皮膚を破って溢れた血がルーミアの喉を潤すと、ルーミアの身体から漆黒の闇が溢れ出した。
漆黒の闇はルーミアの身体とゆかりの左腕を包み込んだ。
「主!!一体何をしてるんですか!?」
「何って・・・餌付け?」
生々しい音を立てながらルーミアはゆかりの左腕を咀嚼する。
かなりの激痛に襲われている筈なのに、ゆかりは平然としている。
「餌付けしてどうするんですか!?とにかく、早く腕を抜いてください!!」
「はいはい。」
そう返事しながらゆかりは闇から左腕を引き抜いた。
ゆかりの左腕は二の腕よりさっきが綺麗に食い千切られており、ボタボタと血が垂れていた。シアンディームも蒼月も顔を真っ青にしている。
「リザレクション。」
刹那、ルーミアに食い千切られてた左腕の断面が発火した。火は大きくなり、ゆっくりと失った左腕の代わりになるように形を変えた。
火が消えると、失なわれた筈の左腕が完全に元に戻っていた。
「さすがは竜脈のエネルギー。妖怪の再生力をここまで高めるなんてね」
従来の再生力を竜脈のエネルギーを利用して極限まで高めて、蓬莱人みたいな再生力を発揮できる。
まだ予想の段階だったけど、上手くいって良かったよ。まあ、死ぬくらい痛くて最早痛みと認識できなかったけど。
「ふぅ~ごちそうさまでした♪」
少し時間が経つと、闇が消滅して食事を終えたルーミアが出てきた。
妖力を補給できたおかげか、ルーミアの背丈は少し伸びて衣服も修復されていた。
そして、消えかけていた理性も元通りに戻ったようだ。
「主」
焔月はポンッとゆかりの肩に手を置いた。
ニコニコと笑みを浮かべる焔月だが、ゆかりはその背中に般若の姿を幻視した。
「えーと・・・焔月?」
「少しお話しましょうか。」
そう言うや否や、焔月はゆかりの襟首を掴み、洞窟の外に連れ出した。
「「「御愁傷様~」」」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
数時間後、焔月とゆかりが戻ってきた。
焔月の目尻が赤く腫れているところを見ると、泣き落としを慣行したようだ。
ついでに、焚き火を焚くための薪も採って来たので、早速焚き火を付けることになった。
「そういえば、ルーミアには自己紹介してなかったね。」
焚き火の準備をしながらゆかりはふと、思い出したように言った。
ちなみに、シアンディームらはゆかりが焔月に説教を喰らっている間に自己紹介を済ましている。
「私は八雲ゆかり。最近生まれたばかりの妖怪。」
「わたしもそんなに変わらないよ?ざっと10年ぐらいしか生きてないし。」
「それでも、私からみれば見れば十分年上だよ。
私なんて生まれてから、まだ一週間も経ってないんだから。」
そう言いながらゆかりは焔月の力を借りて、薪に火を付ける。
薪が燃え始めて洞窟の中を怪しく薄暗く照らし出す。
「ルーミアはこれからどうするの?」
「今までと同じように1人でふらふらと放浪するだけかな?
何度か討伐されそうになったけど。」
「ねえ、ものは相談なんだけど、私たちと一緒に来ない?」
「ゆかりたちと?」
「そ。一緒に居る方が何かと心強いでしょ?」
ゆかりの提案にルーミアは少し考え込む。
「そうだね。わたしも討伐されるのは嫌だし。」
「じゃあ決まり♪これからよろしく」
「こちからこそ」