東方転生伝 ~もう1人のスキマ妖怪~   作:玄武の使者

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第51話 「隔絶される箱庭」

第51話「隔絶される箱庭」

 

 

 

 

 

 

 

 

~幻想郷 博麗神社~

 

 

5日後、薬の効果が無事に消えたゆかりはルーミアを連れて幻想郷の博麗神社にやって来た。

神様の居城としてヒトが行き来しやすいような場所に建設された八雲神社とは違い、博麗神社は立地条件が悪い。

人里から整備された山道を登ればたどり着ける八雲神社とは対照的に博麗神社はとてもヒトが行き来しやすい場所ではない。

まず、博麗神社にたどり着くには人里から出なければならない。

さらに、御世辞にも道とは言えない獣道を通らなければ博麗神社にたどり着くことはできない。

 

 

つまり、博麗神社に参拝するには非常にリスクを伴うのだ。

 

 

「まったく・・・神様の信仰を集める場所を何で辺鄙な場所に集めるかね。」

 

 

「そうだね。うちの神社なんて人里からすぐなのにね。」

 

 

退治屋に見つからないようにかなり上空を飛翔するゆかりとルーミア。

生憎とゆかりが博麗神社の正確な位置を知らないので、スキマによる瞬間移動はできない。

なので、八雲神社から博麗神社まで空を飛び続けている。

 

 

「っと。見えたわよ、ルーミア。」

 

 

ゆかりが見下ろす大地には一部をくり抜いたように存在する博麗神社があった。

周囲は森に囲まれており、境内の境界線には朱色の鳥居がきちんと建っている。

敷地面積は八雲神社よりも小さいだろう。

 

 

「降りるよ。」

 

 

「は~い。」

 

 

2人はみるみる高度を下げていき、ちょうど鳥居のすぐ後ろに着陸した。

 

幻想郷唯一の神社であり、此度の大結界の起点になる博麗神社。

きちんと清掃された境内には奇抜な巫女装束に身を包んだ女性が居た。

艶のある黒い髪は短く切り揃えられており、身長はゆかりと同じくらい。

比較的長身な女性はゆかりの姿を見た途端、少し驚いたような表情を浮かべた。

 

 

「紫さんから聞いていましたが、本当に瓜二つですね。」

 

 

女性は小さな声で呟いた。

 

 

「えっと・・・・・・貴女がこの神社の巫女?」

 

 

「あ、はい。私は今代の博麗の巫女、博麗 夢弓(ゆめみ)と申します。」

 

 

「夢幻郷の土着神、八雲 ゆかり。こっちは連れのルーミア。」

 

 

「よろしくね~」

 

 

「はい。」

 

 

そして、互いに自己紹介を終えると狙ったようにスキマが開かれた。

無数の目がギョロギョロと覗くスキマから大結界の提唱者が出てきた。

 

 

「お待たせ。全員集まってるわね。」

 

 

今回の大結界構築に必要不可欠なメンバーが揃っていることを確認した後、紫は地面の上に巻物を広げた。

その巻物には此度の大結界、〈博麗大結界〉の大元になる術式が記されている。

昼間の間に術式に問題がないことを確認した後、夕暮れと同時に〈博麗大結界〉を展開する手筈になっている。

 

 

「閻魔王によって〈博麗大結界〉の詳細は二つの箱庭全体に行き渡ってるわ。

 起点となる博麗神社や結界の要になる夢弓を狙ってくるかもしれないわ。」

 

 

いつも冷静沈着な紫には珍しく焦りの色が見える。

それだけ〈博麗大結界〉に反対している妖怪が多いということなのだろう。

 

 

「じゃあ、八意思兼神の神徳をちょっと借りてくるよ。」

 

 

ゆかりは蒼月と焔月を抜いて、地面に突き刺す。

焔月と蒼月は元々名のある神様の分霊体なので、力場を固定する道具としては最適だ。

なお、力場を固定しておかないと無駄な力を消費してしまう。

 

 

「八意思兼神よ、汝の神徳をしばしの間我にお貸しください。」

 

 

ゆかりはその身に宿る神力を解放し、〈神威召喚〉を行う。

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

八意思兼神の神徳を借りたゆかりの眼には巻物に記された術式がまったく違うモノのように見えた。

“知恵(知識)”の神徳が術式の問題を容易く見つけてくれる。

紫はその指示に従って、〈博麗大結界〉の術式に手直しを加えていく。

 

 

「暇ですね。」

 

 

「そうだねぇ。」

 

 

手伝うことがない夢弓とルーミアは暇を持て余していた。

いや、ルーミアには博麗の巫女や自分の主の護衛という大事な仕事があるのだが、博麗神社の周囲に妖怪の気配はない。

 

 

「見境もなく襲ってくるかと思ったけど、そんなことはないか。」

 

 

「分かりませんよ? もしかしたら、こちらが油断するのを待っているかもしれません。」

 

 

夢弓はそう言うが、本人もそんなに気を張っている訳ではない。

そもそもルーミアは幻想郷の中でも最高齢組に入る大妖怪の一人である。

妖怪という存在の特性上、ルーミアはそこらへんの妖怪に苦戦するような存在ではない。

 

そして、夢弓も多くの妖怪を退治してきた実力者である。

この二人に正々堂々と勝負を挑んで勝てる妖怪などそうそう居ない。

 

 

「ん?」

 

 

「どうしましたか?」

 

 

「いや、多分気のせいだと思う。」

 

 

「?」

 

 

ルーミアの言葉に夢弓は首を傾げる。

 

 

(気のせい・・・だよね? 今、こいしは忙しい筈だし)

 

 

ルーミアが感じたのはほんの少し前まで神社に居候していた古明地姉妹の妹の気配。

しかし、古明地姉妹は閻魔王から依頼を受けてペットたちと共に旧地獄に移住した。

今は新しい住居の建設で手が一杯なのは容易に想像できる。

だから、ルーミアは感じた気配は気のせいだと判断したのだ。

 

 

「このまま何も起こらなければ良いけど・・・・・・」

 

 

ルーミアは雲1つない青空を仰ぎながら静かに呟いた。

 

 

 

・・・

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

ゆかりと紫が術式のチェックを終えた時にはすでに日が沈み始めていた。

幸いにも術式をチェックしている間に襲撃はなかった。

しかし、妖怪の気配は徐々に博麗神社の周囲に集まってきている。

 

 

「これから〈博麗大結界〉を張るわ。

 その間、私たちは身動きできなくなるから注意して。」

 

 

幻想郷と夢幻郷を隔離する〈博麗大結界〉。

その基点になる博麗神社の境内には守備隊として藍と葵、ルーミアが派遣された。

そして、もう1つの基点になる八雲神社には残った夢幻郷の実力者たちが守備を固めている居る。

 

 

「手筈通りにね。」

 

 

「ええ。」

 

 

短い言葉を交わした後、ゆかりも準備のために八雲神社へ戻った。

そして、準備を終えた夢弓が御幣を携えて博麗神社の鳥居の前に立つ。

さらに、紫も深紅の鳥居の上に立ち、幻想郷を見渡す。

 

 

「さて、始めるわよ。」

 

 

紫の言葉に夢弓が小さく頷く。

 

 

「―――――」

 

 

夢弓は御幣を掲げて呪文を紡ぐ。

同時に紫が能力を使い、幻想郷と夢幻郷を隔絶する境界を築き上げる。

博麗神社から〈博麗大結界〉が張られていくのと同時に夢幻郷の方からも〈博麗神社〉が張られていく。

 

 

「さて、私たちも愚か者を蹴散らすとしようか。」

 

 

儀式の開始を見届けたルーミアは背負っていた漆黒の大剣――〈ストームブリンガー〉を抜く。

新調された〈ストームブリンガー〉を掲げると、妖力で編み上げられた剣がいくつも出現する。

 

 

「終焉を刻め。」

 

 

刹那、妖力で編み上げられた剣は四散し、博麗神社周辺の妖怪密集地に降り注ぐ。

そして、少し間をおいて遠くから断末魔の悲鳴が次々に響く。

 

 

「闇雲に撃っただけなのに、結構当たったみたいだね。」

 

 

「私はルーミアみたいに広域に攻撃できるようなワザはないから此処で待機してるね~」

 

 

そう言って、葵は周囲を見渡せるように博麗神社の屋根に登る。

 

 

「仕方ない。姉の代わりに私が出張るとしよう。」

 

 

「まあ、ゆかりの命令以外は非協力的だからね。」

 

 

同僚の相変わらずの態度に苦笑いを浮かべるルーミア。

もっとも葵の能力は今回のような防衛戦に適していないのは事実であるが。

 

 

(あれ? そういえば、東側の妖怪の数がどんどん減ってるような・・・・・・)

 

 

▼    ▼    ▼    ▼    ▼    ▼

 

 

 

同じ頃、妖怪の密集具合が一番激しかった博麗神社の東側は壊滅的なダメージを負っていた。

薄暗い森の中を縦横無尽に駆け回る黄色の閃光。

それが今回の儀式を潰すために集まった妖怪たちを打倒していた。

 

 

「影縫い!!」

 

 

また一体の妖怪が打ちのめされる。

倒された妖怪に共通するのは手痛いダメージを負いながらも生き延びていることだ。

 

 

「烈震脚!!」

 

 

固い地面を貫くような蹴りがまた妖怪を打ち倒す。

 

 

「ほらほら、この程度なの?」

 

 

東側に集まった妖怪を物凄い早さで無力化しているのは、西欧風の衣服に身を纏った妖怪。

ここには居ない筈の古明地姉妹も妹、古明地こいしだった。

彼女は八雲神社に滞在している間に教わった体術で他の妖怪を圧倒していた。

 

 

「この先に行きたければ、私を倒していきなさい。」

 

 

こいしはクスッと挑発的な笑みを浮かべた。




微妙にこいしちゃんの活躍シーンを入れました。
別に戦闘シーンを入れる必要なんか無かったんだけどね。

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