東方転生伝 ~もう1人のスキマ妖怪~   作:玄武の使者

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第50話 「緊急会議」

第50話「緊急会議」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~夢幻郷 とある屋敷~

 

 

夢幻郷の水源となっている川を渡った先にある和式建築の屋敷。

人里から見ても北側にあり、夢幻郷の北端に位置するその屋敷には一組の夫婦が住んでいる。

人里の人間と妖精によって建築された少しばかり大き目の屋敷の会議室に意外な面子が集まっていた。

太陽の光がさんさんと降り注ぐ会議室に設置された円卓。

 

 

その上座にあたる席に座る緑髪の少女、〈閻魔王〉四季 映緋。

 

 

円卓の右側に座る金髪の女性、〈妖怪の賢者〉八雲 紫。

 

 

円卓の左側に座る賢者と瓜二つの“幼女”、〈夢幻郷の土着神〉八雲 ゆかり。

 

 

 

夢幻郷、及び幻想郷でトップ層に入る実力者が一堂に介していた。

約一名、なぜか場違いな姿になっている人物が居るが・・・・・・。

 

 

「さて、全員集まった所で会議を始めたい所ですが・・・・・・」

 

 

「そうね。さっさと始めたい所だけど・・・・・・」

 

 

映緋と紫の視線が場違いな姿のゆかりに突き刺さる。

肝心の本人は気まずそうに明後日の方向を向く。

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

「「・・・・・・・どうしたの?」」

 

 

映緋と紫の言葉が見事に重なった。

 

現在のゆかりの外見年齢は八雲神社の最年少、八雲 葵と大差ない。

しかし、体は小さくなっても強者の雰囲気というものを感じさせる。

もちろん彼女は伊達や酔狂でこんな姿をしてる訳がない。

 

 

「私の古い友人から貰った薬を飲んだらこうなったのよ。」

 

 

ゆかりはムスッと顔をしかめる。

 

彼女の言う“古い友人”とは、竹林に住む凄腕の医者、八意 永琳のことである。

「疲れがとれる」という名目で貰った薬なのだが、何故か幼児化という効果をもたらした。

本来なら神社に引きこもるのだが、いかせん大事な会議なので欠席する訳にはいかない。

 

 

「私の容姿のことはほっておいて、いい加減本題に入りましょう。」

 

 

「そうですね。」

 

 

映緋はコホンッとわざとらしく咳き込んで場の雰囲気を入れ替える。

 

 

「今回集まって貰ったのは他でもありません。

 最近、妖怪たちの力が弱まっていることに関してです。」

 

 

二人のスキマ妖怪は大して驚いたような素振りもせずに映緋の話に耳を傾けていた。

 

 

「外の世界に住む人間たちにとってもはや妖怪は迷信。

 このままでは遅かれ早かれ妖怪たちは絶滅してしまいます。」

 

 

時は明治15年。

産業革命によって人間の技術は飛躍的に成長した。

そして、人々は自然現象を次々と科学的に解明していき、夜を恐れないようになった。

結果。妖怪は衰退の一途をたどっている。

映緋が懸念しているようにいずれは妖怪が滅亡してしまう可能性が高い。

 

 

「夢幻郷は維持できますが、幻想郷にとっては死活問題ですね。」

 

 

「ええ。このまま事態が深刻化すれば、人と妖怪の均衡が崩れてしまうわ。

 そうなったら、幻想郷もおしまいね。」

 

 

夢幻郷と幻想郷では根本的な成り立ちが大きく異なる。

夢幻郷は妖怪が居なくても、妖精と人が居れば半永久的に存続することができる

しかし、幻想郷は妖怪が居なければ成り立たないのである。

 

 

「正直に言うと、輪廻を巡る魂の量にも乱れが生じています。

 これも妖怪の力が弱くなっていることに大きく関係しています。」

 

 

「妖怪が存在意義を失い、消滅する。そして、妖怪の魂によって輪廻を巡る魂の量も増える。」

 

 

「そういうことです。おかげで私の可愛い後輩が悲鳴をあげていますよ」

 

 

映緋はため息を吐いた。

 

今から数百年前に10人の閻魔だけでは輪廻の輪を管理することが難しくなった。

そこで現在の閻魔十王は大勢の閻魔を登用し、この危機を乗り切った。

そして、現在の夢幻郷と幻想郷を担当している閻魔は映緋の後輩なのだ

 

 

「対策はすでに練ってあるわ。」

 

 

最初に話を切り出したのは、紫だった。

 

 

「幻想郷と夢幻郷の周囲に“常識”と“非常識”の境界線を敷く。

 そして、幻想郷と夢幻郷を外部の世界と切り離した箱庭にする。

 これが今できる最善の策よ。」

 

 

「私もそれ以上の最善策はないと思います。

 何よりも妖怪が滅亡するまであまり悠長な時間は与えられていません。」

 

 

紫の意見にゆかりも賛成の意を示す。

 

 

「妖怪の賢者、その策を施行した場合、何かしらの弊害は起きないのですか?」

 

 

「・・・・・・・1つだけ注意しなければならない点があるわ。

 二つの箱庭を外界から隔離すると、箱庭の中の妖怪と人間の個体数が均等でなければならない。

 つまり、妖怪はヒトを襲うことができなくなり、ヒトは妖怪を滅することができなくなる。」

 

 

「それは・・・・・・かなりキツイ制約ですね。」

 

 

紫の口から聞かされる制約に唸る映緋。

 

 

「でも、悠長に他の打開策を模索してる時間もない。」

 

 

「うぅ・・・・・・」

 

 

ゆかりの言葉に映緋も押し黙る。

そして、少し考え込んだ後、映緋は最終的な判断を下した。

 

 

「分かりました。その制約については私の方から発表しましょう。

 結界に関しては妖怪の賢者に任せて良いですか?」

 

 

「ええ。」

 

 

「では、これにて緊急会議を終了とします。」

 

 

映緋の鶴の一声で今宵の緊急会議は終了となった。

一足先に映緋が退室し、少し広い会議室には2人のスキマ妖怪だけが残された。

 

 

「八雲 ゆかり。貴女、神降ろしの術が使えたわよね?」

 

 

「使えるわ。それがどうかしたの?」

 

 

「今回の結界はかなり大がかりな術式になることは間違いないわ。

 少し癪だけど、八百万の神様の知恵を借りたいのよ。」

 

 

「なるほど。つまり、思兼神の知恵を借りたいって訳ね。」

 

 

「そうよ。」

 

 

「別に良いよ。ただ、ちょっと能力が不安定になってるから薬の効果が切れるまで待って欲しい。」

 多分5日ぐらいで薬の効果も切れると思うから。」

 

 

「分かったわ。じゃあ、五日後に博麗神社まで来て頂戴ね」

 

 

そう言い残して紫はスキマを開いて、帰って行ってしまった。

 

 

「さて、私も帰ろうかな。弱体化している間によからぬ輩が紛れ込んでるかもしれないし。」

 

 

永琳の薬によって体が幼児化しているゆかりだが、実は境界を操る力が不安定になっているのだ。

何よりも背丈の問題で愛剣である焔月と蒼月を振るうことができないのが問題だ。

ゆかりが少しでも弱体化している隙を狙うを輩は多い。

 

 

「まあ、あのメンバーに勝てる輩なんてそうそう居ないでしょ。」

 

 

独り言を呟きながらゆかりも会議室から出て行った。

 

 

 

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~映緋の屋敷 玄関口~

 

 

「ゆかりさん。」

 

 

神社に戻ろうとしたゆかりを映緋が呼びとめた。

その傍らには彼女の伴侶でもある煉貴が私服姿で控えている。

 

 

「少し古明地姉妹に言伝を頼めないでしょうか?」

 

 

「さとりとこいしに、ですか?」

 

 

「はい。彼女たちに旧地獄の怨霊の管理を任せたいと思うのです。」

 

 

旧地獄というのは、元々地獄の一部だった場所のことだ。

地獄の経費削減のために旧地獄と呼ばれる場所が切り離され、そのままの形で今も残っている。

同時に妖怪には天敵にもなる怨霊が数多く居る。

映緋はそんな怨霊の管理を八雲神社で厄介になっている古明地姉妹に一任しようとしているのだ。

 

 

「彼女ら・・・いや、さとりが持つ読心能力が目的ですか?」

 

 

「敏いですね。貴女の予想通りですよ。

 この仕事の適任は彼女ら以外には居ませんからね。」

 

 

(まあ、他の妖怪や人間に任せても怨霊に体を乗っ取られるだけだからね。)

 

 

さとりの読心能力は言葉が交わせない怨霊や動物にも効果を発揮する。

怨霊にとって、さとりは天敵。その気になれば、ゆかり直伝の八雲式符術で消滅される。

確かに、怨霊の管理にはうってつけの人物なのかもしれない。

 

 

「一応、話は通しておきます。しかし、受ける受けないを決めるのはあの子たち次第なので悪しからず。」

 

 

「分かっています。無理やりに引き受けさせるつもりはまったくありませんよ。

 彼女たちが断った場合は別の者を探します。」

 

 

「はい。それでは失礼します。」

 

 

ゆかりはお辞儀して、映緋の屋敷より立ち去って行った。

 

 

「あの姉妹、引き受けてくれるでしょうか?」

 

 

ゆかりの姿が見えなくなると、煉貴が初めて口を開いた。

 

 

「引き受けてくれますよ。あの姉妹はゆかりさんに恩義を感じていますからね。

 まったく・・・それに漬け込むなんて私も酷いヒトね。」

 

 

映緋は自分に対して苦笑いを浮かべた。

 

 

 




テストも終わり、ようやく春休み。
でも、最近の冬の寒さのせいでまったく執筆作業が進みません。
早く新作に取りかかりたいのに・・・・・・・。
残り3話ぐらいでこの作品は完結の予定なのですが、次話にはまったく手をつけていない状態。
そして、この第50話もついさっき書きあがったばかりなのです。

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