東方転生伝 ~もう1人のスキマ妖怪~   作:玄武の使者

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第48話 「幻想郷からの来訪者(前篇)」

第48話「幻想郷からの訪問者」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古明地姉妹が八雲神社に居候することになってから数カ月の月日が流れた。

さとりはゆかりから妖術の手解きを受け、こいしはシオンから格闘術の手解きを受けていた。

読心能力の方はゆかり特製のピアスによって封じられている。

しかし、悪意ある妖怪を見分けるために駆り出されることも少なくない。

幻想郷に流れ込む妖怪が多くなるのに従って、夢幻郷の周囲に住みつく妖怪も多くなった。

 

 

 

そんなある日の出来事・・・・・・・

 

 

 

 

~夢幻郷 八雲神社~

 

 

「ただいま。」

 

 

「御帰り。護衛、御苦労さま。」

 

 

年に数回、夢幻郷と幻想郷の間で貿易が行われる。

当然ながら危険度の高い妖怪の森を通り抜けないといけないので護衛が同伴する。

今回の護衛には霊禍が選ばれ、5日間の滞在の後帰還したのだ。

 

 

「幻想郷の様子はどうだった?」

 

 

「さとりがこっちに来た時よりはマシ。

 何でも物凄く強い人が里に住んで、その人が警護に参加してるかららしい。」

 

 

「うーん・・・単なる人が妖怪に勝てるとは思えないけど、能力持ちかな?」

 

 

「そこまでは分からない。

 その人に会うこととかはなかったから。」

 

 

「まあいいや。ありがとう。」

 

 

「ん。」

 

 

報告を終えた霊禍は扉を開けて、自室に戻ろうとした。

そして、ふととあることを思い出して足を止めた。

 

 

「そういえば、人里で“あの子”にあったよ。」

 

 

「“あの子”?」

 

 

「うん。先代夢幻郷の巫女、水雲 ゆりか。」

 

 

「そう・・・・・・。元気そうだった?」

 

 

ゆかりの質問に霊禍はコクリと頷いた。その返答にゆかりは頬を緩めた。

 

シオンから1代前の巫女――つまり、6代目の巫女――水雲 ゆりか。

5代目巫女の水雲 ゆりの後継者であり、夢幻郷最強の巫女であった。

歴代の巫女が習得できなかった八雲式符術最終奥義“夢想封印”を習得したのもゆりかが最初である。

そんな彼女は巫女の位をシオンに譲った後、とある事情から博麗の巫女に就任した。

そして、今も博麗の巫女だった頃の名残で幻想郷に住んでいるのだ。

 

 

「引き止めてごめんね。ゆっくり休んでね。」

 

 

「うん。」

 

 

コクリッと頷いて、霊禍は今度こそ休憩に入った。

 

 

「それにしても、多くの妖怪を退ける程の守護者って何者なのかしら?」

 

 

 

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~幻想郷 人里~

 

 

少し前に夢幻郷との貿易を終えた幻想郷の人里。

街道に露店を出している住人たちは貿易で手に入れた収益を計算していた。

その一角、団子屋の長椅子の青いメッシュが掛った銀髪の女性と金色の髪の少女が座っていた。

 

 

「今日はいつもに増して賑やかだな。」

 

 

「貿易の後はいつもこんな感じですよ。珍しい物が手に入りますから。」

 

 

団子屋の奥からお盆に湯気が立つ二つを持った女将が出てきた。

 

 

「夢幻郷、ですか。私は向こう側に行ったことはありませんが・・・・・・どんな場所なのですか?」

 

 

「私も詳しいことは知りませんが、幻想郷とは違い統治者が治めているそうです。

 あとは特殊な金属が採掘できたり、妖精と人が協力して生活しているとか。

 他にもいろんな噂がありますが、どれが真実なのかは分かりません。」

 

 

女将は湯飲みに注がれた緑茶を二人に手渡す。

 

 

「全て真実よ。元夢幻郷の巫女、水雲 ゆりかがそれを保障するわ。」

 

 

三人の会話に割り込んできたのは、年若い一人の女性だった。

鮮血のように紅い髪を水色のリボンで結い、町娘のような衣服を身に纏っている。

しかし、その身から放たれる気配は間違いなく妖の物であった。

 

 

「何者だ!?」

 

 

二人は町中に堂々と姿を現した妖怪に対して警戒心を顕にする。

一方、ゆりかの方は余裕に満ちた笑みを浮かべる。

 

 

「言ったでしょ? 私は元夢幻郷の巫女、水雲 ゆりか。

 少し前は博麗の巫女として活動していたわ。」

 

 

「お前が“博麗の巫女”だと? 冗談も休み休み言え。

 そんな妖気を発しておいて巫女が務まる訳がないだろ。」

 

 

“博麗の巫女”とは、夢幻郷の巫女と同じように幻想郷の治安を守る存在だ。

夢幻郷の巫女と違い、世襲制ではなく、その世代で優れた才能を持つ少女が抜擢される。

ゆりかが抜擢された理由は博麗の巫女の後継が居なかったからである。

 

 

「ゆりかちゃん、からかうのはそこまでにしてあげな。」

 

 

「ふふふ♪ 分かってるわよ、女将さん。」

 

 

「知り合いなの?」

 

 

金色の髪の少女が女将に尋ねる。

 

 

「その子は正真正銘の元博麗の巫女だよ。

 今は後継者に仕事を譲って人里の外で隠居してますよ。

 そして、新参者を弄るのが趣味なのよ。」

 

 

「弄るなんて人聞き悪いわね。ちょっと遊んでるだけよ。」

 

 

ゆりかは妖気を引っ込めてクスクスと笑う。

 

 

「そうそう、言っておくけど私は元々人間よ?

 今は“存在を変異させる程度の能力”で妖怪になってるけど。」

 

 

「半人半妖、という訳ではないな。

 なるほど。存在そのものを変異させることで人と妖怪の間を行き来してる訳か。」

 

 

「そういうこと。まあ、最近は寿命の関係で妖怪の状態で居ることはほとんどだけど。」

 

 

ゆりかに悪意がないことを察知したのか二人も警戒を解く。

 

 

「私は自己紹介したけど、あなた達は? 見た所新参者だけど。」

 

 

「私は上白沢 慧音だ。人里で寺子屋を開いている。」

 

 

「月神 入江だよ。仕事は慧音のお手伝い。」

 

 

「ところでゆりかちゃん。今日はどんな用事で来たんだい?」

 

 

「今日、夢幻郷との貿易があったでしょ? だから、懐かしい友人に会えると思ってね。

 おかげで懐かしい友人に出会うことができたわ。」

 

 

そう言いながらゆりかは団子屋の長椅子に座る。

そして、慧音も入江も長椅子に座りなおして団子を残さず食す。

ちょうど二人が団子を食べ終えた時、里長が慌てた様子で走って来た。

 

 

「おお、慧音さん!! 此処にいらっしゃいましたか!!」

 

 

「どうしたのですか? そんな慌てて・・・・・・・」

 

 

「実は私の娘が夢幻郷の方角に行ったまま帰ってこないのです!!

 妻のために夢幻郷でしか手に入らない薬を貰ってくると聞かなくて・・・・・・」

 

 

「それは心配ですね。私がその子を見つけてきましょう。

 彼女は私の大事な生徒ですから。」

 

 

そう言って慧音は立ちあがった。

慧音と入江は里長に対して人里に迎えてくれたという大きな恩がある。

それ以前に里長の娘は慧音が開いている寺子屋の生徒だ。助けに行かない筈がない。

 

 

「夢幻郷に行くなら、妖精を頼ると良いよ。

 私の名前を出せば大体の妖精は協力してくれるよ」

 

 

「分かった。入江、行くぞ!!」

 

 

慧音の言葉に頷く入江。

女将に代金を払い、入江も立ち上がる。

そして、入江の姿が人の姿から変化していく。

 

全身に黄金のような毛並みを持ち、頭のてっぺんには一本の角。

顔は龍のようで体は体格的には馬に似ている。

 

 

「あらあら。普通の人間じゃないと思ったけど、麒麟だったのね。」

 

 

〈麒麟〉

中国神話に登場する動物であり、時には四神の王ともされることがある。

普段の性質は非常に穏やかで優しく、足元の虫や植物を踏むことさえ恐れるほど殺生を嫌う。

王が仁のある政治を行うときに現れるとされている聖獣である。

 

 

「入江は後天的な半獣なんだ。今は自在に姿を変えられるが、昔は不安定だったものさ。」

 

 

慧音は麒麟となった入江の背中に跨る。

そして、入江は虚空を蹴り、夢幻郷へと繋がる妖怪の森へと向かっていった。


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