東方転生伝 ~もう1人のスキマ妖怪~   作:玄武の使者

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第3話 「初戦闘」

第3話 「初戦闘」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しとしとと降り注ぐ雨の中、八雲 ゆかりは突然現れた異形の存在と対峙していた。

 

黒い巨大な毛玉のような身体から生える龍のような五つの頭部。

さらに、身体からは八本の足がはえており、蜘蛛のように足で巨大な身体を支えている。

外見は気持ち悪いだけだが、間近で対峙しているゆかりはそいつが放つプレッシャーをとても感じていた。

 

 

「さっきの女の子を襲ったのはコイツみたいね。」

 

 

ゆかりは1人呟きながら焔月と蒼月を構える。

それを開戦の合図と受け取ったのか、異形の妖怪は重低音をあげてゆかりに襲い掛かっている。

 

 

「よっ、と。」

 

 

異形の妖怪は大きくジャンプして、空中からゆかりに襲い掛かった。

ゆかりは利き足で跳躍し、刀身が長い焔月を横に薙いだ。少し粘性のある泥のようなものが辺りに飛び散る。

 

 

「八雲式剣舞・壱の舞、絢爛烈華!!」

 

 

利き足を戻し、異形の妖怪の真横から縦横無尽に焔月と蒼月で切り刻む。

異形の妖怪はうめき声をあげると、生えた五つの頭部すべてをゆかりに向けた。

 

 

(来るっ!!)

 

 

ゆかりの直感が脳に警鐘を鳴らした。

そして、ゆかりが回避行動に移るのとほとんど同時に五つの頭部から火炎弾が連続で放れる。

ゆかりは軽快なフットワークで五つの火炎弾を全て避ける。

 

 

《主》

 

 

ゆかりの右手に握られた焔月がゆかりを呼んだ。

 

 

「何?焔月。今絶賛戦闘中だから、要件は手短にして欲しいんだけど?」

 

 

《説明し忘れてましたが、私はあらゆる炎を吸収することができます。

先ほどの火炎弾も吸収できます。》

 

 

「そういうことは先に言って、よ!!」

 

 

異形の妖怪は五つの首の1つを使ってゆかりを呑み込もうと考えた。

しかし、呑み込もうとして大きく当てた口の中に蒼月を容赦なく突き刺すと、異形の妖怪は苦しみ悶えた。

それを好機と見たゆかりは異形の妖怪との距離を一気に詰めた。

 

 

「八雲式剣舞・玖の舞、双華連牙剣舞・十二連!!」

 

 

蒼月と焔月による全部で十二の太刀筋が異形の妖怪の身体を縦に、横に、斜めに切り裂いていく。

異形の妖怪の身体が切りされる度に鮮血の代わりに粘り気のある泥のようなモノが飛散した。

 

 

「まだまだぁ!!」

 

 

二連撃、三連撃と流れるように攻撃を繰り返すゆかり。

果敢に攻め立てるゆかりだが、長年培ってきた直感が警鐘を鳴らした。攻撃をストップして、バックステップ。

刹那、ゆかりが居た場所を先ほど蒼月を突き刺された首が噛みついた。

 

 

「蒼月で確実に突き刺したけど・・・・・・再生したのかな?」

 

 

《そうみたいです。ウチが監視していましたが、何か術を使った気配はありませんでした。》

 

 

相手の動向を警戒しながらゆかりは対策を考える。

 

 

(再生する速度はそれほど速くないけど、耐久力が高いから倒しきれない。

少し高威力な攻撃が欲しいところだね。)

 

 

異形の妖怪もゆかりを危険因子と認定したのから、迂闊に攻撃してこない。気持ち悪い見た目だが、それなりに知能はあるようだ。

 

 

《主ゆかり、私と焔月の力を使ってください。》

 

 

「焔月と蒼月の力?」

 

 

《はい。ウチらは妖力を雷と炎に変換することができます。注ぎ込んで貰えれば全自動で変換します。》

 

 

「じゃあ、遠慮なく使わせてもらうよ!!」

 

 

ゆかりは地面を蹴り、異形の妖怪に肉薄する。

焔月はその長い刀身に焔を纏わせ、蒼月はゴツい刀身に蒼白い雷を纏わせていた。

 

 

「八雲式剣舞・壱の舞、絢爛烈華!!」

 

 

縦横無尽に舞う斬撃が再び異形の妖怪に襲い掛かる。

さらに、焔月の焔がその妖怪の肉体を焼き、蒼月の雷が妖怪の肉体を穿つ。

 

ゆかりと異形の妖怪との間には埋めようのない決定的な実力の溝があった。

 

 

「はあぁぁぁぁあ!!」

 

 

ボッ!!という音をあげて焔月が纏っていた焔がより一層強くなり、降り注ぐ雨粒すら蒸発させる。

刹那、ゆかりは焔月で異形の妖怪の身体をまっ二つに切り裂いた。さらに、焔月の焔が肉体を焼き尽くしていく。

 

 

「もう再生する暇なんて与えない!!」

 

 

――全てを撃ち砕く轟雷(ヴァーティカルブラスト)!!――

 

 

蒼月の刀身から蒼白い雷が放たれた。

放たれた雷は残った異形の妖怪の残骸を1つ残らず撃ち抜いた。

飛び散った泥は本体を倒されたせいで消滅し、異形の妖怪が再生するような様子はなかった。

 

 

「ふぅ・・・お疲れ様。二人とも元に戻っていいよ。」

 

 

《 《はい。》 》

 

 

刀剣状態の焔月と蒼月が姿を消し、代わりに人間形態に戻った焔月と蒼月がゆかりの傍らに立っていた。

すでに雨は止み、薄く張っていた霧は完全に晴れていた。

 

 

「あ~さすがにあれだけ動くとお腹が減るわね。妖怪だから死ぬことはないけど。」

 

 

そう言ってゆかりは空腹をアピールするように下腹部を擦った。

しかし、新たなる異変が(少し)疲弊しているゆかりたちに襲い掛かった。

 

 

先ほど消滅を確認した筈の異形の妖怪の破片が再び、しかも唐突に現れて1箇所に集まっていく。

ゆかりたちは先ほど倒した異形の妖怪が再生すると思い、距離を開ける。

すべての破片が集まると、破片は粘土のように人の形を造り上げた。

そして、粘土の表面に皹が入り、ボロボロと崩れ落ちていくと・・・・・・

 

 

「女の、子・・・・・?」

 

 

出てきたのは、全裸の少女だった。

年齢は5~8歳ぐらいで髪は水色、瞳は澄んだ水のようなクリアブルー。そして、背中には半透明の羽根が三対六枚揃って生えている。

 

 

「酷い目にあったわ~」

 

 

少女がパチンッと指を弾くと、真新しい衣服が一瞬で構築された。

 

 

「助けてくれて、ありがとございます。わたくしはシアンディーム。この土地に住まう水の妖精です。」

 

 

そう自己紹介すると、シアンディームと名乗った少女はゆかりたちにニコリと微笑みを向けた。


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