東方転生伝 ~もう1人のスキマ妖怪~   作:玄武の使者

48 / 55
第46話 「宴の最中」

第46話「宴の最中」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~八雲神社 居住区画~

 

さとりSIDE

 

 

里の近くで負った傷の治療を終えたさとりは八雲神社の応接間に通された。

そして、珍しくゆかりを除く八雲神社の面々が勢ぞろいしていた。

ルーミアや葵、黒蘭という何百年――あるいは千年以上――という月日を生きる大妖怪。

かつては大陰陽師の一角として繁栄した芦屋道満の子孫、清姫。

夢幻郷の妖精たちを統括する高位の妖精、シアンディーム。

その錚々たる面々に囲まれるさとりは緊張の余り固まっている。

 

 

―――緊張してるみたいね。―――

 

 

「っ!?」

 

 

突然背後から声を掛けられ、さとりの心臓が大きく鼓動した。

振り返ると、亡霊の清姫がいたずらっ子のような笑みを浮かべて宙にふよふよと浮いていた。

 

 

―――まあ、この面子じゃあ無理もないわね。

   キヨも最初はまともに口をきくこともできなかったし。―――

 

 

新参者の歓迎や次代の夢幻郷の巫女就任の時には必ずちょっとしたお祭り騒ぎになる。

八雲神社の面々は仲間意識が強いので、その絆を深めるための恒例行事になっている。

もっとも、八雲神社の面々は規格外が多いのでほとんどの主役は委縮してしまう。

 

 

「えっと・・・貴女は?」

 

 

―――キヨの名前は芦屋清姫。大陰陽師、芦屋道満の子孫。

   まあ、今となっては八雲神社の居候だけどね。   ―――

 

 

そう言って清姫はふよふよとさとりの周りを旋回する。

からかっているのか、さとりの緊張を解そうとしているのか。

それは心を読める筈のさとりにも分からない。

 

 

どうしてでしょうか?この人の心が読み取れない。

亡霊でも妖怪でも私の力は発揮される筈なのに・・・・・・。

 

 

―――クスクス。キヨの心が読めないのが不思議みたいだね。―――

 

 

さとりの心情を読みとった清姫がそんな言葉を掛ける。

 

 

―――キヨの心の声が聞こえないのは、“閉心の術”を使ってるからだよ♪―――

 

 

「閉心の術、ですか?」

 

 

聞きなれない言葉にさとりは首をかしげる。

 

 

―――うん。キヨが夢幻郷にたどり着いてから編み出した術。

   その名の通り、相手に自分の心を読めなくする一種の防御術。―――

 

 

基本的に暇な時間を持て余していた清姫は既知の陰陽術の改良が日課になっていた。

閉心の術も彼女が一人で完成させた独自の陰陽術である。

 

 

―――それにしても、貴女可愛いわね♪―――

 

 

「ひっ!?」

 

 

清姫は突然さとりの柔らかい頬を撫でた。

亡霊特有の冷たさと官能的な手つきにさとりは思わず素っ頓狂な声をあげる。

 

 

―――本当に初々しい反応ね。このままキヨの式にしちゃおうかしら♪―――

 

 

冗談で言っているのか、本気で言ってるのか。清姫はそんなことを言い出した。

 

 

「止めなさい。」

 

 

―――きゃんっ!!―――

 

 

さとりを弄んでいた清姫に鉄拳が落とされた。

彼女に鉄拳を落とした張本人はすやすやと寝息を立てるこいしを背負ったゆかりだった

 

 

「こいっ!!」

 

 

心配していた妹の姿に思わず大声を出しかけたさとり。

しかし、その口をゆかりが手で抑え込む。

 

 

「静かに。今はゆっくり寝かせてあげて。」

 

 

「あ、はい・・・・・・」

 

 

さとりは次々に吐き出しそうになった言葉を飲み込む。

ゆかりはさとりにニコッと笑みを向けると、周囲の境界を切り離す。

がやがやと騒がしかった宴会が嘘のように静まり返った。

 

 

「まったく・・・清姫も新人を苛めたら駄目よ?」

 

 

―――は~い。―――

 

 

呑気な返事を返して、清姫はさとりから離れる。

そして、ゆかりは背負っていたこいしを床の上に寝かせる。

 

 

「治療は無事に終わったよ。一時はちょっと危なかったけど、もう大丈夫。」

 

 

「治療・・・・・・? こいしのあの症状は流行り病の類ではなかったのですか?」

 

 

さとりの質問にゆかりは首を横に振った。

 

 

「あれは毒によるモノだよ。しかも、十分に相手を殺せるような、ね。」

 

 

ゆかりの言葉を聞いてさとりは勇儀が言っていたことを思い出した。

妖怪の山に移住してきた自分たちを快く思わない連中が居ることを・・・・・・。

 

 

「何か心当たりがあるみたいだね。」

 

 

さとりの心情の変化をゆかりは目敏く読みとった。

 

 

「しばらくは此処に居なさい。此処は何処よりも安全だから。」

 

 

「えっ?」

 

 

「さて、いつまでもこの子を床に寝かせておくのは可哀想だね。」

 

 

そう言って、ゆかりはこいしの小さな体を下から抱き上げた。

いわゆる、御姫様抱っこの形である。

そして、寝床に繋がるスキマを開いてそれに足を掛ける。

 

 

「あ、あのっ!!」

 

 

スキマに潜ろうとしたゆかりをさとりが呼びとめた。

 

 

「良いんですか・・・? 私は覚り妖怪なんですよ・・・?」

 

 

「別に貴女の種族がどうであろうと関係ないよ。

 夢幻郷にはそんなことで差別するような妖怪は何処にもいないから。」

 

 

さとりが気にしていることをゆかりはバッサリ切り捨てた。

夢幻郷に住む妖怪は基本的に物好きが多いので、覚り妖怪の読心能力など気にしない。

それに、皆が思い思いのことをしているので別に心を読まれることに嫌悪感を抱かない。

 

 

「それでも、自分の能力のことが気になるなら私に相談しなさい。」

 

 

それだけ言い残すとゆかりはこいしを連れてスキマに潜った。

 

 

―――変わってるでしょ? ゆかりはどんな妖怪にも優しいの。敵対しない限りは。―――

 

 

今まで黙っていた清姫が口を開いた。

 

 

「ええ。ほとんどの妖怪は覚り妖怪を嫌っていますから。

 鬼ぐらいです。私たちに関して友好的に接してくれたのは。」

 

 

そう言えば、勇儀さんが言ってましたね。

夢幻郷の長はとても変わった妖怪で誰よりも優しい妖怪だと。

その理由がよく分かったような気がします。

 

 

―――でも、まだ心配っていう表情だね。―――

 

 

「・・・・・・はい。」

 

 

正直にいえば、怖い。

あの人・・・ゆかりさんは私たちを受け入れてくれたけど、他の妖怪は私たちのことを拒絶するんじゃないかと思ってしまう。

それに、あまり人や妖怪が多い所に居ると私の精神がもたない。

 

 

さとりが引きこもりがちなのはちゃんとした理由がある。

彼女の能力は一定範囲内の心の声を読みとってしまうので、人や妖怪が多い処に居るとその心の声を際限なく聞き取ってしまう。

そうなると、さとりの精神がもたないのだ。

 

 

―――ゆかりに相談すれば、あっという間に解決してくれるよ。

  その気になれば、さとりを別の妖怪にしちゃうこともできちゃうし―――

 

 

「さ、さすがにそれは無理でしょう・・・・・・」

 

 

(ところが、実際に成し遂げた奴が居るのよねぇ。)

 

 

清姫が思い出したのは、幻想郷に居るもう一人のスキマ妖怪の存在。

ゆかりに対抗するために自分の境界に干渉して、種族を変容させるという荒業をやってのけた。

なお、紫はその対決の後、無事に元の姿に戻ることができたらしい。

 

 

―――とにかく、困ったことがあったらゆかりに相談しなさいな。

  さてと。キヨも宴会の方に混ざって一緒に飲んでこようかな~。―――

 

 

そう言って、清姫はルーミアたちの宴会に混ざっていった。

同時にゆかりが張っていた結界が途切れて、騒がしい声がさとりの耳に届く。

 

 

「あれ? そういえば、どうしてあの人の心の声が聞こえなかったのでしょう?」

 

 

さとりの疑問に答えてくれる者はだれも居なかった。




ゆかりに読心能力が効かないのは、ゆかりは常に能力に対する防壁を展開しているからです。
なので、幻術等対象者に直接干渉するような能力は一切受け付けません。
ただし、物理的な攻撃は通ります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。