東方転生伝 ~もう1人のスキマ妖怪~   作:玄武の使者

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第42話 「乱入者」

第42話「乱入者」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~霧の湖 上空~

 

 

世界にたった二人しか居ないスキマ妖怪のゆかりと紫。

紫はゆかりという存在が幻想郷にとって危険であると判断し、襲ってきた。

ゆかりは虎熊姉妹の一件を理由に紫との戦いに身を投じた。

周囲にあまり被害ださないように展開された結界の中で激しい戦闘を繰り広げた。

しかし、葵の最強攻撃術《崩天玉》が結界を見事に破壊した。

 

 

「ごめんなさい、ゆかり様。結界の破壊に手間取りました。」

 

 

「すいません、紫様。結界を破壊されてしまいました。」

 

 

結界の端の方で戦闘を繰り広げていた藍と葵は結界が破られた直後、自分の主と合流した。

先ほどの崩天玉の反動で空を覆っていた雲が散り、夕焼けが顔を出した。

 

 

「大丈夫だよ。よくやってくれたね、葵。」

 

 

そう言って、ゆかりは葵の頭を優しく撫でる。

喧嘩を吹っかけてきた張本人の紫と熾烈な戦闘を行っていたゆかりは結構な傷を負っていた。

いつも身に纏っている衣服はあちこち破けてしまい、小さな切り傷がいくつも出来ている。

ゆかりがそこまで傷を負うことは非常に珍しい。そんなゆかりを葵は心配そうな表情で見つめる。

 

 

「大丈夫よ。こんな怪我、ほって置けばすぐに完治するわ。」

 

 

「そうよ。私の主はこの程度でどうにかなるような柔じゃない。

 別に気にすることなんてまったくないわ。」

 

 

人の姿に戻った蒼月がゆかりの隣に立つ。

そして再び剣の姿に戻り、ゆかりの手に収まる。

 

 

「さあ、戦闘再開と行きましょうか?」

 

 

「そうね。やはり貴女たちの存在は危険すぎるわ。

 かなり厳重に張った結界を力尽くで打ち破る程の力を見過ごすわけにはいかない。」

 

 

紫は傷ついても尚、自身が愛する幻想郷を守るために戦おうとしていた。

しかし、ゆかりと紫の相性は最悪と言っても過言でなかった。

ゆかりは主に接近戦を得意とする戦士タイプ。対して、紫の方は後方支援を主とする術者タイプ。

術者タイプは他に仲間が居てこそ本領を発揮することができる。

だから、戦士タイプのゆかりにタイマンで勝つことは非常に難しい。

 

 

「これはあんまり使いたくない手段だったんだけど・・・・・・」

 

 

「紫様!! それは未だに実験段階の秘術です!!

 あまりにも危険すぎます!!」

 

 

何かを行おうとしている紫を必死に止める藍。

しかし、紫はそんな彼女の忠告を無視して自分に“境界を操る程度の能力”を行使した。

その刹那。紫の体に異変が起こった。

 

 

「これは・・・・・・まさか!!」

 

 

同じ能力を持つゆかりは彼女が行おうとしていることを理解した。

白い衣服を破って、紫の背中から鴉のように真っ黒な翼が現れた。

 

 

「自分の境界を弄くって、種族そのものを改変するなんて正気の沙汰とは思えないわね。」

 

 

「タイマンで勝てないのは私がよく分かってるわ。

 だからこそ、対策を講じるのは当然のことでしょ?」

 

 

「元に戻れなくなっても良いの? 自分の境界はおいそれと弄くっていいものじゃない。」

 

 

「分かってるわ。そんなこと、百も承知よ。」

 

 

そう言って、紫は黒い翼を大きく広げた。

一瞬風を切る音が聞こえると同時に紫はゆかりに肉薄していた。

その速度は獣の反射神経を持つ葵でも反応できないくらいに速かった。

 

 

(は、はやっ・・・・・・)

 

 

反応が遅れたゆかりの腹部に紫の拳が突き刺さった。

 

 

「がはっ!!」

 

 

細腕に合わない衝撃がゆかりの体を駆け巡る。

 

 

「もう一発!!」

 

 

「っ!!」

 

 

続いて放たれた拳を蒼月の腹で受け止める。

 

 

「ゆかり様!!」「させん!!」

 

 

葵は主を援護するべく紫に能力を掛けようとするが、藍がそれを妨害する。

能力が発動すれば、一方的な勝利を収めることができる彼女の力だが、それには一瞬のタイムラグがある。

予めそのことを知っていなければ妨害なんてできないが、藍は葵の能力の弱点を熟知している。

 

 

「秘技、六杖交叉!!」

 

 

六つの光の槍が出現し、空中で交叉するように放たれる。

葵は紙一重で何とか回避し、巫女服の袖口から一枚の御札を取り出す。

 

 

「八雲式符術、紅蓮十字火!!」

 

 

「なっ!?」

 

 

御札を藍に向かって投げつけると、御札は炎の十字架に変わる。

葵は攻撃系の妖術が得意ではないが、その代わりに結界や幻術を得意とする。

そのことを知っている藍は見たことがない術に面食らった。

 

 

(まったく・・・ゆかり様から手解きを受けておいてよかった。)

 

 

藍の虚を突くことができた葵は虚空を蹴り、ゆかりとインファイトを興じている紫の背後に回る。

両袖から御札が勝手に飛び出して、一列に並ぶ。

 

 

「八雲式符術、絢爛火!!」

 

 

一列に並んだ御札一枚一枚から紅蓮の火の粉が吐き出される。

それらは紫に向かっているが、紫はほくそ笑むと下方に急降下した。

 

 

「「あ」」

 

 

紫という標的を失った火の粉はゆかりの方に向かっていく。

そのままフレンドリーファイアになるかと思ったが、当たる直前に焔月が人の姿に戻り、炎を受け止めた。

元が火の神様の分霊なので、焔月に炎は意味がない。

 

 

「ふぅ・・・危なかったぁ。」

 

 

「ありがとう、焔月。」

 

 

「あらあら。随分余裕ね。」

 

 

ゆかりの背後に急上昇してきた紫が出現する。

その両手には妖力を凝縮して成形しただけの剣。

しかし、ゆかりに手傷を負わせるくらいの切れ味は持っているだろう。

 

 

「っっ!!」

 

 

ザシュッ!! ザシュッ!!とゆかりの背中が深く切り裂かれ、鮮血が空に舞う。

すぐに振り返り際に蒼月を薙ぐと、紫の妖力の剣がそれを受け止める。

夢幻郷から離れてしまっているので、龍脈による補助を受けることができない。

そのため、傷口がすぐには塞がらず真っ赤な血がゆかりの衣服を染め上げていく。

 

 

「さっきの攻撃が堪えてるみたいね。剣に威力が乗っていないわよ?」

 

 

「くっ・・・・・・・」

 

 

ゆかりは苦々しく唇を噛み締める。

神器である蒼月なら、単に妖力で編みあげられただけの剣を破壊するのは難しくない。

しかし、先ほど受けた傷のせいで蒼月にうまく力が乗せれないのだ。

葵の方も藍がうまく抑え込んでいるので援護に行くのは難しいだろう。

 

 

 

――双方、戦闘を止めなさい。――

 

 

 

突然響き渡る歳若い少女の声。

その刹那。不思議なことが起こった。

 

 

「これは・・・・・・」

 

 

不可思議な事象にどちらも戸惑った。

互いに攻撃が届くような間合いに居た筈なのに、その間合いが大きく離されていた。

そして、夢幻郷組と幻想郷組の戦いを強制的に中止させた人物がその姿を現した。

 

 

「これ以上戦いを続けるというのなら、私も介入することになります。」

 

 

二人の戦いに介入してきたのは、暗い緑系統色の髪を持つ少女。

下手をすると葵にも負けるかもしれないような小さな体。

しかし、長い時を大妖怪を一瞬たじろがせるような威圧感を放っている。

 

 

「・・・・・・地獄の閻魔王が私たちの死闘に介入すると言うの?」

 

 

最初に口を開いたのは紫だった。

どうやら彼女も突然の乱入者――四季 映緋とは面識があるようだ。

 

 

「ええ。貴方たちのような強い力を持つ妖怪がぶつかり合うと、いろいろと影響がありますから。」

 

 

自身に向けられる敵意に歯牙も掛けない映緋。

 

 

「ですが、ここで私が戦いを止めろと言っても納得できないでしょう。

 なので、これ以降幻想郷と夢幻郷の実質上の管理者同士の過度な干渉を禁止します。

 これを破った場合はそれ相応の報復があると思ってください。」

 

 

映緋が有無を言わせずに話を進めていく。

空気が張り詰めていき、いつ引き裂かれてもおかしくはない。

おそらく紫か、ゆかりのどちらかが反対すれば、今度は三つ巴の戦いに発展するだろう。

そのことを理解している互いの従者は自分の主の返答にドキドキしていた。

 

 

「分かったよ。」

 

 

緊迫した空気を最初に崩したのは、夢幻郷の土着神たる八雲 ゆかりの方だった。

いつでも戦えるように握り締めていた蒼月を人の姿に戻し、武装を解除した。

 

 

「仕方ないわね。」

 

 

ゆかりが武装を解除すると、紫も元の姿に戻り、映緋の命令を了承した。

 

 

「聞き入れてくれたようで何よりです。

 万が一の時は私が全力全壊で説得するつもりでしたが、その必要はなさそうですね。」

 

 

映緋は微笑みながら言っているが、“全力全壊で説得するつもり”だったのは本当だろう。

ゆかりも紫も映緋の能力についてはまったく知らない。

この状況では手札を一つもきっていない映緋が圧倒的に有利だった。

 

 

「それでは、少しだけ森の再生を手助けしてから私は帰るとしましょう。」

 

 

映緋はヤマタノオロチによって荒らされた森に視線を向けた。

 

 

「“促進”」

 

 

映緋が行ったのはそのたった2文字を呟くこと。

御札を取り出す訳でも、触媒を用いて術を行使する訳でもない。

映緋はただ言葉を呟いただけ。

 

 

「さて、私も仕事がありますから帰るとしましょう。」

 

 

そう言い残して映緋は姿を消した。

おそらく彼女の従者である煉貴の能力によるものであろう。

 

 

「藍、私たちも帰るわよ。」

 

 

「はい。」

 

 

紫はスキマを開き、霧の湖の上空から立ち去ろうとした。

しかし、スキマ空間に入る直前にゆかりが大声で呼び止めた。

 

 

「虎熊姉妹を利用して、私たちを亡き者にしようとしたことは忘れていない。

 だけど、夢幻郷に敵対しない限りは手伝ってあげるわ。」

 

 

「・・・・・・・」

 

 

紫は何も言わずに藍と共に立ち去った。

 




なぜかリメイク前に比べて大幅強化されている映緋様(笑)
そもそも前が閻魔十王のくせに弱かったしね。今回は大幅に強化しました。
作中の描写でも分かるかもしれませんが、映緋の能力も変わっています。
以前は「概念を無効化する程度の能力」でしたが、今回は・・・・・・・

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