東方転生伝 ~もう1人のスキマ妖怪~   作:玄武の使者

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第40話 「幻想郷に舞う紅蓮の炎」

第40話「幻想郷に舞う紅蓮の炎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~幻想郷 霧の湖~

 

幻想郷で一大勢力を築いている妖怪の山。

その山の麓には数多くの妖精の棲家となっている広い湖が広がっている。

幻想郷の人里に住む人々はその湖のことを「霧の湖」と呼んでいた。

その湖に幻想郷を混乱に陥れているヤマタノオロチとそれを駆る陰陽師が休んでいた。

しかし、その休憩ももうすぐ終わろうとしていた。

 

 

「さて、そろそろ狂った人間共の里を壊しに行くか。」

 

 

陰陽師は体を起こし、ヤマタノオロチの頭上から見える人里を見据えた。

目的を達成するためにヤマタノオロチを人里に向けて進行させようとした。

しかし、それを遮るように炎を纏ったゆかりが舞い降りた。

 

 

「随分暴れまわってくれたみたいだね。」

 

 

「ん? 見たことない妖怪だな。」

 

 

「そうでしょうね。私と同じ妖怪はこの世に二人ぐらいしか居ないし。」

 

 

「そうかい。そんな希少な妖怪に会えるなんて幸運だな。

 とりあえず・・・・・・他の妖怪みたいに痛い目に合わせてやるよ!!」

 

 

刹那、ヤマタノオロチの首が物凄いスピードでゆかりに向かってきた。

このままでゆかりは丸呑みにされてしまう。

しかし、その首は虚空で突然地面に落下した。さらにその断面が突然発火した。

 

 

「なん・・・だと・・・・・・」

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

呆然と立ち尽くす陰陽師をゆかりは殺気を篭めた眼差しで見つめる。

ゆかりは伸びてきた首を焔月で切り落としたのだ。

もっとも今のゆかりを丸呑みにすることはヤマタノオロチでもできないだろう。

 

 

「くっ!!」

 

 

陰陽師は呪符を使った。

湖の水が巻き上がり、ゆかりに向かって襲い掛かる。

しかし、虚空に開いた空間の裂け目――スキマがそれを飲み込んでしまった。

 

 

「お、お前!! どうしてこの結界の中で能力が使えるんだ!!」

 

 

陰陽師は問題なく能力を行使するゆかりに戸惑った

彼は対妖怪用の結界を張り巡らせることで圧倒的なアドバンテージを手に入れている。

結界の中に入ってしまった妖怪は弱体化し、まともに能力を行使することができなくなる。

しかし、ゆかりは何食わぬ顔で能力を行使している。

 

 

「そうね。この際だから名乗っておきましょうか。

 私は八雲 ゆかり。夢幻郷を領土とするしがない土地神・・・土着神さ。

 だから、対妖怪に設定された結界は神様である私には通用しないのよ。」

 

 

ゆかりは自分の手の内をあっさりと敵にさらす。

土着神は縄張りとなっている場所から離れてしまうと弱体化してしまう。

しかし、縄張りの中では天津神よりも強い力を発揮することができる。

ゆかりの縄張りは夢幻郷だが、幻想郷でも十分すぎるくらいに強い力を発揮することができる。

彼女の自信は此処から来ているのだ。

 

 

「それから・・・・・・今の私はとんでもなく怒ってるわ。

 家族に、親友に酷い怪我を負わせた罪、その体で償ってもらうわよ!!」

 

 

ゆかりは軽快に地面を蹴り、高く跳躍する。

そして、焔月を軽く振ると巨大な炎の剣がヤマタノオロチの体を焼く。

 

 

「くそっ!! お前の力はそんなものか!!」

 

 

陰陽師はヤマタノオロチを叱咤する。

すると、ヤマタノオロチは焼け爛れた体を再生させつつホオズキのように紅い瞳でゆかりを睨む。

水神であるヤマタノオロチにとって湖はホームグランドのようなものだ。

 

 

「―――――!!!!」

 

 

ヤマタノオロチは口を大きく開いて、巨大な水玉を吐き出した。

 

 

「はあっ!!」

 

 

撃ち出される水玉を焔月で切り裂きつつ、ヤマタノオロチの眉間に焔月を突き刺した。

ブシャッ!!を紅い血が噴出した後、内部を神の炎が焼け焦がしていく。

こうして八本の首の内、2本が使い物にならなくなった。

 

 

「この程度かしら?」

 

 

「くそ・・・くそっ!! 妖怪ごときに負けてたまるか!!」

 

 

陰陽師は2枚の呪符を取り出して、ゆかりに投擲した。

刹那、鋭い風の刃がゆかりに襲い掛かってきた。

一発一発のダメージは小さいが、数が非常に多いので馬鹿にはできない。

ゆかりの衣服が僅かに切り裂かれるが、それを無視してゆかりは焔月を振るった。

 

 

「は・・・・・・?」

 

 

刹那、陰陽師は何が起こったのか理解できなかった。

ヤマタノオロチとゆかりの位置は剣が届かないくらいに離れている。

それにも関わらずヤマタノオロチの体は真っ二つに切り裂かれていた。

 

 

「これが私が独自に編み出した神術、烈火之纏の力。」

 

 

ゆかりが使用した八雲式神術、烈火之纏の力は炎を纏うだけではない。

焔月の剣先に炎を圧縮し、振りぬかれると同時に圧縮した炎が千里先の敵も切り裂く。

手加減ができないので下手をすると、幻想郷を火の海にしまうかもしれない恐ろしい術である。

 

 

「そろそろ閉幕といきましょうか?」

 

 

「こ、こうなったら・・・・・・お前を道連れにしてやる!!」

 

 

すると、切り裂かれたヤマタノオロチの体と陰陽師の体が融合していく。

片割れの体も取り込み、自分を式神として召喚したヤマタノオロチと完全に一体化させる。

その様子はゆかりは黙ってみていた。

 

 

「クカカカカカ!!! これでオマエタチをネダヤシニしてくれるわ!!!」

 

 

ヤマタノオロチと融合した陰陽師はもはや人の領域を踏み外していた。

両腕は鋭い牙を覗かせるヤマタノオロチの首になり、胴体から下は完全に一体化している。

まさに“異形”という言葉がピッタリな姿である。

 

 

「哀れな奴ね。人の身を捨ててまで妖怪を根絶やしにしようとするなんて。

 貴女に地獄の苦しみを味あわせるつもりだったけど、止めにするわ。」

 

 

ゆかりは異形と化した陰陽師に哀れみの視線を向けた。

そして、この騒動に幕を引くためにゆかりはとある存在を召喚することにした。

 

 

 

―――我が契約に従い、この世界にその気高き御身を現し給え。―――

 

 

 

ゆかりの透き通る声が幻想郷に響く。

空を覆っていた曇天が静かに道を開けて、太陽の道を作る。

 

 

 

―――汝は太陽の化身であり、自然の神。―――

 

 

 

射し込んできた日光が幻想郷に降り注ぎ、明るく照らす。

そして、虚空で静かに茜色の炎が燃え盛る。

 

 

 

―――天照大御神よ、その御身をこの地に顕現させよ―――

 

 

 

最後の一節を紡いだ瞬間、虚空に燃え盛っていた炎の中から1人の少女が姿を現した。

白地に飛び交う茜色の火の粉が刺繍された衣服を身に纏った黒い髪の少女。

形は巫女服に似ているが、履いているのは黒い武道袴。首には赤いリボンのような物を巻いている。

見かけは可憐な少女にも歳若い女性にも見える彼女は扇で口元を隠しながら微笑む。

 

 

「あらあら。早速の呼び出しかと思ったら、中々面白い状況じゃない。」

 

 

「暢気なものですね、天照様。こっちは死活問題だと言うのに・・・・・・」

 

 

暢気に呟く黒髪の少女――天照大御神。

ゆかりも負けず劣らず暢気だが、それは個々の実力に自信がある故だろう。

 

 

「まあ、道を踏み外し過ぎた人間に容赦はしないけど。」

 

 

天照の顔から笑みが消え、鋭い視線で異形となった陰陽師を睨む。

刹那、陰陽師の両腕が二人に向かって伸びてくる。

 

 

「馬鹿ね。」

 

 

天照は扇を軽く振るった。

すると、扇から生み出された力強い風が両腕で弾き返した。

 

 

「その程度の力でこの妾に逆らうつもりなの? 片腹痛いわね。」

 

 

「ダマレダマレダマレェェェェ!!!」

 

 

陰陽師はもう壊れた機械のように同じ言葉しか繰り返さない。

ヤマタノオロチと融合したせいで精神汚染が始まってしまっているのだろう。

 

 

「醜いものね。そんな姿になっても、妖怪全てを滅ぼそうとするなんて。」

 

 

天照は敵の陰陽師に哀れみの視線を向ける。

 

 

「灼熱の業火、その身に受けてみなさい。」

 

 

天照は右手に巨大な炎の塊を作り出す。

太陽神として信仰される天照大御神の炎は数千度を越える灼熱の炎。

そんな炎をまともに浴びれば、神様たるヤマタノオロチも無事では済まないだろう。

 

 

「ゆかり~。ちゃんと結界は張ってある?」

 

 

「張ってあります。そうしないと、ここら一体はもう火の海ですから。」

 

 

「さっすが♪ じゃあ・・・・・・お仕置きの時間よ♪」

 

 

天照は笑みを浮かべながら作り上げた超小型太陽を陰陽師に向かって投げつけた。

あらゆる物を燃やし尽くす炎は陰陽師を、延いては融合しているヤマタノオロチも飲み込んでいった。

ゆかりは半径数メートルに渡って結界を敷いているので、周辺に環境破壊の影響はない。

結界の中に断末魔の悲鳴が響き渡り、そこには何も残っていなかった。

 

 

「う~ん♪ 久しぶりに暴れたからすっきりしたわ♪」

 

 

「神様とは思えない発言ですね。」

 

 

「しょうがないでしょ? 太陽神なんて呼ばれてるけど、結構窮屈なものなのよ。

 偶には思いっきり羽目を外さないとやってられないわよ。」

 

 

天照はケラケラと笑う。

そして、好きなだけ暴れると本来居るべき場所に帰っていってしまった。

 

 

「さて、私もシアンの手伝いに行きましょうか。」

 

 

ゆかりが霧の湖を離れようとした時、一つの霊弾が飛来した。

しかし、それは“烈火之纏”の自動防御機能によって燃やされてしまった。

 

 

「やはり貴女は脅威だわ。愛しい私の幻想郷を壊してしまうくらい。

 だから、ここで貴女を排除させてもらうわ。」

 

 

「私に勝てると思っているのかしら?」

 

 

ゆかりは霊弾が飛来した方向を向いた。

虚空に存在する見慣れた空間の裂け目――通称スキマ。

そして、それに腰掛ける妙齢の女性は閉じた日傘の先端をゆかりに向けていた。

その可憐な身のこなしとは裏腹に叩きつけられる殺気と妖力。

 

しかし、何よりも驚くべきことはその女性の容姿である。

衣装や髪型は異なれど、その顔立ちや髪の色はゆかりと瓜二つだった。

 

 

「幻想郷の管理者、八雲 紫。」

 

 

「夢幻郷の土着神、八雲 ゆかり。」

 

 

「「さぁ、最初で最後の殺し合いを始めましょう。」」

 

 




約一か月ぶりの投稿になってしまい申し訳ありませんでした。

バイトやらレポートやらいろいろ忙しくて気が付いたら約一カ月ぶりの投稿。
しかも、スランプも重なって出来がひどいことになっています。
気を紛らわすためにラノベを読んだり、新作書いたりしてました。
執筆する時間はあるのに執筆しないという体たらく。
こんな作者ですが、今後もよろしくお願いします。

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