東方転生伝 ~もう1人のスキマ妖怪~   作:玄武の使者

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第37話「大陰陽師の子孫」

第37話 「大陰陽師の子孫」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――芦屋清姫。それがキヨの名前。――

 

 

南の森のどこかに生えている一本の巨木。

白い霧に覆われた森の中、その巨木の前に1人の少女がゆらゆらと浮かんでいた。

髪は稲穂のような黄金色で、瞳は翡翠のような色をしており、身長は140cm前後ぐらい。

年齢は恐らく10代前半ぐらいだろうか。

顔つきに幼さを残した少女はジーッとゆかりたちを見つめていた。

 

 

「芦屋? まさか貴女は・・・・・・」

 

 

――キヨは京の都で名を馳せた大陰陽師、芦屋道満の子孫。

  だけど、今はこの石に封印された哀れなまつろわぬ魂に過ぎない。――

 

 

芦屋道満。

かつて、京の都で活躍していた大陰陽師の安陪晴明のライバルである人物だ。

晴明に勝るとも劣らないほどの呪術力を持つとされていた。

安倍晴明が藤原道長お抱えの陰陽師であったのに対し、蘆屋道満は藤原顕光お抱えの陰陽師であった。

道満は藤原道長の政敵である左大臣藤原顕光に道長への呪祖を命じられたとされる。

しかし道満は晴明との式神対決で敗北し、播磨に流されることになった。

 

 

「だけど、道満の拠点は播磨の筈。ここから離れすぎてるわ。」

 

 

――元々、越後の方で暴れる妖怪を退治する筈だったのよ。

  だけど、それは憎き晴明の子孫による罠だった。――

 

 

清姫はギリッと歯軋りした。

翡翠の瞳に宿る感情は敵対心を行き過ぎた憎悪。

 

 

――キヨは式神を奪われ、殺された。亡霊になった後、アイツらを呪おうとしたけど、封印された。――

 

 

「なるほどね。石に刻まれた名前は貴女を縛る封印だったのね」

 

 

それにしても、私はつくつく安倍晴明の子孫と縁があるわね。

葵を追って酷い目に合わせたのも晴明の子孫。そして、目の前にいる少女も晴明の子孫の被害者。

しかし、安倍晴明自身はまともだったし、その子供もまともだったのにね。

 

 

ゆかりは心の中で呟いた。

たとえ夢幻郷が京の都から随分離れた場所にあっても、その情報は流れてくる。

主に鳥たちが黒蘭経由で教えてくれるのだ。

 

 

「ゆかり様、式神が奪われることってあるんですか?」

 

 

「式神を奪うのはそれほど難しいことじゃないよ?

 相手の意思を奪って自分の制御下に置けばそれだけで式神を奪える。」

 

 

――そうだよ。アイツらはあの子の意思を奪って自分の僕にした。

  今すぐにでも取り返しに行きたいけど、キヨは此処から動くことができない。――

 

 

清姫は物凄く悔しそうな表情を浮かべた。

すると、ゆかりは無言で右手を振った。

その直後、清姫は驚いたような表情を浮かべて戸惑っていた。

 

 

――えっ? えっ?――

 

 

「墓石と貴女の魂の間に境界を作ったわ。これで貴女は自由だよ。

 復讐するのも、式神を奪還するのも貴女の自由。」

 

 

――どうして? 私を助けても何の意味もないのに――

 

 

「私も安倍晴明の子孫にはちょっとした借りがあるからね。

 貴女が復讐するなら、ついでにその借りを返すこともできるからね。」

 

 

ゆかりはクスッと妖艶な笑みを浮かべた。

そして、手を翳して相変わらず幾つもの目が見つてくるスキマを開く。

 

 

「このスキマを通れば、京の都にたどり着ける。

 これを潜るかは貴女の自由。私は何も強制しない。」

 

 

――・・・・・・・・・――

 

 

清姫は決心したようにスキマを潜って、世にも不思議なスキマ空間に入っていった。

刹那、スキマは元々存在していなかったかのようにその口を閉じた。

そして、森の中に充満していた霧も晴れて茜色の光がわずかに差し込んでくる。

 

 

「これにて一件落着。さぁ、帰ろうか?」

 

 

「「はい。」」

 

 

この後、三人はスキマ空間を利用して八雲神社に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~八雲神社 本殿~

 

 

神社では定期的に「神事」と呼ばれる行事が行われる。代表的なのは雨乞いだろう。

八雲神社も神社の端くれである。

なので、八雲神社でも定期的に神事が行われる。

1ヶ月に一度、八雲神社裏手の湖上で行われる神事のことを“神舞神事”と言う。

そして、ある日。ゆかりは本殿でスキマ越しにとある映像を眺めていた。

 

 

「これで15回目。いい加減諦めれば良いのに・・・・・・」

 

 

ゆかりは呆れてるように呟いた。

スキマの先に映し出される映像は京の都の一角の映像。

そこに映るのは清姫の姿だった。

彼女は自分の半身とも呼べる式神を取り返すために安倍晴明に戦いを挑んでいる。

その回数は15回。しかし、清姫は取り返すことが未だできていない。

 

 

「まあ、それだけあの式神が大事なんだろうね。」

 

 

「ゆかりさま~、そろそろ時間ですよ~」

 

 

その時、葵が本殿の扉を開けて入ってきた。

そのままひょっこりとゆかりの肩越しにスキマの映像を覗き込む。

 

 

「何見てるんですか~?」

 

 

「前に話したでしょ? 芦屋道満の子孫だよ。」

 

 

「・・・・・・」

 

 

ゆかりの言葉を聞いた葵は露骨に顔をしかめた。

 

 

「そんなに嫌な顔をしないの。少なくとも安倍晴明の子孫よりはかなりまともだよ。」

 

 

「というか、何で陰陽師同士で争ってるの?」

 

 

「大事にしていた式神が貴女の大嫌いな晴明の子孫に奪われたんだよ。

 しかも、攻撃しようとしてもその式神を盾にされるから何もできない。」

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

ゆかりの言葉を聞いた瞬間、葵の表情が嫌悪から怒りに変わる。

そして、葵は何も言わずにスキマ空間の中に飛び込んでしまった。

 

 

「何やかんや言って、虐められてる子はほっておけないんだね。」

 

 

ゆかりはクスッと笑ってスキマを閉じて、立ち上がった。

立ち上がる時に服の裾が揺れてチリーンと鈴の音が鳴り響く。

ゆかりが着ている服は裾の先に鈴を取り付けた紅白の巫女服。

神事を行う際のゆかりの正装である。

 

 

「主、皆が待ってますよ。」「皆、貴女の舞を見たがっていますよ」

 

 

本殿の出入り口では、焔月と蒼月がゆかりを待っていた。

 

 

「さて、行こうか?」

 

 

「「はい。」」

 

 

刹那、焔月と蒼月は人の姿からは剣の姿に変わる。

ゆかりは長年の相棒をしっかり握り締めると、八雲神社の裏にやってきた。

湖の周りには人里に住む人妖が集まっていた。

 

 

「夢幻郷の皆様、月に一度のこの場にお集まりいただき光栄です。」

 

 

湖の中央で浮遊するゆかりは優雅にお辞儀をする。

 

 

「くどくどと語るのも面倒なので、そろそろ始めます。」

 

 

ゆかりは瞳を閉じて蒼月と焔月を構える。

柄に付けられた二つの鈴がぶつかり合って透き通るような音を響き渡らせる。

本来は鈴を付けた2枚の扇を使って行うのだが、残念なことに使っていた扇が破損してしまったのだ。

なので、今回は焔月と蒼月で代用しているのだ。

 

 

「―――――――」

 

 

ゆかりは楽しそうに祝詞を唱えながら湖上を舞う。

二振りの剣が動くたびに鈴の音が鳴り響く。

 

 

「―――――――」

 

 

月に一度行われる神舞神事。

最初の頃は観客など誰も居なかったのだが、いつの間にか人里で話題になり、人が集まるようになった。

神舞神事が終わるまで八雲神社からは鈴の音が途絶えることがなかった。

誰もが見とれる中、ゆかりは神舞を続ける。

 

 

「この大地に八百万の神々の加護がありますように」

 

 

神舞が終わると同時に舞を見に来た人々から拍手が浴びせられる。

それに少し照れながらゆかりは笑みを振りまいた。




最初、清姫の苗字を麻倉にしようとした私が居る。

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