東方転生伝 ~もう1人のスキマ妖怪~   作:玄武の使者

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第34話 「迷いの竹林」

第34話 「迷いの竹林」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~八雲神社 応接間~

 

 

夢幻郷のシンボルでもある八雲神社。

そこには時折、自分たちの手で解決できない問題を持ち込んでくる住人が居る。

八雲神社は夢幻郷の管理と同時に万屋紛いのことを行っている。

参拝ではなく、万屋目的で来る者は神社の応接間に通される。

そして、今日も住人から依頼が持ち込まれた。

 

 

「竹林の調査?」

 

 

「はい。ゆかり様もご存知と思いますが、人里の東には広大な竹林が広がっています。

 その竹林がなんとも奇妙なものでして・・・・・・」

 

 

「奇妙?」

 

 

「はい。その竹林は何処まで行っても同じ光景しかないのです。

 おそらく妖怪の仕業ではないかと思うんですが・・・・・・」

 

 

「確かに子供たちが迷い込んでしまっては危険ですね。

 分かりました。すぐに調べてみましょう。」

 

 

「お願いします。」

 

 

そう言って、人里からやってきた男性は神社をあとにした。

 

今回の依頼は人里の東側にある竹林の調査。

夢幻郷が成立する前からその竹林は存在していたが、誰も立ち入った経験がない。

なぜなら、その竹林に立ち入るような用事がなかったからである。

夢幻郷の作物は龍脈のエネルギーとゆかりの力で毎年豊作。食べ物に困ることはない。

そのため、わざわざ竹林に出向くような用事もなかったのだ。

しかし、好奇心に負けて、先ほどの男性が森に入ったらしい。

 

 

「ゆ・か・り・さ・ま~♪」

 

 

男性が帰って一息入れた直後に小さな物体が飛びついてきた。

 

 

「こら、葵。いきなり飛びついてこないの。」

 

 

「は~い。」

 

 

ゆかりに飛びついてきた物体は仕方なく離れる。

彼女に飛びついてきたのは一見、女忍者(くの一)を彷彿される衣装に身を包んだ少女だ。

尾てい骨辺りからは4本の尻尾を生やし、頭に天辺には狐耳がピンッと立っている。

少女の名前は八雲 葵。元の名前は玉藻前、つまりは白面金毛九尾の狐だ。

 

 

「ねぇ、ゆかり様。今日はどんな依頼を受けたの?」

 

 

「人里の東側にある竹林の調査。そんなに難しくない依頼ね。」

 

 

まあ、幻想郷と夢幻郷の位置関係から考えると、大体の予想はつくけどね。

それでも行っておかないと、万が一のことがあってからじゃあ遅いし。

それにしても・・・・・・・

 

 

ゆかりはチラッと葵の方を見た。

絶世の美女にも、幼い少女にも化けることができる玉藻前改め、八雲 葵。

彼女は不思議と幼い少女の姿を好む。

さらに、肉体が精神に引っ張られているのか少しばかり退行している。

もっともそんな素振りを見せるのは主であるゆかりの前だけだが。

 

 

「なに?」

 

 

「何でもないよ。」

 

 

本当に、大妖怪の威厳とかは無いのかな?

まあ、妹ができたみたいで可愛いから別に良いけどね。

ルーミアもシアンも私より本当は年上なんだよね。

 

 

「そういうわけで、私は少し出かけるわ。貴女はどうする?」

 

 

「行く♪」

 

 

「だと思ったよ。」

 

 

ゆかりは虚空に手を翳し、スキマを開く。

そして、二人は竹林へと繋がるスキマの仲にもぐった。

 

 

 

◆    ◆    ◆    ◆    ◆

 

 

 

スキマを潜り抜けた先には、見事な竹林が広がっていた。

ただし、普通の竹林よりも生い茂る竹の密度が高く、視界が悪い。

どの竹も非常に背が高く、地上から見上げても竹の一番上は見えない。

 

 

「これ、妖怪の仕業とかじゃないね。自然が作り上げた錯覚。」

 

 

「一瞬で気づくなんて凄いわね。」

 

 

ゆかりは葵の鋭い洞察力に舌を巻いた。

依頼主が感じた奇妙な感覚とは、自然の神秘が作り出した錯覚である。

竹林の竹は等間隔で並び、特に整理されているわけでもないので同じ光景ばかりが視界に入るのだ。

そのため、何処に居るのかが分かりにくくなってしまうのだ。

 

 

「長年追っ手から逃げ続けてないよ。時にはこういう自然を活用してたし。

 まあ、それでも人間は森を焼き払って私を誘き出そうとしましたが・・・・・・!!」

 

 

当時のことを思い出して、葵の手に思わず力が入る。

その力に耐え切れず、葵が触っていた一本の竹にぴしっとひびが入る。

 

 

「あ~今思い出しても腹立たしい。いっそのこと、都を滅ぼしてしまいましょうか。」

 

 

「こらこら。葵なら、本当にできるから止めなさい。」

 

 

黒いオーラを放つ葵に苦笑いを浮かべるゆかり。

 

 

「それよりも、この竹林を少し探検するよ。

 もし此処に強力な人食い妖怪が居たら大変なことになるし。」

 

 

「分かった~」

 

 

黒いオーラを霧散させて、天真爛漫な元の状態に戻る。

たとえ道に迷っても、ゆかりの力を使えばすぐにでも脱出できるので心配することはない。

二人は特に目的地を決めず、竹林の奥の方に入っていった。

 

 

「おっと。」

 

 

方向転換して一歩踏み出した瞬間、葵の足元が崩れ落ちた。

葵は4本の尻尾のうち1本を近くの竹に巻きつけて、トラップを回避する。

 

 

「ずいぶん巧妙に仕掛けられた罠だね~。完全に気づかなかったよ。」

 

 

「そうだね。とにかく、この竹林を根城にしてる奴が居るのは確定だね。

 罠で相手を倒そうとしている所を見ると、それほど戦闘には向いてない輩かな?」

 

 

葵が落ちかけた落とし穴の下には、鋭利な竹やりが仕掛けられている。

もし脱出に失敗していたら、今頃葵は串刺しにされていただろう。

悪戯で仕掛けられているにしては度が過ぎている。

 

 

「この罠の犯人、見つけたらどうするの?」

 

 

「そうね・・・・・・。とりあえず捕まえましょうか。」

 

 

「りょうか~い。」

 

 

二人は罠を仕掛けた張本人を探すために竹林の探索を続けた。

 

 

 

・・・

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

竹林を探索すること、10分程度。

予想通り、ゆかりと葵は竹林のど真ん中で迷子になっていた。

当然無数の罠が仕掛けられていたが、二人はことごとく罠を無効化していった。

 

 

「まったく罠ばっかりで肝心の犯人が見つからないな~。

 罠もそんなに種類があるわけじゃないし、面倒なだけ。」

 

 

侵入者を迎撃するために設置されたと思われる罠は葵とゆかりに何度も牙を向いた。

しかし、当の本人たちは大怪我どころかかすり傷一つ負っていない。

 

 

「今まで引っかかった罠の数を考えると、向こう側も焦ってると思うけど・・・・・・」

 

 

「でも、姿を見せないね。」

 

 

「まあ、そう簡単に姿を見せてくれたら苦労はないけどね。」

 

 

「だね~。」

 

 

その刹那、葵の狐耳がピクッと動いた。

獣特有の聴覚が何かを捉えたようだ。

 

 

「そこっ!!」

 

 

葵は霊弾を一本の竹に向かって放つ。

すると、その影から一つの人影が驚いたように飛び出した。

早くてその姿を確認できなかったが、葵に気づかれた時点で逃げ切れないことは確定している。

 

 

「逃がさない!!」

 

 

葵は飛び出した影に向かって能力を行使する。

すると、逃げ出した奴は何も無い地面で突然転んだ。

 

 

「残念だけど、逃げられないよ。

 貴女の視覚と触覚を封じさせてもらったから逃げように逃げられないよ。」

 

 

葵の能力は“五感を操る程度の能力”。

その名の通り、自他問わず五感を有するすべての生き物の五感を操る能力だ。

ただし、葵が対象を認識していることが絶対条件となる。

恐らく、葵はトラップを仕掛けて張本人の視覚と触覚を奪ったのだろう。

 

 

「ご苦労様、葵。」

 

 

ゆかりは改めて木陰から飛び出した人影の正体を確認する。

短く切りそろえられた黒髪に、垂れたウサギの耳。

着ている服は薄いピンク色のワンピースで必死に二人から逃亡しようとしている。

 

 

「さて、いろいろ教えてもらおうかしら?」

 

 

葵が兎の妖怪に手を伸ばしたその時、上空から炎の鳥が舞い降りた。

 

 

「うちの仲間に手を出すんじゃねぇ!!」

 

 

舞い降りた炎の鳥は翼をはためかせながら、その妖怪を守るように降り立つ。

火の粉を散らし、現れたのは赤いもんぺを履いた銀髪の少女だった。

そして、この展開を予想してかのようにゆかりはその少女の名前を口に出した。

 

 

「久しぶりね、妹紅。」

 

 

「えっ!?」

 

 

いきなり名前を呼ばれたことに驚く少女。

そして、ゆかりの姿を確認してもう一度驚いた。

 

 

「ゆ、ゆかりさん!?」

 

 

こうして、ゆかりは400年近く前に別れた少女――藤原妹紅に再会した。




ストックがだんだん少なくなってきました。
修正作業中の作品を複数抱えているので、とても大変です。

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