東方転生伝 ~もう1人のスキマ妖怪~   作:玄武の使者

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第32話 「白面金毛九尾の狐(中篇2)」

第32話「白面金毛九尾の狐(中編2)」

 

 

 

 

 

 

 

 

~八雲神社 客室~

 

???SIDE

 

 

 

妖怪という存在でありながら、人間からの愛情を求めた妖狐。

数々の人間に裏切られながらもその妖狐は人間が好きだった。

人間を憎むことはなく、逆に妖怪であるその身を憎む程人間が好きだった。

そんな変わり者の妖狐は、いつの間にか白面金毛九尾の狐と恐れられるようになった。

 

 

「うぅん・・・うっ・・・・・・」

 

 

真っ白な布団に寝かされていた狐色の髪が特徴な少女が静かに目を開ける。

少女の視界に飛び込んできたのは綺麗な木目模様の天井。

彼女が今まで見てきた建築物の中で一番綺麗だった。

 

 

「此処は、何処?」

 

 

目覚めた少女は首から上だけを動かし、周囲を確認する。

自分が寝ている布団の側は日本屋敷らしく縁側になっており、湖が見える。

同時に自分が此処で眠っている経緯を思い返す。

 

 

私は、あの陰陽師から逃げてる途中で捕まって・・・・・・。

そして、体のあちこちを痛めつけられて、最後には殺されそうになった。

あの後、誰かに助けてもらったような気はするけど、私を助ける物好きなんて・・・・・・。

 

 

「体が治ってる。かなりの大怪我だったのに・・・・・・」

 

 

少女は短剣で貫かれた筈の喉元に触れる。

痛みもなければ、声も問題なく発することができる。

傷跡さえなければ、短剣で喉元を貫かれたことなど分からないくらいだ。

体が動かしにくいことを除けば、彼女の体は健康体そのもの。

 

 

「くっ・・・さすがに動いてくれないか。」

 

 

少女は四肢に力を込めて、起き上がろうとするが、四肢が上手く動かない。

とりあえず全身から力を抜いて、体を動かすことをあきらめた。

 

 

「あっ、起きてたんだ。」

 

 

少女が寝かされている部屋に明るい金髪の少女――ルーミアが入ってきた。

その手は軽い食事を乗せたお盆を持っている。

 

 

「貴女、誰?」

 

 

「闇を操る妖怪、ルーミア・ナイトメア。皆からは常闇の妖怪って言われてるよ。

 貴女の名前は? 白面金毛九尾の狐。」

 

 

「玉藻前(たまものまえ)。玉藻でいい」

 

 

「玉藻、だね。お腹空いてない?」

 

 

「・・・・・・少し。」

 

 

「まあ、二日も何も食べないで眠ったままだったからね」

 

 

ルーミアはそう言いながらお盆を置いて、少女――玉藻前の体を起こさせる。

 

 

「かなり酷い怪我だったけど、腕動かせる?」

 

 

「いや、さっき確認してみたけど、無理だった」

 

 

玉藻前の傷はシアンディームの能力ですべて治癒した。

しかし、シアンディームの能力も万能ではないので後遺症までは治せない。

そんな短時間で一度折れた腕が動かせるようになるはずがない。

 

 

「じゃあ、私が食べさせてあげる♪」

 

 

「ふぇ!?」

 

 

突然のことで戸惑う玉藻前を無視してルーミアは赤い漆塗りの箸でホカホカの白ご飯を少し掬うと玉藻の口元に運ぶ。

 

 

「はい、あ〜ん」

 

 

「いや、ちょっと待って!!さすがに年下に食べさせて貰うのは私の誇りが!!」

 

 

「でも、玉藻昨日から何も食べてないでしょ?

何か食べないと身体に毒だよ?」

 

 

「うう・・・」

 

 

ルーミアの正論に玉藻前は言葉を詰まらせる。

そして、羞恥心に顔を赤くしながらも玉藻は箸に乗せられた白米を口に運ぶ。

 

 

「モグモグ・・・・・・あっ、美味しい。」

 

 

「はい、次。」

 

 

 

玉藻にとっての羞恥プレイはトレイに乗せられたルーミア特製の病人用朝食がなくなるまで続けられた。

 

 

 

・・・

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「ごちそうさま。」

 

 

「お粗末さまでした~。」

 

 

少し時間が掛かったが、玉藻前はルーミアが持ってきてくれた食事を食べ終えた。

 

 

「ねぇ、ルーミア。私を助けてくれたのは貴女なの?」

 

 

玉藻前の質問にルーミアは首を左右に振って、否定した。

 

 

「玉藻を助けたのは、私じゃなくて八雲 ゆかりっていう妖怪。

 境界を操る力を持ち、この夢幻郷を管理する土着神でも変わった妖怪。」

 

 

「夢幻郷!?」

 

 

ここが、誰も見たことがない隠れ里なの!?

確かに噂で夢幻郷が存在するとされる場所に向かってたけど、本当に存在するなんて・・・。

多分、この子が言う管理者がこの里を隠してるんだろうね。

 

 

「やっぱり有名になってるの?」

 

 

「結構噂が出回ってるわ。もっともその噂が真実であることを確認した者は居ないけど。」

 

 

夢幻郷に関する噂はかなり出回っている。

 

曰く、無限に作物が実っている土地。

曰く、常に豊作で絶対に食べ物に困ることのない場所。

曰く、東の方に存在するが、誰にも見えない夢幻の場所。などなど。

噂自体はかなり前から存在しているのに、誰もその姿を見たことがない。

玉藻前もその噂を頼りに半信半疑で夢幻郷を探していたのだ。

 

 

「うーん・・・・・・どこからそんな噂が広まったんだろ?」

 

 

「やっぱり見つかっては不味い理由があるのか?」

 

 

「まあ、ね。下手すると、人間が居なくなるような代物が眠ってるからね。

 そのとんでもない代物のおかげでこの夢幻郷が栄えてるわけだけど。」

 

 

「そうか。ところで、その八雲 ゆかりは此処に居るのか?

 できれば御礼を言っておきたいのだが・・・・・・」

 

 

「ゆかりならちょっと出かけてる。

 多分、帰ってきたらゆかりの方から顔を出すと思うからそれまで休んでいいよ。」

 

 

そう言って、ルーミアは立ち上がった。

 

 

「それから、くれぐれもこの部屋から出ちゃ駄目だよ?

 この部屋には玉藻の妖力を外に漏らさないための結界が張られてるから。」

 

 

「人様の家を勝手に歩き回るような趣味はないわ。」

 

 

「それならいいけどね。」

 

 

ルーミアは食器とお盆を持って、部屋から出て行った。

 

 

「人に信仰される妖怪か・・・・・・。私とは間逆ね。」




東方聖人録の方が結構たまって来たのでそろそろ投稿しようと思います。
リリなの×精霊使いの剣舞の方は現在修正中になっています。
こっちも結構作業が進んでいるので、聖人録のほうがある程度片付いたら修正版(という名の別作品)を投稿しようと思います。

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