東方転生伝 ~もう1人のスキマ妖怪~   作:玄武の使者

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第31話 「白面金毛九尾の狐(中篇1)

第31話 「白面金毛九尾の狐(中篇1)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~八雲神社 広間~

 

八雲ゆかりSIDE

 

 

夢幻郷の丘の上に聳える八雲神社。

その八雲神社に昨夜、とある客人兼けが人が運び込まれた。

 

白面金毛九尾の狐。

日本三大妖怪の一角として名を馳せる大妖怪である。

しかし、その大妖怪が酷い重傷を負った状態で運び込まれた。

 

 

「うん。容態は落ち着いてるね。」

 

 

ゆかりは客間で昨夜運び込まれたけが人、白面金毛九尾の狐を看病していた。

運び込まれた時は本当に瀕死の重傷だったのだが、シアンディームのおかげで一命を取り留めた。

しかし、精神面のダメージが大きかったのか未だに眠っている。

 

 

「御札の方は・・・・・・もう少し大丈夫そうね。」

 

 

部屋の四方八方にはオモイカネの力を借りて作り上げた御札が貼り付けられている。

外部に妖力が漏れ出すのを防ぐ効果がある。

これは妖狐の妖力によって、八雲神社を守る結界が壊れないようにするためである。

 

 

「人の愛情を欲した九尾の妖狐。

 貴女はこれからどうするのかな?」

 

 

そう言いながらゆかりは幼い少女の姿をした狐の髪を掻き揚げた。

その時、肌蹴た寝巻き着の隙間から奇妙な文様が見えた。

その文様はちょうど胸の中心に在り、星型五角形を描いている。

 

 

「何だろう?」

 

 

ゆかりは少しだけ寝巻き着を脱がして、その文様を確認する。

何か意味がありそうな文様だが、ゆかりにはその意味は分からなかった。

 

 

「霊禍~」

 

 

「なに?」

 

 

ゆかりが呼ぶと灰色っぽい髪の女の子――白霊 霊禍がひょっこりと顔を出した。

禍々しい深紅の瞳からは相変わらず感情を感じさせないが、ゆかりは気にしない。

そして、彼女にあるお願いを出す。

 

 

「霊禍、この文様が何か分かる?」

 

 

「・・・・・・」

 

 

霊禍はゆかりが指差した文様をジーッと眺める。

 

 

「封印の呪印。何が封印されてるのか分からない。」

 

 

その文様から読み取った情報を淡々と伝える霊禍。

 

 

「その呪印を解除することは?」

 

 

「私に掛かれば簡単。」

 

 

そう言って霊禍は少女の胸に手をかざす。

すると、文様はシールのように剥がれて行き、最終的に握りつぶされた。

“呪を操る程度の能力”を持つ霊禍にはいかなる呪術も通用しない。

 

 

「はい、終わり。」

 

 

「ありがと、霊禍。」

 

 

「別に、良い。ゆかりには此処において貰ってる恩がある。」

 

 

淡々と言葉を呟いて、霊禍はさっさと部屋を出て行ってしまった。

 

 

「おっと。私も出かけないと。」

 

 

奉鬼から宴会に誘われてるのよね~。

そろそろ迎えが来る頃だし、ルーミアに任せましょうか。

それなりに家事もできるし。

 

 

未だに眠ったままの白面金毛九尾の狐をルーミアに任せて、ゆかりは宴会に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~幻想郷 妖怪の山~

 

 

 

奉鬼の使いである射命丸 栞に連れられて、ゆかりは幻想郷にやってきた。

現在、険しい山道を鴉天狗の栞と共に登っている所だ。

 

 

「栞も大変だね。一々私を迎えに来ないといけないなんて。」

 

 

「私は平気です。鴉天狗は白狼天狗と違って結構暇なんです。

 それに、私が同伴してないと生真面目な白狼天狗に襲われかねませんから。」

 

 

ゆかりを先導する栞は苦笑いを浮かべながら言った。

妖怪の山は上下関係が厳しく、排他的な組織である。

鬼が天狗や河童たちの頂点に立つことで、妖怪の山は一つの組織になっている。

もし外部の者が妖怪の山に侵入しようとすれば、天狗らが団結して襲い掛かってくる。

それはゆかりも例外ではなく、栞が居なければ哨戒任務を主とする天狗と交戦していただろう。

 

 

「っと、見えてきました。」

 

 

山道を登り続けること、数分。

山の上の方から騒がしい声が聞こえてきた。

 

 

「おう、ようやく来たか。」

 

 

宴会会場に到着したゆかりを出迎えたのは、鬼の王――夜沙神 奉鬼だ。

その手には限界まで注がれた酒が入った通常の何倍も大きな杯があった。

 

 

「ちょっと野暮用が舞い込んでね。」

 

 

「ふーん・・・まあ、いいや。ついでに栞も混ざりな。」

 

 

「分かりました。」

 

 

 

・・・

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「そういえば、気になる話を聞いたよ。」

 

 

「気になる話?」

 

 

宴会の最中、大体酒樽を4つ程開けた所で奉鬼はそんな話題を出した。

 

 

「かの有名な白面金毛九尾の狐が近くに身を潜めていたらしい。」

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

奉鬼の言葉にゆかりは酒を飲む手を止めた。

 

 

「だが、相当酷い目にあったらしい。

 妖怪と知りながら、招きいれ、油断した隙に力を封じる道具を付けられたらしい。」

 

 

酒を飲みながら語る奉鬼の言葉には怒りという感情が現れていた。

奉鬼は卑怯な手段を講じるを嫌う性格であり、勝負の時は正々堂々と挑む。

もっとも奉鬼には長年の戦いの中で身に着けた“物事を見切る程度の能力”を持っているため、卑怯な手段など無駄なだけだが。

 

 

「人との愛情に飢えていた心を利用するなど言語道断。

 人間の風上にもおけない奴だ。」

 

 

そう言って、奉鬼は杯に残っていた酒を一気に飲み干す。

 

 

「そうね。一時期、人間に化けて生活を行っていたからよく分かるわ。」

 

 

ゆかりは人間として平城京に紛れ込んでいた時のことを思い出した。

何でも屋を営んでいるゆかりの所には、人の欲深さを象徴する依頼が舞い込んでくることもあった。

権力を手に入れるための高官の暗殺依頼などが良い例である。

 

 

「その白面金毛九尾の狐はどうなったの?」

 

 

「詳しくはしらん。だが、都の軍勢に追い詰められるのを近くを通った天狗が見ていたらしい。」

 

 

私の姿は見られてないか・・・・・・。

別に奉鬼には知られても良いんだけど、これがアイツに知られたらまた夢幻郷にちょっかい掛けてきそうなんだよね。

何せ、向こうは夢幻郷が強すぎる力を持つことを恐れてるみたいだし。

 

 

 

そんなことを考えながらゆかりは再びお酒を飲み始めた。




サブのつもりで出した筈の奉鬼が結構な頻度で出てきてますね。
奉鬼とゆかりの関係は互いに気の許せる友人です。
元々そういう立ち位置にするつもりで作ったオリジナルキャラです。
なお、今回で一部のキャラの固有能力が明らかになりました。

特に奉鬼の“物事を見切る程度の能力”ははっきり言って強力です。
見切る対象は相手の攻撃も含まれるのでほとんど攻撃が当たりません。

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