東方転生伝 ~もう1人のスキマ妖怪~   作:玄武の使者

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第29話 「白霊 霊禍」

第29話 「白霊 霊禍」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~八雲神社 客間~

 

 

夢幻郷に恵みをもたらす龍脈を守護する八雲神社。

住人の数に対して広すぎるその居住区画の一室で一人の少女がふかふかの布団で眠っていた。

その傍らで少女を見守っているのは、夢幻郷の土着神である八雲 ゆかりと彼女に長年連れ添っているルーミア。

 

 

「ルーミア、身体に何か変化はない。」

 

 

「何ともないよ~」

 

 

「そう。これだけ長時間近くに居て、大丈夫なら成功みたいね。」

 

 

ゆかりは自分の試みが成功したことに安堵の息を吐いた。

現在、客間で静かに眠っているのは映緋から預かって欲しいと頼まれたかなり特殊な体質を持つ少女である。

 

 

「つか、もし実験が成功してなかったらどうするつもりだったの?」

 

 

「その時は伊豆能売神を召喚して呪いを祓うだけだよ。」

 

 

「・・・・・・毎回思うけど、ゆかりの降神術って万能だよね。」

 

 

「その分、反動が大きいから使い所を外すと自滅するよ。」

 

 

ゆかりは苦笑いを浮かべた。

ルーミアの言うとおり、ゆかりが使用する降神術は万能かつ強力な術であるが、その分リスクも大きい。

降神術には膨大な妖力が必要な上に致命的な隙が生じる。一瞬の隙も許されない一対一の戦闘においてはタイミングをミスすれば、手痛い反動が襲ってくる諸刃の剣だ。

 

 

「さてと。私はちょっと人里に降りてくるね。」

 

 

「分かった。」

 

 

客間にゆかりと少女を残して、ルーミアは人里の方に飛び立った。

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

それにしても・・・この子、博麗霊夢と瓜二つな顔立ちね。着ている衣服もそれの色違い。

まったく関係がない、とは思えない。だけど、彼女がこの世に生を受けるのは千年以上も未来の話。

こんな時代に居る訳がない。本当に顔が似ているだけ?

 

 

少女の姿をじっと見詰めながら、ゆかりは思考の海に潜り込んでいく。

しかし、少女が呻き声を挙げたことでその意識は強制的に思考の海から引き上げられる。

 

 

「此処は・・・」

 

 

呻き声を挙げた刹那、少女は静かに目覚めた。

そして、禍々しさを感じさせる深紅の瞳が傍らに座るゆかりの姿を捉えた。

すると、少女はゆかりの容姿に目を見開いた。

 

 

「目が覚めた?」

 

 

「貴女は、紫? いや・・・違う。あのスキマ妖怪と、何処か違う。」

 

 

目が覚めた少女はうわ言のように独り言を呟く。

 

 

「私は八雲 ゆかり。夢幻郷を管理する土着神よ。」

 

 

「夢幻郷? そうか、此処は私の知ってる世界じゃないんだ。」

 

 

少女は少し小さな声で呟いた。

 

 

「身体は大丈夫?」

 

 

「うん。」

 

 

少女が身体を起こすと、布団がはだけて隠れていた奇妙なモノが露になった。

少女の白い肌に刻まれたダークレッドの禍々しい紋様。それは少女の左半身全体に及んでおり、頬にも紋様の先が到達している。

 

 

「うわぁ・・・予想以上に酷いわね。」

 

 

「これ、何?」

 

 

「貴女の身体から呪いが放出されないようにする紋様。さえの神の力を波及させることで呪いを抑えてるの。」

 

 

“塞(さえ)の神”とは、別名“岐(ふなど)の神”や”辻の神”と呼ばれる神様である。

疫病・災害などをもたらす悪神・悪霊が集落に入るのを防ぐとされる。

そして、中国から伝来した道路の神様、同祖神と習合した。

ゆかりはその神様の力で少女の呪いが外に漏れでないようにしたのだ。

 

 

 

「ねぇ、何で私を保護しようと思ったの?」

 

 

「昔から理不尽な目に合ってる子をほっておける性分じゃなくてね。まあ、一言で言えば、同情かな?」

 

 

「そう・・・。でも、ありがとう。」

 

 

「別に良いよ。所詮は私の自己満足でしかない。」

 

 

そう言いながらゆかりは少女の頭を撫でた。

 

 

「そういえば、貴女の名前は?」

 

 

「博麗、霊夢。だけど、それは私の半身の名前であり、私の名前じゃない。」

 

 

「?」

 

 

首をかしげるゆかりに少女は自分の出生を話し始めた。

少女が生まれた切っ掛けは博麗霊夢が退治した妖怪がその命と引き換えに彼女に呪いを掛けたことだ。

その呪いの影響で博麗霊夢は死を呼ぶ呪いを生み出し、ばら蒔く存在へと変貌してしまった。

その呪いを制御するために産み出されたのが、ゆかりの目の前に居る少女。

しかし、とある事情で呪いごと博麗霊夢から切り離されてしまい、気がついた時にはこの世界にやって来たらしい。

 

 

「だから、私には名前はありません。」

 

 

「・・・・・・・・・白霊、霊禍」

 

 

「?」

 

 

突然ゆかりが呟いた名前に少女は首をかしげる。

 

 

「貴女の名前。今日から此処で暮らすのに貴女だけの名前がないと不便でしょ? 漢字で書くとこうなるかな。」

 

 

ゆかりはスキマ空間から一枚の白い短冊を取り出して、それに「白霊 霊禍」と少女の名前を書く。

 

 

「白霊霊禍・・・私の、私だけの名前」

 

 

「気に入らなかった?」

 

 

ゆかりの質問に少女は首を横に振った。

 

 

「なら良かった。これから長い付き合いになると思うけど、よろしくね?」

 

 

「はい。」

 

 

差し出されたゆかりの手を少女はしっかりと握りしめた。

こうして、夢幻郷に新たな仲間が加わった。

 

 




白霊 霊禍の容姿は禍霊夢の容姿をモチーフにしています。

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