東方転生伝 ~もう1人のスキマ妖怪~   作:玄武の使者

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第1話 「目覚めのとき」

第1話 「目覚めの時」

 

 

 

 

 

 

 

 

八雲 ゆかりSide

 

 

――起きてください、主――

 

 

――いい加減起きないと、蹴り飛ばす。――

 

 

「ん・・・」

 

 

閉じられていた瞼がゆっくりと持ち上げられ、アメジスト色の瞳が露になる。

目覚めたゆかりの目に映ったのは、彼女の顔を覗き込む二人の少女の姿だった。

 

1人は夕日のような茜色の髪と瞳を持ち、もう1人は濃い青色の髪と瞳をしている。

 

 

「ようやく起きましたね。」

 

 

「えっと・・・・・貴女たちは?」

 

 

ゆかりは身体を起こしながら二人の少女に尋ねる。

 

 

「私は焔月。」「ウチは蒼月。」

 

 

二人の少女――焔月と蒼月は自分の名前を名乗った。

 

 

「私と蒼月はあの神様に主を手助けするために遣わされた付喪神です。

今はこのような姿をしていますが、本来の姿は刀です。」

 

 

焔月は淡々と言う。

付喪神(または、九十九神)というのは、長年大切にされてきた物質に神霊や霊魂が宿った存在である。

持ち主が居る時は非常に従順で、捨てられた時は元の持ち主に襲い掛かってくるという。時には妖怪として扱われることもあるが、持ち主が居れば大人しい。

 

 

「詳しいことは此処に書いてあるって言ってた。」

 

 

そう言って蒼月がゆかりに渡したのは、封がされていない一通の便箋。

便箋の中には手紙と、何故か長方形の鏡が封入されていた。ゆかりは手紙を広げて内容を確認する。

 

 

『この手紙を読んでいるということは貴女は焔月と蒼月に会ったでしょう。

 

 貴女が居る世界は一種の並行世界です。貴女が知る世界が微妙に異なる点があるので、注意してください。

 

 本当は安全な時代に送りたかったのですが、私に残された神力では叶いませんでした。

 

 代わりと言ってなんですが、スキマ空間の中に役に立ちそうな道具と服をいれておきました。

 

 どうか活用してください。

 

 

そして、焔月と蒼月のこと、よろしくお願いいたします。』

 

 

いや、転生させてくれただけで十分だけど・・・・・・物凄く気になる単語があるんだけど?

スキマ空間って・・・どう考えてもあの人が持っている能力だよね?

 

 

ふと一緒に入っていた長方形の鏡に目を向けると、当然ながらゆかり自身の顔が映し出されている。

しかし、ゆかりはそこに映し出されているのが自分の顔だとすぐには気付かなかった。そして、思考を追い付いた時ゆかりは絶叫した。

 

 

「え・・・えええぇぇぇ!?」

 

 

見間違いかと思い、鏡を見直しても映し出される顔は変わらない。

 

 

「主、落ち着いて。」

 

 

「ご、ごめん・・・・・・」

 

 

焔月に言われてパニック状態に陥っていた精神を落ち着かせて、再び鏡に映る自分の姿を確認する。

 

 

どこからどう見ても“八雲 紫”だよね?東方projectに出てくる幻想郷の創始者にして、あらゆる境界を操ることができるあのスキマ妖怪。

体型は私の方が幼いけど、顔立ちとか瞳の色とかはまったく一緒だ。

 

 

「蒼月、焔月。この姿について名を無くした神様は何か言ってた?」

 

 

ゆかりの質問に二人は首を横に振った。どうやら何も聞かされていないらしい。

 

 

「くしゅっ!!」

 

 

刹那、蒼月が可愛らしいくしゃみをした。今さらながらだが、焔月も蒼月もゆかりも衣服を身に付けていない。

 

 

「さすがに寒いね。服を着ないと・・・・・」

 

 

ゆかりは虚空に指をなぞらせた。すると、虚空にポッカリと黒い裂け目――スキマが開かれた。

初めて能力を使用した感動を無視して、スキマの中に右手を突っ込む。そして、名無しの神様が入れておいてくれた衣服を取り出した。

 

 

「焔月と蒼月のは・・・コレか。」

 

 

さらにスキマを漁り、焔月と蒼月の衣服も取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

少女たち着替え中・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「さすがに服装は違うか。」

 

 

名を失った神様に貰った衣服は、純白のブラウスに前開きになった紫紺のロングスカート。

足には黒革のブーツと黒色のストッキングというかなり現代チックな動きやすい衣装だ。

 

 

「二人も着替え終わった?」

 

 

「はい。」

 

 

「同じく。」

 

 

焔月は燃え盛る深紅の炎が刺繍された茜色の着物。しかし、動きやすいように少し前開きになっており、袖の部分は本体とは別になって二の腕あたりで止められている。

蒼月は俗に言う壺装束を改造したモノ。色は濃い青色で裾が短くなっており、帽子もない。

 

 

「さて、と。落ち着いた所で聞きたいんだけど、この状況は?」

 

 

ゆかりは周りをあおぎながら、焔月と蒼月に問う。

 

ゆかりたちの周囲はとても荒れていた。

植物たちは枯れ、湖の水は干上がって底が見えるようになっている。上空には局地的な雷雲が発生し、小さく雷鳴を轟かせている。

しかも、動物や昆虫などの生きるモノの気配がまったくない。どう考えても異常な光景である。

 

 

「多分、竜脈が乱れてるせいだと思う。」

 

 

「本来、いくつかの竜穴には必ず管理者が居る。だけど、此処にはその管理者が居ない。」

 

 

「それってかなり不味いんじゃあ・・・・・・」

 

 

私は風水は大して知らないけど、竜脈がどういうものかはある程度知ってる。

竜脈は大地、つまりは地球の“気”が流れる血管のようなモノ。それが乱れてるってことは、人間でいうと血液の流れが乱れてるようなもの。

植物が枯れてるのも、竜脈が乱れているのが原因だと見て間違いない。

 

 

「そうですね。このままほおっておくと良からぬ事態になるのは確かです。」

 

 

「何か方法は?」

 

 

「簡単な話です。竜脈の流れを正してあげればいいんです。」

 

 

「ウチは竜脈の乱れの原因を探る。焔月、そっちは頼んだ。」

 

 

蒼月の頼みに焔月はしっかりと頷く。

蒼月は地面に手を当てて意識を集中させる。

 

 

「えっと・・・もしかして、私が竜脈をコントロールするの?」

 

 

「当然です。作業はそんなに難しくないので大丈夫です。」

 

 

「はあー・・・転生した途端大仕事とはね。先が思いやられるよ。」

 

 

ゆかりは自分の不運を呪った。

 

 

「焔月、原因分かったよ。竜脈を流れるエネルギーが上手く逃げてないんだ。」

 

 

「分かりました。では、主。地面に手を当てて竜脈を流れるエネルギーを掴んでください。」

 

 

「うん。」

 

 

ゆかりは両手のひらを地面に密着させて、集中力を高めるために目を閉じる。

膨大なエネルギーが溜まりに溜まっているので、竜脈のエネルギーを掴むのは簡単なことだった。

 

 

「では、そのエネルギーを誘導してください。私たちも補助します。」

 

 

「誘導って・・・・・何処に誘導すれば良いの?」

 

 

「主は溜まったエネルギーを大地に返すように誘導してください。」

 

 

大地に返すように、って抽象的に言われても・・・・・・。取り敢えず地核辺りに返せば良いか。

竜脈が人間でいう血管なら、地核は心臓みたいなものだし。

 

 

そう考えてゆかりはエネルギーを地下深くになが込むようなイメージを浮かべる。すると、不思議なことに掴んでいたエネルギーの欠片がイメージ通りに地下に進んでいく。

そして、その道をなぞるかのように限界以上に溜まったエネルギーが流れていくのをゆかりは感じた。

 

 

「成功です。」

 

 

「ふぅ、初日からこんな事態に出くわすなんてね。助かったよ、焔月に蒼月。」

 

 

「貴女を補助するのがウチらの仕事だから。それに、ウチらは貴女の道具。

道具は使い手が居ないと意味がない。」

 

 

「私としては、貴女たちを道具扱いしたくないけど・・・・・・取り敢えずよろしく。」

 

 

こうして、八雲ゆかりの波乱に満ちた異世界での生活が幕を開けた。




のっけからの大幅修正。もはや前作の欠片すら残されていない。

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