東方転生伝 ~もう1人のスキマ妖怪~   作:玄武の使者

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ちょっと後書きを変えてみた。


第25話 「鬼の王」

第25話 「鬼の王」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢幻郷に現れた幻想郷の刺客。

真っ先に気付いたルーミアはその刺客を迎え撃った。

幻想郷からの刺客、虎熊姉妹の連携に苦戦するが、自身の能力で突破。

夢幻郷の存在は伝承という形でしか知られていない。

というわけで、倒した虎熊姉妹を尋問しようとした。

 

 

――そこまでにしてもらえないだろうか?――

 

 

森の中に響くソプラノボイス。

ルーミアたちにも聞こえる複数の足音。

それは南の森の奥――幻想郷方面から聞こえてきた。

 

 

「げっ!!」

 

 

森の奥から現れた人物に閃舞は何ともいえない表情を浮かべた。

現れたのはまたしても二人の鬼だった。

 

一人は長い金髪に赤い目。そして額から赤い一本の角を生やしている。

着ている青系統の色を基調にした着物からは豊満な胸が顔を覗かせている。

もう一人は燃え盛る炎のような髪にサファイアのような瞳。そして側頭部から天に伸びる様に2本の角を生やしている。

動きやすさを追求した黒い衣服を身に纏い、なぜかへそを出している。

 

 

「悪いね。家の馬鹿が迷惑を掛けたみたいで」

 

 

えらくフランクな相手の態度にルーミアも妖精も警戒を解く。

すると、側頭部から天を貫くような2本の角を生やした鬼は閃舞の肩に手を置いた。

 

 

「閃姫、いつまで気絶した振りをしてるのよ?」

 

 

「・・・・・・」

 

 

二角の鬼が閃姫に声を掛けると、閃姫の身体がビクッと震えた。

よほど二角の鬼が怖いのか、閃姫は冷や汗を流しながら起き上がる。

 

 

「さてお前ら。説教してから殴られるのと、殴られてから説教されるのとどっちが良い?」

 

 

「「殴られるの前提!?」」

 

 

姉妹に言葉が見事に重なる。

 

 

「当たり前だ。さぁ、選べ。」

 

 

「「ゆ、勇儀さん助けて!!」」

 

 

二人は一角の鬼――勇儀に助けてを求めるが、勇儀は苦笑いを浮かべるだけ。

どうやら虎熊姉妹に助け舟を出すつもりはないらしい

 

 

「さて、覚悟はいいか?」

 

 

「「いやぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

 

この時、2発の打撃音が森の中に響き渡った。

 

 

◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆

 

 

 

「自己紹介がまだだったな。私の名は夜沙神(やさかみ) 奉鬼(ほうき)。

 妖怪の山を治める鬼で、後ろに居る馬鹿共の上司だ。」

 

 

奉鬼と名乗る二角の鬼の背後には虎熊姉妹の屍が転がっていた。

肉体言語という名のお説教を受けた二人は見事に意識を刈り取られた。

そしてその後、勇儀という一角の鬼に連れて帰られた。

 

 

「宵闇の妖怪、ルーミア。この夢幻郷に住む妖怪。

 ねえ、どうやって夢幻郷の存在を知ったの?」

 

 

「ん?」

 

 

夢幻郷は森や竹林、山に囲まれている。

さらに、夢幻郷に住む妖精たちが迷わせるので夢幻郷の存在は伝承に近い。

外界との交流はほとんどない。ゆえに、夢幻郷の存在を知っている者は少ない。

 

 

「うーん・・・此処に来れたのはスキマ妖怪って奴に聞きだしたからなんだ。」

 

 

「スキマ妖怪?」

 

 

奉鬼の言葉にルーミアは首を傾げる。

 

 

「ああ。幻想郷に古くから住んでる胡散臭い妖怪さ。」

 

 

「ふーん・・・その妖怪から何か聞いた?」

 

 

「やけに気にするんだね。アイツから聞いたのは、此処は龍脈が流れてることぐらいだよ。」

 

 

「それを聞いても龍脈を狙うつもりは?」

 

 

「ははは♪他人の土地に手を出すつもりはないさ。」

 

 

ルーミアの質問に奉鬼は豪快に笑った。

どうやら本当に夢幻郷を侵略するつもりないらしい。

会話の途中で奉鬼はルーミアの斜め後ろに生えている樹に視線を向けた。

 

 

「それより、いつまで隠れてるつもりだ?」

 

 

「気づいてたのね。」

 

 

樹の陰から出てきたのは、夢幻郷の管理者である八雲 ゆかりだ。

 

 

「念のために私も来たけど、意味はなかったみたいね。」

 

 

「ゆかり、いつからそこに居たの?」

 

 

「ルーミアがあの虎熊姉妹と戦闘を始めた直後ぐらいだよ。」

 

 

「ちょっ!? 見てたんなら手伝ってよ!!」

 

 

「ルーミアが危なくなったら助けるつもりだったんだけど、倒しちゃったからね~」

 

 

ゆかりは陽気に笑った。

 

 

「初めまして、鬼の王よ。私はこの夢幻郷を管理する者、八雲 ゆかりよ。」

 

 

ゆかりは奉鬼に向き合い、優雅にお辞儀をする。

 

 

「ほう・・・こそこそ隠れてるから何者かと思ったが、中々強そうな奴だな。」

 

 

奉鬼はまるで品定めをするかのようにゆかりを見つめる。

 

 

「ああ、貴殿の土地に無断で侵入したことに関しては後日改めて謝罪しよう。

 ちょっと私は説教をくれてやらないといけない奴が居るんでね。

 今日はこれで失礼するよ。」

 

 

そう言い残して、奉鬼は幻想郷に引き返した。

 

 

「さて、ルーミア。私は帰るよ。

 八雲神社に戻ってくる時にしいなも連れて来てあげてね?」

 

 

「わかった。」

 

 

ゆかりはスキマを開くと、その中に潜り込んだ。

 

 

 

・・・

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

幻想郷からの刺客が現れてから数日後。

その数日間は刺客も来ることがなく――おそらく奉鬼が抑え込んでくれているのだろう――平和な日々が過ぎていた。

八雲神社の境内では相変わらず巫女の水雲 しいなが掃除していた。

木々の枝には鳥たちが羽を休め、それの囀りが響いている。

 

 

「ふぅ・・・最近涼しくなってきましたね」

 

 

しいなは境内に散らかる落ち葉を一箇所に集めていく。

季節は神無月と霜月の境目辺り。神社の周辺に生えた木々の落ち葉が雪のように積もっていたりしている。

もう冬が近いのだろう。

 

 

「ん?」

 

 

落ち葉を集めていたしいなは不意に大きな羽音を聞こえた。

普通なら鷹や鷲だと思って気にしないが、しいなは御幣を構えた。

八雲神社の祭神、八雲 ゆかりに鍛えられたしいなは飛行してくる物体から妖力を感じた。

龍脈を守るために結界は張られているが、強い妖怪には破られる可能性がある。

ゆえに、しいなは仕事を果たすために警戒心を強めた。

 

 

「よっ、と!!」

 

 

バサッ!!という音と共に境内に一人の妖怪が着陸した。

黒い忍装束を纏い、背中には一対の黒い翼が存在する。

髪は黒く、瞳も黒い。

 

 

「えっと・・・八雲ゆかりさんのお宅は此処でいいでしょうか?」

 

 

「ゆかり様に用事なの?」

 

 

「はい♪ 申し遅れましたが、私は射命丸 栞と言います。

 実は夜沙神 奉鬼様からゆかりさん宛てのお手紙を預かってきました。」

 

 

射命丸 栞と名乗る少女は人懐っこい笑みを浮かべながら用件を伝える。

 

 

「これをゆかりさんにお渡しください。」

 

 

そう言って、栞は懐から一通の手紙を取り出してしいなに渡した。

 

 

「それでは失礼します!!」

 

 

そう言い残して栞は物凄いスピードで大空に飛び上がった。

 

 

「手紙、ね。・・・・・・ちょっとくらい中身を見ても大丈夫よね?」

 

 

「駄目よ、それは」

 

 

背後から声を掛けられ、手紙の中身を見ようとしたしいなは思わず飛び上がった。

いつの間にか手紙はしいなに声を掛けた人物――ゆかりの手に渡っていた。

 

 

「ゆ、ゆかり様!!驚かさないでください!!」

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

しいなを無視してゆかりは手紙を広げる。

手紙の内容を一通り読み終えたゆかりは笑みを浮かべた。

 

 

「しいな、偶には皆でお出かけしようか?」

 

 

「?一体何処へ・・・・・・」

 

 

「南の森の果て・・・“幻想郷”へ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~南の森の果て(夢幻郷と幻想郷の境目)~

 

 

太陽が暮れ、淡く光り輝く満月の下。

夢幻郷と幻想郷の境界線付近では、盛大な酒盛りが開かれていた。

夢幻郷からは八雲神社の面々が参加し、幻想郷からは妖怪の山に住む面々が参加している。

かなりの大所帯で開催された酒盛りはうるさいくらいのどんちゃん騒ぎになっていた。

 

 

「ははは♪ やっぱり酒盛りは楽しいね~」

 

 

「それには同意するわ。シアンたちも楽しんでるみたいだし。」

 

 

ゆかりは奉鬼と一緒に酒を飲んでいた。

どちらもほんのりと頬が赤みを帯びているが酔っている様子はない。

宴会会場を見渡すと、すでに酔いつぶれている者(主にしいな)や鬼と上機嫌に話している者も居る。

 

 

「それにしても、いい飲みっぷりだねぇ。こっちまで嬉しくなってくるよ。」

 

 

二人の周囲には酒が入っていたと思われる樽がいくつも置かれている。

なお、鬼や天狗の宴会では駆けつけに酒樽丸々一個飲み干すのが風習らしい。

それをやったしいなはあっという間に酔いつぶれた訳だが・・・・・・。

 

 

「さすがは酒にうるさい鬼の宴会ね。おいしいお酒ばかりだわ。」

 

 

「そう言ってもらえると嬉しいねぇ。宴会に誘った意味がるってもんだよ。」

 

 

此度の宴会は勝手に夢幻郷に侵入した礼として行われている。

そのため、その主犯である虎熊姉妹は参加していない。

 

 

「でも、さすがにお腹が苦しいわね。」

 

 

「そうか。」

 

 

ゆかりは宴会が始まってから、ずっと奉鬼と同じペースで酒を飲み干した。

奉鬼が飲んだ酒の量は酒樽3つ。そしてゆかりも大体同じくらいの量を見事に飲み干している。

普通の人間なら急性アルコール中毒になってもおかしくない量なのだが、妖怪である彼ら(彼女ら)には関係ないようだ。

 

 

「話は変わるんだが、お前は強いのか?」

 

 

「いきなり変な質問をするのね。」

 

 

「いや、何と言うか・・・・・・お前は普通の妖怪と何処か違うんだ。」

 

 

「ああ。私は妖怪であると同時に土着神でもあるからね。

 純粋な妖怪である貴女が違和感を感じるのはそのせいでしょ。」

 

 

ゆかりの言葉に奉鬼も思わず酒を飲む手を止めた。

 

 

「人間たちに信仰されてるのか・・・。

 姿かたちは似ていても内面はかなり違うものだな。」

 

 

奉鬼はしみじみと呟いた。

別に妖怪が土着神として信仰されているのは稀であるが、前例がないわけではない。

妖怪でも人々から信仰されれば、神様になることができる。

もっとも、妖怪は自分から信仰を集めたりはしないが。

 

 

「何一人で納得してるのよ?」

 

 

「ああ、すまん。幻想郷にお前とそっくりな奴が居てな。

 うちの部下を誑かしたのもそいつだ。

 容姿はお前にそっくりだが、性格は逆だな。」

 

 

「その妖怪と仲が良いのかしら?」

 

 

「いや、むしろ悪い。私を含め、鬼は嘘を嫌う種族だ。

 好んで嘘を吐くような妖怪を好意的に思うわけがないだろ。」

 

 

(本当に仲が悪いのね。

 まあ、自分の思惑を隠して他人を騙すような奴だしね。)

 

 

ゆかりは奉鬼の言う妖怪を知っている。

実際に会ったわけではないが、知識では知っているのだ。

 

 

「お~い、奉鬼~。」

 

 

「ん?萃香か。一体どうしたんだ?」

 

 

二人の会話に萃香と呼ばれた二角の鬼が割り込んでいた。

傍から見てもかなり酔っ払っていることが分かるぐらい酔っ払っている。

 

 

「茨木の奴が居ないだよ~。何処に行ったか知らないか?」

 

 

「いや、知らないな。アイツにも確かに召集を掛けた筈なんだが・・・・・・」

 

 

「う~ん・・・何処いったんだろ」

 

 

萃香はそのまま千鳥足で宴会に混じっていった。

 

 

この宴会は夜明け近くまで続けられ、大多数の参加者はすっかり酔い潰れてしまったとさ。




作者「今回は少し長めになりました。」

栞 「そして、まさかの私が再登場♪」

作者「主に伝言の役ですがね。
   最初は単なるモブにするつもりでしたが、前作から引っ張ってきました。」


栞 「前作から登場してない人物が結構居ますね。
   そういえば、今回出てきた奉鬼様はどうなるの?」

作者「サブキャラクター扱いです。もちろん虎熊姉妹も。」

栞 「ふ~ん。じゃあ、茨木童子が出てこなかったのはフラグ?」

作者「一応そのつもり。」

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