東方転生伝 ~もう1人のスキマ妖怪~   作:玄武の使者

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第24話 「幻想郷からの刺客(後編)」

第24話 「幻想郷からの刺客(後編)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~八雲神社 本殿~

 

 

「森が・・・騒がしいね」

 

 

「はい。どうやら森の中で妖怪が暴れているようです。」

 

 

八雲神社から麓を見守っているゆかりとしいなは森で巨大な妖力がぶつかり合うのを感じた。

大勢の鳥たちが一時的に住処から逃げ出し、羽音が絶えない。

大きな妖力がぶつかり合う度に森全体が揺れる。

 

 

「しいな、私は森の様子を見てくる。」

 

 

「では私は念のために人里に向かいます。」

 

 

「お願い」

 

 

しいなは御幣を取り出し、ゆかりは蒼月を抜く。

そして、ゆかりは南の森へ、しいなは人里の方で向かった。

 

 

◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆

 

 

 

夢幻郷の南側に存在し、幻想郷と夢幻郷を分ける境界になっている森。

人里の下りる途中で大きな妖力を感じたルーミアは誰よりも早く幻想郷からの刺客と対峙していた。

相手は人攫いと生業とする双子の鬼、名は虎熊 閃姫と虎熊 閃舞。

睨みあう虎熊姉妹とルーミア。

 

一触即発の張り詰めた空気の中。

一枚の木の葉がひらひらと舞い落ちて・・・地面についた時、双方同時にぶつかり合った。

 

 

「良い反応だねぇ。だが・・・・・・」

 

 

「がら空きぃ!!」

 

 

ストームブリンガーは閃姫に受け止められた。

その隙に懐に潜り込んだ閃舞が拳をルーミアの水月に叩き込もうとした。

 

 

「甘い!!」

 

 

 

閃舞の拳が急所である水月にヒットする前に妖術を発動。

展開された魄翼が形を変え、巨大な腕が閃舞の拳を受け止めた。

 

 

「おっ?」

 

 

「でりゃあっ!!」

 

 

身体を回転させて、鋭い蹴りを閃舞の腹部に叩き込む。

さらに、左側の魄翼を巨大な拳に変えて閃姫を殴りつける。

 

 

「無月・一閃!!」

 

 

一度距離をとる虎熊姉妹に向かって妖力の一閃を放った。

闇のように暗い斬撃は双子の鬼を飲み込んだ。

 

 

「これで終わったら、良かったんだけどな。」

 

 

「悪いが、鬼はそこまで柔じゃないさ。」

 

 

「そうそう。」

 

 

ルーミアの一撃を受けた虎熊姉妹は大したダメージを負っていなかった。

せいぜい薄らとかすり傷ができている程度だ。

 

 

「様子見のつもりだったが、その必要もなさそうだな。」

 

 

「そうね。」

 

 

虎熊姉妹は笑みを浮かべ、威圧感やら気迫がさらに増す。

刹那、2人は地面を蹴り、再びルーミアに襲い掛かってきた。

 

 

「せいっ!!」

 

 

ストームブリンガーで真一文字に薙ぎ払う。

その刀身を閃姫が前腕に受け止めて、その隙に閃舞が攻撃を仕掛けてくる。

単純なコンビネーションだが、鬼の拳に当れば一溜まりもない。

 

 

「魄翼!!」

 

 

「金剛爆砕拳!!」

 

 

漆黒の拳と妖力を纏った閃舞の拳がぶつかり合う。

しかし、漆黒の拳は閃舞の拳に打ち負け、右側の魄翼が消滅する。

閃舞の拳がルーミアの眼前に迫る。

 

 

「くっ!!」

 

 

ルーミアは咄嗟に左腕の前腕部で彼女の拳を受け止めた。

メキメキッ!!と骨が圧し折れるような音が森の中に響き渡る。

 

 

「・・・・・・」

 

 

ルーミアは敵から距離をとり、双子の鬼を睨みつける。

先ほどの一撃でルーミアの左腕は使い物にならなくなってしまった。

ルーミアも妖怪なので、放置しておけば直るが、そこまでの時間を稼ぐのは無理だろう。

 

 

「どうだい? ウチの“物を打ち砕く能力”は。」

 

 

「なるほど。その能力がある限り物理的な攻撃は無効化されるわけだ。」

 

 

「そういうこと。」

 

 

閃舞はニヤリと笑う。

左腕は使えず、相手はほとんど無傷な状態で2人。

ルーミアの方が圧倒的に不利だが、ルーミアの瞳から闘志が途切れることはない。

 

 

「これはけっこう疲れるからやりたくなかったんだよね~」

 

 

「「?」」

 

 

ルーミアはため息を吐く。

刹那、ルーミアの身体から闇が噴出した。

 

 

「闇に、飲まれろ。」

 

 

――『ディマーケイション』――

 

 

ルーミアの身体からあふれ出した闇は瞬く間に広がり、ルーミアと虎熊姉妹を飲み込んだ。

闇の中は太陽の光すらも遮ってしまう魔法の闇。

目を頼りに生きている生き物には効果覿面の戦闘フィールドだ。

 

 

「これじゃあ、何も見えないわね。

 閃姫、何処に居るの?」

 

 

閃舞は片割である閃姫を心配して声を掛ける。

 

 

「此処に居るよ~」

 

 

「“此処”って何処よ・・・・・・。」

 

 

闇の中から返事が返ってくるが、周囲は何も見えない真っ暗な空間。

もちろん物質的なものではないので、彼女の能力で闇を掃うことはできない。

閃舞はため息を吐いて、閃姫を探そうとした。

 

 

――ヒュンッ!!

 

 

「がっ!!」

 

 

空気を切る音と同時に閃舞の首筋に重い衝撃が襲い掛かった。

しかし、攻撃した者の姿は闇のせいでまったく見えない。

 

 

「っっ~~!! そこ!!」

 

 

閃舞は攻撃が来た方角に向かって拳を放つが、何かに当ったような感触はない。

 

 

――ヒュンッ!!

 

 

「ぐっ!!」

 

 

今度は腹部に重い衝撃が襲い掛かってくる。

 

 

――ヒュンッ!! ヒュンッ!! ヒュンッ!!

 

 

連続で手や首、頭に衝撃が襲ってくるが、何も見えない閃舞に為す術はない。

ストームブリンガーには殺傷力はほとんどないと言っても違いない。

そのおかげで閃舞はまだ立っていられた。

 

 

(こっちはまったく見えないのに、向こうにはウチの姿が見えてるのか?)

 

 

とにかく閃舞は急所を突かれないように守りの体勢に入る。

次の攻撃を警戒する閃舞だが、ルーミアの攻撃は嘘のように途絶えてしまった。

そして、うっかり防御を緩めてしまった。

 

 

――無月・双月閃――

 

 

「え・・・・・・?」

 

 

防御を緩めた瞬間、ブシャッ!!という音と共に闇の中に鮮血が舞った。

閃舞の身体に交差するように刀傷が刻まれていた。

ポタポタと鮮血が地面に滴り落ちる。

普通の妖怪なら意識を失うような傷だが、それでも膝をつかないのは鬼としての意地だろう。

 

 

「閃舞!! 何があったの!?」

 

 

闇の何処からか閃姫の声が聞こえてくる。

しかし、閃姫に返事する余裕も閃舞にはない。

刹那。ルーミアが広げた真っ暗な闇が風船のように収縮していく。

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・流石は鬼。そんな傷を負っても立ってられるなんてね」

 

 

「そっちこそ、随分小癪な真似してくれるわね。」

 

 

ルーミアが先ほど使った妖術は展開する範囲によって疲労度合いが違う。

それなりに広範囲に闇を広げた上に高威力の妖術を使ったためにかなりの妖力を消費した。

それに対して、閃姫はまだ無傷。戦況はルーミアが不利なままだ。

 

 

「閃舞、貴女は休んでなさい。あとは私が決着をつけるから。」

 

 

「任せたわ。」

 

 

「ああ。」

 

 

閃姫は地面を蹴り、ルーミアに肉薄する。

妖力もかなり消耗しているルーミアは動きにキレがない。

何とかストームブリンガーの腹で受け止めるが、反動で右腕が痺れる。

 

 

「うっ・・・あっ・・・・・・」

 

 

「奥義、緋々王穿牙!!」

 

 

閃姫は右手を伸ばし、刀のように突き刺した。

ルーミアは避けることができずに右胸を貫かれた。

 

 

「痛い、なっ!!」

 

 

「っ!!」

 

 

いつの間にかルーミアの左腕は治っていたらしい。

彼女の右胸を貫いた右手をガッシリと掴み、逃げれないようにする。

 

 

「てりゃあぁぁぁぁ!!!」

 

 

閃姫の急所に向かってストームブリンガーの切っ先を突き刺す。

 

 

「がはっ!!」

 

 

「まだまだぁ!!」

 

 

水月に強烈な一撃を叩き込まれた閃姫は肺に溜まった空気を吐き出す。

さらに、タックルで閃姫の身体を無理矢理吹き飛ばす。

 

 

「無月・飛翔!!」

 

 

身を屈めた状態から身体のバネを生かして、飛び上がるように切り上げる。

閃姫によって開けられた右胸の穴はすでに塞がっていた。

閃姫の身体は宙を舞い、硬い地面にそのまま叩きつけられる。

同時にルーミアもその場に尻餅をついた。

 

 

「さすがに、キツイ。2人同時相手とか」

 

 

「その2人を熨したアンタが言うかい?」

 

 

「うるさいよ。つか、あれだけ大きな傷を負わせたのに・・・・・・」

 

 

ルーミアに大きな傷を負わされた筈の閃舞はある程度治っていた。

しかし、戦うだけの力は残っていないらしい。

閃姫は地面に叩きつけられた時に打ち所が悪かったのか、目を回している。

 

 

「さて、どっちが早く立ち直れるかね?」

 

 

閃舞はまだ戦うつもりらしい。

しかし、此処は夢幻郷。つまりはルーミアのホームグラウンドだ。

 

 

「残念だけど、もう決着はついてるよ。」

 

 

いつの間にか双子の鬼は大勢の妖精たちに囲まれていた。

いくら鬼でも多勢に無勢。この状況を切り抜けることはできないだろう。

 

 

「さて、聞かせてもらうよ? どうやって夢幻郷のことを知ったのか。」

 

 

「くっ・・・・・・」

 

 

閃舞は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 

 

「そこまでにしてやってくれないか?」

 

 

雑草を踏みしめる音が徐々に近づいてくる。

しかも、声が聞こえてきたのは幻想郷が在る方角。

彼女らの前に現れたのは・・・・・・




相変わらず残念な戦闘シーン。
虎熊姉妹は二人で一人という特殊な戦法を採る鬼の双子です。
その代わりに、腕力や妖力が他の鬼に劣っているという欠点を抱えています。

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