第21話「厄神、鍵山 雛」
~夢幻郷 南の森~
八雲ゆかりSIDE
平和な夢幻郷に訪れた1つの騒動。
管理者であるゆかりは当然ながら解決に乗り出した。
何とか騒動の根源を鎮圧することに成功したが、その後始末に困っていた。
そんな時、《厄神》鍵山 雛がゆかりとしいなの前に現れた。
「初めまして。私は鍵山 雛と申します。」
「夢幻郷ではあんまり聞かない名前ね。」
というか、厄神様~!! 何で此処に居るの!?
貴女の活動拠点は幻想郷にある妖怪の山でしょ。
・・・・・・まあ、夢幻郷がどこら辺にあるのか知らないけど。
「それにしても、よく此処まで来れたわね。
この森には結構強い妖怪とか、妖精とか大勢住んでるのに。」
「私に近づこうとする妖怪も妖精も居ないわ。
私に近づく者は人妖、妖精問わず不幸になってしまうもの。」
そう言って雛は悲しげな笑みを浮かべた。
「貴女・・・厄神ね?」
ゆかりは前世の知識で「鍵山 雛」を知っているが、敢えて知らない風に振舞う。
ゆかりの質問に雛はコクリと頷いた。
「厄神?」
「厄をもたらす悪神、もしくは厄除けの神様。
彼女の場合はその両方が当てはまるみたいだけど。
ここに来たのは、この妖精と妖刀の厄を回収しに来たのかしら?」
「ええ。大きな厄の気配を感じたから回収しに来たの。
溜め込んでる厄の量が凄いからしばらく預かることになるけど、いいかしら?」
「ええ。でも、下手に動かす危険じゃないかしら?」
妖刀に操られていた妖精の身体はボロボロ。
限界を超えて酷使されたその身体は瀕死で、大量の血液も失っている。
今すぐ治療に取り掛からないと死んでしまうだろう。
「大丈夫よ。この子は妖怪になってるみたいだから。
それに、下手に触ると厄が移っちゃうから危険よ。」
「・・・・・・分かったわ。この子をお願い。」
ゆかりは少し考えた後、元妖精を雛に預けることを決めた。
雛は微笑むと、身につけていたリボンで元妖精の大きな傷を塞ぐ。
そして、その小さな身体を背負って妖刀も手に握る。
「貴女たちの厄も貰っていくわ。」
刹那、雛の周囲に黒い靄のようなものが浮遊する。
そして、雛は足早にゆかりたちの前から姿を消した。
「しいな、私たちも帰るよ。」
「あ、はい。」
ゆかりは手を翳してスキマを開き、八雲神社に戻っていった。
夢幻郷での妖刀騒動が解決してから数日後。
一時的に閑散としていた人里は元通りの活気に満ち溢れていた。
稲穂は徐々に黄金色に染まり、紅葉もちらほら見えている。
そんな夢幻郷の中心、八雲神社では・・・・・・甲高い金属音が響いていた。
「はぁっ!!」
「てりゃぁ!!」
ぶつかり合う蒼い刀剣と漆黒の刀剣。
湖の畔で剣舞を舞っているのは、ゆかりとルーミアだった。
ただ、ゆかりは蒼月一本でルーミアと模擬戦闘を行っている。
「蒼雷斬!!」
「シャドウバースト!!」
蒼い稲妻と闇の球体が弾けて激しい爆音が湖の畔に轟く。
そして、別方向から2人の模擬戦闘に割り込むように紅い雷が降り注いだ。
紅い雷は地面を抉り、2人の戦闘を強制的にストップさせた。
「「・・・・・・はぁ~」」
毒気を抜かれたゆかりとルーミアは同時にため息を吐いた。
「す、すいませ~ん!!」
「もう、しいな。あの術は制御が難しいから、無闇に使ったら駄目って言ったでしょ?」
先ほどの紅い雷の原因は八雲式符術の修行をしていたしいなだった。
しいなはゆかりが態々封印するほどの霊力を有している。
そのため、符術の威力はゆかりよりも高い。その代わり、制御が苦手だ。
さらに、しいなが行使してるのは八雲式符術の中でも高威力な代わりに制御が難しい。
「それにしても、とんでもない威力だね~」
ルーミアは湖の畔に出来上がったクレーターを見て、そう言った。
湖の周りには一部分だけ地面の色が変わっている場所がある。
それらは全てしいなの符術によって出来上がった穴を塞いだものだ。
「まあ、その代わりに制御は全然できないし。」
そう言いながら蒼月を鞘に戻すゆかり。
「しいなは霊力を注ぎすぎなんだよ。だから、制御が難しくなるんだよ」
「注ぎすぎですか?」
「うん。まあ、霊力の注ぐ量とかは感覚だからね。
ルーミア、私はちょっと出かけてくるからしいなの修行を見てあげてね?」
「分かった。」
しいなの面倒をルーミアに任せて、ゆかりはスキマ空間に飛び込んだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
八雲神社を出たゆかりは夢幻郷の遥か上空に居た。
ゆかりはスキマから上半身を出して、器用に膝をついていた。
彼女の視線の先にはとても高い山が聳えていた。
「雛が夢幻郷に現れた時はまさかと思ったけど・・・・・・」
厄神こと、鍵山 雛は幻想郷にある妖怪の山を活動拠点してる。
なら、幻想郷は夢幻郷の近くに存在する可能性が高い。
そう思ったけど・・・・・・
「まさか幻想郷と夢幻郷が隣にあるなんてね。」
あそこに見える山はおそらく本来の姿の八ヶ岳。
コノハナノサクヤビメが背比べに負けた怒りで蹴り崩される前の山。
そして、またの名前を“妖怪の山”。
「今はまだ夢幻郷の存在は知られてないけど、知られたら面倒なことになりそうだね。」
《そうですね。夢幻郷に流れる龍脈の力を求める輩が居るかもしれません。》
腰に携えられた蒼月が言葉を発する。
「まあ、妖精たちが居るからそう簡単に夢幻郷にたどり着けないけど。」
夢幻郷のあちこちに居る妖精たちは普通の妖精よりも格段に強いし、知能も高い。
そのせいで悪戯に磨きが掛かってる。だから、夢幻郷にたどり着くのは難しい。
まあ、妖刀騒動の時は妖精の守りも薄くなってたけどね。
「ちょっと下りてみようか。」
そう言うや否やゆかりはスキマから飛び降りた。
そして、南の森の先――幻想郷の敷地内に足を踏み入れる。
夢幻郷の南側に存在する南の森を抜けた先に広がるのは、広い田園地帯。
さらに田園地帯の先には人里らしきものが見える。
「ここが未来の幻想郷か・・・・・・」
《これからどうするのですか?》
「今日の所はさっさと引き上げるよ。
焔月も治ってないから、八雲式剣舞は使えないし。」
現在、焔月は数日前に負った傷を癒すために眠りについている。
そのため、二刀で舞う八雲式剣舞はその本領を発揮することができない。
「幻想郷と夢幻郷。いつかは交じり合うことになるかもしれないね。」
ゆかりはスキマを開いて夢幻郷の八雲神社へと戻っていった。
しかし、その刹那。“別の”スキマが開いた。
そのスキマから出てきたのは、ゆかりと瓜二つな妙齢の女性だった。
「あれが夢幻郷の主、ね。それほど強そうには見えないけど。」
その女性はゆかりが消えていったスキマを見つめながらそう呟いた。
雛って、どのくらいの時代から幻想郷に居たんでしょうか?
雛流しという行事は平安時代ぐらいにはすでに存在していたらしいです。
あれ?でも、この時代に雛が居るなら、鬼と面識があるような・・・・・・